土竜の寝返り
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ユーラティア王国のほぼ中央に広がる大荒野ペトレ・レオン・ハマダ。
北の高い山脈と南の低い山地にはさまれた盆地にスッポリと嵌まるように存在する横長の荒野。
俺の故郷があるのは、ペトレ・レオン・ハマダの北東の山岳地帯。
今日俺達が来ているのはその真逆の位置、南西側の端っこ辺りである。
ペトレ・レオン・ハマダの北側は高く険しい山脈が横長に続いており人が通れる環境ではないため、ペトレ・レオン・ハマダの南側にあるやや低めの山地の裾野辺りを、東西に街道が走っている。
俺が故郷を出て王都を目指した時に通ったのもこの道。
山地の麓といってもペトレ・レオン・ハマダと接する辺りは岩山のため、街道も砂だらけ岩だらけで歩きにくく、馬車に乗っていたとしてもメチャクチャ揺れてケツが痛くなる。
ペトレ・レオン・ハマダに来るとついその時のことを思い出して懐かしくなる。
そのペトレ・レオン・ハマダの南西の端、街道沿いにある町フンケ。
このフンケの町の冒険者ギルドに立ち寄って楽そうな依頼をいくつか受けた後、フンケの近くにある鉱石が豊富なダンジョンへと向かった。
町からは少し距離があり歩いて行けば三時間ほど。
馬車が行くには困難な場所のため、乗合馬車等は出ていない。
今のような暑い季節の昼間は地獄のような暑さである。そして冬は冬でやばい寒さになる。
そんな環境にあり旨味も少ないため不人気ダンジョンなのだ。
気軽に行くにはめんどくさい、かと言ってガチガチの装備で挑むほどのランクの高さもでもなく、ダンジョンから得られるものはCランク相応でほどほど。
そのランク帯の冒険者なら緩い装備で行ける他の楽なダンジョンに行くし、ガチガチの装備を用意できて荒野で活動できる高ランク冒険者なら、荒野の奥にあるもっとランクが高くて儲けのよいダンジョンの方へ行く。
そんなわけで、町から徒歩で行こうと思えば行ける距離のダンジョンで、鉱石が豊富な場所なのだがさっぱり人気がないダンジョンだ。
「ここまで来るのが面倒くせーから、この洞窟にはホント人がいないなー。たいしてつえー魔物もいないし、魔物も採取できるものも石ころばっかりで持ち帰るとなると重てーから、マジックバッグがないとすぐ帰ることになるしなぁ。こんなとこCランク程度の冒険者だと、重量物を持ち帰る術が充実してなくて儲けがいまいちになるからこないよなぁ」
カリュオンが退屈そうにキョロキョロと周囲を見回す。
入り口の魔物があまりいない場所で、収納スキルかマジックバックを持っていると思われる掘り師が採掘作業をしていたのを数名見かけたくらいで、その後はほとんど人の姿を見かけない。
鉱石中心のダンジョンというだけあって、このダンジョンのほとんどは洞窟や坑道のような階層が中心で、最下層はペトレ・レオン・ハマダを思い出される広々とした荒野となっている。
十階層ほどの小規模なダンジョンなのだがCランクという位置づけになっているのは、最後の荒野の環境が厳しくボスもそこそこ強いためである。
そしてもう一つ、ペトレ・レオン・ハマダのダンジョンに共通する特殊な理由がある。
この特殊な理由を除けばだいたい普通のダンジョンである。
その特殊な理由とは、ペトレ・レオン・ハマダにあるダンジョンでは約百年に一度の周期で必ずスタンピードが発生している記録が残っている。
一定の周期でスタンピードが発生するダンジョンは他にもあるのだが、ペトレ・レオン・ハマダのダンジョンが特殊だといわれる理由――それはペトレ・レオン・ハマダの周期的なスタンピードが発生する時、ペトレ・レオン・ハマダ内の全てのダンジョンで同時にスタンピードが発生するのだ。
この現象はペトレ・レオン・ハマダ周辺では"土竜の寝返り"と呼ばれており、非常に古い記録にも残っている。
確かこの辺りに伝わる神話では、大地は巨大なモグラが支えていてそのモグラが寝返りをすると大地が揺れて、地の底に棲む魔物が溢れるとされている。
とんでもなく恐ろしい話ではあるが、幸いなことにペトレ・レオン・ハマダのダンジョンのほとんどは荒野の奥地にあり、溢れ出した魔物は人間の町まで寄せる前にほとんどが荒野の中心部に棲む高ランクの魔物の餌食となる。
ダンジョンの生き物も恐ろしいが、ペトレ・レオン・ハマダの奥地に棲んでいる生き物も恐ろしいのだ。
それでも荒野を抜けて人の町までくる奴もいるので、スタンピードの発生またはその予兆が見られた場合は周辺の町には多くの冒険者や兵士が派遣される。
今日来ているダンジョンも同時発生スタンピードに含まれるダンジョンで、人は少ない過疎ダンジョンだがスタンピードの周期外の時期でも警戒のため定期的に調査が行われているダンジョンである。
今は土竜の寝返りの時期ではないので安心。
冒険者ギルドで読んだ記録によると、確か前回の土竜の寝返りは俺がまだ二歳か三歳くらいの頃だったか?
