これは下見なのでセーフ
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お、重い。
外はすっかり夏なのに、ここはひんやりして気持ちいいのだが、肩が重い。
ちっこくても三匹はさすがに重いというか、モコモコちゃんがとくに重い。
俺の左肩にカメ君と謎のサラマンダー君、右の肩にはモコモコちゃん。
両肩に重みを感じつつ、時々巻き起こるチビッコ力比べに巻き込まれながら、俺は先日来た森の地下にある洞窟を歩いている。
ええと、俺何でこんなことになってるんだっけ?
今日は畑仕事が一段落したらスライムを弄るつもりだったような……そんなつもりでもなかったような……。
あっるえええええ!? 何で洞窟に来ちゃったんだ!?
朝食後、出かけていったアベル達を見送ってうちには俺とカメ君だけになり、暑くなる前にと畑仕事をしていると急に蒸し暑くなった。
今日は特別暑い日かと思ったがすぐにそれが違うと気付いたのは、蒸し暑さの中に含まれるカメ君の水の魔力とモコモコちゃんの風の魔力、そしてなんかどっかの火山の近くのような熱い火の魔力のせい。
その魔力の方を見に行くといつものように万歳合戦をしているカメ君とモコモコちゃん。
そして一匹、後ろ足で立ち上がり万歳しているちっこくてぽっちゃり体型の真っ赤なトカゲ。
万歳同盟が三色になった!! めっちゃ可愛っ!! この世に携帯があったら写真をとりまくっていたのに!!
あれ? 携帯? スマホ? うわああああああああ、転生開花ーーーー!! ガラケーーーーーーー!!
や、そうじゃない。何でうちの敷地に明らかに怪しい真っ赤なトカゲが入り込んでんだ!?
しかもこれただの赤いトカゲじゃなくて、この強い火属性の魔力からするとサラマンダーの幼体だよな?
何で森の近くにサラマンダー!! やべー、火の粉が散ったら森が火事になるぞーーーー!!
「カーッ!!」
「キキッ!!」
「ゲコッ!!」
ん? 三匹で万歳をしたまま何か話すようにコミュニケーションをとり始めたぞ?
あれ? このサラマンダーよく見ると背中に小さな翼があるぞ?
サラマンダーは亜竜種だが地を這い回ることに特化したトカゲのような姿をした翼を持たない種である。
つまり翼があるということはサラマンダーではない。俺の知っている限りでは翼のあるサラマンダー型の亜竜種は記憶にない。
サラマンダーの幼体っぽく見えるが、実は森に棲むただの火属性の妖精か?
しかし森に火属性の妖精って珍しいな。
火属性の妖精は火山や荒野のような暑い場所、もしくは民家の窯の中や鍛冶場の溶鉱炉など火のある場所を好む傾向があり、森ではあまり見かけることはない。
何だってそんな火属性の生き物が森の目の前にあるうちの敷地に入り込んでるんだ?
カメ君達と万歳交流をしているってことは、カメ君……いや、森から来たのならモコモコちゃんの知り合いか?
ドワーフの里には溶鉱炉がたくさんありそうだから、そこから迷ってきた?
まぁ火属性なら何かあったらカメ君がザバーッてしてくれるだろう。
見た感じ火の粉を制御できるみたいだし、カメ君と仲良く遊んでいるところを見ると、サラマンダーの子供のような姿をしているが実は高位の妖精なのかもしれない。
妖精だったら変につつくのもまずいし、やっぱカメ君に任せておこう。仲良く万歳大会をしているし、きっと大丈夫。
大丈夫じゃないのは最近色々侵入されまくっているうちの結界な気もするが、この結界はアベルとラトが善意で張ってくれているものなので俺がとやかくいう筋合いはない。
俺の作った柵だけだともっとやべーのが突っ込んでくるかもしれないし。
ちっこい生き物が平和に万歳大会をしているくらいなら大丈夫、きっと大丈夫。
でもその魔力比べは蒸し暑くなるのでやめようね。
こないだ仕事でフォールカルテに行った時に、リリーさん所有の宿屋の土産者コーナーでトランプを売っているのを見つけて買ってきたのがあるから、それで勝負をするといいよ。
ババ抜きなら簡単だからすぐに覚えられるよね? サラマ君はどうかな? できそう?
お、俺の言葉を理解してめちゃくちゃ頷いているな。やっぱただのサラマンダーの子供ではないな。
うんうん、俺は畑仕事をしないといけないから、テラスのテーブルの上で良い子でババ抜きをしてるんだよ。
いい? 変な勝負をしてエキサイトしたらだめだからな! 良い子にしていたら、十時のおやつの時間に冷たいコーヒーゼリーをあげるからね!
