しつこい、でも
私が次に真司に会ったのは、三月第三週目の十六日。その前の週は学年末考査中はバイトを休んでいた為、考査後の土日はバイトに出ないと行けなかったからだ。
いつもの様に祐也と一緒に行って、エスカレータを昇った所で別れた。祐也はいつもの所で待っていてくれる。
私は、エスカレータを昇り切った所を左に曲がってあいつの方に目をやると、周りの人がじろじろとあいつを見ている。
はぁーっ、今度はあんな格好かよ。黄土色のチェックともう少し薄い色のジャケット、ジャケットと同じ色のパンツ、それに白に少し茶を入れた感じの長いマフラーだ。まるでどこかのファッションモデルだな。
なまじ顔が良くて背が高いから思い切り目立っている。私が近付くと手を振ってこっちに近付いて来た。周りの人が私の方に視線を向けた。嫌になる。
「おはようございます。友坂さん」
「おはよ、金丸さん」
「〇ックにしますか?」
「今日はいいわ。あなたの好きな喫茶店で」
流石に〇ックは飽きた。
「本当ですか!じゃあ早速」
やったぁ。この洋服が功を奏したのか。今までやって来た事が、上手くいっているのか。とにかくやったぜ。
俺は、前に行こうと思っていた〇ックとは反対側の道路を少し上がった所にある喫茶店に入った。
何処に連れて行くのかと思ったら〇ックの斜め前にある喫茶店じゃない。中に入ると、それなりの雰囲気の大人の人が入っていた。
店の人に案内されて少し奥のテーブルまで行く間に、こいつを皆がジロジロ見ている。何となく分かるけど。店の雰囲気も値段高いよって感じだ。
「どうですか、ここ」
「別に」
素っ気無い態度を取っていると店員が水とメニューを持って来た。メニューは一つしかないから私が
「先に選んでください」
「はい」
直ぐに決めると私にメニューを渡して来た。紅茶を選ぼうとした値段が最低でも千二百円以上だ。なんなんだこの店は。迷っていると
「どれにしますか?」
分からないから
「ダージリン。ミルクで」
「友坂さん、コーヒーも紅茶も飲まないと言っていたので心配したのですが、良かったです。ダージリンにミルクを入れて飲むのは中々通ですね」
「そ、そうなの?」
こいつが店員を呼んで注文を告げると
「ダージリンは紅茶の中では結構ノーマルなのでそれにミルクを入れれば、紅茶が苦手な人でも結構美味しく飲めるんです」
なんか、変なうんちくを言い始めたぞ。そんな事私にはどうでもいいのに。それより、ここは〇ックと違ってカウンタから商品を取って席に座るタイプじゃないから紅茶が出てくるまでこいつと一緒に居なければいけない。失敗した。仕方なく
「あんた、また今回も凄い格好して来たわね」
「はい、友坂さんに会う為に色々考えています。前回は友坂さんのお気に召さなかった様なので、今回は、ゾニアにしてみました。どうですか?」
―ねえ、聞いた。
―凄いわね。女の子に会う為にゾニアの最新モデルを着て来るなんて。
―羨ましいわ。私の彼もその位してくれないかしら。
―無理よ。あんたの彼氏の一ヶ月分の給料じゃ足らないわ。
―そうね。
えっ、こいつの来ている服ってそんなに高いの。呆れた。
「ねえ、もう少しもっとラフな感じの洋服って持っていないの?」
「…これも駄目ですか?」
「そんな事じゃなくて、私なんかと会う為にそんなにお金掛けなくてもいいじゃない」
「でも、友坂さんに気に行って貰いたくて」
「人の心はねぇ。恰好じゃないんだよ。なんでそんな事分からないの。それに…そんなに私の事が好きなの」
いい流れになって来たぞ。
「はい、思い切り好きです。友坂さんは、俺の事嫌いかも知れないですけど、俺は友坂さんといると幸せを感じるんです」
やっと店員が、紅茶とあいつのコーヒーを持って来た。両方共いい匂いを漂わせている。
店員が私の前に置かれた紅茶ポットからカップに紅茶を注いでくれている。こんな事もしてくれるんだ。店員が最後に
「ごゆっくりお召し上がりください」
と言って、戻って行った。
こっちは飲んで直ぐに帰ろうと思っているのに。でも熱そうで飲めない。アイスティにすれば良かった。
私は、ゆっくりとカップを唇に付けて少しだけ飲むとダージリンの味なんて全然分からないけど、美味しい味が口の中一杯に広がりいい匂いが鼻に抜けて行く。
こんな紅茶初めて飲んだ。家のティーパックとは全然違う。急いで飲んでしまうのが惜しくなった。
「どうですか、お味は?」
「とっても美味しい」
やったぁ。俺の前で友坂さんが嬉しそうな顔をしている。
それからもあいつのいつもの自慢話を聞かされた。嫌になる。
紅茶のポットに残っていた最後の分を飲み終えてスマホを覗くと、えっ!しまった。私は図らずもそれから一時間近くここに居てしまった。いけない祐也が心配している。
「私もう帰ります」
「はい、精算してきます。ちょっと待って下さい」
「良いわよ。一緒に出るわ」
「そ、そうですか」
―凄い子ね。
―あれだけ、一生懸命自分の事を考えている男の子をここまで無下にするなんて。
―いったいどこのお嬢様なのかしら。
―でもあの格好でお嬢様とは思えないけど。
不味い、直ぐ出るか。
「じゃあ、私はこれで」
「はい、今日はありがとうございました」
なんで、そんな事言うのよ。調子狂うじゃない。
俺は精算し終わると外に出た。もう友坂さんの姿は見えなかったけど、今日は一時間近くも話せた。
紅茶をちょっと口にした時の彼女の嬉しそうな顔は忘れられない。この戦略は間違っていなかったようだ。
私は急いで祐也の待っている場所に行くと
「ごめん、祐也。遅くなっちゃった」
「いいけど。どうしたの?」
「うん、〇ック飽きちゃったから、あいつの行きたいっていう喫茶店に行ったんだけど、頼んだ紅茶が出てくるのは遅いし、出てくれば熱いしで、飲むのに時間掛かっちゃった」
「そうなんだ」
いつもなら飲まずに来るだろうに。
「紅茶美味しかったの?」
「味は、結構美味しかったけど、一杯千五百円もする紅茶なんて性に合わないわ」
「そうか」
それから、私達はいつもの様に渋山で少し遊んで、祐也の家に帰り、昼食を作って一緒に食べて、祐也の部屋で楽しい事をした。勿論、次の日曜日も二人で遊んだ。
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