合法トレイン
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「グラン、この階層は人の気配はするかー!?」
「するかーって言われても範囲広すぎーーーー!! 魔物が寄ってきすぎーーーー!! 合法トレインに夢中で人の気配を探るどころじゃねーぞ!! でも、素材は美味しい!!」
「カーーーーッ!!」
「いいかい、カメ君。冒険者たるもの、行動に対しての儲けを考えることも重要だ。どんな綺麗事を語っても先立つものがなければ意味がない。金の余裕は心の余裕! 素材の余裕は金と心の余裕だ!! というわけで、この合法トレインをなんとかして、素材を回収しよう!!」
ここは十階層、そして俺達の周りには魔物! 魔物!! 魔物ーーーー!!!
ああーーーー、よく見るいつもの底引き網の光景ーーーー!!
そしてそこにナチュラルに紛れ込んでいる一匹だけバカでかい奴!
ドスドスとものすげー足音をさせて走る、ぶっとい足の四足歩行の岩石トカゲ君、お前だよ!! レッサーアースドラゴン君!!
ねぇねぇ、もしかして雑魚の中にごく自然に紛れ込んで仲間のふりをしてるつもり?
馬鹿野郎!! お前だけでかすぎ!! どう見てもボス!! その辺にいる奴と格が違う!!
なんで、さもその辺を徘徊している普通の魔物のふりをして、トレインの中に紛れ込んでいるのですかーーー!!
さっさと巣にお帰りーーーーーー!!
ここは鉱物ダンジョンの十階層目。
アベルそしてライズ君達と別れ、ダンジョンの奥へと進みこのダンジョンの最下層である十階層までやって来ていた。
ここまでの道中、周囲に人がいないかを気配察知のスキルで確認しながら進み、見つければ奥で魔物がいつもと違う挙動をしているという情報があることを伝え先に進んだ。
まだいつもと少し様子が違うという情報があるだけで強制力はないため、後は自己判断に任せることになる。
セーフティーエリアのある階層では念のためセーフティーエリアに立ち寄り、設置されている伝言板にこのことを日付入りで書き残しておいた。
不人気ダンジョンで人が少ないといえどゼロではない。
集中して採取に取り組む者は、無駄な魔物との接触を避けるため気配を消すのが得意の者が多く、気配を探ったところで見つけられない可能性が高い。
全てを見つけることはできないが、気付けば異変を伝え先に進む。
スタンピードは前兆が現れてすぐに起こるわけではないが、その兆候はジワジワと広がっていき、それを見落とし続けると本番が起こった時に巻き込まれてしまうことになる。
ライズ君の話で最下層ではボスの徘徊が始まっているが、それより上はまだ魔物との遭遇率が体感できるかできないか程度で上がった――つまり魔物の徘徊範囲が広がったか数が若干増えた状態である。
最下層以外はまだ前兆の前兆の域。
最下層から九階層に魔物が溢れてきている気配もない。
今のところ目に見えて大きな異変があるのは最下層だけのようだ。
で、問題の最下層。
うおおおおおおおおおい!!! 異変なんてもんじゃねーぞ!!!!
最下層に入るなり、入り口まで出張してきていたレッサーアースドラゴン君に、出オチアースクエイクをくらったわ!!
というか、君、ここまで来たけれどでかくて九階層に続く通路に入れないんでしょ?
それで入り口付近ウロウロしていて暇だから時々地震を起こしているだけでしょ!?
わかるぞ、レッサーアースドラゴン語なんかわからならくても、そのなんだか微妙に困った表情!!
迷子の迷子のドラゴン君かな!?
良い子にしていたらお家の辺りの調査をして、できるなら異変を取り除いてあげるけど――やっぱ、話なんて通じませんよねええええええええ!!!
うおおおおおおお、畳返しならぬ地面返しだーーーー!!
あれ? 畳ってなんだ!? こんな時に余計な仕事をするんじゃねえ、転生開花!!!
で、そこからレッサーアースドラゴン君の股の下をくぐり抜けて十階層入り。
そのまま九階層の入り口に張り付いているかなって思ったら追いかけて来た。
レッサーアースドラゴン君と一緒にいた魔物も何故かついてきた。
そして始まる、合法トレイン大会!!
これは俺達のトレインじゃなくて、レッサーアースドラゴン君が始めたトレインだと思うので、俺達無罪!!
適当に地震をばら撒きながら歩いていたら、こんなことになったのかな!?
思考回路アベルかよ!!!
人がいたら、ボスのレッサーアースドラゴンが徘徊しているから気を付けてくださいねー、異変があるようなので早めの退避を推奨しますー、って伝えるつもりがその異変を俺達が引き連れている状態になってしまっている。
しかしこの状態で誰かに遭遇したら、大トレインで轢いてしまうことになりそうだ。
そんな状態でカリュオンがしれっと人の気配はするかなんて聞いてくるのだが、こんな魔物を大量に引き連れてドタバタうるせぇ状態で、自分も逃げながら数を減らしながら素材を回収するのに必死で、人の気配なんてわかるわけねーだろ!!
とりあえず俺達が走り回っている辺りにはいない!! 遠くは知らん!!
というわけで見かけたら逃げてくださーい!! ていうか、なんでこんなことになっているかわかったら教えてくださーい!!
十階層は広々とした荒野。
狭い洞窟や坑道に比べて、視界が良く障害物も少なくて戦いやすくはあるのだが、それは魔物も同じ。
遥か彼方から俺達に気付きトレインに参加してくる。
えええええい! これは祭りじゃねえええ!! カジュアルに参加してくるんじゃねえ!! 石でも食ってろ!!
