俺の静かな読書タイム
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リオ君とスライムの話で盛り上がりながらスライムの仕分けをしているとあっという間に昼になり、昼食を頂いた後もとりあえずリオ君が増やしたスライムを整理して今日の授業の時間が全て終わった。
まったく以て授業ではないのだが、部屋のあちこちに置かれていたスライムの瓶は綺麗に棚に並べて見栄えもよくなった。
そしてわかりやすいラベルも付けたので、どんなスライムが瓶に入っているのか一目でわかるようになり、危ないスライムも安全に保管できるようにケースに纏めておいたのでひとまず安心だ。
更にリオ君の育てたスライムをリスト化して飼育ノートを作り、それに日々の記録を付けることにした。
スライムの育成過程は自分の頭に入っているだけでもいいが、こうして記録に残しておくと後で確認した時に新たな発見があるかもしれないし、自分の研究を記録に残すことでそれを他人に伝えることもできる。
家族を説得してスライム学の道を進みたいリオ君にとって、彼が飼育しているスライムの細かい記録は家族の心を動かすものになるかもしれない。
そして彼が将来スライム学の道に進んだ時、今の研究が将来の礎になる可能性だってある。
なにより研究者を目指すなら、自分の研究を記録に残す癖を付けておいた方がいい。
スライムの整理が終わった後、記録用のノートを作って今日の授業はおしまい。
来週また俺がくる日までちゃんとスライムを管理して、記録を付け続けることがリオ君への宿題だ。
季節が夏なこともあって、前世の子供の頃に夏休みの宿題でアサガオの成長をノートに記録したことを思い出した。
リオ君がやっているのは、それよりもずっと専門的で難しいことだけれど。
授業が終わった後は、来た時と同じく馬車に乗ってリリーさん所有の宿屋に戻り、そこから例の扉でピエモンまで送ってもらったのだが、その前にリリーさんに相談して鉱物の図鑑を数冊貸してもらった。
俺が知っている鉱物は細工や鍛冶、調合に使うようなものばかりで染色系は専門外なので、次回リオ君に会うまでに少し勉強をしておくつもりだ。
といっても、あれだけ色付きのスライムを自分で作ったのなら、顔料になる鉱石については俺よりリオ君の方が詳しそうな気がするなぁ。
付箋だらけの本が積み上がった机を思い出し、勤勉なスライム好き少年に頬が緩んだ。
俺も負けていられないな。
今日一日を振り返ると、創作意欲が何だか湧いてきた。
俺よりリオ君の方が鉱物には詳しそうだなって思っても、やはり先生的には勉強をしないわけにはいかない。
リオ君も言っていたが、鉱物をスライムに与えると何かしらの毒性を持つスライムになりやすい。
そうならないためにも、あらかじめ顔料になる鉱石について調べておかなければならない。
そんなわけで家庭教師の翌日は、リリーさんに借りて来た鉱物の本を読んでお勉強。
リビングでのんびり読みたいところなのだが、今日はアベルが家にいるので鉱物の本を見られて質問攻めにされるとめんどくさいと思い、朝食の後から倉庫の地下室に引き籠もってスライムを眺めながら読書。
ここなら静かだし、地下室なので涼しく読書にもってこいの場所である。それにスライムのための読書なので、こうしてスライムを見ながら本を読んでいると新しいアイデアが浮かぶかもしれないし、色々試してみたくもなる。
俺のストックにあるものでインクに向いていそうなものはラピスラズリあたりだろうか。
しかしラピスラズリはなかなかいいお値段なのでスライムを染める実験に使うのには少しもったいない気もする。
そう思うと鉱物原料のインクは植物原料のものより値段の高いものになりそうだな。
まぁやるとしても貴族の坊ちゃんの事業になりそうだしリリーさんも協力するみたいだし、その辺のことはただの家庭教師の俺は深く考えなくていいよな。
そうだ、研究者というものはとりあえず研究するのが仕事なのである。
しかもラピスラズリは強力な聖属性の石で、傍に置いているだけで運気の上昇や体調の改善効果もある。それで作ったインクなら幸運を呼ぶインク、そのインクで手紙を書けば幸運の手紙といえるくらいの効果が僅かながらだがあるかもしれない。
今回の依頼のために使った資材の費用は侯爵家持ちになるので、ラピスラズリスライムを試すのもありだな。いや経費になるなら試すべきだろう。
よぉし、ラピスラズリをスライムに食わせちゃうぞぉ~!!
