頑丈だから問題ない
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壁の所々に生えているぼんやりと光るキノコが、暗い坑道をぼんやりと照らす様は幻想的だ。
どこかで流れる地下水の音が聞こえてくる。そしてそこから発生しているのだと思われる靄が床や壁を塗らし、キノコの光を反射して艶々と光る。
暑い季節が始まった地上と違い、坑道を奥に進めば進むほど空気はひんやりとし、肌寒さすら感じるほどだ。
俺達が現在いる坑道は天井の高さが二メートル半くらいのため、俺の体格だと少しピョーンとしただけで天井に頭をぶつけてしまう。
横幅も俺とカリュオンが横並びになると肩がぶつかる程度のため、剣を振り回すのは厳しい広さだ。
そんな場所なので何か出てきたら、拳で殴るか足で蹴飛ばすか踏むかなのだが、出てきた魔物のほとんどはモールの罠によって追い払われている。
モールの罠こわっ!
その罠を抜けてくるような奴はアベルとカリュオンとカメ君が魔法でピュー。
剣すらもてずいつにも増してレンジ弱者の俺、例によって何もやることがない。
おっ、こんなとこに壁から鉱石が生えているぞ。ちょっと引っぺがして……。
「カーーーーーーッ!!」
そういえば先ほども似たような鉱石を触ったら、モールの仕掛けた罠で水が降ってきたよな。
危ない、すごく上手く隠蔽されているが、探索スキルで確認したらこれも罠っぽいな。
カメ君、そんな怒らなくても罠を触ったりなんかしないから俺を信じるんだ。
「罠は知っていれば避けられるように設置あるも。だから変なところは触ったらダメも。わかりやすくキラキラしてる鉱石は罠も」
「お、おう。キラキラした石は触らないようにするよ」
罠はタルバが教えてくれると思って、つい好奇心を優先してしまっていたな。
気を引き締めて……あっ! あれはラピスラズリでは!!
「カーーーーーーーッ!!」
「それも罠も」
ヒッ!? 罠ありすぎ!!
タルバ曰く、俺達が通れるような大きめの通路は元は自然の地下洞窟だったものを使いやすく整えたもので、洞窟の奥以外だけではなく森の各所へと繋がっており、この通路を通ってドワーフやその他モールと交流のある種族がモールのところまでやってくるらしい。
だがこの広さ故にモールにとって脅威になる魔物が侵入してくることもあるため罠が多く仕掛けられているらしい。
その罠というのが、重さや足のサイズ、モールの背丈では届かない高い位置のスイッチで発動するという罠だ。
モールなら普通に歩けるが、モールより大きな生物が何も考えずにここを通ると罠にかかるという仕組みになっている。
俺達が通れる通路とは別に、その通路から枝分かれしている小さな通路。こちらは身長が一メートルに満たないモールであれば通れるサイズ。
こちらのモールサイズの通路が普段モール達が使う通路で、モールの縄張りのあちこちへと繋がっているそうだ。
大きな生き物達はこの通路に入ることができず、広い通路に迂回することになり、自然と罠の多い通路に誘導される造りになっている。
ヒッ! モールのテリトリーこわっ!
石孔雀から孔雀石を剥ぎ取った後、そんな話をしながらタルバの案内で坑道を奥の方へと進む。
好奇心旺盛なアベルが広大なアルテューマの森の下にあるという洞窟に興味を示し、少しだけ奥に行ってみたいと言い出したのでタルバに無理のない範囲で案内してもらうことになった。
複雑に入り組んだ坑道をタルバの案内で進みながら、モール達の行動範囲に入り込んでいる魔物を駆除しつつ、採掘場に寄り道して鉱石をお裾分けしてもらっている。
罠でも魔物は倒せるけれど、罠が発動したらその後仕掛け直す手間がかかるから、俺達がパパッと魔物を駆除すればモール達も助かるらしい。
……無駄に罠を発動させてすまんかった。
「こんなに罠だらけの通路で、君達と交流のある人達は罠は大丈夫なの?」
言われてみればそうだよなという質問を、アベルがタルバに投げかけた。
「うーん、よく来る奴らはだいたい罠の避け方を知ってるも。それにドワーフは頑丈だから罠にかかっても大丈夫も、むしろ罠の方が壊れて困るも。ドリュアスもたまにくるけど、火の罠はないし奴らもわりと頑丈だからこっちも問題ないも。後は森の獣人もだいたい頑丈だから平気も。罠が恐い奴らやオイラ達の住み処を知らない奴はドワーフや頑丈な種族経由で依頼してくるも。ドワーフと仲の悪いハイエルフはヒョロヒョロだからちょっと危ないもだけど、ハイエルフは長寿で時間の感覚がオイラ達よりのんびりだから数年単位おきくらいでしかこないも。ひいひい爺ちゃんくらいの頃は結構交流があったみたいで、すごい金属や宝石を使いまくってすごい祝福と防御系の付与をしたペアリングを作ったの見たとか爺ちゃんが自慢してたも。オイラもいつかすごい素材をたくさん使った細工をしてみたいもねぇ」
頑丈だから大丈夫で済むことなのか!? 槍といい雷といい結構殺意が高くないか!? まぁドワーフは頑丈そうだな!!
