雨が降っている
次の日曜日。祐也の部屋にいるとスマホが鳴った。
「出なくていいのか?」
「構わないわ。それより…」
「うん」
今回は出てくれなかった。忙しいのかな。後で掛けてみるか。
祐也のお母さんは、午前中だけ出てくると言っていた。気を使わせてしまっているけど、こうして居るのが一番いい。
二回目が終わった時、もうすぐ十二時になろうとしていた。
「祐也。こうしていたい」
「うん、俺も。でも仕方ないよ」
「じゃあ、もうちょっとこのまま」
一階の玄関の音がした。
「起きるか」
「うん」
直ぐに洋服を着た。着終わった所でスマホが鳴った。仕方なく出るとあいつからだ。私は
「あいつから」
「そっか」
スマホの通話をオンにすると
『金丸です。昨日次会う日を決めずに別れたので』
『そう、で?』
『いつもと同じ時間に会うと午前十時三十分から始まります。二時間映画なので終わったら食事しませんか』
『見たら帰るわ』
『分かりました』
いつもと会話がちがう。話が終わると
「美琴、見たらって?」
「ああ、あいつと昨日別れ際に次に会った時、映画見る約束しちゃって」
「えっ、映画を見る?」
「ごめん、六月の第一土曜日に会う。終わるのが午前十二時半位だから、そしたら直ぐにいつもの所に行く。一緒にお昼食べよ」
「うん、それはいいけど」
なんで?月に一度会うんじゃなかったっけ。今度会うのって二週間後じゃないか。それになんで映画を見る約束したんだろう?
「なあ、美琴。あいつと会うのって月に一度で簡単に会えばあいつも諦めるって言ってなかったっけ」
「うん、分かっている。でもこの前助けられた借りも有るから、仕方なしにそんな話になった」
「そ、そうか。それじゃあ、仕方ないな」
なんだ、胸に湧き出る様な不安は。
「祐也、心配しないで。私は祐也しかいないの。今回は偶々そうなっただけだから」
「分かっている」
それから一階に降りて祐也のお母さんと三人でお昼を食べて、お話して帰った。
翌週の火曜日は中間考査の結果が張り出される日だ。
俺達は、昇降口で履き替えて中央階段脇の掲示板に張り出されている成績順位表を見た。四十位までが出てる。
「あっ、祐也と同じ五位だ。やったぁ」
「でも、成績が伸びていない。何処が悪かったんだろう」
「二人共仲いいなぁ。ついに成績も一緒かよ」
「ほんとねぇ羨ましいわ」
「あっ、上野と小山内」
「俺も成績伸びて無いよ」
「私も」
「でも二人共十位以内だ」
「葛城君。まだ二年生だけど、もう二年生よ。お互い頑張んないと」
「そうだな」
俺は、美琴と別れて自分の教室に入った。まだ日曜の事が吹っ切れていない。
「葛城、どうした。なんか遠くを見ている目だぞ」
「上野か。なんでもない。成績が伸びなかった所為だよ」
「それなら、まだいいけど」
葛城が成績でこんな目するか。もう仲間になって五年目だぞ。何か有ったのかな?
翌週の後半は雨が降っていた。本当は金曜日に体育祭をする予定になっていたけど、来週に延期されて今日は通常授業だ。バイトも無いし、美琴と一緒に帰ってどうするかな?
土曜日も雨が降っていた。美琴は先にあいつと会って映画を見ているはず。俺はいつもの所に午前十二時半前に行く事にしている。
私はあいつと会って、回廊坂の途中にある映画ビルに来ていた。雨の所為か少し混んでいる。あいつはこの前と同じサッパリとした格好だ。
「どれ見たいの?」
「美琴さんが見た物でいいです」
「別にどれでも良いわよ」
「じゃあ、あれどうですか?」
何とアニメだ。まあどれでもいいか。
「良いわよ」
空きシートを見ると上の端っこの方しか空いていない。
「ここしかないですね」
「離れて見てもいいんじゃない」
「いや流石にそれは」
「まあ、仕方ないわね」
上映室に入ると結構大きい。まだ薄暗い中を歩いて上の方に行って端の席に座った。なんでこいつと映画見る約束したんだろう。早く祐也の所行きたいのに。
上映が始まると戦闘シーンが有ったり、アニメの割にはきわどいシーン有ったり、そして後半は一挙に恋愛ものに変わって行った。
こういうアニメで流していいの?って感じの映像もある。なんか変な感じだけどアニメだから上手く隠して見せていた。
上映が終わり廊下に出ると
「ちょっと、行って来る」
「俺も」
個室に入ると、やだ、汚れている。参ったな。さて、早く祐也の所に行こう。
個室を出て手を洗うとあいつは廊下で待っていた。
「あの、この後食事駄目ですか?」
「行かないと言っているでしょう」
「済みません。でも残念です」
なによ、その寂しそうな目は?
