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魔術道具屋

「ねぇ、お父さん。これってなぁに? 」

「なんだろう。不思議だねぇ」

 

 汚れ一つない服を着た少女が出店の商品に目を奪われながら聞いている。

 他愛ない会話をする親子の眼前に大小さまざまな装飾品が並んでいる。

 他にも見渡せば色とりどりのガラスの小瓶、腹をグウグウならしたくなる香りの食材、値段交渉の為かギャアギャアと喧騒が舞っている。

 頭上には厚い雲に覆われて時折雷が鳴る空が広がっていた。

 田舎の人間ならばこんな日は仕事も止めて大人しく家に籠るだろう。

 だが、王都の商人街は今日も賑わっていた。

 王都の区画化された領域は魔法によって守られているからだ。

 いかなる天候だろうとその区画にいる限りはびしょ濡れになる事はない。


「ねぇ、お母さん。この人達びしょ濡れになってるよ」

「 ――見てはなりません! 」


 少女は強引に母に手を引かれて行った。

 少女が見ていた場所は、出店と出店の間の隙間。

 少し暗がりとなったその隙間には貴族の子息が着てそうな上等な服を着た少年二人が立っている。

 二人は何故か頭から靴に至るまでずぶ濡れになっていた。

 親子を羨む様な眼差しで少年達は見送った。

 親子が雑踏に消える頃、片方の少年がスクロールを取り出し魔術を発動させた。

 途端、風が吹き二人は乾かされ、きれいになった。

 少年達はカイとアレフだった。

 

「見てはなりません。だとよ」


 蔑む様に軽い笑いを発しながらカイは母親の真似をしてみせる。


「キツネもそうするだろうさ」

「まぁな。そうしるだろうな」

 

 二人は鏡の様に互いを確認して店のドアを開けた。

 カランと軽いベルが鳴る。

 番台に座る老人の目が手元から外れ見えずらそうに目を細める。

 ガラス瓶の底をそのままレンズにした様な眼鏡越しに常連にのみ許される薄い笑みを浮かべる。

 カイは老人に見向きもせずいつもの様に魔術武器の区画に駆けて行く。


「坊っちゃん方、今日は何が入り用ですか? 」

「いつもと一緒。スクロールを一式頂けますか? 」

 

 そう言うと代金を纏めた袋を取り出しアレフは番台へ置いた。

 番台の秤に老人は袋ごと置いた。

 秤は貨幣を載せるとそれに含まれる鉱物毎の成分を検出する。

 検出するまで時間がかかる為か、老人は口を開いた。


「いつも決まった物ですとわざわざ坊っちゃん方に出向いて頂くのは気が引けますなぁ。 何でしたら言っていただければ私奴の方でお屋敷へ持って行きますが」

「そんな事したら父上に怒られてしまいます。父上にバレたくなんだ 」

「……左様でしょうな」


 老人は二人を見た。

 老人の目線はふと通りの方へ流れた。

 アレフもつられて通りを見た。

 男が一人通り過ぎた。

 いつもと変わらぬ情景にアレフは視線を戻す。


「時に、貴族街の男爵邸が強盗にあったそうですな」

「 …… 」


 カイがそろそろ終わったかとアレフの側に戻った。

 秤の処理は終わり、淡い青色の文字で成分が表示されていた。


「 代金足りなかったみたいだね 」


 袋をまさぐりアレフは手帳と先程の袋から一回り大きい袋を取り番台に置いた。

 袋の重さを確認し老人は会話を続けた。


「えぇ、なんでもその強盗への捜査はグレイニルズが担当しているそうで 、……そういえば、坊っちゃん方のお名前を伺っておりませんでしたなぁ」


 扉のベルが鳴り男が一人、店に駆け込んだ。

 手には杖、青く光っている。

 アレフは、手帳からページを破る。

 しゃがんだアレフ、床に紙を押し付ける。

 床が緑色に光った。

 男は走り二人を捕らえようと手を差し出したが、間に合わない。

 光が消え床には大きな穴が開いていた。

 二人は逃げおおせたのだ。

 杖の光を消し男は虚空を蹴った。


 老人は袋の重みを感じながら男に聞こえぬようにいつもの言葉を呟いた。


 「 またのご利用お待ちしております 」

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