真司の父の思い
儂、金丸時則。真司の父親だ。うちの愚息は勉強は出来るし、暴力に訴えるという愚か者ではない。多少金使いが荒いが、将来の勉強の為だと大目に見ている。
理由は、儂が娶ったというか、強引に儂に言い寄って来た女だ。性格は悪くない、一人息子の事もよく世話をする。だが金しか見ていない。はっきり言って頭もいいとは思えない。
だが、綺麗な顔と体で落とされたという自分自身の情けなさもある。儂とこの女の間に生まれたのが息子の真司。
頭は良く、顔も世に言うイケメンで、温厚な性格だが、女運が悪い。今、二人ほど付き合っているは分かっているが、二人共、真司の将来の財産を狙っての事だ。だから儂はこの性格は大学を卒業するまでには直したいと思っている。
だが、一人で治るものではない。金に左右されないしっかりとした心の持ち主が傍に居なければ駄目だ。
早々にそんな都合の相手が見つかる訳がない。しかし、このままでは困る。そんな時、儂の所に技術はいいものを持っているがコロナのお陰で商売が行き詰っている。融資をしないかと同業から持ち込まれた。
なぜ自分でしないのかと聞いたら、資金力がないと言われた。そこで儂に声を掛けたおそうだ。
そこまで見込むならと会う前に財務状況を調べたが、営業力が弱すぎる。技術屋で自分で物作りをしているが営業もしているという。
技術屋は営業には向かない。融資をしつつ、営業が出来そうな輩を並行で探していこうと思った。
そこで一度会う事にした。その時、勉強の為に息子を連れて行ったのだが、相手先の家の作業場の中で見た可愛い女の子が息子の目に留まった。
儂は、息子が付き合ってみたいというので、契約時にその話をしたら、相手の父親が快く引き受けてくれた。
二人外に出かけた後も帰りは手を繋いで来た。まあ、いつもの事だと思い息子のするがままにさせていたら…。金には全く動かない子だと聞いていた。食事も質素、洋服やアクセサリとかの華美も興味無いらしい。
それなら儂は、真司に自分の人間的魅力で引き付けて見ろと言った。もし息子が相手先の娘さんの心をつかめれば、息子も精神的に一皮剥けるかも知れないと思った。
だから今、融資先の友坂さんの所に来て居る。本来は融資先が儂の所に挨拶に来るのが通りだが。
そして息子の真司は連れて来ていない。
「金丸さん、正月の忙しい時期、本来なら私共の方からご挨拶に伺わなければいけない所、お越し下さり誠に申し訳ありません」
「いやいや、お気になさらずに。友坂さんの技術力を見込んで融資をさせて頂いています。ですからその状況もお聞きしたいと思いましてな」
「はい、ありがとうございます」
儂と友坂さんはそれからしばらく仕事の話をした後、
「友坂さん、娘さん、美琴さんとお会いする事出来ませんか?」
「えっ、美琴と?」
「はい、息子がお世話になっているそうで」
「いえ、こちらこそ。少々お待ちください。今日は家に居るはずです」
私は昨日祐也と初詣に言った後、夕方まで遊んだ。今日は午後から会う約束になっているので午前中は家でのんびりとしていた。
今日は、お父さんが色々な取引先と挨拶する日だ。大体が取引先に出向くのだけど、今日は珍しく午前中に来客があった様だ。
私が部屋でのんびりしているといきなりお父さんから呼ばれた。リビングに来てくれと言う。
どんな用件か分からないけど、取敢えずリビングに行って見ると、えっ?!真司のお父さんが居た。あいつはいない。どういう事?
「美琴入りなさい」
「はい」
私はお父さんの横に座って真司のお父さんと向かい合った。
「美琴さん、うちの愚息がご迷惑を掛けている様で申し訳ない」
「いえ」
どういう意味で言っているんだろう?
「真司に聞いた所、美琴さんに全く相手にされていないと言っていました。愚息は、悪い人間では無いのですが、どうもお金で人は動くものと勘違いしている様でね。
挙句、今回美琴さんとのお付き合いは融資条件に入っていたはずだなどと馬鹿な事を言う始末。
儂は息子にそんな馬鹿な事をする訳ないだろう。あくまで友坂さんの技術力に惚れたから融資をしたんだと言い聞かせたんですよ」
「えっ?!娘の付き合いは融資条件ではない!」
どういう事なの?
「あっ、こんな事言うと可笑しいかも知れませんが、あの時は美琴さんがうちの愚息を気に入ってくれればいいと思ったんですが、どうも愚息が勝手に勘違いしたようで大変ご迷惑を掛けました」
何ですって!あの馬鹿と会う理由は最初からなかったの。あいつと私のお父さんが勝手に勘違いしただけ?
「ですが、そこで美琴さんにお願いがあるのです。これは融資には全く関係が有りません。うちの愚息の頭の中を入れ替えてやってくれませんか?」
流石に訳が分からず
「あのどういう事でしょうか?」
「愚息は、人は金で動くものだと思っている節があります。でも愚息から美琴さんの事聞く限り、…こういう言い方は失礼ですが、美琴さんはお金では動く方では無い様だ。
失礼な言い方で申し訳ない。だが、そこでだ。その心の元でうちの愚息の心を真っ当に戻して欲しいんです。
勿論、一切の強制はしません。美琴さんがこれを断っても融資には何の影響もありません。
だが、この通りだ。愚息が将来我が社を継いで世の中の為になる人間にしなければならない。美琴さんが愚息に人間としての真っ当な考え方を教えてくれませんか?」
「か、金丸さん。言葉の意味が重すぎて娘には出来るかどうか」
「それを分かっての事です。この通りお願いします」
あいつのお父さんが私に頭を下げて、あいつの心を入れ替えろと言っている。そんな事出来る訳ないじゃない。そもそもあいつと会うこと自体嫌なのに。
「美琴、金丸さんがここ迄言って下さっている。どうだ。やって見て貰えないか」
「お父さん!」
この馬鹿親がまた都合の良い事を言っている。自分可愛さしかないのか!
「美琴、頼まれてくれないか?」
「金丸さん、父はこう言っていますが、はっきり言います。私には幼い事から付き合って将来を約束している恋人がいます。申し訳ありませんが真司さんと付き合う事は出来ません」
なんとはっきりしたもの言いだ。金に目がくらまず、儂を相手にこれだけはっきりいうとは。真司もこういう子を好きになってくれれば。
「はははっ、分かりました。美琴さん、無理を言って申し訳ない。しかし、友坂さん、美琴さんはしっかりとした良い娘さんの様だ。羨ましい。
美琴さん、これからも愚息が声を掛けると思うが、今の気持ちであいつの心を正してやってくれ。
今日はお邪魔しましたな。これにて失礼する」
お父さんが、玄関まで真司のお父さんを見送りに行った。どういう事、あいつと会うのは融資条件では無かったの?
でも、暗にこれからも会ってくれと?どういう意図が有っての事?
――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひフォローとご評価★★★★★を頂けると嬉しいです。
宜しくお願いします。