しぶといレッサーアースドラゴン君は無視して駆け抜けて奥の様子を見てこようと思ったら、レッサーアースドラゴン君が思ったよりも粘着質でどこまでも追いかけてくる。
やっぱお前アベルに似ているな。
レッサーアースドラゴン君が引き連れていた魔物達も一緒に付いて来て、近年稀に見る大トレインとなっている。
「とにかく数を減らさないことには……くらえ! 勇者の引き撃ち!! くそぉ、岩石だから普通の弓矢はあんま効果がないぞ!!」
そろそろ一度反転して数を減らさないとこのまま走っていると一番奥に辿り付く頃には、トレインどころかプチスタンピードになっていそうである。
スタンピードの予兆の調査に来た俺達が、スタンピードを起こしてどうするんだ。
「そろそろ、反転するかー。ま、こんだけいれば因果応砲もすぐに溜まるだろ」
こんなに引っ張り回しているのは、半端に増えたのを叩くくらいならもっと増やして、カリュオンの因果応砲で一網打尽にしてしまおうという作戦なのだ。
けっしてトレインが楽しくてやってるわけではないのだ。
「カァ?」
カメ君の津波でもいいけれど、それは素材が流されてしまって回収できないからね。ここはカリュオンに任せて一緒に素材拾いをしよう。
「おっしゃ、じゃあ反転するぜ! 因果応砲で雑魚はぶっ飛ばすから、ボスは頼んだぜ!」
「おう、ボスは多分なんとかしてやんよ」
「カッカッカッカッ!」
カリュオンが担いでいる大盾を左手に持ち、足を止め振り返る。
いつもの挑発効果のある雄叫びが周囲に響き渡り、魔物達が一斉にカリュオンの方へ押し寄せてくる。
大盾をドンと地面に突き刺すように構え、そこから魔力でできた光の盾が前面に展開される。
そこに轟音を立て次々と突っ込む大量の魔物達。数は多くともCランクのダンジョンの魔物相手に盾を構えるカリュオンはビクともしない。
光の盾に魔物が突っ込めば突っ込むほどカリュオンの盾がキラキラと光り始めその輝きを増す。そしてそれが収束しいつもの盾ビーム……じゃない、因果応砲の白い光の帯が盾から発射され魔物達を一掃していく。
その光の帯の軌道上にいるレッサーアースドラゴンも巻き込まれるが、やはりそこはダンジョンのボス。
レッサーアースドラゴンにぶつかった因果応砲は、岩石の鱗を削りながらも砕け散るように周囲に飛び散り消えていく。
「やーっぱ、Cランク程度の魔物じゃ威力がたんねーな。俺は残っている雑魚を引きつけて片付けておくから、ボスのとどめは頼んだぜ」
「おう、いくぜ!」
カリュオンが因果応砲を貯めている間、俺だって何もしていなかったわけではない。
俺の遠距離最大火力、持ち出すと動くこともままならない大型金属弓。
それを構え因果応砲に削られ、鱗がボロボロに剥がれたレッサーアースドラゴンに狙いを定めた。
こいつは無駄にタフで、弓のヘッドショット一発で落とせるような相手ではない。
だから、大きな攻撃の前の布石。
おう、ナナシ。もうすぐお前の出番だから準備しておけよ。
大弓に番える矢は新作の矢。
粉末にしたメイルシュトロックを魔法鋼鉄の中に練り込み、これでもかっていうくらい凍結の付与をした矢尻。
メイルシュトロックは強烈な水属性ということは、水属性の上位でもある氷属性の素材としても優秀なのだ。
このダンジョンに来ると決まって、もしものことを考えて用意しておいてよかったぜ。
「いくぜ! 備えあれば憂いなしアタック!!」
気合いと共に放った弓は狙い通りレッサーアースドラゴンの首の付け根に刺さり、そこからパキパキと氷が広がっていく。
流石に全体を凍らせるのは無理か。だが氷で行動が制限されればそれでいい。
「カーーーーッ!!」
おおっと!? カメ君の猛烈吹雪攻撃だーーーーーー!!
そうだよね、水属性エキスパートのカメ君なら氷魔法くらいお茶の子さいさいだよね!!
ありがとう、いい感じにレッサーアースドラゴンが氷漬けになったよ。ついでとばかりに周囲の魔物も凍らせて、さすカメ君!
足元まで凍ってカリュオンが楽しそうにツルツルしているけれど、カリュオンならきっとなんとかして雑魚を全部粉砕してくれるよ。
じゃ、いいところは俺が持っていきますかー!!
「いくぞ、ナナシ! 久しぶりの仕事だ!」
ベルトに手を掛けるとカタカタと揺れて、剣の姿になり俺の手の中に収まる。
俺の魔力を吸い上げて起動したナナシをかざし、助走を付けてレッサーアースドラゴンへの頭上へと大きく跳ぶ。
眼下にはガッツリと氷に包まれて動けなくなっているレッサーアースドラゴン。その首へと叩き付けるようにナナシを振り下ろした。
すまんな、ナナシ。
今日のお前は剣というか鈍器だ。硬いものだから斬るよりも殴る方が強いんだ。
切り落とすというより叩き割るという感じで、凍ったレッサーアースドラゴンの首がポッキリ折れ、地面に落ちて砕け散る。
そして聞こえてくる、恒例の声――竜の咆吼。
ああ、ダンジョンに作られし仮初めの命。
役目を全うできずに縄張りから逃げたのが悔しいのか。
いいや、お前が動き回ったから大事に至る前に俺達が異常に気付けた。
仮初めの時間は終わりだ。
おやすみ、そしてありがとう。ちょっと粘着質なレッサーアースドラゴン君。
お読みいただき、ありがとうございました。




