元に戻りたい
明日はもう終業式。何とか、明日までに祐也と話さないと夏休み一杯会えなくなってしまう気がする。そんな事、嫌だ。
でも、どうやって。登下校は別、昼食も別、バイトの行き帰りも別、土日会う事もない。その上、クラスも別だから話しかけるチャンスが全くない。
どうすればいいんだろう。電話かけても上手く話せそうにない。とにかく会う事が必要だ。
私一人で何とか出来ればいいのだけど、今は無理。そこで小山内さんに相談する事にした。
お昼休みになり私は小山内さんに
「小山内さん、お昼、校舎裏で食べない?」
「いいわよ。行こうか」
彼の事かな?
私達は校舎裏のベンチに行くと、直射日光がガンガンに当たっている。でも仕方ない。ちょっと暑いベンチに二人で座ると
「友坂さん、何か話が有るんじゃない?」
「うん、祐也の事」
二人でお弁当を広げて食べながら
「何とか、祐也の誤解を解いて、前と同じに戻りたい。毎日祐也の事しか頭に無くて、勉強も手に付かない。もうすぐ夏休みに入るけど、祐也との予定入れたいから全然予定入れてない」
「うーん、気持ちは分かるけど。状況証拠が悪すぎるわね。なんとかそれをひっくり返さないと、作り話に終わってしまう。
でも私、その二軒の中華屋って行った事ないし。渋山ってあんまり好きな街じゃないからなぁ」
「そこを何とか」
「仕方ない。とにかく一緒に行って見るか、その中華料理屋とやらに」
「あそこに行ったのは土曜日。あっ、ちょうど今頃だ」
「でも、今度の土曜日って、もう夏休みに入っているよ」
「それでも構わない。小山内さんが私と一緒に行って、私が経験した状況だったら祐也にもう一度説明できるチャンスが作れる」
「分かった。良いわよ。他ならぬ友坂さんの頼みだものね」
私は、終業式が終わっても夏休みの予定は入れていない。そして夏休み入っての初めての土曜日、午前十一時半に渋山の犬の交番のまで小山内さんと待合せた。
「小山内さん、待ったぁ?」
「ううん、今来た所、直ぐに行こうか」
「うん。回廊坂を上がった所」
二人で歩いていると夏休みに入った所為もあるのか人で一杯だ。やがて最初の中華屋の傍に行くと遠目でも分かる位並んでいる。
「今日は、あの時と同じで一杯だ。よし!小山内さん、私と並んで一番後ろで写真撮ろう。証拠になる」
「うん」
そこでは食べずに直ぐに横断歩道を渡った。そして
「ここであいつに目のゴミを取って貰った。そしてあっちのこれらから行く中華料理屋に入っていたんだ」
確かに、ラブホ街の入口をちょっと歩いた奥まったところにある。これでは誤解される。
ここも並んでいた。よし!
「ねえ、小山内さん。ここでも最後尾で一緒に写真撮ろう」
「うん」
「この二つを送れば、祐也の誤解が解けるかもしれない」
「そうだね。ついでに待ってから入って中の様子を取れば完璧だ」
私は、小山内さんと二十分以上待ってから中華屋に入った。前と同じ様にちょっと油っぽい匂いがする店内だ。
注文は、小山内さんが麻婆豆腐セット、私が前と同じように中華丼だ。
食べながら小山内さんが
「その中華丼、珍しいわね。ナンプラーが入っている匂いがする。ここのオリジナルかな?」
私は聞いた事の無い名前に
「ナンプラーって何?」
「日本語だと魚油。お魚の油だよ」
だから、あの時祐也は私が生臭い匂いがしていると言ったのは、これを食べたばかりで話しかけたからだ。食べた本人では分からないはずだ。これで完璧。
私は中華丼をちょっと食べてしまったけど、ナンプラー(魚油)入り中華丼と書いてさっきの二つの中華屋さん前で小山内さんと一緒に撮った写真と一緒に祐也に送った。
そして、
ねっ、ほんとでしょ。こんなに混んでいるんだよ。私の言った事本当だから信じて。お願いもう一度話させて
と書いて次にメッセージを送った。もし祐也が見ていてくれれば、何かの返事が有るはず。
お願い祐也。返事して。
俺は、図書館の席毎にセパレートされている自習席に座って居た。夏休みの宿題をやる為だ。家のエアコン代の節約の為、図書館に来て居る。
スマホが震えた。画面を見ると美琴からだ。今更なんだ?俺は丁度解きかかっている問題が有ったのでそれをこなした。
図書館の自習席は、離れると解放状態になるけど、大分お腹が空いて来た。後は家に戻ってやればいい。時間も午後一時を過ぎた所だ。
家に戻って、カップ麺に注ぐお湯を沸かしている所で美琴からのメッセージを見た。
何だこれ?小山内さんと行列の後ろで撮っている写真が二枚。それと中華丼。ナンプラー入りと書いてある。
後は、美琴からのメッセージだ。この行列ってなんだ。それに小山内さんが一緒。意味が分からない。
このまま無視するか電話するか、迷ったけど、意味が有るから送って来たんだろう。ちょうどお湯が沸いた。
カップ麺の蓋を開けてから、最近後入れ何々が多い、それを退かせてお湯を指定のラインより少し上まで入れて蓋を閉めてから美琴に電話した。
「あっ、小山内さん、祐也からだ」
私達は、中華料理屋を出て駅方向に回廊坂を下っていた。直ぐに出ると
『祐也、私』
『美琴、何だこれ?』
『何だこれって、祐也に説明する為に行った中華料理屋の行列、最初の行列が回廊坂の上にある中華料理屋で二枚目がラブホ街方向に入って行った所にある中華料理屋。中華丼はそこで食べた。それに小山内さんがナンプラー魚油が入っているって言ってくれて。だからこれならこの前私が言った事が嘘じゃないと信じてくれるかと思ったの』
『…美琴、行列は分かるけど、その先に中華料理屋が有るのかこの写真じゃ全然分からないよ。それに中華丼にナンプラーが入っているからってそれがどうしたの?』
美琴の言っている事が分からない。こんなの何の証拠にもならないじゃないか。小山内さんとどこかに行って都合よく撮った写真じゃないのか?
『祐也、ここは…。
美琴さん。
…えっ?!』
『美琴、あいつと一緒なのか?』
『えっ、違う』
『だって、男の声でお前の名前呼んだぞ。もう良いよ』
『祐也、違う…』
切られちゃった。
「美琴さん、奇遇ですね。こんな所で会うなんて」
「友坂さん、誰こいつ?」
「誰でもいい。帰ろ小山内さん」
「あの、友坂さん」
「五月蠅い!疫病神がーっ!二度と私に話かけるな!」
私は、小山内さんの手を引いて駅に向かった。なんで、こんな時にあいつがここに居て声を掛けてくるのよ。
あーぁ、行っちゃった。友達と中華料理屋にご飯食べに来ただけなのに。でも縁が有るのかな。夏休みに入って直ぐに会えるなんて。また連絡するか。
私は、駅の傍まで来ると
「お願い小山内さん、これから私と一緒に祐也の所に行って。お願い。今の説明しないと、本当に彼と会えなくなる」
「で、でも。私これから用事あるし。お昼だから午後二時には終わるかなと思って、友達と約束しているんだ」
「そ、そんなぁ」
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