カリュオンはハーフだから例外だとして、ハイエルフのようなヒョロヒョロ種族がこの殺意の高い罠にかかると普通にやばそうだけど!?
それにしても鉱石の専門家のモールがすごいっていうほどの素材の指輪か……ハイエルフの依頼ならガチでやべーくらい稀少な素材だったんだろうなぁ。
俺もそんな素材を触ってみたいなぁ。
「カリュオンの故郷がある森ってアルテューマの森の向こうって言ってたか? もしかして森の地下にあるでかい洞窟ってカリュオンの実家の辺りまで繋がってたりするのかな?」
アルテューマの森もでかいが、その周辺にもでかい森が東西に長くひたすら連なっており、その広大な北側に大規模な山脈がありそこで気候ががらりと変わって、山脈以北がユーラティア北部と呼ばれる地域になる。
確かカリュオンの故郷であるハイエルフの森は、そのもこもこと連なる森のどこかだと言っていたような気がする。
「うちの方にも洞窟の入り口があちこちにあったからそこと繋がってると思うぜ。この辺りと別方向の端っこの端っこの端っこになるのかな。森の下に広がる洞窟の話は知り合いの苔玉にちらっと聞いたことがあるが、俺にはまだ無理だから奥には行くなって苔玉に言われて、少し奥までしか探検したことがないからあまり詳しくはないなぁ。でもアルテューマの森は主様が気難しいことで有名で、そこを通らず他の種族の集落や遠くの道に行く抜け道があるって長老が言ってたのがこの洞窟のことだと思う」
奥に行くなと言われても、少し奥まで探検をしているのがカリュオンらしい。
そしてその気難しい主達とカリュオンはすっかり馴染んでしまっているのも、さすが超陽キャラのカリュオンとしか言いようがない。
それにしてもカリュオンの話にちょいちょい出てくる知り合いの苔玉って何者だ? エルフの森の妖精とかか?
「洞窟はもともと深くて広かったもだけど、モールやドワーフが中心になって他の種族ともちょっとだけ協力して、長い時間をかけて周囲の森に繋がる道を掘ったらしいも。森の成長と共に洞窟も広がって、それに合わせて造った道も増えて、今でも道は増え続けてるも」
その増えた道の一つが俺んちの地下室に繋がる道か。
「アルテューマの森付近は森が深すぎて人間が近寄れるような場所ではないし、ユーラティア国内でありながら広大な森を支配する者のテリトリーで国の力の及ばない場所だから、この洞窟のことを含め国の把握してないことはまだまだありそうだね。いや、ここだけじゃないよね、グランの実家の辺りだって似たような魔境だし」
失礼なアベルだな、俺の実家は魔境ではなくて秘境だ。
しかし地上で暮らす者がいて、それらを繋ぐための道が縦横無尽に張り巡らされているように、地下に住む者がいれば、そこで暮らす者達のための道が張り巡らされているのも不思議ではない。
きっと人間が知らないだけで、人間社会にかかわらず生きている者達が暮らすそういう場所は世界にはたくさんあるのだろう。
人間が大きな国を築いていたとしても、人間よりも強く賢い生き物はこの世にたくさん存在し、この世界には人間の知らないこと、力の及ばぬことはたくさんある。
ただ人間に牙を剥いていないだけで、人間の力ではどうにもならない存在は人々の暮らしからそう遠くない場所にもいる。
そう、世界は広い。そして人間は小さいのだ。
「この先が小空洞だも。この先に進めばドワーフのテリトリーになるも。その周辺はここまでよりも強い生き物がたくさん住んでるも。オイラが案内できるのはドワーフの住み処までも」
タルバに案内されて坑道を進んだ先で道が急に広くなり、その先に大きくそして深い円系の縦穴が目の前に姿を見せた。
"小"というにはあまりに大きい。
"小"というからにはこれより大きな縦穴があるということだろう。
縦穴から吹き上げる冷たい風に身震いしながら覗き込むと、縦穴の壁面を沿うように下っていく道が見えたが、その終点を確認することはできなかった。
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