ep,1新たなクラスと新たな街
正門を潜り抜けると、クラス分けがされてある、表があった。一覧目を通したら、俺は2年5組だと分かった。早速教室に向かおうとしたところ、後ろから奴の気配がした。
スッと俺は横にズレた。
「おっとっと、何避けてんだよ! 親友が寄ってきたといいうのに」
「だって、お前にタックルされたら骨折れるし」
「タックルなんかするかよ、ちょっと、肩を叩いて同じクラスということを喜ぼうとしただけだよ」
「真司からしたら、力を抜いてるかもしれないけど、俺からしたら十分痛いんだよ」
そのはず、真司は柔道部なのだ。ガタイは俺の1.5倍くらいいいかもしれない。
「慶一は部活入っていないんだから、家で筋トレでもしとけよ」
「余計なお世話だよ、真司。お前みたいに筋肉バカみたいになるのはゴメンだ」
「筋肉はいいぞ、女の子にモテるから」
いや、お前モテていないだろ。と、心の中でツッコミを入れた。
「まあ、もう少しで時間だから教室に向かうぞ」
「おう!」
俺からしたら、真司と同じクラスで良かった。学校で数少ない友達の一人なのだ。
俺たちは教室に着いたあと、軽い雑談を挟んでいたら、このクラスの担任がやってきた。
「今日から2年5組を担当する、南野花でーす。この学校は初めてきたので、分からないことが沢山あると思うから、みんな教えてね」
容姿や口調から若い教師だということは誰もが思った。それだけで男子達からしたら十分なのに、かなりの美人なのだ。真司の方へと目を向けたら、体を前に傾けていて、必死に南野先生を凝視している。
「早速クラスの自己紹介からいこうかしらね。まず最初は出席番号一番の相田真司くんからお願いします」
「えっ、はい、分かりました! 俺はどんなに強い人が向かってきても、勝てるような男になるため、柔道を小学校3年から始めています。その間に全国制覇を3回しています。また、変な不審者に声をかけられたら、是非俺に報告してください! 俺の父は警視庁公安部に所属しているので」
クラスがかなり動揺している様子だ。今の自己紹介をしたら、周りは怖気づくのは当然だろう。でも、真司は根は優しいから、後々その問題は解消されるだろう。
俺はちょっとした引っかかる点があった。警視庁公安部はテロなどを未然に阻止するような組織だよな。だから、こんな民事的な事件に首を突っ込まないと思うけど。
「真司くんは強いのね。先生を守ってくれる?」
ズサッ。
そんな擬音が聞こえてきた気がした。守ってくれる? という甘い問いかけは勿論、真司という名前呼びをされたことにより、真司の意識は完全に飛んでいった。
「ま、守ります!」
その後も自己紹介が続いていき、俺の番も回ってきて少し緊張したが、なんなりと噛んだりすることなくクリアできた。
今日はこのまま帰宅していいらしい。これだから学期始めは楽で良いのだ。
「慶一、このあと映画でも観に行かん?」
俺の肩に手を当てながら訊いてきた真司。
真司のさっきの自己紹介で武力があることを示したことから、俺のことも武力派と感じている人が多そうだ。
ねえ、みんな聞いて! 俺はこいつと同類じゃないから! 運動能力平均的だから。そんなバケモノを観る様な眼で見ないで!
「で、一体何の映画を観るんだよ」
俺は一旦落ち着き、真司の観たい映画を聞き出す。
「ったく、分かるだろ? あれしかないだろ」
いや、あれしかないだろ。と、言われても全く検討がつかないぞ。ここは適当に答えてみよう。
「あれでしょ、今話題のスパイ戦争。人気俳優の小島春樹が主演の作品」
「はあ、全く違う」
ですよね、真司が好きなのは2次元。俺はアニメとかはかなり鈍感だから、真司の話にはついていけないことが多々ある。
「5人の女子高生がバンドを組み、プロの道を目指す作品、そう、JKバンド!」
このギャップである。とても185センチ、90キロのプロレスラーと言っても通じるくらいの体をしている人がヲタク趣味をしているとか、世の中色々な人がいるもんだ。
「JKバンド〜LAST SCHOOL LIVE〜。これでもう終わりなのか。俺を4年間楽しませてくれてありがとう」
何故か一人で感動している真司であった。それにしても真司の英語の発音はいいよな。流石英語のテストで毎回90点台取っているだけある。真司言うにはいつ海外で暮らすかわからない状況だから、英語の家庭教師を雇っているらしい。警視庁公安部の息子は大変だな。
「行こうぜ、真司、な?」
な? に凄く圧力を感じてしまった俺は素直に「まあ、いいよ」と、言ってしまった。
作品の内容を知らない俺からしたら、お金の無駄になるかもしれないが、友人関係は学生の時に築いていくのは大切だ。
***
実際にアニメを観た感想は現代のアートって凄いと感心してしまった。真司が言うにはJKバンドを作っている制作会社は日本一人気ならしい。
よくあんなハイクオリティーの絵を何枚も描けるのだろうか。
話の内容はわからないことが殆どだったけど、この映画を観て、俺はアニメの虜になりそうだ。
「面白かっただろ?」
「ああ、久し振りに鳥肌が立ったよ。アニメって面白いんだな。おかげで興味を持ったぞ」
「おう、それは良かった。今度、おすすめのアニメを教えるぜ。......おっと、母さんから電話だ」
そう言って真司はポケットからスマホを取り出した。
「もしもし、......忘れてた。今からそっちに向かう」
スマホしまい、俺に何かを言おうとする。
「悪い、家の事情で帰らなくちゃいけねえから、今日はこの辺で、また明日な」
「ああ、忙しいだな。帰り道には気をつけろよ。この街最近物騒な事件多いから」
真司は颯爽に走り出していった。
「さて、俺も帰るか」
......ん?
