未知の縦穴
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すっかり欠けた月は日没を過ぎ暗くなってもまだ昇ってはこない。
そんな暗い夜の夕食後、三姉妹達は早々にベッドに入りいつものように男四人プラスカメ君でだらだらと酒を飲む時間。
つい先日飲み過ぎて失敗したばかりなので、今日はちょびちょびと飲む。
夕飯が豪勢だったこともあり満足しきっているので、そこまでたくさん酒を飲みたい気分ではない。
そう、美味しいものを食べた後の余韻を大切にしながらゆっくりと酒を飲みたい気分。
俺以外もそんな気分なのか、日が暮れてもまだ暑さが残る夜空の下にテーブルを運び出して、ゆっくりとしたペースでの星見酒。時々吹き抜ける森からの風が心地良い。
チビチビとササ酒を啜りながら、自家製のキュウリの塩漬けを摘まんではポリポリ。
少し塩辛いキュウリの漬物と癖のないササ酒がエンドレス。
カメ君はキュウリの歯ごたえが気に入ったようで、ずっとカリカリとキュウリの漬物を囓っている。
漬物は塩分が多いから、そんなに食べていると後で喉が渇くぞぉ。漬物じゃなくて冷やしたキュウリにマヨネーズを付けて食べる? 味噌でも美味いよ?
「あの地底湖の先っていうか小空洞の底の方って何があるかラトは知っているのか?」
チョコチョコとササ酒の入ったグラスに口を付けながらラトに尋ねた。
あの先に進むのはやめておこうと思っているが、何があるかは気になる。
聞いてみたものの自宅のすぐ下に物騒なものが埋まっていたらどうしよう。
「ふむ……小さい方の穴は大昔の遺物みたいなものが眠っているだけだ。まぁ、こちらから手を出したり、領域に踏み込んだりしなければ害のない奴だ。ただし、あの地底湖より下るとダンジョンになっている故近寄らぬのがよいだろう。そうだな、先日お主らが訪れていたダンジョンよりも遥かに深く凶悪な生物のいる迷宮だ、地底湖にいくなら間違って奥へ迷い込まぬように気を付けることだ」
俺達が先日行っていたダンジョンとは食材ダンジョンのことか?
あそこより強い魔物がいるダンジョンってやばっ! というか大昔の遺物が害はないっていっても、そんなのが足元にあるってこわっ!
「え? そんな高ランクのダンジョン? そのまま放置してて大丈夫なの? もし何かの拍子でスタンピードが起こったらこの辺りだけの被害じゃすまないクラスのダンジョンじゃ!?」
ここ数日ですっかり深酒に懲りて、チビチビとササ酒を飲んでいたアベルが真顔になった。
ランクの高いダンジョンほどスタンピードが発生した時の被害は甚大になる。
アベルが真顔になるのも当たり前である。
Aランクである食材ダンジョンより深く、そして凶悪な生物のいるダンジョン。
Aランクのダンジョンは世界的に見ても数は多くなく、俺の知っている限りではその全ては国の管理下にあり入場制限も厳しい。
高ランクのダンジョンからは貴重な資源や高性能の魔道具や装備品、高価な装飾品などが産出される反面、危険度も非常に高いため、政治面と安全面から知られているAランクのダンジョンは国が管理しているものばかりである。
俺達が先日行った食材ダンジョンは今のところAランクで立ち入り制限もあるが、それは発見されて日が浅いため調査中の区域やまだまだ不明なことが多く、最深部まで攻略が終わっていないため暫定的Aランクという位置づけのダンジョンで、将来的に調査が終わり攻略方法が定着すればBランクに落ち着くのではないかと思われる。
つまりあのダンジョンは、Aランクでもやや難度の低いダンジョンだということだ。まぁゴリラ達が好き勝手大暴れする余裕があったからな。
ただやはりカメ君のいた十五階層は明らかに難度が高かったし、その先の十六階層は砂海でこちらも非常に難度の高そうなエリアだった。
もしかするとその先には更にやばいエリアがあるかもしれない。
ラト曰く、そんな食材ダンジョンよりも深く凶悪なダンジョン。
冒険者ギルドのランク付けでいうと確実にAランク以上もしかするとSランクのダンジョンということになるだろう。
Sランクのダンジョン。
それは現在発見されて、公表されているダンジョンの中には存在はしていない。
あくまで公表されているダンジョンの中にはの話だ。
この小空洞の底のように、人間が知らない場所にランクの高いダンジョンがある可能性は高い。
いや、むしろ世界には知られていないダンジョンの方が多いだろう。
世界には人の踏み込めないような厳しい環境の場所、凶悪な生き物がいる場所はいくつもある。
そのような人が踏み込めないような場所にこそダンジョンが――難易度の高いダンジョンが人知れず眠っていると考えるのが自然だ。
そして王都地下の空間のように色々な事情で公表されていないダンジョンもあるだろう。
世界にはきっと知られていないだけで、Sランクに分類されるようなダンジョンは存在していると思われる。
そしてそこには未知の生物はもちろんのこと、もしかすると未知の鉱物や植物などの素材、そして人の手には余るような武器や防具に装飾品、魔道具なんかも眠っているかもしれない。
というかその可能性のあるダンジョンが俺んちの足元にあるんだけどーーーー!?
