表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/146

新たな試み

ディードとレンベーレは執務部屋を出て、フラウレティアがいた庭園に向かう。

歩きながら、部屋の外で控えていたエナにフラウレティアの様子を尋ねた。


フラウレティアは領主館に戻って来てからも、園遊会に出かける前と同じ様にディードの娘として過ごしている。

マテナが変わらず侍女として付いているが、彼女に聞いたところでは、フラウレティアは日中一人で庭園にいることが多いという。

以前は使用人達とお茶の時間を持ったりしていたが、今は一人でいたいのだそうだ。


傷心のためだろうか。

アッシュと離れて一人、ただディード達が手掛かりを見つけるのを待つしかないのであれば、その胸の内はどれ程に乱れ苦しいだろうか。


そう考えて、ディードは僅かに奥歯を噛んだ。



「……今回の旧領主館のことは、やっぱりフラウレティアがやったことなんですか?」


控えめなエナの声が聞こえて、ディードは足を止めて振り返った。

乾いた藁のような髪の青年は、細い目を静かにディードに向けている。

「エナ……」

窘めるように名を呼ばれ、エナは急いで首を振った。

「分かってます、誰にも何も言っていません。それに、……今は気味が悪いとも思っていません」

エナはフラウレティアとアッシュの正体を知っている。

やはり普通ではないとは思っているが、それは口に出さなかった。

「ただ、もしあの子がやったことなら……上手く言えませんけど、感謝したいと……」


エナの両親は旧領主館の事故で亡くなっている。

マテナもそうだ。

しかし、平民の使用人であった両親は、身元を判別するような物を身に付けてはいなかった。

そもそも、あの事故当時の状況では、一体誰がどこにいたのかも分からなくなっており、回収された多くの白骨遺体の中から、自分の両親を見つけることは不可能に近い。

おそらく、身元判別が出来る遺体から弔われ、残りの遺体を合同で葬儀することになるだろう。

だからエナもマテナも、普段通りに仕事をしていた。

その時が来るまで、他に出来ることはないのだ。


ディードは軽く頷き、エナの肩に手を置いた。

事故に関わる身内を持つ者が、あの魔穴まけつ消滅をどれだけ切に願っていたのか、ディードには痛い程よく分かる。


肯定も否定もしなかったが、ディードの表情と肩に乗せられた手の平の温もりが、エナを安堵させた。

そして、理由は分からないが塞いでいるように見えるフラウレティアが、もう一度明るく笑えるようになると良いと、不意にそんな風に思ったのだった。




建物から外に出た途端、レンベーレは庭園の方向に向けて目を眇めた。

歩を進める程に、その表情に困惑の色が滲む。


「何よ、これ……」

「どうした?」

呟きを拾ったディードが問えば、レンベーレは一度大きく喉を鳴らした。

「……庭園に精霊が集まってます」

「精霊が?」

ディードは改めて進行方向に目を遣るが、何も変わったところはない。

魔術素質のない身では、何も見えないのだ。


「“共鳴”の時のように、ということか!?」

「ええ、確かに似ていますが……、あっ、ディード様」

言うが早いか、さっと足早に庭園の囲いを抜けたディードは、低木の並びを抜けて開けた場所に出た。

離れて控えていた侍女のマテナが驚いた顔で見たが、軽く手を上げてそのまま大股で四阿あずまやに近付く。

そこには椅子に一人腰掛けたフラウレティアがいて、空を眺めるように顎を上げていたが、人の気配を感じてか、すぐにディードの方へ顔を向けた。


側まで寄ったディードは、フラウレティアの見上げた瞳の色を見て足を止め、眉根を寄せる。

見開いた彼女の瞳は、深紅ではないものの、元々の明るい銅色に比べると随分赤かった。


「ディード様、どうかなさったんですか?」

フラウレティアに声を掛けられて、我に返る。

思っていたよりもしっかりとした声と様子に、少し安堵した。

ディードが返事をする前に、後ろから追いついてきたレンベーレが声を上げた。

「『どうかなさったか』はこっちの台詞よ、フラウレティア。どういうことなの、これ?」

レンベーレは頭上からこの周辺に掛けてをぐるりと見回した。

魔力を見ることが出来ないディードには、変わらず何も見えないが、とにかくレンベーレには異常な状態に見えるらしい。


「精霊と浅く共鳴出来るのか試していたんです」

「浅くですって?」

「はい。深く共鳴するのは負担が大きいし、私か精霊のどちらかが引き摺られてしまうから、もっと浅く繋がることは出来ないかって思って」

そう言ったフラウレティアは、目を閉じて、一度細く息を吐いた。


レンベーレの目に映っていた精霊の淡い光が、四方に散って消える。

瞬きを数度する間に、辺りの風景は普段通りに戻った。

しかし、開いたフラウレティアの瞳の色は、変わらず赤味がかったままだった。


「もしかして、ここに戻ってきてから一人で大人しくしていたのって、ずっと()()()()()()をしてたのかしら」

レンベーレが恐る恐る尋ねると、フラウレティアは当然のように頷いた。

「はい。どちらかが引き摺られるような共鳴でなく、同じ力加減で繋がれたら、もっと何か出来るんじゃないかって思って。手探りですけど……」

「何かって?」

「例えば、遠く離れた場所のことを、精霊と一緒に感じることが出来たりするかもしれないって、思って」


精霊は、どこにでも存在する魔力。

この世界の至る所に、繋がっているということだ。

フラウレティアの指す“遠く離れた場所”が、離れてしまったアッシュを探すことであることは明白だった。


「出来ることは何でもするって決めたんです」

言い切るフラウレティアは、軽く拳を握った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