みんなの想い
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「じゃ、いってくるね」
「パパッとやっつけてくるから心配すんなって」
「足を引っ張らないように頑張ります!」
「うお、眩しっ!」
寝て起きたらやたらスッキリしていたのは、どうやら俺だけではなかった。
箱庭への扉の前で立ち止まって振り返り、爽やかな笑顔で手を振るアベル。
そのイケメンスマイルがいつもよりも更にギンギラギンに輝いて見えるのは、数時間前よりやたらツヤツヤしている気がする高級陶器のような滑らかな肌と、ピカピカと眩しい銀髪のせいだろうか。
うお、眩しっ!
そしてアベルと並んで同じくらい眩しいのが、白の強い金髪がキンキラキンに輝く正統派美形エルフ顔のカリュオン。
こちらも肌も髪の毛もツヤツヤピカピカで、アベルとは質の違うイケメンスマイルがキンキンキラキラと眩しい。
銀髪と白金髪、二人並んで金さん銀さんって呼んでやりたくなる。
そしてジュストは毛色が黒系なので金銀コンビのような目を細めたくなるような眩しさはないのだが、元から手入れがいき届いていてモフモフツヤツヤの毛並みが更にツッヤツヤになり黒光りしている。
鼻も健康そうにテカテカしていて、非常に調子が良さそうのが見るだけでもわかる。
「そういうグランも、いつもよりピカピカしてるよ。いつもみたいに汗臭くないし、変なにおいもしないし、髪の毛もツヤツヤしてるからいつもより明るい色に見えるよ。っていうか、もしかしていつもは薄汚くなってた!?」
さりげなくどころか、ド直球で俺の悪口を言うのはやめろ。
俺がいつもは汗臭かったり、変なにおいがしたり、薄汚かったりするような言い方はやめろ。
トレーニングで汗だくだったのはカメ君に念入りに浄化魔法をかけられたし、きっとベッドに放り込まれる前にも浄化魔法をかけてくれたはず。
それに起きてからシャワーも浴びたので、ピッカピカ! 臭くない! 薄汚くない!!
やたら爽快な気分で目が覚め、アベル達も起きているならこの調子の良い時にユウヤに挑みたいと急いで身支度をしてリビングに行くと、ちょうどアベル達も出発できる状態でリビングにやってきたところだった。
俺の肩の上にはカメ君、カリュオンの肩の上には苔玉ちゃん、ジュストの肩の上には焦げ茶ちゃん、そしてアベルの肩の上には……誰もいなかった。
あ、サラマ君はいつものようにおでかけね。
アベル達も俺と同じように目が覚めた後すごくスッキリして調子が良いようで、このままユウヤに挑むことで意見が一致した。
それにしてもあれだけ身体強化を使って体に負担をかけたのに筋肉痛はないし、ステータスを見る限り魔力も増えていると思われるのだが魔力痛らしきものもなかった。
俺だけではなくアベル達も筋肉痛や魔力痛には見舞われなかったらしい。
三姉妹とラト曰く、体の中で長い間溜まっていて使われることがなかった古い魔力を全部絞り出して、直後に上質の魔力を含んだ新鮮な食材をたくさん食べてから魔力を回復させたので、まっさらに体の中が真新しくて質の良い魔力で満たされているから調子がいいのだと。
筋肉痛や魔力痛が起こらなかったのは、ラトと三姉妹が強い回復効果のある植物を食べさせてくれたこともあるが、質の良い魔力で体が元より持っている能力を発揮できるようになったため、急速な肉体や魔力の回復と成長にも体が悲鳴を上げなかったということらしい。
つまり俺達は体感している通り、すごくコンディションの良い状態らしい。
ラトや三姉妹、チビッ子達に、今しかないと後押しされ箱庭の入り口へ。
カタストロフィー・スターは誰が持つか俺とアベルとカリュオンで揉めまくった末、今朝の抜け駆け事件の前科によりジュストが持つことになった。
それじゃあ行ってくるよ。
たくさんたくさん準備をして、最後にすっごい鍛えられてコンディションも最高。
じゃ、パパッと箱庭世界を救ってきますか。
箱庭行きの扉を開け中に踏み込む直前にふと窓の方を見ると、窓ガラスにはいつもより気持ち髪の毛が鮮やかな気がしないでもない俺が写っていた。
……やっぱ、日頃は薄汚れていたのかな?
