酔ってませんよ~
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「あらあら、なかなか帰って来ないと思ったらドワーフのところにいらしたのですね」
「あーあ、モール以外潰れちゃってるじゃない。カリュオンはハイエルフの血筋だっていうのに、ドワーフの里で眠りこけるなんていい度胸ね」
「あらぁ、これは今日はもう起きそうにないですねぇ」
「昼間から酔い潰れるとはどうしようもない奴らだな」
「みんな昼間から飲み過ぎも。頭ピカピカが転移魔法で送るって言ってたのに、酔っ払って寝てしまったも」
あれ? 三姉妹とラトの声?
えぇと……俺、昼飯を食ってからどうしたっけ?
そうそう、クーモ工房の庭で焼肉をしながら酒を飲んでいたんだ。
クーモが出してきたブランデーを飲んでいて、肉を焼いて食べて、アベルが出してきたワインも飲んで、途中で酔っ払ったカメ君がメイルシュトロックをばら撒いたけれど俺とアベルでなんとか回収して。
今日は何だかカリュオンがやたら飲んでいて、クーモがカリュオンの親父さんの話で盛り上がりはじめて、カリュオンは更に酒を飲んで酔っ払って親父さんの愚痴をひたすら零しまくって、ドワーフのクーモがハイエルフのカリュオンの親父さんを擁護するっていうシュールな展開だったのは覚えている。
いつも飄々としているカリュオンだが、親父さんに対しての想いをたくさん抱えていたんだな。
酔っ払ったカリュオンから聞こえてくる愚痴は、親父さんが嫌いというよりお互いに伝わらない感情のもどかしさを感じた。
うちの親父も無口で何を考えているかわかりにくいタイプだから、父親に対して苦手意識というか距離できてしまうのはわかるな。
もう少し俺が年を取ったら親父と普通に話せるようになるのかな。カリュオンもいつか親父さんと腹を割って話せる日がくるといいな。
それからどうしたっけ?
そうだ、ブランデーがリンゴのブランデーだったからカクテルで飲むのもいいなって話をしたらアベルが飲みたいって言い出して、ライムの果汁とザクロの果汁とメイプルシロップ混ぜた甘いカクテルを作ってやったら、何度もおかわりをして途中で寝てしまった。
おいいい、お前が寝たら帰りはどうするんだよおおお!!
というか冒険者が初めて来た場所で酒を飲んで寝るなあああああ!!
アベルだけではなくカメ君まで一緒になってブランデーベースのカクテルを飲んで、気付けば裏返ってスヤァ。
カメ君はリンゴが大好きだから、リンゴのブランデーが気に入って飲み過ぎちゃったのかな?
でも、酔っ払ってメイルシュトロックをばら撒くよりは寝ている方が安心かも?
あ、メイルシュトロックはありがたく回収しておいたよ。珍しい素材をありがとう。
で、俺も愚痴モードに入ったカリュオンの絡み酒に巻き込まれながら、クーモに勧められるがままに酒を飲んでしまい、気付けば俺もスヤァ。
冒険者が初めて来た場所で……むにゃむにゃむにゃ……。
うっかり飲み過ぎたけれど、クーモとはすっかり仲良くなったので結果よしぃ……スヤァ……。
気付いたら寝てしまったようだが、ラトと三姉妹が迎えに来てくれたみたいだな。
うん、大丈夫~起きてる~起きていますよ~~~。
がっつり酔い潰れているアベルとカリュオンはしょうがないにゃ~、俺が二人纏めて抱えて連れて帰ってやるよ~。
「やば、グランが酔っ払って挙動不審で面倒くさいやつだわ」
「前にドリュアスのところで酔い潰れた時も、グランは意味不明の行動をしてましたわね」
「酔っ払って徘徊して穴に落ちたら危ないですしぃ、魔法で眠らせますかぁ」
「酒癖の悪い奴らには困ったものだな」
「主様もドワーフのところで飲み過ぎて、坑道に嵌まって寝てるのを時々見かけるも」
坑道で嵌まって寝ているなんてラトはだらしないな~。
酒は飲んでも飲まれるなとはよくいったものだ。
「む? 私のあれは地下の見回りの一環であって、けっしてただ酒を飲んで寝ているわけではない。うむ、私のような強い力を持った聖なる神獣がここを訪れることによって、洞窟の底から湧いてくる闇が産む魔物も地の底で大人しくしてるであろう。そうそう、これは番人の仕事なのだ。ドワーフはその対価として酒を振る舞い、私を敬っているのだ。そのついでに坑道に居座って周囲の安全をだな……」
