あの時の御一行
誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。
ん? ちっこいトカゲの妖精? 何だか貴族っぽいフロックコートを着ていて可愛いな?
あれ? どっかで見たことあるようなトカゲだなぁ。トカゲ君達は透明なガラス……いや水晶でできたような箱を担いでいるけれど中に何が入……って、指ーーーーーー!?
水の上を流れていく葉っぱの上で、わちゃわちゃと数匹のトカゲが力を合わせるように、人間の指が入った箱を担いでいるのが見えた。
この光景、なんか既視感があるぞ!?
ピーーーーッ!!
それが何か思い出せそうになった時、洞窟内では場違いと思える鳥の高い鳴き声が響いた。
その鳴き声の方を見上げると大きな鷹。
洞窟で鷹?
あっ! ああああーーーーーっ!!
思い出したーーーー!!
オルタ・クルイローの近くの草原に行った時に見かけた妖精だ!!
あの時は目玉を運んでいて、今日は指!? 穏やかじゃないな!?
って、その湖やばそうなナマズがいるけれど大丈夫か!?
流石にあのナマズは、この間の蛇の時みたいに助けに入れないぞ!?
あの鷹がどうにかするのか?
そう思いながら食べかけのスープとパンを置いて、地底湖の上を滑るように飛ぶ鷹を見上げていると、鷹も俺の視線に気付いたのかバッチリと目があった。
そして何故か不敵な笑みを浮かべたように見えた。
よく見ると鷹の足には紐――いや、黒っぽい蛇が掴まれている。
ポイッ!
鷹がその蛇を湖に放り込むように足から離した。
蛇は透明な湖の中に落ちたがまだ生きているようで岸辺へと向かって泳ぎ始めた。
だがその蛇が岸へと着く前に水の底から黒く大きな影がユラリと水面に近付き、大きな口を開け水と一緒に蛇を吸い込んでそのまま水中へと消えていった。
先ほどの地底ナマズだ。やはりアイツがこの湖の主のようだな。そして蛇は通行料か。
つまりこの湖の主は通行料を払えば穏便に通してくれるのかな?
これはいいことを知ったかもしれない。
ナマズの出現で大きく揺れている水面を見ると、トカゲ君達の乗った葉っぱがひっくり返りそうになりながらも波だった水に押されて加速し、小空洞の方へと一気に流れていった。
あっちの方って、縦穴に落ちそうだけれど大丈夫なのか!?
だが葉っぱに乗るトカゲ達は落ち着いた様子でそのまま流されていく。上空を飛ぶ鷹も葉っぱと速度を合わせるように小空洞の方へと飛んでいき、やがて彼らの姿は見えなくなった。
「あっちって小空洞がありそうだけど、あのトカゲの妖精っぽい奴らは大丈夫なのかな?」
モコモコちゃん、何か知ってる?
「キッキッ!」
俺が尋ねると、大丈夫とばかりにモコモコちゃんが頷いた。
この洞窟に詳しいモコモコちゃんがそう言うのなら大丈夫なのだろう。
「ゲッ! ゲゲゲゲゲッ!! ゲゲゲゲレゲレゲレゲレゲレレレレレレレゲッ!!」
トカゲ達が大丈夫そうとわかってホッとしたところで、サラマ君がモコモコちゃんに掴みかかり、トカゲ語で何かを激しく巻くし立てた。
トカゲ語なのかはしらないし、巻くし立てているのかどうかもわからないけれど、俺にはそれっぽく見えた。
「キィ?」
一方、掴みかかられたモコモコちゃんは明後日の方向を向いて前足で耳をほじくっている。
これはモコモコ語がわからなくても何となくわかるぞ。
巻くし立てるサラマ君に対してすっとぼけているポーズだな!?
「カメェ?」
カメ君は俺と同じで状況が掴めていない様子で首を傾げている。
モコモコちゃんとサラマ君の様子からして、モコモコちゃんはあのトカゲ達のことは知っていたのかな? もしくは向かっている先も知っているのかな?
サラマ君がそれを問い詰めている?
何で?
……考えてもわからないし、妖精達のことなんて人間の常識は通用しないから、深く考えるのはやめよう。
だだ少し気になったのは、以前のあのトカゲ達を助けた時に付いていた"明星の恩人"という称号。
ラトがそれを目印と言ったこと。
目印ということは、いつか彼らが俺の前に姿を現す可能性があるということか?
だが今回は素通りされたから、今はまだその時ではない? ここで会ったのは偶然?
そしてもう一つ気になるのは、彼らが運んでいた人間の体のパーツのようなもの。
あれは何者かの一部なのだろうか? トカゲ達は何の目的でそれを運んでいるのだろうか?
