取敢えず考えてみる
私は、真司のお父さんが帰った後、もう一度部屋に戻って考えた。
今迄、あいつと嫌々会っていたけど、それは真司と私の父親の、いえ私達家族の勘違いだった。
だとすればもう会わなくていい筈。だけどあいつのお父さんは帰り際に、真司から声を掛けられた時は会ってくれと暗に言っていた。
そっちの方が重い。融資条件ではないにしても全く会わなかったらどうなのか。声を掛けたら会ってくれという親心は仕事とは関係ないにしても全く無視したら気分がいいものではない。
下手をするとそれこそ後々、融資に響いてくるかもしれない。
その時だった。お母さんが一階に降りてくるように声を掛けて来た。行って見るとダイニングにお父さんとお母さんが座っている。私も自分の位置に座ると
「美琴、お父さんから話しは聞いたわ。融資の条件に真司君と会わなければいけないという条件は入っていなかったって。
なにか、無理難題を押し付けられたようだけど、もう無理して会う事はないわ。美琴の自由にしなさい」
「美琴、お父さんはちょっと違った考え方をしている。もしお前の力で真司君の金銭依存の考え方が変われば、それは一つの人助けになるんじゃないかって。
金丸さんは強制はしないけど、真司君がお前に声を掛けた時は会ってくれと暗に言っている。それほど期待されているんだ。どうだしてみないか?」
「お父さんはそうやって娘を利用して、今後の融資を少しでも良くしていこうと思っているんでしょ。
冗談じゃないわ!あいつとお父さんの勘違いで私がどれだけ嫌な思いして来たか分かっているの。私は金輪際、あいつと会わない。今から祐也と会って来る。お昼いらないから」
「美琴…」
冗談じゃないわ。せっかく融資条件ではないって言ってくれたのに、帰り際の言葉に踊らされて、また娘を売ろうとしている。なんて親なの。
「お母さん、俺は間違った事を言ったか?」
「ええ、あなたの言い様では、今までと何も変わっていないわ。私も聞いていて美琴と同じ印象よ。娘より仕事の方が大事だと良く分かったわ」
「……………」
俺だって娘は大事だ。だが金丸さんが今日こちらに来た本当の理由は美琴に会って今日の話をする為。何でそれが分かってくれない。
息子の思いを無視されれば、親として美琴に対する負の感情が出てくる。それは融資とか以前のもっと面倒な事だ。
私は祐也の家に行きながらスマホで連絡した。
『祐也、今から行っていい?』
『良いけど、会う約束午後からだよね?』
『うん、ちょっと嫌な事が有って』
『…そうか。分かった。お昼はどうした?』
『食べていない』
『分かった。一緒に食べよう』
『うん』
祐也の家に着くと
ピンポーン。
ガチャ。
「いらっしゃい。美琴ちゃん」
「お邪魔します」
「美琴上がって」
「うん」
私は美琴のお母さんが用意してくれた昼食を三人で一緒に食べて祐也の部屋に行った。そして真司の父親の言った事を話した。
「それは、また重いな。でも普通、融資元が融資先に挨拶に来るなんて無いよな。今日来たのって美琴にそれを伝えに来たんじゃないか?」
「それって?」
「真司と美琴が付き合う事は融資条件ではない。でも息子が気に入った子が、お金には左右されない子だと分かったから、付き合うという事ではないけど、あいつの金銭依存を直す協力はしてくれないかと」
「えーっ、それって。今迄より重いじゃない。最初は気に入らなければ付き合わなくていいと言いながら、私の態度を見たら今度は息子の馬鹿頭を直してくれなんて」
「うーん。そうとしか考えられないな」
「祐也、どうしよう?」
「取敢えず、今まで通り素っ気無い態度で、向こうが諦めるのを待つしかないんじゃないか。
会うのも月一度位にして会う時間も短くして。そうすれば向こうの父親への顔も立つし、美琴がこのままなら、やっぱり馬鹿息子は、美琴の力でも治らないんだって分かるんじゃない」
「取敢えず、それしかないかぁ。でも嫌だなぁ。あいつの顔見ると気持ち悪くって」
「はははっ、凄い嫌われ様だな。俺は見た事無いから分からないけど、そんなに気持ち悪いのか」
「うん、とっても」
今日は、流石に一階に美琴のお母さんが居るから我慢した。それにまだ正月二日だからね。
だから、一階に行って祐也のお母さんと一緒にリビングで正月番組を見ながらお茶を飲んで、お話をしたり、お菓子を食べたりした。太らないよね?
三日目は、二人で渋山に行って初売りのウィンドウショッピングをした。不要不急の買い物は絶対にしないけど、こういうの見るのは、やっぱり女の子として大事だよね。
四日と五日、それに六日の金曜日はファミレスのバイトをした。金曜日は普通出ないんだけど、シフトの関係で頼まれた。店長が助かったと言っていたので、少しポイント高くなったかな?
始業式が有って、直ぐに英検が有って、次の週も模試が有ってと、学校の勉強とバイトで忙しかったけど、いつも祐也と一緒に居れるから大変さも全く苦にならなかった。
土曜は、祐也のお母さんが仕事だから、ずっと彼の部屋に居た。勿論、あっちを楽しむの。バイトも四か月も経つと、アレを買う位は負担にならなくなったから。でも基本は女性の大事な日が終わってからだけど。それに…えへへ、言わない。
そんな感じで祐也との楽しい時間を過ごしているとあいつから連絡が有った。二月の始めの土曜日に会ってくれと。
あいつの父親の事も有るし、先延ばししてもどうせ会うからと今度は一回でスマホに出て会うと約束した。あいつ逆に驚いていたけど。まあ、三十分も有っていればいいだけだし。その後は祐也と会えばいい。
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