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第五応接間

「 ――こりゃぁまた、難儀じゃったのう 」


 簀巻きにされた盗賊を両脇に抱え応接間に入ってきた執事、ガルドアヴィは愉快そうにクックと笑いながら労った。

 執事は難儀な事は一つも無買ったと言わんばかりに二人をソファに座らせる様に置いた。

 

「ご苦労だった。後は良いぞ」

「承知いたしました 」


 執事は下がり、部屋にはガルドアヴィと2つの簀巻きが残る。

 ガルドアヴィは杖を握った。

 杖の先が水面を漂う様にユラユラと仄かな光を発しながら赤く染まる。

 杖を振ると赤い染料が杖先から滲む様に部屋全体を覆い、色と混ざる様に薄れて馴染み消える。

 ガルドアヴィはもう1度杖を振る。

 簀巻きにされた頭部分が解け少年達の目が明らかになった。

 途端にカイは眼前の老人の首を砕かんと空を咬む。

 アベルは現状を観察するように首毎視線をぐるりと回す。


「名の通りの獣じゃのう。お前らがキツネ奴の子等か」


 老人、天井、壁、調度品とグルリと見渡すアベルは、ここが目当ての場所だと知る。

 赤い髪、傲慢そうな顔の貴族、他には誰も敵は居ない。

 なるほど王国一の貴族たる陰険な顔だ。

 こいつがガルドアヴィで間違いないだろうと妙な確信を得た。


 天井には無数に枝分かれするガラス製のシャンデリアが吊るされ、枝の端にはまるで見せ物小屋の観客の目の様に、橙色の火が爛々と踊っていた。

 壁には窓も無くドアは使用人用らしき簡素なのが一つと威厳のある大きな両開きが一つ。

 ドアの先は不明だけど部屋の中には二人と一人以外誰もいない、拘束しているからと言ってあまりにも舐めすぎだ。

 調度品は簡素にダークウッドのソファー1式しか無い。

 ソファーの座面は館の主人の髪と同じ赤色の革が燃える様に貼られている。

 テーブルには3人分のティーセット、そしてどこか儚そうな本が沢山積まれていた。


 アレフの視線は最後に眼前に座る男に留まった。

 目と目が合った、男はアレフを観察し愉悦を抑えきれない声音を発した。


「なんで知り得たのか不思議そうじゃの。正直今日訪れるとは知らなんだ。ただいづれこの場所に来る事だけを知っていた。なんのためワシを襲う?それは賢者の石であろう? 貴様等の隠密の計画などダダ漏れよ」


 侯爵は机に積まれた中から一冊の本を取った。

 本はコガネ色に淡く光っている。

 表紙には文字が浮き彫りとなり侯爵は二人に見える様に開いた。


「――そんなに寂しかったのかな?キツネの子等よ 」


 文字の読めないカイは敵の行動の意図的を理解出来ずただただ暴れている。

 表紙を見る。

 浮いた文字を見た。

 目隠しを外され初めて眼前にニンジンがぶら下げられている事を知った馬の様にアレフは身を乗り出した。

 侯爵は追撃の為、本のタイトルを読み上げた。


「キツネ・ミーミルン。こやつを蘇らせたいのであろう? 」


 目の玉を落とさんばかりに見開かれカイは漸く本の意味を知り、時が止まる。

 二人は固まった様により一層邪悪な笑みを侯爵は落とした。


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