近くから膨大な魔力を感じる。
取り敢えず向かうか。鬼の下僕かもしれないし。
「ここで何してるんだ?」
ビルの谷間に怪物がいた。こいつらは自分のことを鬼とか言ってるけど、角とか鬼らしいものがないのだ。
まずは状況把握。鬼の近くには人間が5人いる。もう喰われてしまった者はいるかもしれない。今はこの5人を救出することを優先しよう。
「クックックッ、貴様も我に喰われたいか?」
「お前みたいな汚い口になんか入りたくねえよ。そこにいる5人を返してくれたら殺さないで済ませるぞ」
キリッ、と鬼に睨まれた。怖え、この鬼眼力強いぞ。
「人間の分際で随分と強気だな。さては魔女狩りなのか?」
「魔女狩りって何だ?」
俺はその言葉を知らない。
「惚けたことを。我を鬼だと認識できるのは魔女狩りしかありえん」
と言われても、奴らが勝手に鬼だと名乗ってんだろ。
こんな長話には付き合わうのはやめよう。さっさと用事を済ませて家に帰ることにする。
「ごめんな、ちょっと能力を貸してくれ」
(退屈してたから、存分に使え)
能力の素から、そう返事がきた。
それなら、少し暴れるか。
俺は何もない空間から時空の歪みを作った。そこからとっておきの武器を取り出す。それは金棒だ。相手は剣を構えている。よっぽど俺の方が鬼らしい。
そして、鬼に向かって走り出した。思いっきり頭の上から振りかぶって金棒を投げたが、一発目は外した。直ぐに金棒を引き寄せ次の攻撃に試みるが、相手も戦闘をよく理解している。ここが一番の間隙なのだ。俺は相手の斬撃を金棒で受け流した。
「やるな、自称人間」
おっと、今がチャンスだ。
「天炎」
鬼の周りに炎を展開させた。これで逃げさせない。
突進して串刺す。
グサッ。
刹那な攻防だったが、とどめを刺したのは俺だった。
「ぐふっ、貴様は一体......」
鬼は力を振り絞ってそう言葉にした。やがて鬼の体は存在が消え去るように塵となって空に舞い上がっていった。
「......貴様は一体、か。訊きたいのは俺の方だよ」
鬼のことでもあり、何より自分自身のことでもある。
「ホントに謎だらけの世界だな、俺はもっと平和に生きたいんだが」
いや、この道は自ら選んだことかもな。自分でも何故こんな正義のヒーローみたいなことをしているか、不思議だ。
俺はいつ命を落としてもおかしくない。そう考えると、冷や汗をかいてきた。この証拠から死にたくないと認識できた。だが、これはまだ俺は人間であるという安心を得たかっただけかもしれない。
家についたら、時計の針は11時を回っていた。母さんには真司と遊んでいたと伝えておいた。大方間違ってはいない。鬼の殺した時間は30分程度に過ぎなかったからだ。
俺は夕飯を食べて、お風呂に入ったあと、直ぐに布団の中に潜り込んだ。一日が終わると思った瞬間に疲れが増した。その疲れは精神と肉体両方だ。
寝る前に鬼に言われた、「貴様は一体」という言葉に本気で考えた。考えたところで無意味だったかもしれない。
俺は紛れもなく人を殺した殺人鬼なのだ。
あの記憶は決して夢なんかではない。自らが起こした人としてありえないことだった。
殺した命は戻ってこない。一生徳を積んだところで、この罪を許されことはない。そうだった、俺は人殺しをした刑を軽く思うように、命をかけて鬼を殺そうとしている。
なんとも、哀れで滑稽で阿呆だ。
そんなことを考えていたら、段々と眠くなってきた。目覚ましをセットして、速攻寝に入った。
次話は2021年12月23日投稿予定です。