地の中に在る者達
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「クエエエエエエエエエエエエエッ!!!!」
薄暗く狭い坑道の中に甲高い――うるさい鳴き声が響き渡る。
「クエエエエエエエエエエエエエッ!!!!」
「クエエエエエエエエエエエエエッ!!!!」
「クエエエエエエエエエエエエエッ!!!!」
「クエエエエエエエエエエエエエッ!!!!」
「クエエエエエエエエエエエエエッ!!!!」
しかもたくさん。
坑道なんていう場所だからその声が反響しまくって、そのうるささが倍増どころの話ではない。
「うるせええええええええ!! てめえらあんまり騒ぐと石を毟った後に焼き鳥にしちまうぞ!!」
「うるさい!! 叫んでるグランもうるさいよ!!」
「アベルも叫んでるんだよなぁ。あー、でも俺もタンクとしての仕事をするために挑発シャウトしちゃうかなー!! うおおおおおおおおおおおおお!!」
「でっかい種族はみんなうるさいもね。騒ぐなら坑道がくずれない程度によろしくもね。あ、ついでにそこの床を人間の足の大きさで踏むと槍が落ちてくるから気を付けるも」
「ふぉぁ!? そういうことは早く言うもおおおおおおおお!!」
タルバの言葉が俺の耳に届いたのは、すでに足の裏に複数の突起物を踏んだ感覚があった後だった。
嫌な予感しかしなくてすぐにその場を離れると、その直後天井からドスドスと槍が落ちてきて俺が先ほどまでいた場所に刺さった。
「教えなかったら危なかったもね」
「教えられたけどすでに手遅れのタイミングだった気もするけどな!! って、そこのクソ鳥ども、待ちやがれ!!」
「カーーーーーーッ!!」
槍に当たりそうになったのは俺が悪いわけじゃないから、カメ君は肩の上から髪の毛を引っ張らないで!!
ここは地の中――モール達の住み処から地の奥に伸びる坑道を進んだ先。
日の光が苦手なモール達や、モールと同じく地下で暮らすドワーフ達が長い年月をかけ掘った地の中の道は迷路のように入り組んでいる。
その道は地上の各所、採掘場所、ドワーフ達の住み処、森の地下に広がる巨大洞窟などに繋がっており、その洞窟には地底エルフ達の棲む地底森林もあるらしい。
え? 巨大洞窟? 地底エルフの森!? 何それ、初耳!!
タルバの話によれば、アルテューマの森の地下深くには広大な洞窟があり、それは森の中心部に行くほど深く複雑なのだとかなんとか。
モールの住み処はその洞窟の端っこの端っこの端っこの端っこ辺りらしい。
この広大な地下洞窟には多くの鉱石が眠っているようだが、深い場所には魔物が棲んでおり奥へ行けば行くほど強力な魔物が増えるため、戦闘能力の低いモール達は比較的安全な洞窟の浅い場所で採掘をしているそうだ。
一方モールと同じ地底の住人であるドワーフは、背は低いが筋肉の塊のような屈強な肉体を持ち戦闘能力も高いため、モール達よりも地底奥深くに縄張りを構え、洞窟の深部でも採掘を行っているという。
また、広大な洞窟の一画には地底エルフという、地下で暮らすエルフが地の底に森を作り暮らしているという話だ。
地底エルフは滅多に地上に出て来ない謎に包まれた種族で、俺も名前を知っているだけで実物は見たことがない。
カリュオン曰く、地底エルフは嘗てのソウルイーター事件の時に地下に逃げたダークエルフの末裔達だとのこと。
今俺達が来ているのはモール達の採掘場。
モールの住み処から巨大洞窟の中心部方向にほんのほんのほんの少しだけ近付いた辺りらしい。
この辺りはまだモール達の縄張りだが、細かい魔物も入ってくるため魔物除けの罠が所々に仕掛けられている。
俺が踏んで槍が降ってきたのもそれ。
そしてそれを踏む原因になったのは、先ほどからくっそうるさい鳴き声を上げて走り回っている緑のクソ鳥。その大きさ大型犬ほど。
そいつを追いかけていて、うっかり罠を踏んでしまって天井からズドン。
おのれ、緑のクソ鳥許すまじ。
その緑のクソ鳥とは、モール達の採掘場の周辺に住み着いている石孔雀という、鮮やか緑色をした見た目は非常に美しい孔雀の魔物。
が、その羽毛は緑の石――孔雀石という鉱石である。
タルバがちょうどいい奴がいると言っていたのがこの石孔雀。こいつの体からいっぱい生えている孔雀石が緑の顔料の元になるのだ。
この石孔雀という魔物は暗い洞窟内に棲み普段は普通の羽毛なのだが、繁殖期になるとその羽毛が孔雀石に変化し、雄の石孔雀はゴージャスな孔雀石の羽を広げ雌にアピールしまくる。
雌も繁殖期には羽毛が孔雀石に変化するが、尾羽の一部だけなので雄ほど派手にはならない。
で、その繁殖期が終わると羽が抜けるように孔雀石が剥がれ落ち、普通の羽毛に生え替わる。
その時期は体が相当痒いのか、全身石の羽になった雄の石孔雀は洞窟内を走り回り、あちこちに孔雀石をばら撒いていく。
うるさいくらいでこちらから手を出さなければ襲いかかってくることもなく、そこまで強い魔物でもないのだが、石の羽が抜ける時期になると石をばら撒きながら走り回るため、小さなモールはぶつかられると大怪我をすることもあるし、転がった石に足を取られることもあって、この時期の採掘場で非常に邪魔な存在らしい。
そんな繁殖期とその直後はうるさくて危険な石孔雀だが、それ以外の時期は羽はふわふわで走り回ることもなく大人しい鳥で、主食である虫の他にもモールの天敵である蛇も食べるため、危険な時期以外はモールにとっては益鳥なのである。
今がその繁殖期が終わって石孔雀が走り回る時期で、色付きの鉱石が欲しかった俺と石孔雀の石を毟って大人しくさせて欲しいモールの利害が一致して、モール達の採掘場付近までやって来たのだが、益鳥故に傷つけないように捕まえて孔雀石を毟ろうとしてこの騒ぎである。
石孔雀を捕まえて石を毟るだけのチョロい作業かと思ったのだが……思ったよりうるさい、思ったより逃げるし走る、それに思ったより数が多い、そして思ったより凄くうるさい、うるさい、うるさい。
孔雀ってこんなうるさい生き物だったのか!!
