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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第九章

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遙か昔の記憶

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

 すごく昔の記憶、それはこの世界に生まれる前の記憶。

 深い深い迷宮に潜った記憶。

 浅い場所の魔物は弱く、奥に行くほど魔物は強い。

 浅い階層で魔物を倒し金を貯めつつ力を付け装備を更新し、強くなれば先を目指す。

 戦い疲れれば戻って休み、疲れが取れれば再び迷宮に潜る。

 それを繰り返しながら迷宮に住む魔物を倒し、強さを磨き金を貯める。

 それが楽しくて忘れがちだが、迷宮の最深部には世界を滅ぼす強大な魔物が封じられている。

 そいつを倒すのが迷宮に潜る真の目的だった。


 それは前世で俺が夢中になっていたゲーム――仮想の世界の中で自分の分身となるキャラクターを動かして楽しむ遊びだった。


 前世ではこの手のひたすらレベルを上げて物を集めるゲームが大好きだったんだよなぁ。

 とくにダンジョンもの。

 魔物を倒すだけではなく、素材の採取ができて、宝箱があって、手に入れた物を売って金にするだけではなく、それで装備を作ったり強化したり。

 めちゃくちゃ好きだったんだよなぁ。

 洞窟を奥へと進んでいるとそんな記憶がふと蘇った。



 俺達が今進んでいるのは、小空洞の壁沿いを下りドワーフの里へ向かう横穴より少し下の横穴に入った先。

 洞窟内の道を知っているらしいモコモコちゃんが、こちらへ進めとアピールするのでその指示に従うことにした。

 小空洞の壁沿いの道はそのまま下ると下の層へと直通できそうな雰囲気はあるが、道幅が狭くうっかり縦穴に落ちてしまいそうで怖い。

 ここで魔物に突然襲われたら非常に危険であることは予想できる。

 横穴に入った先の道も下の方へと向かっている道もあるようで、小空洞の壁沿いを下るより遠回りになるが、こちらの方が安全に下の層へと向かえそうだ。


「キッ!」

「モコモコちゃんはこの洞窟に詳しいのかい? 安全なルート案内助かるよ。おっとここの分かれ道を下るんだね、メモメモ」

「カッ!」

「ゲッ!」

「あぶない、マッピングに夢中になってたら変な石トカゲが突っ込んできた。カメ君、サラマ君ありがとう」

 モコモコちゃんが案内してくれる道をメモしながら歩いていると、天井の穴から表皮が岩石でできたトカゲが飛びだしてきたのだが、カメ君の水鉄砲で迎撃をされた後サラマ君の跳び蹴りで、小空洞の方へとすごい勢いで吹っ飛んでいった。

 あの勢いで吹っ飛ばされたら、小空洞まで吹っ飛んでいってあの穴に落ちちゃうかなぁ。さらばだ、石トカゲ君。


 ここまでの道中危険な魔物にはほとんど遭遇しなかったのだが、こうしてたまに出てきた奴も、カメ君達が水鉄砲や木の実砲そして殴る蹴るで吹っ飛ばしてくれているので俺はずっとマッピングをしている。

 縦穴付近で遭遇した魔物はカメ君達によって全て縦穴に落とされていたけれど、大丈夫? 下に誰かいたらびっくりしない? この洞窟の下の方には地底エルフが住んでいるって聞いたけれど迷惑にならない?

 まぁ、ただの石のトカゲや変な蛇や虫は素材としても微妙だからいらないよ。いちいち倒すの面倒くさいし、落とせるなら落としてしまっていいか。


 洞窟の最上層部であるモールの住み処辺りにはほとんど魔物はいない。

 あの辺りは地下の魔物より、地上から侵入してくる蛇や小型の肉食獣の方が多いとタルバが言っていた。

 そこから少し奥へ進みモール達の採掘場の辺りにまで行くと、人間から見るとあまり大きくない蛇やトカゲや虫の他に石孔雀を含め、Dランクかそれ以下程度の魔物の姿を見かけるようになる。

 それが小空洞付近になると現れる生物が大型化しはじめ、ドワーフの里周辺まで来るとほぼDランク以上で、クーモの話によるとドワーフの堀場付近はCランクに近い魔物も多いらしい。

 一昨日来た時は確かにそんな感じで奥へ進めば出てくる生き物の強さが目に見えて変化し、奥に行くほど好戦的な魔物の姿もよく見るようになっていた。


 俺達の現在位置はドワーフの里を過ぎ、近くにドワーフの堀場がいくつもあるドワーフのテリトリー内。

 今日はここまで来る間に細かい生き物にしか遭遇していない。遭遇したとしてもカメ君達の華麗なるコンビネーションで全て流されたり、吹き飛ばされたり、蹴り飛ばされたりして俺の視界から消えていく。

 ドワーフのテリトリーに入ってからは、何度かドワーフの姿を見かけたが特に絡まれることもなく、テリトリーを通過させて貰っているのでそのお礼と挨拶をすれば、少し驚いた表情をしながらも気さくに返事をしてくれて自分達の仕事へと戻っていく。

 ドワーフ達は気難しくて縄張り意識が強いのだが、ここのドワーフは比較的大らかというか、先日クーモの工房にお邪魔した時にどこかで見られていて覚えられていたのかな?