どのみち今は土竜の寝返り周期外ってことで普通のダンジョンである。
「今はスタンピードの周期外だからねぇ、念のためで時々調査班が派遣されるくらいだしねぇ。俺達も何度か行ったよねー、最下層は荒野でボスがレッサーアースドラゴンだから最下層だけ少し難度が高いんだよね」
今は土竜の寝返り周期外だが、絶対ということはないため定期的に調査は行われている。
スタンピードは突然発生するわけではなく、徐々にその前兆が現れ最終的に爆発するように魔物がダンジョンの外に押し寄せる。
その前兆の期間は比較的早く始まるため、ほとんどの場合スタンピードは前兆の時点で把握され万全の体勢で迎撃されることになる。
先日の王都の地下も危なかったが、異常が見つかった時点でギルドに報告され対処がされたため、ダンジョンの中身が王都に溢れ出すことは未然に防がれた。
カメ君の大活躍があって綺麗に収まったけれど、ハンブルクギルド長やベテルギウスギルド長、バルダーナギルド長まで来ていたから、俺達が何とかしなくても何とかなっていただろう。
……でも俺達が行ったから解決したこともあるから、俺達がいってよかったと心の中にしまっておこう。
「あんま広いダンジョンじゃないし、行こうと思えば一日で最深部まで行ってレッサーアースドラゴンを倒すこともできるけど、今日の目的は鉱石だから岩石系の魔物と採掘がメインかなぁ。俺はすみっこで採掘してるから、アベルとカリュオンは適当に遊んでていいぜ。カメ君も、アベル達と一緒に遊んでくる?」
「カッ!」
俺の目的は採掘だから、その間アベル達は暇だしな。カメ君もアベル達と一緒に行くようだ。
適当に安全に常識的に魔物を狩っていてくれ。いいか常識的にだぞ!?
「うん、グランからあまり離れないところでやってるよ。Cランクのダンジョンだけど纏めて狩ればそれなりに手応えあるしね」
「おう、人が少なくて近所迷惑にもならないしな! 鉱石系の魔物を狩って鉱石を集めるのを手伝ってやるぜー!」
「カーーーーッ!!」
なんだろう……ランク的には全く不安はないし鉱石を集めるのを手伝ってくれるのは嬉しいんだけれど、何故か少し胸騒ぎがする。
嫌なことが起こらなければいいなぁ。
「カリュオン、いっくよおおおおおおお!!」
「おういえーーーーーー!! こいよおおおおおお!!!」
「カーーーーーーーッ!!!」
ああーーーー、採掘作業をしている背後で大量の魔物の気配と轟音のような足音がーーーー!!
知らない人が見たらスタンピードの前兆と勘違いされそうだぞおおおおお!!
その先頭にはアベルの気配。
あー、転移魔法のショートワープで逃げているというか魔物を釣っているぞーーーー!!
そしてアベルが逃げている先には、カリュオンとカメ君の気配だーーーー!!
これはダンジョン恒例、ゴリラ流底引き網漁だーーーー!!
全然普通じゃない!! 普通の狩り方じゃない!! 常識的じゃない!!
……くそっ! 楽しそうだな! 採掘なんかやめて、俺もそっちに混ざりたい!!!
…………。
やっぱ、俺も混ざるううううううう!!!
お読みいただき、ありがとうございました。




