紅月の正体?
「さて、私の通り名はさっきも言った通り紅月。ウォークスルーを生業としてるの」
「ウォークスルーなんて知りませんし興味も無いです」
ユキネが紅月に斬りかかろうと地面を蹴り走り出そうとするが、紅月がにやっと笑った後、指を鳴らすと地面から炎でできた鎖がユキネに絡みつき拘束する。
「そんな冷たい事言わずに、話くらいしようよ。優しいお姉さんが説明してあげる。公式では無いけどギルドに所属している人達はそれぞれ生業としている物があるのよ」
紅月は、ユキネの周りをゆっくりと歩きながら説明を続ける。
「採取を専門に行うコレクション、討伐を専門に行うコミッショナー、護衛を専門にするエスコート、各地の珍しい物などを集めるトレジャー、そして、ダンジョンの脅威が人類に及ばないように攻略を専門にするウォークスルー、後は選り好みせず色んなクエストを受ける者たちかな」
ユキネは紅月の説明を聞きながらも鎖を千切ろうともがくが鎖はビクともせず逆に拘束が強くなっていく。
(残りの魔力は少ないし体力も連戦であんまり残ってないですね……困りました)
「私の話ちゃんと聞いてる?」
紅月は頬っぺたをぷくーっと膨らましながらユキネの顔を覗きこむ。
「ですから興味が無いと言っているでしょう」
「冷たーい。まあ、いいや。それで、ギルドで今、話題になってるのがここのダンジョンだったんだけど……」
紅月は周りを見渡しため息を吐く。
「ダンジョン構造はお粗末だし、魔物のランクが高いだけでスルー簡単だったしがっかりだよ」
紅月はユキネの髪の毛を掴み、自分の方向に引き寄せその勢いを利用してユキネのお腹に膝を叩き込む。
「ダンジョンの魔物が弱いからマスターだけは強いかなぁって思ってたらこれだもんなぁ」
口から大量の血を吐いたユキネを、スルーして玉座の横でニヤニヤしていたグリムへと近づく。
「貴方は戦わないの?」
「わしか?戦ってもいいが、お主死ぬぞ?」
グリムの口元が三日月型に歪み、グリムの足元から闇が溢れ出す。
「はは、死にたくないからやめとこ」
紅月が冷や汗を浮かべながらくるりとユキネに向き直した瞬間、紅月の頭をユキネが捉え地面へと叩きつける。
「【魔王化】×【憤怒】」
体力的にこれが最後のチャンスここを逃せば終わりますね。
「ワオ、早いね」
「その減らず口黙らせてあげますよ【絶凍零華】」
紅月を中心にその場の空間が全て凍りつき、美しい氷の花が周りを埋め尽くす。
「はぁはぁ、魔力ギリギリでしたね」
ユキネがその場で尻餅をついて一息付いた瞬間氷の花が燃え上がり、水になり蒸発していった。
「いやぁ、危ない危ない」
紅月が、首をこきこきと鳴らしながら立ち上がりユキネを蹴り飛ばす。
「化け物ですか、貴方」
空中で受け身を取り着地と同時に桜華を抜き紅月を睨みつける。
「そろそろ飽きてきたし終わりにしよっか」
紅月が指先に炎を集め空中に円を描く。
ユキネは額に流れる汗を拭い桜華を鞘に納め居合の構えをとる。
「桜華、私の残ってる魔力を全部あげるから力を貸して」
ユキネの言葉に呼応するかの様に桜華がピンクがかった紫の光を纏い、周りに桜の花びらが舞い散る。
「ありがとう」
ふぅーっと一呼吸置き、桜華に残ってる魔力を全て注ぎ込み、全力で桜華を抜き放つ。
「おっと、これはやばい【炎環-五重奏-」
紅月が指を前にやると炎の輪っかが五個現れ、ユキネの斬撃とぶつかり周りを火の海へと変えていく。
「……くそ」
ほぼ無傷の紅月を睨みつけながらユキネがその場で崩れ落ち意識を失う。
「強くなったねユキネちゃん」
紅月はボロボロになったローブを脱ぎ捨てにこっと笑う。