害がないと言われてもちょっとハラハラドキドキワクワクなんだけどーーーー!!
「その辺は安心してよい、この辺りの縄張りの主がちゃんと見張っている。地底湖まで行ったのなら大ナマズに会わなかったか? あれも主だ。何かあればあの主が地震を起こして上へ知らせてくれるから安心するがよい」
いやいやいやいや、地震を起こして知らせるってそれはそれで安心できないけどーーーー!?
うちの家の耐震性大丈夫ーーーー!?
はー、何かあった時のために早めに家の壁に土属性の振動耐性を付与しとこ。ついでに何かないようにお祈りもしとこ。
「地震はちょっと穏やかじゃないが、この辺りは地震が少ない地域だからありなのかぁ? いや、地震の少ない地域だと建物も弱いし危ないよなぁ? ほどほどの揺れにして欲しいところだな。ところでグラン、ニヤニヤしてるけどもう酔っ払ったか? それともダンジョンに宝探しに行きたいのか? おもしろそうだけど、さすがにやめた方がいいと思うぜ?」
そうそう、カリュオンの言う通り地震はほどほどに-……え? 俺そんなにニヤニヤしてる?
Sランクかもしれないダンジョンに眠っていそうな素材や宝に少しワクワク……いや、三姉妹やラトの話を聞いた限りではめちゃくちゃやばそうだし、命あっての物種だ。
カリュオンもやめろって言っているし、やっぱ近寄らないでおこう。
「そーだよ! もし奥に行くにしても絶対俺も連れてってよ!」
やべ、美味しいものをたくさん食べて機嫌が直っていたのに、アベルがまたプリプリし始めたぞ。
「おう、今日のはちょっと涼みに行っただけだからな。地底湖は綺麗なとこだったから、次の休みにでもアベルも一緒にいこう。そうだ、豪華な弁当を作ってピクニックだピクニック!」
そうそう、ピクニックピクニック。あの小空洞を下ることはしないとして、今日行かなかった別の場所も探検してみたいな。
下ではなく森の奥方面も気になるんだよな。
「ふむ、まぁあの地底湖までなら問題はないだろう。森の奥の方面に進むのはよいが、大空洞にだけは入らぬことだ。あそこは小空洞や普通のダンジョンとはわけが違う、神すらおちれば簡単には戻ってはこれぬ」
ウルが言っていた話だな。
こわいこわい……絶対に近寄らないでおこう。
というか、そんなものが下にあるうちのご近所ーーーーーー!!
変なものが溢れてでてこないように、番人様にはしっかり頑張ってもらわないと。
たくさん料理と酒をお供えするので、どうぞこの地の平和をお守りください。
「む? 酒を注いでくれるのか?」
「おう、毎日森の平和を守るお勤めご苦労さまです」
お読みいただき、ありがとうございました。
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口絵も見れちゃったりするのでよろしけれ覗いてみてください。
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