才能の上に積み上げた結果
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「カリュオンは……あ、俺がよく混ぜてもらうパーティーにいるハーフエルフのタンクでさ、ちょっと……いや、かなり変わった奴なんだけどメチャクチャ固くて頼りになるタンクなんだ。タンクだからもちろん盾と近接武器のスタイルなんだけど、ほらハイエルフって弓が得意な種族じゃん? 今まで弓はずっと使ってなかったみたいだけど、何か思うところがあって練習を始めたみたいでさ。カリュオンってそういう頑張ってるとこを他人に見せないで表向きはいつもニコニコしてるからさ、きっと俺が気付いて手伝うっていってものらりくらりと躱されそうなんだよな。だから俺が弓を練習するふりをして、庭のどこかに弓の練習場を作ろうかなって。それにこっそり弓の練習をしてて知らずに近付いたら事故もあるかもしれないから、やるなら安全な練習場があった方がいいかなって」
空いている水槽に無垢なスライムを入れ孔雀石の粉末を与えた後は、弓の練習に使う的と矢を作り始めた。
練習用なので何も付与をせず特殊な素材も使わない素朴な木製矢である。
椅子に座ってせっせと矢を作っていると、カメ君とモコモコちゃんが矢作りに興味を示して手伝ってくれている。
変な付与をしたら練習の意味がなくなるから、変な付与はしないでね。
机の上にちょこんと座って矢を一緒に作ってくれているカメ君とモコモコちゃん、さっきまでは仲良く背比べをしていたけれど今はすっかり矢作りに夢中。
彼らが張り切って矢に変な効果を付けてしまわないか目を光らせつつ、俺もせっせと矢を作る。
矢を作りながら俺がひたすら喋って、カメ君とモコモコちゃんがリアクションをするというやりとりで、穏やかに時間が過ぎていっている。
「カリュオンの強さはギフトや才能の上にたくさんの経験や努力を積み上げてきた結果なんだろうなって薄々は思っていたけど、昨夜実際にこっそり練習してるとこを見てやっぱりなって思うと同時に、俺達の知らないとこでたくさん努力をしててそれを悟られないようにしてるのかなーって気付いてさ、やっぱすげー人って見えてなくてもすごくたくさんの努力してるんだなって」
俺の話を聞きながらウンウンと相づちを打つモコモコちゃん。
そーだぞぉ、カリュオンはすげーんだぞぉ。
「いつもニコニコしててさ、嫌なことがあっても嫌な奴に絡まれてもニコニコして不機嫌になったり怒ったりはしないで、その場に合った対応ができる奴なんだ。脳ミソまで筋肉みたいに見えるけど、実はすごく頭が良くて思慮深くて勘もいいんだ。見た目は俺達とかわらないけど、すげー大人って感じがするよな。あ、でも時々本当に何も考えてない時もありそうだけど」
モコモコちゃんだけではなくカメ君もウンウンと頷いている。
そんなカリュオンが、昨夜こっそりと弓の練習をしているのを見て自分も頑張らないとと思うと同時に、ここに引っ越して来た時の自分の感情を思い出して少し恥ずかしくなった。
みんな、俺より強い。
俺よりずっと火力がある。
火力特化のギフトやユニークスキルを持っていて羨ましい。
俺は中途半端な器用貧乏。
半端なスキルで半端な火力しかない。
ユニークスキルなんかもない。
どんなに頑張っても結局火力特化には劣る。
俺が小細工を積み上げてやっとのことで出した火力を、彼らは簡単に出してしまう。
羨ましい。
ずっと思っていた。
いや、今でも羨ましくそして妬ましく思う。
特化した力を持ち、パーティー内でそれを活かした地位を築き、華々しく活躍する彼らを。
わかってる。本当はわかってるんだ。
彼らの強さは膨大な努力の上にあるもので、決してギフトや特別なスキルだけのものではないと。
才能があったとしても、それを使いこなす力を身に付けなければ才能は開花しない。
