Aランクの冒険者としての判断
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「うっわ、こんなところでアベル……ッさんに会うなんて。Aランクの冒険者が何やってんすか?」
橙髪君はアベルの知り合いっぽい?
「グランが鉱石を掘りたいっていうから一緒に来ただけだよ」
「え? グランさん!? あ、ホントだ! 相変わらず手際のいい回収! すごい量の魔物残骸だったけどほんの少しの時間で半分以上片付いてる、さっすがー! 俺、まだCランクですけどこの依頼が終わるとBランクの試験が受けられるので、グランさんに少し近付けます。必ず追いつくのでまたパーティーを組んでください!」
「キッ! グランは田舎でのんびり暮らしてるんだから、生意気な君とパーティーを組む暇なんてないよ!!」
いやー、褒められると照れるなぁ。まぁ、回収は得意中の得意なんだけどね!!
で、俺のことをすごく知っているみたいだけれど誰だっけ?
やべー、なんか見覚えはあるんだけど名前がわかんねー。とりあえず話を合わせてこの場を凌いで、後でアベルに誰か聞いてみよう。
アベルの言う通り田舎でのんびり暮らしているだけだから、たまになら誰かとパーティー組んで冒険者活動をするのは歓迎だぞー!
「おう、機会があったらまたぜひ一緒のパーティーで活動をしたいな!」
この感じ、過去にパーティーを組んだことがある誰かなのはわかるんだけど、誰だったかまでは思い出せないなぁ。
「はい! ぜひよろしくお願いします!!」
やー、礼儀正しくて爽やかな良い子だなー。
でも名前が思い出せない。
「おっ、ライズじゃん、王都所属なのにこんなとこまで来てるのか?」
あ、思い出した!! そうだ、ライズ君だ!!
カリュオン、偉い! カリュオンのおかげで思い出した!!
いつだったっけかな? ドリーのパーティーで一緒だったんだよなー。あの後もどっかで会ったような会っていないような。
会った時はこのくらいの年頃にありがちなツンデレ君っぽい感じだったけれど、昔のアベルに比べたらずっと可愛げのあるツンデレで素直な良い子だった記憶があるな。
これなら将来アベルのような面倒くさい大人になる心配はなさそうだ。よかったよかった。
「カリュオンさん、こんちわ! はい、こっちの方の出身なので土竜の寝返りの定期調査で、しばらくこっちの方に派遣されてました」
「あれかー、俺らも何度かやったやった。ダンジョンだけじゃなくて周辺地域の調査もあって結構時間がかかるんだよなぁ。この時期はあっちくてだりぃよなー」
「君さ、俺だけに態度悪くない? 俺に失礼じゃない? ていうか奥の調査から戻って来たところ? だったらさっさと報告に戻りなよ」
アベルだけに態度が悪いのは、アベル自身の日頃の行いのせいじゃないかな?
どうせ王都のギルドで何か嫌がらせでもしたんだろ?
朝の依頼取り合いの混雑時に、空間魔法で依頼用紙を横取りするとか。
「そうだ、報告! 俺達が来た時にあった魔物の残骸は何があったんです? もしかして魔物が大量発生したとか? それと弱い地震とかはなかったですか?」
もうすっかり片付けてしまったので底引き網猟の証拠は隠滅した。
土竜の寝返りの調査できたライズ君が、表情を硬くしながら俺達に尋ねた。
スタンピードの前兆調査に来ていたのならこの状況は気になるよなぁ。
すまん、これはただの底引き網の残骸で、地震はアベルが魔物を反応させるために連発したものだ。
まぁ、いかにアベルの地震とはいっても空間魔法で区切られた別の層に影響はないはずだ。
「さっきの状況は俺達が効率的な狩りをやった跡。君が心配しているようなことじゃないよ。ただの纏め狩り。で、地震魔法は何度か使ったけど、他の階層には関係ないでしょ?」
嘘はついていないけれど、あんだけ大量の残骸を見られたら勘のいい奴は底引き網って気付くぞ。ギルドに報告されたら注意されるじゃないか!!
「ああ、いつもの……」
「そ、いつもの」
「ライズもドリーパーティーに混ざった時に参加してたやつだなー」
あ、すでにご存じ。
というか、こんな純粋そうな少年になんていう狩り方を教えてるんだ!!
「もしかして、この先の階層でも纏め狩りをやってたりしました?」
ん?
