同情なのかな?
『友坂さん、会って頂けませんか?』
祐也に送って貰って家に入り自分の部屋のベッドに座った時だった。いつもなら簡単に拒絶するのに
『なに?』
『えっ?だから会って頂きたいんです。傷も大分癒えたんで』
会いたくも無いのに。なによその言い方。
『いつなのよ?』
えっ、こんな風に言ってくれるなんて。
『五月の二十日の土曜日。駄目ですか?』
来週の土日の翌週は中間考査がある。でもその次は何もない。
『いいけど、会う理由なんてあるの?』
『えっ、いえ、済みません。あの普段着で行きますから』
何言っているの?ほんと理解出来ない馬鹿だわ。でも…。
『良いわよ』
『やったぁー。じゃあ、いつもの所でいつもの時間に』
何よこの言い方。偉そうに。いつも会っているみたいじゃない。
私は、翌日直ぐに祐也にあいつから電話が有った事を話した。
「そうか。それで美琴は会う約束したんだ」
「仕方ないよ。この前の件も有るし」
「分かった」
いつもならあいつと会う時は、その後の事話したのに。
「なあ、あいつと会うって、何時まで?」
「それは…」
「うん、良いよ。出来ればあいつと別れたら連絡が欲しい」
「えっ?!」
私、何てこと言ったんだろう。直ぐに言い換えようとして
「美琴、この前の事で仕方ないだろうけど…。あっ、いいや、連絡待っている。じゃあ」
祐也が、駅に向かって走って行った。いつもなら一緒に歩いて帰るのに。
どうしたんだろう。あいつが暴漢に襲われて、それでも美琴には危害がなくって、あいつのお父さんからまた、あいつの事を頼まれた。
多分、その辺が美琴の心に変化を起こさせているんだろう。でも俺は何も出来ない。今まで通り美琴に接するしかない。
髪型変えるとか洋服変えるとかしても意味ないし、そもそもそんなお金もない。あいつは美琴と会えば一杯あるお金を使って見せて来るけど、俺は彼女と会っても俺の家に来るだけだ。
お金に目がくらむ美琴じゃないけど、メンタル面でも入り込まれたら…。そんなはずはない。
幼い頃から一緒だったんだ。こんな事でひびが入る俺達じゃない。今の彼女の心は一時の迷いとかん…がえたい。
翌日はいつもと同じように美琴はホームで待っていてくれて一緒に学校に登校した。最初、ちょっとだけ気不味かったけど、話をしている内に頭の中から消えた。
放課後のバイトもいつも通りにした。お陰で頭の中は、二人共あいつ事は、忘れていた。
帰り道、
「祐也、明日から考査ウィークに入るからバイトは中断だね。一杯勉強して今度こそ祐也と同じにしないと」
「はははっ、大丈夫さ。一緒に勉強すれば大丈夫だよ」
次の日からは午前中授業が有って、午後は、直接祐也の家に行って二人で考査範囲を勉強した。
私達は、参考書なんか買えないから、とにかく教科書にある問題をやって、重要な言葉を理解して覚えた。英語は何度も音読して直訳でない意味を考え、そこから自分で本文を書く練習をした。
そして中間考査が始まった。火曜から金曜までだ。考査中も終われば祐也の部屋で次の日の考査科目の勉強をした。もうあいつの事なんか頭に無かった。
考査が終わった金曜日。
「祐也、やっと終わったね。まだ時間有るし、祐也の部屋に行きたい」
「うん、俺もそう思っていた」
「じゃあ、行こう」
「うん」
私達は健全な高校生。当然、こうなるよね。
ふふっ、祐也がいい。やっぱり祐也がいい。こうしていると心が落ち着く。
午後六時近くになって二人でベッドから起きて洋服を着た。この季節になると窓の外はまだ明るい。
部屋の中で何となく触れ合っていると、一階の玄関の開く音がした。
「じゃあ、送るよ」
「うん」
二人で一階に降りて
「お母さん、美琴送って来る」
「行ってらっしゃい」
だいぶ落ち着いた様ね。良かったわ。
駅まで歩いていると
「美琴、明日会うのか?」
「えっ。あっ、忘れていた。あははっ、祐也が言わなければ忘れてすっぽかしたのに」
「えっ、そうなのか」
「思い出しちゃたんなら仕方ないぁ。祐也、また一緒に行って。簡単に終わらせるから、そしたら会おう」
「ああ、そうだな」
良かった。美琴の気持ちに不安を感じていたけど気の所為だったようだ。
次の日はいつもと同じように祐也と一緒に渋山に行った。エスカレータを昇って、祐也は右の階段側に行くと
「じゃあ、ちょっと行って来るからいつもの所で待っていて」
「了解」
祐也が階段を降りて行った。私は左に曲がってあいつの様子を見ると、えっ、本当に普段着の様だ。顔のガーゼや頭の包帯、それに手の包帯もみんな取れている。
デニムのジーンズに白のTシャツ。黒のスニーカ―だ。髪型は短いままを維持している。
その所為か、今迄とは違った雰囲気で通りの人達が彼を見ている。あんな格好なら今日の私とも釣り合うか。
ゆっくりとあいつの傍に近付くと
「あっ、友坂さん。おはようございます」
「おはよう、金丸さん」
「どうですか。普段着のまま来ました」
「そうね。これならいいわ」
やったぜ、やっと褒めて貰えた。
「じゃあ、〇ックに行きますか?」
「いいわよ」
いい雰囲気だ。
カウンタでアイスティを頼んだ。あいつはホットコーヒーだ。空いている席を見つけて二人で座ると、隣の女の子達がチラチラと見てくる。
「あんた、怪我は全部治ったの?」
「はい、全部すっかり治りました」
「そう、良かったわね。あの時はありがとう」
やったぜ、会話で来ている。
「今日は珍しくアイスティですね」
「まあ、暑いからね」
「良かった」
「良かった?」
「はい、またあの美味しい紅茶のお店に行けるかもしれないと思って」
「そ、そうね」
凄い断らない。それなら
「あの…」
「なに?」
「いえ」
こんなに調子いいと何話して位か分からなくなっている。どうしたんだ。この気持ち。遊ぶために会いたいと思ったのに、胸がぎゅっとして話せない。
「ねえ、話さないならもう行くわよ」
「あっ、あの。ちょっと待って下さい。心の準備します」
「はぁ?何言っているの。帰るわよ。本当に」
前なら勝手に立って帰って行ったのに。
「そうだ、今度会った時、映画見ませんか?」
「なんで次の約束しているのよ」
「いえ、今日はちょっとなんていうか、その…胸が熱くなって」
―ブッフ。
隣の子が笑って噴き出しているじゃない。全く。何が胸が熱くなってよ。でも私何で帰らないんだろう。でも、もう良いか。
「私帰るわ。話もなさそうだし」
「えっ、でも」
なによ、その寂しそうな顔は、今までと違うじゃない。
「いいわ。来週は映画に付き合ってあげる。だから今日は帰るわよ。でも割勘よ」
「はい、俺も帰ります」
俺は、友坂さんが帰って行く姿を見ながら、凄い進展だ。次に会う約束して映画を見る約束まで取り付けた。あっ、いけねぇ、会う日付決めるの忘れてた。
私何で今度会う約束なんてしたんだろう。まして映画を一緒に見る約束なんて。おかしいな。でも良いか。仮もあるし。
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