それで十時のおやつの時に、何かやらないといけないことを考えていたのだが忘れてしまったんだよなぁ。
まぁ思い出せないのなら大事なことではないのだろう。
そうそう、昨日モコモコちゃんに貰ったリンゴっぽい果物、俺の鑑定だと古代のリンゴって見えた。
珍しいリンゴなのかなぁって、チーズケーキにそのリンゴを入れて三時のおやつにしてみたらめちゃくちゃ美味しくて、三姉妹も早く帰ってきたアベル達も大喜び。
ただリンゴをくれたモコモコちゃんはいつの間にかいなくなっていたので、一切れだけ残しておいて十時のおやつの時にコーヒーゼリーと一緒に出した。
あの古代のリンゴってやつめちゃくちゃ美味しくて、あまりの美味しさにすごく料理がしたい気分になって、昨日はおやつの後色々作ってしまって夕食もすごく豪勢になるし、デザートのストックも増えてしまった。
で、何をやろうとしていたのか思い出せないし、家にいても暑いしで、涼しい場所――森の地下洞窟探検に行くことにした。
アベル達は今日はいないけれど、まぁいいかー。だって家にいたら暑いんだもーーーーん!!
フローラちゃんも一緒に洞窟に涼みに行く? え? お留守番していてくれる?
そっか、でも暑い時間は日陰に入ってゆっくりしておくんだよ。暑いから熱中症になる危険もあるからね。
そうだそうだ、そんな流れで家にいても暑いから洞窟探検に来たんだった。
ひゃっほーーーー! 洞窟の中は涼しいぞおーーーー!!
洞窟に行く時はアベルとカリュオンも一緒にって話をしていたけれど、彼らは王都にいっていていないので仕方ない!!
これは避暑!! 家にいると暑いから仕方がない!!
少し下見に行ってくるだけだからセーフだセーフ!!
でもバレるとめんどくさいからアベル達には内緒な!!
一度通った道はだいたい覚えたけれど、今日はタルバの案内がないから罠には注意しないとなぁ。
防衛用の罠だから場所もちょいちょい変わっているようだし、迂闊なものは触らないようにしよう。
「あっ! あんなところに藍銅鉱!! これは高価な藍色の材料に……いてえ!」
「キーーーーッ!!」
洞窟の岩壁に真っ青な鉱石が張り付いているのを見つけ手を伸ばしかけたところで、モコモコから毬栗が飛んできて手の甲に当たった。
「あっ! 危ないこれは罠か……危ない危ない。え? もももももももちろん気付いてたよ! ちょっと触って確かめようとしただけだよ! つべたっ!!」
「カッ!」
俺の手に当たって足元に転がった毬栗を拾って収納にしまっていると、今度はカメ君から水鉄砲が飛んできた。
「大丈夫、無闇に高級鉱石には釣られないから!!」
「ゲ?」
サラマ君だけは首を傾げているので、罠に気付かなかったのだろう。
サラマンダーはジメジメした洞窟にはあまりいないからな。ははは、この先は俺がかっこよく罠の見つけ方を教えてあげよう。
誰かに教えながら歩けば自分が手本になることを意識するので、いつも以上に速やかに罠を見つけ回避することができた。
モールの防衛のための罠だから壊したり解除したりはせず、そっと回避をして先に進む。
落ち着いて見れば、モールの罠はわかりやすい。
基本的にモールより体が大きいものが触れやすい位置にスイッチがある。
そして、警戒心より欲望を優先する奴がつい引っかかってしまいやすい、あからさまな稀少鉱石で釣る罠。
そんなわかりやすい罠に嵌まる奴はいないだろー!
おっと、サラマ君。その真っ赤な石は君と同じ色ですごくかっこよくて目立つけれど、罠だから触ったらだめだぞぉ。
えっと、この道はどっちだったっけ?
だいたいは覚えているし探索スキルで縦穴のある方向はわかるのだが、横穴が入り組んでいて正確な道がわかりにくいんだよなぁ。
あ、こっち? モコモコちゃん、詳しいね。先ほどから迷いそうになると道を教えてくれているよね。
助かるー、ありがとうー!! さっすが、森の妖精さん!!
次の道はこっちだな。ここは覚えてる覚えてる、この先が小空洞だな。
ほら、到着だ!!
坑道が途切れて視界が開け、つい一昨日見たばかりの巨大縦穴が姿を現した。
先日はここから少し下ったところから横穴に入りドワーフの里に行ったが、今日はもう少し下まで降りてみようと思う。
縦穴の壁に沿って彫られるように作られた道は、穴のずっと下まで続いていてその終点は見えない。
「ちょっとだけ、ちょっとだけ覗くだけだから。それで面白い鉱石や素材があったら採取するだけだから。さすがにこれは本当にやばそうだから、深くまでは行かないつもりだよ。だからカメ君達も逸れたり落っこちたりしないように気を付けてね」
上から見下ろせば足が竦むような深さ。
その縦穴の壁に張り付くようにある通路を一歩一歩慎重に下り始めた。
それはまるで、深い闇の中に自ら沈んでいくような感覚だった。
それと同時に未知なる場所へ踏み込むわくわく感が湧き上がってきた。
お読みいただき、ありがとうございました。




