世界は広いが時には狭い
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そのシルエットはまるで酒樽。
ずんぐりと丸っこい体型だが、決して無駄な肉ではなく筋肉。背丈のわりに太い腕とガッチリとした下半身。
それは広さに限りのある地下坑道で採掘をすることに特化した体型である。
顔の輪郭と口の周りをもっさりと覆う長い髭は顎の下で三つ編みにして垂らされて、その中には鮮やかな布が一緒に編み込まれているのが妙に目立つ。
また髭と繋がるやたら量が多く長い髪の毛は後ろで二つにわけ、極太の三つ編みにされ先端は金でできた輪で留められている。
ドワーフって髭や髪の毛が伸びるのが早いのか、髭や髪の毛を三つ編みや編み込みしている者が多い印象があるが、体型のせいか、やたら多いせいか、男性でもその三つ編み姿が似合ってあまり違和感がない。
ドワーフという種族だからだろうか、俺が王都で世話になっていたドワーフ鍛冶屋のウーモになんとなく雰囲気や顔の作りが似ている。
「上の方がやかましいと思ったらモールの客か? ふむ、人間とー……亀か」
いかにもドワーフといった風貌のおっちゃんが、三つ編みにした長い髭をさすりながら品定めをするように俺達の方を見る。
一人は半分ハイエルフな人間で、バケツを脱げば見た目だけはピッカピカのハイエルフだけどな。
フルプレートアーマーにバケツを被っているので、どう見てもヒョロヒョロハイエルフの血を引いているようには見えないのが幸いして、ドワーフと不仲なエルフだとは気付かれていない。
「もっもっもっ、石孔雀の石を採取に来たついでに坑道を案内してたも」
「ふむ、モールのとこに人間が来るのは珍しいな。モールの住み処に近い穴は森の主様達の縄張りであろう」
モールの住み処に近い入り口って、俺が初めてモールのところに来た時にはまった穴のことかな。
あの穴は、ユニコーンと遭遇した森の湖を少しだけ奥へ踏み込んだ辺りだ。
あの湖を境に手前と奥で森の雰囲気がガラリと変わる。
ラト曰く、アルテューマの森は人間が森の奥地まで踏み込めない結界が張ってあるため、森に近付く人間は奥に進もうとしても、結界の空間魔法が発動して入り口付近に戻されるらしい。
その人間が踏み込める場所の限界があの湖辺りだと思われる。
俺はいつの間にかラトから森に入る許可を貰っていたらしく、ラトと出会った後に何も知らずにあの湖よりも奥に踏み込んでいた。
モールの穴にはまったのもその頃だ。
モールの穴がある場所よりも更に森の奥まで探索をしてみたこともあるが、湖より奥は木々の密度も高くなり棲息している魔物の強さも格段にあがる。
珍しい素材は多く見かけるのだが、昼間でも薄暗く探索スキルを使っていても非常に迷いやすい。
というかめちゃくちゃ迷った上に、魔物を大トレインすることになってしまったこともある。
「もっ! グラン達は森の主様達とも仲良しで鉱石が大好きな人間も。だからぼったくらずに仲良くしておくと良い取り引き相手になってくれるも」
俺達がドワーフにぼったくられないようにタルバが牽制してくれているようだが、その理由が非常にモールらしくて微笑ましい。
ちょっとだけ訂正すると、好きなのは鉱石だけじゃなくて素材全てだ。
モール達は良い取り引き相手、そして良き隣人である。ドワーフ達ともそういう付き合いができればありがたいな。
「む? 主様達と縁があるものか? そういえば主様達が最近人間の家に入り浸っているらしいと森の妖精が噂をしておったな。どうりで最近は昼間しか酒に付き合ってくれぬと思った」
そういえばドワーフも酒好きだったな。こんなに近くに住んでいるのならラトと飲み仲間だとしてもおかしくない。
「ああ、ラトとは縁があって仲良くしている。森の入り口辺りに住んでいるグランだ、よろしく。で、こっちはカメ君」
「カカッ!」
「む、ドワーフのクーモだ。その小空洞の先にあるドワーフの里で鍛冶工房をやっている。主様達と懇意にしている人間なら、特別にいつでも依頼を受けてやるから必要なら訪ねてくるがいい。ただし、ドワーフの技術は安くはないぞ。む、宝石みたいな亀だな。それに亀にカメと名付けるそのセンス、わかりやすくて悪くないぞ」
挨拶も兼ねて右手を出すと、クーモと名乗ったドワーフはその手を握り返してきた。
よっし、ファーストコンタクトはいい感じだな。
それにしても、クーモか……雰囲気だけではなく名前までウーモと似ているな。ドワーフってそういう系統の名前が多いのだろうか。
「グランの家に住んでる魔導士のアベルだよ。ドワーフだから? 何だか俺の知ってるドワーフにすごく似てるね。名前も似てるし髭も同じような布を織り込んだ三つ編みだし、もしかして親戚とかだったりする? 王都にいるウーモってドワーフ鍛冶屋なんだけど知ってる?」
「なんじゃ、人間なのにエルフみたいな顔をした奴じゃの……ってウーモ!? 同じような布? それなら、知っとるどころか兄貴じゃ兄貴! ドワーフなのに土の中は飽きたといって出て行って、数十年連絡もないんじゃが、人間の町におったのか。で、兄貴は元気にしとるか? 偏屈すぎて人間の町で浮いてそうだな」
あー、似ていると思ったら兄弟かよ! 世の中って広そうで狭いな!!
「俺は魔導士だからあまり鍛冶屋には行かないけどグランとカリュオンはウーモの店の常連だよね。まぁちょっと偏屈だけど腕は確かだから、王都でも人気の鍛冶屋だよ。でも数十年も連絡してないなんて悪いお兄さんだね、心配なら俺が手紙を届けてあげるよ。ふふふ、ドワーフと仲良くしておくのも悪くないからね」
「む、兄貴の居場所を知ってるなら頼むとするか。数十年音沙汰がないとさすがに親父とお袋も年をとるからの、たまには顔を出せと手紙でも書くか。で、そっちのすごい鎧と盾の兄ちゃんは?」
ドワーフはエルフほどでないにしろ人間よりも長生きだ。それでも数十年実家に帰っていないとなると、残された時間が少なくなる者も多いだろう。
「ん? 俺? ハーフエルフのカリュオンだよろしくな」
エルフ嫌いのドワーフ相手に臆することもなく、自分がエルフの血筋だと言ってのけるカリュオンはさすがだ。
そしてパカリとバケツヘルムを取った。
「何? ハーフエルフ? は? げええええええええ!! お前はアミュグダレー!!」
洞窟にクーモの叫び声が響き渡った。
「あ、それは俺の父親。顔はほんの少しだけ似てるかもしれないけれど、俺はアイツみたいにむっつり偏屈じゃないぞぉ」
カリュオンはそれを予想していたのか、ものすごく渋い表情でカリュオンを睨んでいるクーモに、いつものひょうひょうとした口調で話しかけた。
カリュオンは偏屈ではないけれど、変人ではあるな。
「もっ! 大きい奴らもうるさいけど、ドワーフもうるさいも。ケンカをするなら安全なところでするも」
少し呆れ気味なタルバの声を聞きながら、こんな大きな縦穴の傍でケンカになると危ないかなと仲裁に入ろうかと思ったが、カリュオンならエルフ嫌いのドワーフを上手く丸め込んでしまいそうだと移動だけ促すことにした。
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