決戦当日になっても箱庭に入ってまずやること、それは箱庭のしおりの確認。
キノコ君からの新たなメッセージと売買ページに何か特売品がないかチェックすること。
『どうか箱庭の未来を守って下さい!!』
とキノコ君からの切実なメッセージ。
箱庭の未来は俺達に任せろーーーー!
出禁になったラトや三姉妹やチビッ子の他にハイエルフの長老やモールまで力を貸してくれてできあがった超かっこいい魔導兵器と、何だか絶好調の俺達がユウヤを倒して箱庭に平和をもたらしてやるぜ!
それから自動販売ページは――。
特売!! 間違いなくお買い得!! 本日最大のオススメ!!
ゴッドスレイヤー≪大剣≫――カタストロフィー・スターと交換
神格持ちの的にクリティカルな威力! しかも一点集中火力特化で周囲を巻き込む心配もなし!
勇者といったらやはり剣! 神をも穿つ大剣はいかがですか!? もちろんあの強敵を倒した後は持ち帰って自由にしていただけます!!
と、めちゃくちゃデカデカと書かれていた。
え? ゴッドスレイヤー? 大剣? つまり神を殺す大剣?
いやいやいやいや、カタストロフィー・スターも物騒な名前だが、更に物騒な名前だな!?
ああ、ユウヤの真名には堕ちたる神って入っているから神格持ちってことか。
なるほど対神格持ちに特効効果か……。
それがカタストロフィー・スターと交換?
う……名前的にも説明的にも対価的にもカタストロフィー・スターと同等かそれ以上の性能である可能性が高い。
それに大剣だなんてすごく勇者ぽい。
揺れる俺の心。
しかし冷静に考えるとラグナ・ロックを使って制作されたカタストロフィー・スターの本来の目的は、ラグナ・ロックの能力を使ってあのやっべー沌の魔力を取り除くこと。
ユウヤの周囲で渦巻く沌の魔力のせいで奴は強化され、沌の魔力と適性の低い俺達は弱体化する。
ユウヤに大ダメージを与えることは重要だが、ユウヤを前に有利に戦える状況を作り出す方が重要である。
よってここは単体火力特化のゴッドレイヤーより、沌の魔力を吸収してついでに攻撃に変えてくれるカタストロフィー・スター!
そもそも俺は片手持ちで軽量な剣の扱いは得意でも、両手持ちの大剣の扱いはそうでもないのだ。
剣といっても色々あるからな。大剣は俺ではなくてドリーの専門である。
やはり使うなら手に馴染んだ剣がいいしな。そうだな、俺には腰でカタカタ主張しているナナシがいるからな。
というわけでカタストロフィー・スター君、よろしく頼むぞ!
それに俺は痛いほどよく知っている、近付かなければ攻撃ができない剣の弱点を。
そーだよ、遠距離超火力がいる時は近付いて攻撃しないといけない剣なんて、敵と触る前に敵が倒されているんだよ!!
なので遠距離超絶火力のカタストロフィー・スター君の活躍の乞うご期待だ!!
ごめんな、キノコ君。
せっかく武器を用意してくれていたみたいだけれど、今回はみんなが力を合わせて用意をしてくれたカタストロフィー・スターを使うよ。
そう、これにはみんなの想いも込められているんだ。
俺達を心配しまくってくれている、ちょっぴり過保護なみんなの想いが。
パタンとしおりを閉じて別荘の外に出ると、いつものようにケサランパサラト君とディールークルム君が待っていた。
いつもと変わらない光景のはずなのに、やはり決戦前だからなのか少しピリピリした空気が流れている。
大丈夫、きっと大丈夫。
今は絶好調だし、みんなが作ってくれた武器もある。
下見の時に上空から近付いたら危なかったから、あの沌属性の黒い靄の近くまで送ってくれたら後は歩いていくよ。
だから心配しないで。
え? 弱点?
仮の名を与えられて真の名を隠している奴だから、真名を呼べば少しだけ怯むから真名が弱点?
そういえば三姉妹もそんなことを言っていた気がする。
ああ……うん……真名で魔力節約モードに入るとか言っていたから、時々真名を呼ばないと本気モードで強くなるって。
え? できれば創造主が、その意味をわかった上で叫ぶ方がいい?
ええ……真名……ええ……うん……真名ね……創造主は俺だね……うん。
†堕ちたる神の化身・暗黒邪竜魔王ルシファー†
その名を連呼すると、俺も精神的ダメージをくらって弱体化しそう。
お読みいただき、ありがとうございました。