ライズ君の言葉にアベルとカリュオン、そしてカメ君と顔を見合わせた。
「入り口から道なりに殲滅して来たから、先の階層には行ってないよ。この先で何か気になることでもあったの?」
ライズ君に対してずっと眉間に皺を寄せていたアベルが、今は違う意味で眉間の皺を深くして彼に尋ねた。
俺とカリュオンもアベルと同様に真面目な表情になる。カメ君はいつものカメ君。
「アベルさん達は下には行ってないんですね? だったらやっぱりおかしい……十階層まで見てきたのですが、そこまで行く途中にもなんだか少し魔物との遭遇率は高いと思っていて、十階層まで行くとボスのレッサーアースドラゴンが落ち着きなく徘徊してたんっすよ。その影響で周囲の魔物も資料とは違う位置にいて、そこも少し数が多い感じだったので急いで戻って来たんですよ」
ダンジョンでは小さくても違和感があれば、それは異変の始まりである可能性がある。
スタンピードでなくても、階層内の大きな環境変化、新たな階層の発生、未発見の高ランク生物の発生など、頻繁にあることではないが決してないとはいえない事象が起こることもある。
それはいきなり起こることもあれば、随分前から小さな前兆が現れていることもある。故にダンジョンで異変を見つけた場合、速やかに冒険者ギルドに報告しなければならない。
そしてここは周期的にスタンピードが発生するダンジョン。現在は周期外だが絶対発生しないとはいえない。
ダンジョンにおいて……いや、自然の全てにおいて絶対というものはないのだ。
「レッサーアースドラゴンって確か十階層の一番奥でじっとしてるタイプだよな。近付くと開幕まず地震をしてくるから、浮遊系の装備がないとファーストアタックで向こうのペースにされるんだよな」
このダンジョンのボスとは何度か戦ったことがあり、その時のことを思い出してぼやいた。
レッサーアースドラゴンは体の表面が岩石でできた鱗で覆われた上級亜竜種。
岩石の鱗なのでそれなりに硬いのだが、実際のところ岩石の鱗よりも上級亜竜種の鱗の方が圧倒的に硬く、岩石故にそれより硬いものや水には弱い。
これはレッサーアースドラゴンの岩石の鱗が柔らかいというよりも、ランクの高い亜竜や竜の鱗が硬すぎるのだ。
レッサーアースドラゴンはランクとしてはBランクの上の方なのだが、こちらから攻撃をしたりしなければ近付きすぎない限り攻撃はしてこないので、実力が足りないと思えば近付かなければよいだけである。
面倒なことといえば、無駄にタフなことと地震系の範囲魔法を使うくらいで、奴の攻撃に対処できる装備を身に着け攻略方法を知っていれば、Bランク手前のCランクくらいのパーティーなら時間はかかっても問題なく倒せる相手だ。
こういう性質のボスなので、最下層から外に出るための転移魔法陣はレッサーアースドラゴンの巣とは少し離れた場所に設置されている。
「はい、俺達が見た時は徘徊していて近くの魔物に反応して地震魔法を使っている状態でした。周囲の魔物もそれに反応して暴れ回っていたので、討伐して転移魔法陣まで行くことは諦めて九階層に引き返しました。それで戻ってくると途中何度か出所不明の小さな地震がありましたし、周期外なのですが資料にあった土竜の寝返りの前兆に当てはまるんです」
周りの魔物がボスの範囲攻撃に巻き込まれ暴れ始めているのなら迂闊に近寄るのは危険を伴う、そして奥で何か異変が起こっている可能性もあるため素直に下がった彼の判断は正解だ。
そして地震。
土竜の寝返りが近くになるとダンジョン内でも地震が発生するらしいのだが、底引き網猟のためにアベルが地震魔法を使いまくっていたせいで、そこに本物の地震が混ざっていて気付かなかった可能性はある。
地震魔法を使っていた本人はだいたい宙に浮いているから、本物の地震には気が付かないんだよなぁ。
「確かにアイツが徘徊してるのはおかしいね、土竜の寝返りの前兆と断定するにはまだ早いけど、これは確実に奥で何か起こってると思った方がいいね。君達はすぐに戻ってギルドに報告、その時に王都のギルドに最速で連絡するように念を押すこと。そうだね、俺達のパーティーがダンジョンにいるっていっていいよ、ここに来る前にフンケのギルドに寄って依頼も受けてるからね。それで俺達が十階層まで行ってレッサーアースドラゴンの先まで見れたら見てくるよ、グラン達もそれでいい?」
