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王族の兄妹

翌朝は、早くから侍女達がフラウレティアを囲んで、身支度に力を入れていた。


アッシュは彼女達が部屋に入ってきた時に、隙をついてそっと部屋を出ていた。

隠匿の魔法が使えても、フラウレティアの身支度の場に黙って部屋にいることは出来なかった。


今までは、着替えの時には翼竜の姿で顔を布団に突っ込んで、見ないようにすれば良かった。

だが今朝のアッシュは、もうそれも耐えられない気分だったのだ。




今日は王族に謁見する為に、昨日よりもやや気合いの入った装いで、フラウレティアが部屋から出てきた。

勿論、気合いが入っているのはフラウレティアではなく、身支度を手伝った侍女達の方なのだが。


「えへへ。似合う?」

フラウレティアが、照れ隠しのように笑って言った。

若草色のドレスがふわりと揺れ、小さな朱色の石が付いたイヤリングが、彼女の笑顔を瑞々しく彩る。

「……ああ、似合う」

アッシュがポソと呟いた。

周りに人がいるので、触れることはしない。

けれど、アッシュの口元が僅かに緩んだことを見逃さず、フラウレティアは嬉しそうに頬を染めた。


二人が離れれば、隠匿の魔法の効果で周りの人々はアッシュの印象を薄くして、今のやり取りも記憶に強くは残さない。

しかし、近くに立っていたギルティンは、僅かにからかうような笑みでアッシュを見ていた。

彼には、レンベーレから与えられている抗魔法の魔術符がある。


その目線に気付いて、アッシュが目を眇める。

「……何だよっ」

「別にぃ?」

その声にアッシュがフンと顔を背ければ、ギルティンは小さく噴いてから、フラウレティアに付き従って行ったのだった。





園遊会は、湖畔沿いに並んで建てられている四阿(あずまや)を中心とした会場で行われていた。


火の季節の日差しは強い。

景観を邪魔しないように建てられた四阿は優美で、その間に渡された日除けの布も、透かし織りが施された美しい模様の物だ。

陽光を遮って地面に落ちる影は、薄く絵を描いたような濃淡を見せていた。



招待されている貴族達は、それぞれ割り振られた四阿にまず落ち着き、それから見知った者や、交流を持ちたい相手の下へと優雅に移動する。

ディードは、既に昨日、顔を合わせるべき相手とは会っていたので、割り振られた四阿から移動せず、フラウレティアと共に王族の登場を待った。




数人、向こうから寄って来て話をしている内に、王族の登場を知らせる音楽が鳴った。

王族の登場ともなると、随分知らせ方も優雅なものだわ、とフラウレティアは思いながらも、姿勢を正して待った。


豪奢な馬車が数台続いて止まり、そこから園遊会の主役が降りて来ると、貴族達は側の者から頭を下げ、波打つようにそちらに向かって立礼する。



サワ、と一瞬雰囲気が変わった。


何事かと、フラウレティアが耳をそばだてると、少し離れた所から貴族達の囁く声が聞こえた。


「お二人も参加とは、聞いていなかったけれど……」



フラウレティアは目線をそっと上げる。

近衛騎士らしき者達が並ぶ中央に、豪奢な馬車から降りてきた、淡茶色の髪の男が立ち止まる。

その身なりと周囲の反応で、彼がフルデルデ女王の側室、トルスティだと分かった。

彼の隣に、後の馬車から降りてきた少女と青年が並び立った。

二人共トルスティと似て見目良く、髪色も同じだったが、肌色は透けるような白い肌のトルスティとは違う。

青年は、よく日に焼けたように健康な薄い褐色だったが、少女は濃く艷やかな褐色だった。


「……あ」

「どうかしたかい?」

少女を見てフラウレティアが思わず漏らした声に、ディードが気付いて顔を寄せた。

「い、いえ……。あの二人は?」

「イルマニ王女とウルヤナ王子だ。お二人揃って園遊会に参加とは、珍しいな」


フラウレティアは瞬いて王女をよく見た。

彼女は、昨夜湖畔のボートで見た少女だ。

髪型や服装などで、あの時と雰囲気は違う。

しかし、暗闇を薄明るく照らした魔術ランプの下で見ただけであったが、フラウレティアはその特徴をよく覚えていた。

特徴的な肌色と、品の良い顔立ち。

そして、大きな緑翠の瞳は、どこか憂いを含んで見える。


瞬間、イルマニ王女と目が合って、フラウレティアはパッと頭を下げた。

まじまじと見過ぎてしまったかもしれない。




貴族達は順に、トルスティ達と挨拶を交わす。

我が先にと進み出るようなことはなかったので、ディード達が挨拶をしたのは最後に近かった。


「……娘のフラウレティアです、トルスティ殿下」

トルスティがディードに声を掛け、挨拶を交わした後、フラウレティアは紹介された。

学んだ通りの丁寧な女性の立礼をして、顔を上げる。


トルスティは、物怖じしないフラウレティアの顔を見つめ、暫く黙っていた。

基本的に、王族から声を掛けられるまでは口を開いてはいけないと教えられていたので、フラウレティアは不思議に思いつつも、目を逸らさずにそのままでいた。


「……よく来た。園遊会を楽しんで帰りなさい」

ふと軽く微笑んで、トルスティが言った。

「はい、ありがとうございます」

答えたフラウレティアに、トルスティは後ろの二人を示す。

王女()王子(息子)だ。今回の招待客では、王女と同い年の令嬢はそなた一人だ。交流を深めると良い」


トルスティがそう言ったので、フラウレティアは二人に向けて一歩踏み出す。

上辺だけの美しい微笑を貼り付け、目線を合わせない王子。

興味あり気に、こちらに視線を向ける王女。

見るからに兄妹と分かる容姿の二人であるのに、その様子は対象的だった。



確か挨拶をする順番は、身分が同等であれば年長者に先に礼をするはずだ。

頭の中で習った事を思い出しながら、フラウレティアは再び丁寧に、まずウルヤナ王子に、続いてイルマニ王女に立礼した。



ザワ、と周囲がざわめいたのが分かり、フラウレティアはそっと顔を上げた。


目の前の王子は微笑を消し、驚いたように目を見張って、フラウレティアを見詰めていた。





続けて読んで下さってありがとうございます。

おかげさまで100話に到達しました。

なかなか投稿スピードを上げられませんが、完結まで書き続けますので応援して頂ければ幸いです。


今年もよろしくお願い致します。

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