 あっ、クーモだ! 今日はこっちで仕事? 採掘作業? ご苦労様!!

 俺? 外があまりに暑いから洞窟で涼むついでに探検をしているだけだよ。ドワーフ達の仕事の邪魔にならないように通過するから気にしないで。

 ああ、今日は俺だけ。

 このちっこいの? カメ君はうちの家族みたいなもんで、モコモコちゃんはカメ君のお友達? サラマ君は今日ふらりとうちにやってきて、そのまま付いて来ちゃった。

 うん、なんかみんな強いみたいで、魔物に遭遇しても倒してくれているよ。もちろんあまり奥まで行かないつもりだよ。

 ん? いや、俺はテイマーではなくて器用貧乏なただの剣士だよ。

 そうそう、今日ここに俺だけで来たことはカリュオンやアベルには内緒にしておいて。これ、口止め料のミミックの干物。酒のつまみにピッタリだから食べてみて。

 それじゃ、もう少し奥まで散歩してくるよ。


 ドワーフ達の姿の中にクーモを見つけたので少し立ち話。

 何だか忙しそうだったみたいで落ち着きがない様子だったので、話し込むことなく別れを告げて洞窟の奥を目指した。


 先ほどのような知能が低そうな細かい生物は飛びだしてくることはたまにあるが、この辺りはドワーフのテリトリーのせいか、魔物らしい魔物にはさっぱり遭遇していない。

 出てきたとしてもカメ君達がすぐに吹き飛ばしてしまうので、魔物に遭遇した気にならない。

 ここまで俺は全く魔物と戦うことなく歩きながら道をメモしているだけだ。



 それでふと思い出してしまったのが、前世の記憶――迷宮の最深部を目指して進むゲーム。

 そのゲームでよくある落とし穴、偶然が引き起こす致命的な罠。


 奥へ進むと強くなっていく敵を順々に倒しレベルを上げる。

 疲弊すれば町に引き返し回復をして再チャレンジ。苦戦する相手に出会えば引き返して、程よい相手を倒してレベルを上げ装備を調え強い敵に再チャレンジ。

 その繰り返しでプレーヤーは少しずつ強くなり、自分の限界を知りつつその限界を伸ばして奥へと進んでいく。

 そうやって進めば、パーティーが全滅するなんてことはあまりない。


 だが時々、幸運に見せかけた不運が起こる。

 序盤に弱い敵にちょこちょこと会って以降、全く敵との遭遇がない。

 あっても偶然で倒せてしまうような美味しい敵だけ。

 そして敵に会わぬまま、現在地の正確な敵の強さを知ることなくどんどん奥へと進んでいく。


 区切り区切りにボスがいたり、レベルの制限があったりして強さが伴わないと先に進めない構造になっているゲームが多い中、このゲームではそういう制限がなくどこまでも進むことができた。

 それを利用して敵に会わないことをお祈りしながら奥の方にある宝箱を漁って装備を手に入れて、強化と一攫千金を狙うのも楽しかったんだよな。



 あの感覚を思い出してワクワクした気持ちになりながら、壁に張り付いている珍しい苔やキノコ、地上では見かけない鉱石を採取しながらどんどん奥へと進んでいった。

 そして採取に夢中になりかけた時、不意に前方から吹いてきた冷たい風で、あのゲームでどんどんと奥に進んだ時の結末を思い出した。


 レベルの制限もなく能力チェック用のボスもおらず、自分の意思と自分の責任でどんどん進めてしまうのは、今世の冒険者活動と似たものがある。

 そしてそのゲームで敵に会わぬままどんどん奥に進んだ結末は、突然現れる桁違いに強い敵。

 こちらの攻撃が通用することもなく、相手の攻撃は一発でこちらを死に至らしめるダメージ。


 そのことを思い出し、日の光が届かずひんやりと肌寒く薄暗い洞窟の中で足元からゾクゾクする冷たさを感じたのは、随分前にドワーフのテリトリーを抜け洞窟をかなり下った頃だった。

 そして洞窟の奥へと下る坂の先からは水の流れる音が聞こえ、湿気を帯びた冷たい風が吹き上げてきていた。



お読みいただき、ありがとうございました。


明日と明後日の更新はお休みさせていただきます。土曜日から再開予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] クーモが何に驚いたのか… モコモコちゃんを知っていたかと思ったのですが、ミニとはいえ3隻を背中に引っ付けた(カメ君水鉄砲が飛び出て、モコモコちゃんのツルのムチが見える)グランの見た目も…
[一言] 地底エルフ………………(゜_゜ ) 地下に帝国でも作ってそう(笑)
[良い点] 今の状況と重なるような、淡々としたグランの思い出話……ふ、不穏だ……!  この先一体何が待ち受けてるって言うんだ。 [一言] ハクスラ的なことと考えれば前世のゲームも今世の冒険も要素は同じ…
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