事実とは裏腹に
私は、バイトに行ったけど祐也から言われた事で頭が一杯だった。何とか誤解を解けないといけない。
そんな事を考えながら配膳カウンタかに並べられた料理を手に持ってお客様の所に持って行く時、いつもなら気にしなくてもぶつかる事なんて無いテーブルの角に腿の部分をぶつけてしまった。
よろめいて料理を落とさない様にと思って逆にバランスを崩して、体と一緒にフロアに皿ごと料理を撒いてしまった。
絶対にやってはいけない事だ。直ぐに薬丸マネージャともう一人のフロア担当の人が来てくれたけど、私は茫然とするだけだった。そんな私を見て
「友坂さん、事務室に戻りなさい」
そう言われて、直ぐに戻った。でもその後仕事を続ける気が無くなってしまって、事務室に戻って来た薬丸マネージャに言って早退させて貰った。
後は、家までダラダラと歩いて家に戻った。お父さんもお母さんも作業場で家にはいない。私は、自分の部屋に行くと、そのままベッドに座り込んだ。
どうしてあんな録画を祐也が持っていたんだろう。あの角度とあの録画時間だけを見れば、彼の言っている通りに見える。でもそれは事実じゃない。
どうすればこの誤解を解けるんだろう。とにかく明日、学校に行って説明しないと。…でも口で言っても信用して貰えない。
…そうだ、実際に入った中華屋に連れて行けばいいんだ。あそこはラブホ街から少し入ったところにある。そうだ。あそこを見せて、中で食べればいいんだ。
私は、翌朝、いつもの様にホームで待ったけど祐也は、…来たけど二両も離れた車両に乗った。
お昼、一緒に食べようと思っても学食に行ったと言われた。行って見たけどいない。校舎裏のベンチにもいなかった。
放課後、一緒にバイトに行こうと思って祐也の教室に行ったけど、いなかった。バイトが終わっても私を無視して駅に向かってしまう。いつもなら家まで送ってくれるのに。
そんな事が木曜まで続いた。どうしても早く少しでも早く誤解を解いて前に戻したい。だから、金曜日の朝、祐也の教室に行って、恥ずかしいけどみんなの前で
「祐也、お願い、話を聞いて」
祐也がジッと私を見て
「昼休み」
それだけ言うと廊下に出て行ってしまった。
午前中は、どう説明すればいいか、頭の中が一杯だった。
お昼休みになり急いで祐也の教室に行くと
「校舎裏に行こう」
「うん」
その手にはお弁当は持っていなかった。何故だか分からない。
校舎裏のベンチに着くと
「なんだ、話って?」
「祐也、聞いて。にあいつとは絶対にキスなんてしていない。ラブホ街で行く途中で録画止まっているけど、あのちょっと先に中華屋があるの。
だから今日の放課後でも良い、土曜日でもいい、一緒に行ってそして中に入って。そうすれば分かるから」
「……………」
「お願い信じて」
「分かった。今日の放課後行って見よう」
それだけ言うと祐也は教室に戻って行った。私は手にお弁当持っている。仕方なく教室に戻って自分の席で食べた。
俺は、正直、あの録画の内容は間違いだと思いたかった。幼稚園の頃からずっと一緒にいて、結婚まで約束した友坂琴美。お互いの家の事も良く知っている。
だからあんな事をするなんて思いたくなかった。だけど金丸信二は頭が良く、イケメン、長身、金持ち、俺に無い物を全て持っている。
きっかけはどうあれ、美琴の家の状況を考えたら、心が揺れない訳はない。始めは違ったかも知れないけど、段々緩んで来たんだ。
でも心のどこかで信じたかった。美琴はそんな事する女の子じゃないって。だから彼女の言う事を信じて行く事にした。
放課後、私は急いで祐也の所に行くと彼は待っていてくれた。
「祐也」
「行くか」
「うん」
渋山に着くまでは、ほとんど会話がなかった。お互い手摺に摑まって立っているだけ。
そして渋山に着いた後、最初の中華屋に連れて行った。あの時一杯並んでいたけど、今は誰も待っていなかった。
そして横断歩道を渡ってラブホ街に入ってすぐの中華屋は在ったんだけど、休みだった。
「どうして?」
「美琴、最初の中華屋が入れなくて、この中華屋も長い時間待ったって言ったよな。そんな二つの中華屋は誰も並んでいない店と、休みになっている店、金曜日のこの時間だよ」
それだけ言うと、祐也は回廊坂を駅に向かって歩こうとしていた。私は直ぐに彼の腕を掴んで
「待って、お願い。この前言った事は本当なの。本当なんだから」
「そうか、ここからラブホまで一分も掛からないものな。俺だってお前の事信じたいよ。だから、もしかしたらという思いで今日付いて来たんだ。でもこれだ」
「お願いだから、明日あいつと会った時間に来させて、お願いだからぁ」
美琴が涙を流して言っている。
「…分かった。明日もう一度来る。でも同じ状況だったら…」
帰りも何も話さずに帰った。陽が高いので家には送って貰えなかった。
そして、土曜日。午前十一時半に最初の中華屋に行ったのだけど並んでいなかった。次に行った店は、開いていたけど中はガラガラだった。
「美琴、お前の事を信じようとして昨日も今日も来たよ。でもこれが事実なんだ。言い訳出来るか」
私は、小さい頃からお小遣いも少なく、こんな所に来た事なかった。だからお給料日やその前後とか曜日とかで人の流れが違うという事を知らなかった。知っていれば…。
「ごめんなさい。でも祐也、私は本当に…」
「美琴、好きだったよ。お前と同じ大学に行って結婚して幸せな家庭を築くとばかり思っていた。
残念だよ。でも仕方ない。俺は金もないし、イケメンでもない。こういう店に連れて来る事なんか出来る人間じゃない。
だから美琴があいつを好きになっても俺はお前を恨んだりしない。でも、でも、…本当に残念だよ。さよなら」
「祐也…」
私は、ただ茫然と祐也の後姿を見てることしか出来なかった。
どうして…。
それから、一人で家に帰った。部屋に入って頭の中は何も考えられなかった。
日曜日はずっと家に居た。食事もまともにしなかった。ただこれからをどうすればいいか全くわからなかった。
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