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保護 2

報告に来た兵士が部屋を出るのと入れ違いに、従僕のエナが入って来た。

乾いた藁のような短髪の、ヒョロリと背の高い青年だ。

両手に持った四角い盆には、湯気の立った大きなカップが2つ並んでいる。


「どうだったんですか?」

「何も異常はなかったそうだ」

兵士の報告内容を問うエナに、そう答える。

エナは盆を机に置いて、カップにスプーンを添えると、ディードに差し出した。

「何も召し上がってないんでしょう?」

熱々のスープには、大きめの蒸した芋が入っていて、スプーンで崩しながら食べる。

ゆっくり食事ができない時に、砦の兵士がよく食べる物だ。

「ありがとう」

ディードがカップを受け取ると、エナが細い目を更に細めた。

「着替えも必要なようですね」

少女を抱き上げて運んだので、ディードの服は腹のあたりや袖が乾いた泥で汚れたままだった。

エナはもう1つのカップをアイゼルに渡すと、着替えを用意しに部屋から出ていった。




スープを口に運びながら、少女と翼竜のことを考える。

彼女は何処から来たのだろうか。


彼女を抱き上げる時に周りを見たが、泥濘んでいる地面に何の痕跡も見られなかった。

翼竜が運んできたのかとも考えたが、それも無理そうだ。

翼を広げても、ディードが両腕を広げた長さよりも小さかった。

彼女を抱えて飛ぶのは不可能だろう。

何処かから突然現れたとしか考えられない。


転移の魔術陣の話は聞いたことがあるが、あれは高位の魔術士が数人がかりで発動するのだと聞いたことがある。

彼女がそれで転移してきたとは思えない。他に、突然現れた理由と言えば……。


「……もしや、魔穴で飛ばされたのでしょうか」

「お前もそう思うか?」

側で同じように思案していたらしいアイゼルが言った。

目の前に垂れてきた暗めの銅色の髪をかき上げて、そのまま続ける。

「魔穴の現象で、空間が歪んで人や物が消える事例もありますし……」

「……そうだな」



この世は精霊によって成り立っているという。

人間の目には映らないが、世界中に精霊の力が満ちているのだとか。

精霊を正確に見ることが出来るのは、精霊に近い存在のエルフやニンフ、ホビットなどだ。

魔術素質を持ち、魔術士の修行をした者であれば、人間でも魔力の光として感知は出来るらしい。

魔術素質のないディードには、全く分からない感覚だ。


その精霊が、何らかの影響を受けて狂った時に発生するのが、『魔穴(まけつ)』と呼ばれる物だ。


関わる精霊により起こる現象は様々で、主に魔獣を出現させるが、アイゼルの言うように、人や物が吸い込まれて消えることもあった。

そして、そう遠くない場所に吐き出されるのだ。

ディードとアイゼルはそれを見たことがある。



「何処か遠くない場所で、魔穴に巻き込まれたんだろうか」

「そうかもしれませんが、彼女が着ていた服は我が国では見たことがありません」

確かに、彼女の衣服はこのフルデルデ王国の物ではなかったように思う。

両肩から帯のような長い布を垂らしていて、腰の帯で留めてあった。

少なくともディードには見たことがない仕様だ。

あまり遠くない場所で、あの様な衣服を纏う所があっただろうか。

見当もつかない。

「似たような衣服を、何かの文献で見たことがある気がするのですが……」

読書家のアイゼルには、引っかかるところがあるらしい。

明るい茶色の瞳を思案に曇らせている。


「そもそも、あの竜は何だ。もしや使い魔だろうか。使い魔に竜などとありえるのか?」

「聞いたこともありません。それに、ナリスからの報告では、彼女は発動体らしき物は身に付けていなかったようです」

使い魔を持っているなら魔術士だが、魔術士は発動体になる何かを身に着けているはずだ。

彼女はそれを身につけていなかったという。

「では魔獣使いか?……しかし、竜を従属させられる程の……?」



二人は同時に深く息を吐く。

「やめだ。考えても分からないことばかりた。彼女の目が覚めたら話をして、それからだな」

そうですね、とアイゼルが相づちを打つと同時に、エナが着替えを抱えて戻ってきた。

「ディード様、あの女の子、目覚めたようですよ」


ディードは、すっかり温くなった残りのスープを飲み干して立ち上がった。






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