カリュオンの苦手なもの
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「ふむぅ、確かに似ているのは顔だけじゃな……ハイエルフの子のくせにフルプレートアーマーなんて変な奴じゃのぉ。しかも盾と鈍器、全てハイエルフの嫌いな金属武器じゃないか。肉までもりもり食いおって腹は壊さないか? 大丈夫か?」
「まぁ、あいつらヒョロヒョロしてるから金属の武器や防具は重くてまともに扱えないし、金属は魔力との相性もあるから相性が悪いとすぐブツブツが出る奴らだしな。俺はハイエルフと人間のいいとこ取りだから、金属も平気だし肉をいくら食っても腹は壊さないぞ」
「ちょっと、カリュオン! それ、俺の肉! グランまで俺の肉を取ってる!」
「俺は肉指揮官だから、全ての肉を俺のタイミングで食っていい権利があるんだよ。カメ君が持って来た貝もそろそろ食べ頃だぞ」
「カッカッカッ!」
「昼間からそんなに飲んで大丈夫も?」
「いいよ、帰りは俺の転移魔法で帰るから。タルバも家まで送ってあげるよ」
「む、エルフみたいな顔をしてると思ったら、転移魔法まで使えるのか? そこのハーフエルフよりエルフみたいな人間だな」
ここはドワーフの住み処の外れにあるクーモの工房。
その庭で、バーベキューでなう。
どっからどう見てもハイエルフなカリュオンの顔を見たクーモが、今にもカリュオンにケンカを売りそうな雰囲気になったのだが、小空洞の傍で大騒ぎをするとあちこちに声が響いてうるさいし、その声に釣られて魔物も寄ってくるのでケンカをするなら安全なところでということで移動をしようとなった。
――のだが、見た目以外エルフらしくないカリュオンに、クーモがすっかり毒気を抜かれてしまい、ドワーフの里まで案内してもらうついでにクーモの工房に連れ込まれた。
さすがに見た目ハイエルフのカリュオンをいきなりドワーフの里に連れて行くとバケツを取った瞬間に混乱が起こりそうだったので、とりあえず里の外れにあるクーモの工房で落ち着くことにしたのだ。
そこで今後取り引きができればと交渉を始めようとしたら、話をするならまず酒からとクーモが酒を出してきて、ならばちょうど昼を回ったところだしと俺がバーベキューセットと食材を出した。
それを見たアベルやカリュオンは高級ワインやら果物を出してくるし、カメ君は貝をたくさん出してくるし、すっかり宴会モードである。
よっし、昼間っから酒を飲んで親睦会だ!!
「アミュグダレーは五年に一回くらいかの、バカでかい金属弓の手入れにやって来るな。ハイエルフは好かんが、金を貰えばその分の仕事をきっちりするのはドワーフの矜持だ。どうせあんな重い弓はエルフには使いこなせないというのに、もっと綺麗に磨けだの、表面に曇りが残ってるだの、傷が付かないように丁寧に扱えとかいちいち注文が多くて面倒くさい奴だが、金属弓の手入れはエルフには無理だと知ってわしらの力を借りに来るのは認めてやって、仕方なしに手入れしてやっとるんじゃ。いいか、仕方なしにじゃぞ! なかなか良い弓なのじゃが、きちんと手入れをしてずっと大事に扱っていてもやはり武器は武器。良い武器ほどヘタるまで使い込んでやって修理をしてまた使い、その中で傷つけばそれが味となり、数多の戦いを共にくぐり抜け手に馴染んでこそじゃ。あんな良い弓をあやつは大事にいつまでも飾っておるだけで、そこがやはりいけ好かんな」
「……その弓はお袋のだな。俺は弓はチマチマして苦手だから、その弓は親父がずっと持ってる。武器なんて使ってなんぼだというのに、大事にいつまでもしまい込んで見ているだけだ。生粋のハイエルフだから弓の扱いは得意なはずなのに、ヒョロヒョロすぎて重い弓は使いこなせないし使う気もない。だっせーな、ホント」
酒が入ったクーモは機嫌が良くなったようで饒舌になり、一方カリュオンは珍しく悪態をついている。
「大型の金属弓はヒョロヒョロエルフには使いこなせないが、エルフと人間の両方の特性を持つお主なら、エルフの命中力と人間のパワーで金属弓も使いこなせるのではないか?」
「うーん……子供の頃は親父やお袋が弓を使うのを見て少しは使っていたが、いつの頃からかな……もう随分長い間弓は触ってないな。ペチペチと逃げ回りながら撃つのが苦手なんだよなぁ。お袋は鈍器も併用していたから、強気に前に出てぶん殴って逃げられたら弓を撃ってたな。それでたまにその金属弓で魔物をぶん殴ってた。お袋みたいな戦い方は憧れるけど、俺は盾を持ってるから弓が持てないんだよなぁ。それに俺はタンクだから常に最前線でやっぱ弓は撃つ機会がなさそうだな」
すっかりクーモと打ち解けているコミュ力お化けのカリュオンが、クーモが持ち出してきたブランデーをちびちびと啜りながら苦笑いをする。
カリュオンは右手にトゲトゲ鈍器のモルゲンステルンを持ち、左手にも体全体を隠すことができるほどの大盾を持っている。
どちらも普通なら片手で扱えるようなものではないのだが、カリュオンは右と左にそれらを持った上でフルプレートアーマーを着込んで走り回るとんでもゴリラエルフである。
そこに更に金属製の大型弓を持つとなれば、さすがのカリュオンでも戦闘に支障が出るくらい動きに影響が出そうだ。
