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晩餐会への誘い

フラウレティア達が乗った遊覧船が岸に戻り、渡り板が設置される。

イルマニ王女とウルヤナ王子が下船すると、続けて令息令嬢達が降り始めた。


フラウレティアはその人々に紛れて降りると、すぐさま、少し離れたところで待っているアッシュの下に駆けた。


しかし、アッシュのすぐ側まで来た時、両肩をガシッと後ろから掴まれた。

肩越しに振り返れば、顔を引きつらせて微妙に笑ったギルティンがいる。

「お嬢様ってのは、護衛を置いてサッサと走り去ったりしないんですがね?」

「……あ、ごめんなさい……」

下船してホッとして、思わずギルティンのことを忘れてしまった。

ギルティンは笑みを貼り付けたまま、追い打つ。

「それで? 昨日のボートって、なんですかね、お嬢様ぁ?」

「…………えへへ」

目線を泳がせたフラウレティアは、とりあえず笑ってみたが、もちろんギルティンは誤魔化されなかったのだった。




「まったく、こんな慣れない場所に来て、二人で忍んで出掛けてるとはな」

昨夜のことをギルティンに話して、フラウレティアは小さくなっている。

逆にアッシュは、彼女とギルティンの間に割って入って、ふんと胸を反らす。

「別に誰にも迷惑をかけてない」

「バカ、迷惑をかけたかどうかは、これから分かるんだよ」

反らした胸を拳で押して、ギルティンはアッシュを睨む。


船上で聞いた限りでは、イルマニ王女は、フラウレティアが昨夜会った者だと気付いたようだった。

互いにお忍びで行動している時の出来事であったのなら、このままなかったことになれば良い。

しかし、そのことを理由に王女が接触を図ってくるようなことがあれば、周囲からのフラウレティアへの関心は、更に強まるだろう。

それは、ディードとフラウレティアにとっては良いことではない。


「どうなることやら……」

しかし、溜め息をついたギルティンの懸念は、今夜的中することとなった―――。


 



フラウレティアに興味を持ち始めた貴族達をかわし、ディードと共に別荘に戻ったのは、まだ昼を過ぎてそれ程経っていない頃だった。

元々、今日トルスティに拝謁すれば、早々に撤収する予定だった。

未成人のフラウレティアを連れているのだから、早目に退出することも不自然ではない。


屋外で行われる園遊会は日中がメインで、日暮れ以降の晩餐に加われるのは、日中の園遊会に於いて主催者(トルスティ)から声を掛けられた者のみだ。

ディードは遊覧船で再度確認したが、トルスティは晩餐にまでフラウレティアを参加させずとも良いと言った。

フラウレティアがどのような娘か確認出来たことで、彼の気は済んだのだろう。

それならば、これ以上余計な注目を浴びないよう、日の高い内に去るのみだ。



前もってディードが指示していた通り、別荘に残っていた侍女や従僕達は、大方の荷物をまとめていた。

後はディードとフラウレティアが旅装に着替えるだけだ。

しかし、二人がそれぞれの部屋に向かう前に、別荘に王族からの遣いがやって来て、今夜の晩餐に参席するよう言い渡された。


「王配殿下には、退去の許可を頂いている。何かの間違いでは?」

ディードが尋ねれば、遣いの者は申し訳なさそうにしながら言った。

「いえ、晩餐に参席し、この館にもう一泊されるようにと仰せです」

ディードは軽く眉根を寄せる。


「……こんな事になるんじゃないかと思ったぜ」

側に立つアッシュをチラと見て、ギルティンが溜め息混じりに言った。





ディード達に貸し与えられていた別荘は、王族用の別荘群の中の一つだ。

晩餐会が行われるのは中央の一番大きな館で、湖畔を眺めながら歩けるよう、周辺の整備も完璧だ。

それなのに、館の玄関を出れば、前庭には迎えの侍従と護衛騎士が待っていた。

「ご案内するよう仰せつかっております」

侍従が慇懃に立礼する。


まるで、逃げることは許さないと言われているようにも思え、ディードは訝しむ。

「……すみません、ディード様」

小声が聞こえて横を向けば、小さくなっているフラウレティアが、申し訳なさそうに彼を見上げている。


「気にしなくていい」

ディードは微笑む。

昨夜忍んで出掛けたことをギルティンから聞いたが、ディードはそれを咎める気にはならなかった。

フラウレティアをこの場に連れて来ることになったのは、そもそも自分がフラウレティアを娘としたからだ。

あの時は、もちろん良かれと思って決めたことではある。

だが、ディード自身の身勝手な思いが含まれていることも事実だ。


フラウレティアが貴族社会に身を置いて生きて行くところは想像できない。

彼女自身も、そしてアッシュも望んではいないだろう。

彼女が人間の世を知り、今後の生き方を選ぶ手助けをしたいと思うのなら、これ以上王族に関わらせるべきではない。


ディードは軽く肘を上げる。

フラウレティアはその腕にそっと掴まった。

足を踏み出しながら、ディードはこの園遊会が終われば、フラウレティアを速やかに領主館から離そうと心に決めた。




アズワン湖の南側湖畔に並ぶ別荘は、その窓やバルコニーから湖を一望できる。


晩餐会の会場は、建物二階の大広間だった。

案内されて広間に入ると、まず目に入ったのはアズワン湖の景観だ。

バルコニーに続く大きなガラスの掃き出し窓が開け放たれていて、パノラマに広がる湖面が、夕に近付き弱まった陽光を弾く様が見えた。

湖面を渡る涼風がバルコニーを通り、水気を含んだ空気が広間にまで流れ込んで心地よい。


「ディード卿」


景色に目を奪われている間に、トルスティが奥から歩いて来ていた。

二人が立礼すれば、トルスティはフラウレティアに視線を留めて口を開いた。

「一体、どのようにしてこれほど王女(イルマニ)の心を掴んだのだ?」


ディードとフラウレティアは、顔を見合わせる。

「それはどういうことでしょう、殿下」

ディードが尋ねれば、トルスティは訝しむように視線をディードに向けた。


「晩餐会にそなたと娘を参加させて欲しいと、王女に頼まれたのだよ」






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