二人で外に出ると結構強い雨が降っていた。
「じゃあ、帰る…」
なにそう悲しそうな目は?
「なんて目をしているのよ」
「今日映画見られたから、もしかしたら食事も出見るかなと思って」
「なんで私と食事したいのよ。映画見ただけで充分でしょう」
「そうなんですけど」
もう仕方ない。
「分かった、次はお昼一緒に食べてあげる。でも普通の中華とかラーメンよ。高いレストランなんか行かないから」
「はい!」
急に思い切りの笑顔になった。何なのこの気持ち。こいつの顔なんて見るのも嫌だったのに。
「じゃあ、かえ…」
「あの」
「まだ、有るの?」
「いつ会ってくれます」
「ここじゃ、都合分からないわ」
「じゃあ、また明日連絡します」
「そうして」
まったく。少し遅れているじゃない。私は急いで祐也と会う場所に行った。
「ゆうや、ごめん。遅れちゃった」
「大丈夫だよ。まだ十五分しか経っていない」
「お腹空いた」
「何食べようか?」
「うーん、この前は極辛ラーメン食べたし、その前も…煮干しラーメンだったし、じゃあ極辛カレー」
「よし、じゃあ、ココ二にするか」
「うん」
その後は、祐也の部屋に行った。最近は私の部屋に来ていない。仕方ない。あんな父親のいる所に祐也を連れて行く訳には行かない。
翌日は、雨が上がっていた。祐也の部屋で朝から一緒に居た。最近、日曜日の午前中、祐也のお母さんはどこかに出かけている。
「祐也、お母さんどこ行っているの?」
「ああ、日曜日午前中は母校のオープン講座を受けている。まだまだ勉強出来るからって」
「凄いなぁ。祐也の勉強好きはお母さんからかな?」
「さあ、お父さんも仕事に就いても勉強していたからな」
「祐也のお父さんの実家って?」
「うん、まあ聞かないで」
そんな話をしながらも楽しい事もしている時、またあいつから電話が有った。最初は無視した。だって、うふふっだから。
午前十二時過ぎになってまた掛かって来た。
「ごめん祐也出る」
「ああ」
『金丸です。次に会える日なんですけど、二週間後では駄目ですか?』
『ちょっと待って』
私は保留モードにすると
「祐也、家の学校の期末考査って、月末からだよね」
「ああ、そうだけど」
「じゃあ、その前の土日は無理だから、二週間後しかないか」
「えっ、二週間後?」
「うん、会わないと七月の第二週になってしまう」
「そ、そっか」
「ごめん」
なんで七月第二週じゃ駄目なんだ。美琴はあいつと会いたいのか。なんか全然前と違う。
保留モードを解除すると
『分かった、二週間後の土曜日ね』
『会うのはいつもと同じで良いですか?』
『お昼食べるだけだから午前十一時半で良いんじゃない?』
えっ、お昼食べる?
『分かりました。じゃあその時間にいつもの場所で待っています』
スマホが切れると
「美琴、お昼食べるってなに?」
「ごめん、この前、映画を見終わった後、約束してしまって」
「それって?」
「ごめん、約束しちゃったから」
「だって、この前の映画も前に約束していて、今度のお昼も前に約束していて、会うのも二週間に一回になって…なんで?」
「ごめん、もう約束してしまったから」
「……………」
やっぱり美琴の心の中で何かが変わっている、あれだけ顔を見るのも嫌だと言っていたのに。今は、二週間に一回あって映画や、お昼も食べる様になっている。
私は何となく気まずくなって祐也とはお昼も食べずに彼の家を出てしまった。何でこんな事になっているんだろう。あいつの事、断ればいいだけのはずなのに。分からないよ。
―――――
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