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1000万回泣いた君と1回笑った私  作者: 綾瀬モカ
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平凡なんてものは誰にもない。

 タンタンタンとリズム良く階段を登る。そしていつものように甲板に出て海を眺めていようと思っていた。どうせここには俺くらいしか来ない。

 しかし、奇妙なことに平凡なんて人生は誰にも用意なんてされていないのかもしれない、そう思った。

 甲板の太めの手すりに下を見下ろしながら隣人の汐見凪が立っていた。

 Alpen shipの高校のセーラー服を着た小柄なショートカットの女の子。

 そして人生で心から笑ったことのない女の子。

 何故か飛び降りようとしている状況だというのに朝日に照らされて幻想的に見えてしまった。が、そんな悠長なことをしていられないと麻痺していたかのように思考を停止していた脳が唐突にそう告げた気がした。

 俺が走り出すと、何かに気づいたように凪は振り返った。そしてまた海の方に体を向けて遂に体が傾き始めた瞬間。

 俺は間に合った。彼女の手を強引に掴み甲板の方に引っ張る。

 彼女は驚いたような顔をした。目を見開いて何も言わずに。彼女はゆっくりこう口にした。

「どうして助けたの?風見海来くん。」

ハイライトの入っていないその綺麗な漆黒の瞳が訴えた。

「自殺しそうな友達兼隣人放っておく奴はいないと思うけどな。」

俺なりの気遣いではあった。ついでに言えば、友達というか好きな人なんだけども。

 よくある恋愛小説は好きな子が死んじゃう、しかも両想いなのに。というパターンがあるけど俺は小説の主人公じゃないから主人公みたいに立ち直ったりできない。

そもそも好きな子死んじゃうなんて自分が死んでもごめんだ。

 彼女は俺の言った言葉に少し動揺して「ありがとう」とだけ言い残して階段を降りていった。

 ここの暮らしももう9年だけど未だ俺と凪は友達というか側から見たら赤の他人という表現が正しいと思う。凪に至って俺のことをフルネーム呼びだし。(俺は勝手に下の名前を呼んでる。)



 「なぁ、かざみんは好きな子とか居るワケー?」

クラスではゲームは飽きたという連中しか居ないので男女関わらず何故か恋バナに強制参加させられることが日常茶飯事となっていた。その被害者に俺も凪も入っていた。

「え、俺?」

「お前以外にかざみんは居ないだろ。」

なんやかんや小学校からの付き合いになる鮫島海斗は女子力がえげつなく女子の輪の中に居ても違和感がない。

「えー?海斗的に居たら誰だと思う訳?」

海斗は「うーん」と腕組みして結構真剣に考えているらしい。

「花澤さんとか?可愛い系じゃん。」

「タイプじゃない。」

 即答だった。花澤さんは可愛いのだろうけど俺は凪に釘付けなので眼中にも無かったことに今気づいた。

「あ!じゃあ汐見とかどうよ、儚い系美人。」

「…さぁ。」

 俺、今好きな人バレた気がする。でも海斗は鈍いからな。とか頭の中で言い聞かせたが、現実は現実なのだ。

 海斗が超ニヤニヤしてる。俺となぎを交互に見ながら。やめろって…。

 「まあまあ、応援するぜ?俺ら親友だから!」

個人名すら出さなくなった海斗も大人になったんだなとしみじみ思う。

 が、「きゃー!マジ?」女子が驚きという声をあげていた。その方を向くとなんと凪に女子の大群が群がっていた。

 「え?気になる子いたの?誰誰?」

恋バナだった。しかも俺的にショックな内容で凪に気になる人がいるってことだ。

 内心しょぼんとしていると、唐突に凪に指を指された。

「あの人、私の気になる人。風見くん。」




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