ちなみに装備を全て脱ぎ捨てた時のカリュオンは猿のように素速い。やっぱあんだけ重い装備を着ていると機動力は下がるよな。
カリュオンもマジックバッグを持っているが、中身は各種属性の鎧が詰まっているとかであまり空きがないと言っていたな。それにマジックバッグは色々とものを突っ込んでいると、俺の収納ほどスムーズに中身を取り出せないので戦闘中に武器の持ち替えをするには向いていない。
「弓専用のマジックバッグ……いや弓だけじゃだめだな、弓を使う時に棍棒と盾をぱぱっとしまって、必要な時にはすぐに弓と持ち替えられるマジックバッグ――スロウナイフホルダーのように個別にしまえるようにすれば、棍棒と盾、弓をスイッチで使える? いや、やっぱタンクのポジションだと盾を手放すのは恐いか? 金属弓なら鈍器代わりになるほど固いし、いつもの大盾ほどじゃなくてもパーツを展開して仮の盾にできる仕組みにできないだろうか。変形型武器は浪漫もあるしありだな……」
ちょうど王都の地下で集めてきた無属性の魔石もあるし、空間魔法の付与も少しならできるようになったし、カリュオンにスロウナイフホルダー型マジックバッグを作るのはありだな。
「まぁた、グランが変な装備を考えてるー。でもスロウナイフ用のホルダーをマジックバッグ形式にしてそこに大型武器をしまえるようにするのは面白そうだよね。武器一つだけなら空間魔法も大がかりじゃなくていいからコストも結構おさえられそう。あ、この程よくカリカリの肉は頂き! グラン達が話し込んでいるうちにどんどん肉が焼けてるよー、程よくカリカリなのは俺が食べてあげるからゆっくり話し込んでていいよ」
しまった、俺としたことがカリュオン達の話に気を取られて肉を見ていなかった。
気付けば肉もないし貝もない、はぁ、次のが焼けるまで待つか。
「弓と簡易的な盾に変形させる武器か……確かに弓も盾も通常は利き手ではない側に持つからありだな。何より変形武器というのは浪漫が詰まっておる」
新たに肉を並べているとクーモが変形武器に食いついた。
ウーモも変形武器や仕込み武器が好きだし、やはり兄弟だな。
「でも、盾と鈍器と金属弓になるとやはり持ち歩きの面と、マジックバッグを使うなら取り出しと格納をスムーズにする方法を考えないといけないからな」
「それなら武器そのものを魔道具にして、空間魔法で大きさを変えてホルスターにしまっておくという手もあるな。まぁその付与はわしらよりモールやハイエルフに依頼する方がいいな」
「もっもっもっ。オイラ達は細かい装飾品や日用品の付与は得意だけど、大がかりな付与は魔力が足りなくてハイエルフ達の方が安定するも。というかもののサイズを変える空間魔法はハイエルフが得意も。バケツはできないも?」
「ははは、俺は物作りや付与は苦手なんだ。両親からパワーと魔力と体力は受け継いだけど、そっち方面はさっぱりいまいちだったんだよな。それに弓はまだいいかなぁ……もう弓なんて何十年も使ってなくて、大きな金属弓は持ち上げることができても扱う技術がないな。今の俺があの弓を持ってもまだ使いこなせないから、親父に任せておく方がいいかな」
カリュオンが苦笑いをしながらグラスに残っていたブランデーをいっきに煽った。
まぁ本人がそう言うなら変形型浪漫弓は今回はなしかなぁ、残念。
「おっと、話してばかりだとまた肉がアベルいきになっちまう。よっし、この辺はもう焼けたな!」
話してばかりいると肉がなくなっちまう。バーベキューは弱肉強食なのだ。
「こっちもそろそろいけるぞぉ」
「わしも肉は焼きすぎない方が好きじゃな」
カリュオンとクーモはすっかり意気投合をしてしまっている。おそるべし、コミュ強ハーフエルフ。
「ちょっと、また焼ける前に肉を取ってる!」
そしていつもの。
「肉はグランが最近よく持って来てくれるもだから、今日は貝を食べるも。海の貝は珍しすぎるも」
「カッカッカッカッ!」
タルバにおだてられてカメ君が次々と貝や魚を出し始めたぞ。
よく見るとカメ君の顔がほんのり赤らんでいて、すぐ横には空になったグラスがある。
気がつけばブランデーの入っていた俺のグラスも空になっているし、クーモが出した酒瓶の中身もかなり減っている気がする。
カメ君!? もしかして酔っ払ってる!?
しかもまだ尻尾がピロピロしているぞ。
「新しい縄張りの鉱石好きの住人には特別に珍しい海の鉱石を贈るカメ~? ちょっと、チビカメ!? 変なものを出さないでよ!!」
おい、アベル。カメ語を翻訳するついでにフラグを立てんな!!
「おお? なんか青い綺麗な石が降って来たぞぉ?」
あぁー、カリュオンもブランデーをいっきに煽ったせいで酔っ払いの顔になっているぞ。
って珍しい海の鉱石? 青い綺麗な石?
あああああああああーーーーー!!
メイルシュトローーーーーーーーーック!!!
ボトボトと降ってきた青い石を慌てて受け止め収納の中に引き込んだ。
俺が間に合わない分はきっとアベルがどうにかしてくれる。
お読みいただき、ありがとうございました。
明日と明後日の更新はお休みさせていただきます。
土曜日から再開予定です。




