何かが崩れて行っている
俺は、美琴がお昼も食べずに帰って行ってしまった事が気になっていた。なんで彼女はあいつとあんなに約束をしたり、会うタイミングを短くしているのだろうか。
家の事ではないと思う。じゃあ何?この前の事件以来、美琴の心の中で何かが変わって行っているんだ。
助けてくれたという借りは俺も分かるけど、それだけで顔を見るのも嫌だ、傍に居るだけでも気持ち悪いって言っていたのに。
美琴もやっぱりお金持ちが好きなのかな。でもバイトしてお金のかからない国立に行こうって約束している。
分からないや。
翌日私はいつもの様に祐也の家の最寄り駅のホームで待ち合わせして学校に行った。でも祐也は口数が少なかった。
学校が終わって放課後になって一緒にバイトに行くけど、やっぱり口数が少なかった。何とかしないと、このままじゃ祐也とおかしくなっちゃう。
だから、私は思い切ってその週の土曜日、祐也の部屋で二人で会っている時、
「祐也、ごめん。あいつと約束なんてするんじゃなかった。だからこの次が最後。もうあいつとは会わない」
「家の事は?」
「そんな事関係ない。融資が駄目になったらどうするかって家族で考えている。私は家の事より祐也が大事」
「美琴…」
それからはいつもと同じ事をして次の日も夕方まで祐也の家に居た。これでいいんだ。
そして、金曜日の夕方
「あいつとお昼を食べた後、午前十二時半過ぎには別れるつもりだから、いつもの所で待っていて」
「うん、そうする」
あいつと渋山の犬の傍の交番の前で午前十一時半に待合せた。もう私と会う時は普通の格好だ。さっぱりしていてよっぽどこっちの方がいい。
「今日お昼食べる所考えておいてくれた?」
「はい、回廊坂の上にある、人気の中華屋です。普通に学生がランチ食べる所だから値段も普通です」
「普通ね。あんたの普通なんでしょ。でも良いわ。さっさと食べに行きましょう」
「はい」
私達は回廊坂の上の交差点の手前にある中華屋に行ったけど、結構並んでいた。
「結構並んでいますね」
「人気あるんだから仕方ないでしょ」
しかし、回転が悪いのか、三十分経っても中々入れない。不味いな。
「ねえ、ここは諦めて、他の所行こう」
「そうですね。こんなに待つとは思わなかったです。あっちの通りに行って見ますか」
「そうね」
横断歩道を渡って駅の方に向おうとした時
「痛い!」
「えっ、どうしたんですか?」
「目にゴミが入ったみたい」
「えっ、直ぐに見てみます。顔を上げて下さい」
「変なことしないでよ」
「そんな事しません」
おれ、上野小五郎。今日は渋山の回廊坂の上にある餃子屋に知り合いと行く為に来ていた。
上がって行くと、あれっ、友坂さんが知らない男と歩いている。へぇ、葛城だけじゃなかったんだ。驚いたな。学校じゃあ、あれだけ仲良いのに。
えっ、そんな。俺は直ぐにスマホを出して録画モードにした。二人が道路で堂々とキスをしている。なんて事だ。
そのまま見ていると、あっ離れた。友坂さんが嬉しそうな顔をしている。えっ、二人で歩いて行く方向って、えーっ!
「おい、ちょっと急ぐぞ」
「どうした?」
「とにかく!」
録画モードにしたまま、追いかけるとラブホ街に消えて行った。そうか、だから最近葛城が遠い目をしていたんだ。ショックだなぁ、将来は決まっていると思ったのに。友坂さんがこんな人だったとは。
俺はいつもの所に午前十二時半前に来ていた。もう約束の時間はとうに過ぎている。どうしたんだ。もしかしてまた事故か。
とにかく連絡してみるか。…出ない。どうしたんだ?場所は何処か分からないし。
私とあいつは、ラブホ街の入口をちょっと入った所にある、中華屋に来ていた。ここでも二十分近く待った。
注文を通したけど店内は一杯で中々料理が出て来ない。祐也が待っているというのに。帰るか。私が帰ろうとして
「ねえ、もう待てないわ、私帰る」
「えっ、ちょっと待って下さい。俺、注文通っているか聞いてきま…」
「お待ち同様。遅くなって済みません」
私が頼んだのは中華丼。とても熱くて直ぐに食べられない。でもここで帰るのは流石に出来ない。
急いで食べても更に二十分近く経ってしまった。不味い。私は急いで立つと
「ここに私の分置くね。じゃあ」
「えっ、帰るんですか?」
「当たり前でしょ」
「あの次は…」
「あんたとはもう会わない。じゃあね」
「えっ、そんな」
急がないと。スマホを見ると午後一時をとうに過ぎていた。急いで待ち合わせの場所に行くと、良かったぁ。まだ祐也が待っていてくれた。
「祐也、ごめん。待たせちゃって」
「遅かったから心配したよ」
「なんか独特の匂いするね」
「うん、中華屋に入ったんだけど、結構油ぽっくて」
「そうか」
油の匂いというより、生臭い感じがする。気の所為かな。
「祐也、何か食べた?」
「適当にここでスパ食べてた」
「良かった。ごめんね。遅れて。そうだ。あいつにもう会わないからってはっきり言ったから」
「本当。そうか」
良かった。これで変な勘違いしなくても済む。
その後は、少しだけ渋山をぶらぶらして祐也の家に戻った。彼のお母さんが帰って来る迄、まだ二時間以上ある。
「祐也、ねっ」
「俺も」
ふふっ、今日は祐也が積極的だ。嬉しいな。
午後六時になり、家まで送って貰った。まだ陽がある。この時期は午後七時半位まで明るい。
そして翌日もいつもの様に祐也の家に居た。
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