アベルがてきぱきとライズ君に指示を出す。
こういうのを見ると、アベルの頭の良さと状況判断の速さを実感する。
「ああ、それでいい……」
「いや、アベルはライズ達と戻ってそのまま転移魔法で王都に連絡に行け。土竜の寝返りの前兆なら国の案件になる、ライズ達だと伝達が遅れるかもしれない。奥は俺とグランで――ライズのパーティーってドリーの伝手で集まったメンバーだったりする?」
「え? 何言ってんの!? 何か起こってるかもしれないんだから転移魔法持ちの俺が一緒に行く方がいいでしょ!?」
俺がアベルの提案に頷こうとしたらカリュオンに遮られた。
確かに転移魔法持ちのアベルを戻すのが情報の伝達は速い。そしてAランク冒険者の報告となると、ランクの低い冒険者だと後回しにされがちな些細な異変でも最速で対応してくれる可能性が高い。
そしてそれに当然のようにアベルは反対する。アベルの意見はもっともなのだが、カリュオンの案の方がこの先スムーズにことがはこびそうだ。
アベルには後でダンジョンの入り口まで迎えにきてもらえばいい。だって俺がストーカーバッグを持っているから、ダンジョンから出てきたらわかるはずだから。
ストーカーバッグがまともに役に立ちそうだぞ!!
「はい、元はドリーさんの伝手で知り合ったメンバーです。ここの仕事もドリーさんの紹介で、メンバーも全員ドリーさんの推薦です」
自分のパーティーだけでも忙しいと思うのに、後輩パーティーの面倒まで見ていてドリーはすごいなぁ。
「だったら問題ないな。アベルはライズと戻れ、この先は俺とグランとカメッ子で行く。やばかったらすぐ下がる、行けそうなら奥までいって魔法陣で戻る。グランとカメッ子もそれでいいか?」
「ああ、もちろん。やばかったらすぐに下がる」
「カッ!」
「でも……っ!」
カリュオンの案を俺とカメ君はすぐに了承したがアベルが食い下がる。
「この状況で、たまたまAランクの俺達がCランクのダンジョンにいたのは運が良かったんだ。心配なのはわかるが場所が場所だけに何か異変が起こっているのなら、国レベルの災害の前触れかもしれない。そうなると身分のあるアベルが戻って報告するのがスムーズだ。おそらくその報告後アベルは、他のペトレ・レオン・ハマダのダンジョンの情報収集に駆り出されるはずだし、その方が効率がいい。無理はしない、土に強いカメッ子もいることだし俺達を信じろ」
これが偶然ならそれでいいが、何か異変が起こって土竜の寝返りの周期が早まったのなら対応を急がなければならない。
貴族でありAランク冒険者であるアベルなら、冒険者ギルドに話を聞かせるだけの圧はある。王都ならハンブルクギルド長との繋がりも強い。
そして転移魔法。迅速に情報を伝達でき、現場にもすぐに駆けつけることができる。
そんな高性能のアベルを、ダンジョン奥地で足止めするのは今の状況においてはもったいない。
「大丈夫、やばかったらすぐに引く。カリュオンとカメ君もいるから安心しろ」
「……うん、わかった。じゃあダンジョンから出たらすぐに迎えにくるからね。絶対無茶はしないでよ。チビカメ、二人をよろしくね」
「カッカッカッ!」
ものすごく渋々だがアベルがライズ君達のパーティーの方へ移動した。
「じゃ、急いで戻るよ! 各階層の入り口にマーキングしてるから転移ですぐダンジョンの入り口まで戻れるからね、俺に感謝しながら戻るんだよ! じゃ、グラン達はまた後でね!!」
プリプリとしながら、アベルがライズ君達を連れてヒュッと転移していく。
「よし、じゃあ俺達も行くか。これは合法大トレイン大会が始まるかー? ま、Cランクだし何とかなるかー?」
軽口を叩きながらも真剣な表情でカリュオンが六階層の方へと進み始めた。
その大トレイン、起こってしまうといつもと違って制御不能なトレインになりそうなんだけど!?
……カリュオンとカメ君がいるし、そもそもCランクのダンジョンだから何とかなるよな!?
信じているぞ、カリュオン! カメ君!!
お読みいただき、ありがとうございました。
明日と明後日の更新はお休みさせていただきます。
金曜日再開予定です。