「確かにラトは大きいから坑道で寝ていると、物理的に坑道が封鎖されて魔物がモール達のエリアに行かなくなりますわね」
「魔物以外の者も通れなくなるけどね」
「あんまり酔っ払って地下をウロウロしていると、いつかうっかり縦穴に落ちてしまいますよぉ」
「酔っ払って縦穴は危ないもね。ドワーフ達ですら酔っ払ってる時は縦穴に近付かないも。主様も気を付けるも」
酔っ払っている時にあの縦穴には近付きたくないな。もし落ちたら……こわいこわい。
「この私がそんな失態を犯すわけが……。しかしあの穴の先は底なしのダンジョンだからな、私とて落ちたくないな。元はテムペストの縄張りの下にあった洞窟だが、長い時をかけてすっかり広がってしまったな。ここにあの樹を植えたせいで急激に広がったとかテムペストに文句を言われたような言われてないような……根付いてから気付いたことだから手遅れだな」
「あまりご近所様に迷惑をかけてるのはよろしくありませんことよ」
「でも樹が育ってテムペストの縄張りも豊かになったから、結果よしではあるのよね」
「ですねぇ。森が豊かになればテムペストさんの力も強くなりますからね。今年もそろそろテムペストさんがあちらの森の実りを持って来てくれる季節ですよぉ、楽しみですねぇ」
「もっ! クーモの奥さんがクーモを呼びにきたも! そろそろ夕方だからみんなご飯の時間も! オイラもそろそろ帰るも!」
え? もうそんな時間? 帰ってご飯を作らないと!
起きますよ~、起き起き起きる~~~。
「もう! グランはちょっと大人しくしてて! 無駄に魔法抵抗が高くてスリープの効きが悪いわ! お腹がすいてきたから早く帰ってご飯が食べたいのに!」
「植物でキュッとしてしまいますかぁ? グランはもう今日はご飯を作るのは無理そうですから私達で作りましょうぅ」
「物理的にキュッとするのは加減を間違えると危ないですわ。痺れる花粉の花でも咲かせましょうか? 今日は森でキノコをたくさん採ったのでそれを使った料理にしましょう」
何か怖いことが聞こえるけれど、ちゃんと起きているからやめて~~~!!
助けて番人様!!
「適当に意識を刈り取って、連れて帰ればいいだろう。キノコはそのまま焼いて酒のつまみでもいいな」
番人様!?
あっ……どうせならお手柔らかに……。
「酒は飲んでも飲まれてはダメも」
あぁ~、タルバの声が遠くに聞こえる~……スヤァ……。
カッ!
カッ!
カッ!
カッ!
どれくらい意識が途切れていたのだろう、遠くで乾いた音がかすかに聞こえる。
ああ、まだ視界は戻らない。いや、目が開いていないな。
ただ、乾いた音だけが少し間隔を空けながら聞こえてきている。
何の音だろう。
音の正体を探ろうとすると、少しずつ意識がはっきりとしてきて、もっと小さい音まで聞こえるようになった。
ヒュッ!
カンッ!
何か風を切るような音の後に何かが何かにぶつかるような乾いた音。
その音が少しの間隔を空けながら繰り返される。
音を聞いているうちに重かった瞼が動くようにゆっくりと目を開けると真っ暗。
体を起こし首を巡らせると、開いた窓の外に真っ黒な森と星空が見えた。
星の僅かな光だけの中、少しずつ暗闇に目が慣れここが自分の部屋だと気付いた。
「あたたたた……」
頭が妙に重い。
ええと、クーモの工房で酒を飲んでいて途中から記憶にない。
どうやって戻って来たんだ?
なんかラトと三姉妹が来ていたような来てなかったような……。
うわぁ……やらかしたかもしれない……。
ヒュッ!
カンッ!
意識が戻るきっかけになった音が窓の外から聞こえてきた。
音は気になるが、その前に水ぅ。
この喉のガラガラと途切れている記憶。
クーモのところで酔い潰れて、誰かに連れて帰ってもらったようだ。
そして、周囲の様子から夜中までぐっすり寝ていたらしい。
とりあえずベッド横のチェストに置いているカップに水の魔石で水を注ぎ、それを飲み干してベッドから出た。
チェストの上にはカメ君専用の籠型ベッドが置いてあり、そこでカメ君がピーピーと鼻を鳴らしながら爆睡をしている。
ヒュッ!
カンッ!
窓の外からの音は、間隔を空けながら続いている。
距離は少し離れた場所か。
まだ少し重い頭を押さえながら開いている窓へと向かい、星の光だけを頼りにその音の源を探した。
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