ふと、前世で明星が指す存在が頭をよぎり、それと同時に厨二病だった時期の恥ずかしい思い出までうっかり思い出して、まとめて頭の隅へと追いやった。
だってかっこいいじゃんルシファー。小説やゲームでもだいたいかっこいいポジションだし、一度は憧れるもんだろ!? 十二枚の翼とかかっこよすぎるだろ!!
ゲームでもよくそれをイメージして黒いコスチュームにたくさんの羽を生やして……転生開花ーーーーーー!! てめぇはもう引っ込んでろ!!!!
転生開花で蘇って記憶を心の奥に押しやった後も、何となく消化不良な感じで心に引っかかるものがあり、トカゲ君達が流れていった方をしばらくの間見つめていた。
「キーッ!!」
「ゲーッ!!」
「カーッ!!」
「ぬあっ!? いてっ!!」
ボーッとトカゲ君達が流れていった方を見つめていると、いつの間にか乱闘状態になっていたカメ君達から流れ弾の木の実と氷の欠片が飛んできて俺に当たった。
「こらーーーー!! 飛び道具は周りをよく見て使うんだーーーー!! 拳とキックで語るサラマ君は偉い!!」
こんなとこで乱闘は偉くないけれど、サラマ君は俺に流れ弾を当てなかったので偉い!!
「カッ!?」
「キッ!?」
「ゲッゲッゲッ」
あーもうー、可愛い殴り合いになっちゃったよ。
怪我をしたらいけないから程々にしておくんだぞー。
俺は残っているスープとパンを食べ終わったら、デザートにリンゴを焼いて食べるんだからー。
「カッ!」
「キッ!」
「ゲッ!」
カメ達も焼きリンゴが欲しい?
仕方ないなー、皆のも作るからケンカしないで良い子で待っておくんだぞぉ。
それから、この後は洞窟に来た目的である色付き鉱石の採取をするから、手伝ってくれるならリンゴの上にバターとシナモンを載せてやるぞー。
焼きリンゴにバターとシナモンは美味いんだぞー。
ほぉら、焼けて甘味が濃縮されたリンゴの上で溶けるバターの香りと、そこに混ざるシナモンの香りを想像してごらん?
お? 鉱石採取を手伝ってくれる?
やったー! ありがとう!!
それと、お騒がせした地底湖の主さんにも焼きリンゴをお裾分けしておこうかな。
次来た時も湖の畔で休憩させてください! ついでに水も汲ませてください!
昼食を終えた後はしばらく地底湖の周辺で地底植物を採取して、その後少し引き返してインクの材料にできそうな鉱石を採取して帰路についた。
下見に来たことがアベルにばれるとめんどくさいので、用心して夕方になる前には家に到着する予定だ。
それは小空洞の上まで戻って来た頃だった。
「うげっ!」
その気配に気付いて思わず声が出た。
「キッ!?」
モコモコちゃんもその気配に気付いたのか、俺の肩からピョコンって跳ねて地面に降りたと思ったら、葉っぱを舞い散らせてポンッと消えた。
転移魔法の類いかな?
モコモコちゃんは以前から人見知りで他に誰かいる時は来ていなかったしな、俺以外の人が来る前に帰ってしまったようだ。
「ゲッ!?」
モコモコちゃんに続いてサラマ君も俺の肩の上でピョンと跳ねてそのまま火の粉になって姿を消した。
なんとも不思議生物らしい姿の消し方なのだが、俺もちょっと姿を消したい。
どっか適当な横穴はないかな……。
「カァ……」
カメ君が諦めろとばかりに俺の首筋を尻尾でペチペチした。
いいや、俺はまだ諦めないぞ!! 諦めたらそこでゲームオーバーだ!!
とりあえず一度下に戻ってどっかの脇道に――。
「隠れようとしても無駄だよ。これだけ近付けばグランの位置は正確に把握できるからね」
あーーーーーー! ストーカーバッグーーーーーー!!
つい、いつもの癖で持って来ていたーーーーーーーー!!!
一度下に引き返そうと向きを変えた俺の背後から聞き慣れた胡散臭い声が聞こえて来た。
「抜け駆け探検かー? ズルいぞー!」
そしてやたら陽気な声も。
「ふむ、下の方が騒がしいから様子を見に来たら、そこでこの者達と会ってな」
ああーーー、番人様までーーーー!!
隠れるよりも上手い言い訳と今夜の夕食のメニューを考えた方がよさそうだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
大変申し訳ございませんが、週末にちょっと背中を痛めてしまった為、今週は明日と明後日の更新をお休みさせていただきます。木曜日には復帰の予定です。
皆様も姿勢にはお気を付けくださいまし。
29日の2巻発売にあたりまして、記念SSを小話の方に29日くらいからアップする予定です。
こちらの方もよろしくお願いいたします。