「わかってはいたんだけど、やっぱ俺はまだまだ努力不足だなぁ。やべーよな、才能もあって絶えず努力もできる人って。俺も色々頑張ってるつもりだったけど、やっぱみんな見えないとこで頑張ってんだろうなぁ。それを見ちゃったからな……そりゃ、強くて当たり前だよな」
カリュオンの強さの理由の片鱗を実際に見てしまったから。
そういえばドリーだって毎日欠かさず、俺よりもハードな鍛錬を続けている。
アベルやシルエットもよく本を読んで自分に合った魔法や魔力操作の研究を続けている。
リヴィダスはその日の活動が終わった後に、自分やパーティーメンバーの動きを振り返って立ち回りを研究している。それと爪も頻繁に研いでいる。
漠然とわかっていたことだが実際にそれを見てしまうと、才能がある人を単純に羨ましいと思うのが恥ずかしくなった。
俺が半端なところから伸び悩んでいたのは、ドリー達を見て特化型のギフトやスキルを持っているから強いんだって、ないものねだりな気持ちで諦めていたから。
俺の半端さは俺自身が原因なんだよなぁ。
わかっちゃいたけれど、改めて認めるとやっぱ悔しいな。
黙々と矢を作りながら苦笑いをすると、カメ君が矢を作りながらペチペチと尻尾で俺の腕を軽く叩いた。
そしてモコモコちゃんが小ぶりなリンゴのような果物をスッと俺の方に差し出した。
「カッ!?」
それを見たカメ君が負けじと小さめのクラーケンを出してきて、誇らしげに胸を張った。
「キッ!?」
それを見たモコモコちゃんがピコピコとブロッコリーのような尻尾を振り始めて、これは無限ループになるやつのような予感がした。
色々素材を出してくれそうなのはありがたいのだが、そのうちエキサイトしてでかいものが出てくるとスライム達が危ない。
「励ましてくれてありがとう。果物もクラーケンもどっちも嬉しいからこれだけで十分だよ。ああ、もちろんわかってるよ……俺はカリュオンにはなれないし、俺には俺にしかできないことだってある。器用貧乏だって悪いことより便利なことが多いからな。ただ十分に使い込まずに、半端なギフトだと半ば諦めていたのがちょっと恥ずかしいなって。もっと自分のギフトを使い込んで、ちゃんと使いこなせるようにならないとな」
励ましてくれたカメ君とモコモコちゃんにお礼をいいながら、自分の気持ちを整理する。
漠然と頑張ろうという気分になったのは、そういうことだよな。
伸び悩んでいるのは器用貧乏の恩恵が感じられなくなるほどスキルが上がると、これ以上は上がったらラッキー程度の気持ちになって自分で諦めていたから。
自分が器用貧乏だから半端なのだと勝手に諦めていたから。
器用貧乏に勝手に悪いイメージを持っていたから。
「よっし、俺も頑張るぞ。でも今さら改めて頑張るぞってみんなに言うのは恥ずかしいし、急に鍛錬の量を増やしたのを気付かれて突っ込まれるのはなんか気恥ずかしいな」
不意にカリュオンがこっそり隠れて弓の練習をしていた理由がわかった気がした。
改めて決意をしたのを勘付かれるのは、なんとなく恥ずかしいのでやっぱこっそりだな。
「よっし、元気出た! やる気も出た!」
今すぐにでも剣を振り回したい気分だが、日差しが強くなって暑くなる時間だし、もう少ししたら昼飯や三姉妹のためのゴージャスオヤツを作らないといけない。
鍛錬は涼しい時間になったら本気出す!!
「練習用の矢もたくさんできたし、休憩にして午前のおやつタイムにしようか」
お読みいただき、ありがとうございました。
明日と明後日の更新はお休みさせていただきます。
土曜日再開予定です。
グラン&グルメ2巻の特典情報がゲーマーズ様とメロンブックス様で公開されてます(小声
KADOKAWAホビー書籍編集部様のツイッター(@eb_hobby
)でラトと三姉妹のビジュアルも公開されてます。