まだ孔雀石がたくさん残る尻尾を威嚇するように広げて走り回る石孔雀。
当たり前のことだが、大型犬サイズの石の鳥に体当たりをされるとどちゃくそ痛い。
尻尾を広げていると更にでかく見えるし、尻尾部分も石のため、走りながらブンブンと揺れる石の尻尾が掠っただけで涙目である。
ランクはDランク程度のただの孔雀だと思って舐めていると、うっかり骨の一本や二本ポッキリといってしまいそうだ。
人間の俺だってそれくらい危険を感じるので、モール達にとってはかなり脅威的な存在だろう。
しかもこいつら小石を飛ばす程度だが土魔法を使ってくる。もちろんぶつけられるとそれなりに痛い。
たまに孔雀石も混ざって飛んでくるのでありがたくキャッチしているが、当たると小石よりも痛い。
「クエエエエエエエエッ!」
「キエエエエエエエエッ!」
「キョエエエエエエエッ!」
「ピエエエエエエエエッ!」
捕まえて孔雀石を毟り取ろうとしている俺達から逃げ回る石孔雀達が、横並びで止まりこちらを振り返って尻尾をブワッと広げて鳴いた。
やだ……嫌な予感がする。
「土魔法の石が飛んでくるも!」
「うげぇ、助けてタンク様!」
「ヒッ!」
「カッ!?」
タルバがササッとカリュオンの後ろに隠れるのが見え、俺も石孔雀を追いかけるのやめササッとカリュオンの後ろに回り込む。
一番後ろを走っていたアベルもすでにカリュオンの後ろだ。
「石の弾幕くらいなら余裕だなぁ?」
頼もしいタンク様がドンと大盾を地面に立てて構えるのが見えた。
直後、石孔雀達から小石の弾幕が発射された。その中には緑の石――孔雀石が混ざっている。
そして――。
カンッ!
カンカンカンカンカンカンカンカンカンッ!!
カカカカカカカカカンカンカンカンンカンカンカンカンカンカンカンカンッ!!
うっ……うるせええええええええええ!!!
盾を構えるカリュオン。その盾にぶつかる石の弾幕。
威力は低そうだがとにかくうるさい。
「カーーーーーッ!!」
あまりのうるささに、カメ君がカリュオンの盾の前に水のカーテンを出して静かに石弾幕をキャッチ――。
ポチャポチャポチャポチャポチャポチャポチャポチャポチャポチャポチャポチャポチャポチャポチャポチャポチャポチャ!!
「カメッ!?」
水のカーテンに突っ込んだ小石弾幕がポチャポチャという音を連続で立て、水飛沫を周囲に散らし床を水浸しにしていく。
「これはこれで凄く耳障りだし、床が濡れてすべりそうだよ! ていうか、眠らせればいいんじゃん。なんで今まで必死で追いかけ回してたの? ほんと、グランって頭の中まで筋肉だね」
アベル天才。
アベルが指パッチンをすると、石を飛ばしていた石孔雀達が床にパタパタと倒れた。
後はこいつらが寝ている隙に石の羽を毟るだけだな。ありがとうチート魔法使い様!
でも追いかけ回していたのはお前も一緒だろ。ゴリラ同罪。
「サンキュー、アベルー。これで後は石を毟って回収するだけだなー」
石孔雀達がアベルの魔法で眠ったのを確認してカリュオンの後ろから出て床で眠りこけている石孔雀の方へと早足で向かう。
「足元が濡れてるから気を付けるも」
ツルッ!!
「アッ!」
タルバに言われるとほぼ同時に、水のカーテンから飛び散った水で濡れた床でツルッといってしまった。
「壁に触ると罠のボタンがあるから気を付けるも」
カチッ!!
「そういうことは早くいってくれ!!」
こけそうになって咄嗟に手をついた壁からカチリという不吉な音がしたのはタルバの言葉のすぐ後だった。
「カーーーーーーーッ!!!」
カメ君、俺の髪を引っ張ってもこれは俺が悪いわけではないと思うんだ。
直後、天井からピロンと金属の棒が生えて、そこからピシャーッと放たれた雷が、俺と俺の肩に乗っていたカメ君を直撃してビリビリこんがりすることになった。
モールの罠、殺意が高すぎでは!?
というか、カメ君は俺の髪の毛を毟らないで!
仲良くこんがりすることになったのは、俺が悪いわけじゃないよ!!
お読みいただき、ありがとうございました。