「おはもーーーーっ!! 使わない鉱石が溜まってきたから、サンプルを持って来たもーーーー!!」
読んでいた本を一度閉じ、今朝捕まえて来た生まれたてのスライムの入った瓶を手に取ろうとした時、バーンッと床にある扉が開いて、ちっこいモグラの獣人タルバが飛びだしてきた。
俺がスライム部屋にいると足音でなんとなくわかるとかで、うちからモールの巣に直結する地下通路を通ってタルバがちょいちょいやって来る。
「うおおお……びっくりした。おはもう、鉱石のサンプル? ちょうどスライムに鉱物を与える実験をしようと思ってたんだ、ぜひ見せてくれ」
「も? それはちょうどよかったも。今日はどんな鉱石が欲しいも? 前にグランと作ったセファラポッド焼き器でドワーフからぼったくったから、いつもと違う鉱石もたくさんあるもよ? それとその儲けの分け前もあるもよ」
可愛い顔をしてえげつないことを言っているな。でも分け前は貰えるなら貰うぞ。
「じゃあ、そっちの鉱石も見せてもらおうかな。今日は顔料になる――」
「グランー、まだスライムを弄ってるのーー!? 折角の休みだし暇だから何かしようよーーーー!」
「休みだから休んでもいいけど、やっぱ何もしないと退屈なんだよなー! お、モールのチビッ子も来てるのか!」
「カーーーーーッ!!」
タルバと話していると急に騒がしい気配が近付いてきたと思うと、アベルとカリュオン、そしてカリュオンの肩に乗ったカメ君がスライム部屋にやってきた。
俺の静かな読書空間がいっきに騒がしくなってしまったぞ!!
お前らは休みで暇で退屈かもしれないが、俺は勉強をしつつスライムを弄るという使命があるんだ!
タルバはそのための鉱石を提供してくれそうだから歓迎するが、アベル達はお前らだけで遊んでろ!
「ん? 石から作る絵の具? 鉱石顔料図鑑? 初めての岩絵の具? 何この本? 絵の具でも作るつもり?」
あーーーーーーーーっ!!
机の上にリリーさんに借りて来た本を置きっぱなしだったーーーー!!
「そっそっそっそうだ!! いつもとは違う方向で染色用のスライムの研究をしようと思って、今日はスライム部屋に籠もっていたんだ。だから今日は忙しいからアベル達と遊んでる暇はないんだ。あー、忙しっ! タルバが持って来てくれた鉱石のサンプルも吟味したいしな! あー、忙しい忙しい!」
「ふーん、こんな分厚くて専門的で綺麗な挿絵の入った図鑑や専門書なんか持ってたんだ」
アッ!
借りて来た図鑑が超お金持ち様が持っているような豪華な本で、庶民の俺が持っているのは不自然なものばかりだ。
なんとか上手く誤魔化さねば……。
「えっと、ピエモンの冒険者ギルドで借りて来た」
「へえ、そうなんだ。田舎のちっこいギルドなのに、こんな高そうな専門書を買う予算なんてあったんだね」
うげーーーー! 言われてみるとピエモンのギルドの図書室は小規模で、専門的な本はほとんど置いていなかった。
「ああ、バルダーナ個人の所有物かな? ほら、あの人って変な素材とか爆発物大好きじゃん?」
すまん、バルダーナ。後で口裏合わせに付き合ってくれ。
「なるほどー、確かにあの人ってグランと同じくらい変な素材を集めるの好きだったよね。変な影響を受けて変な素材とか貰ってこないでよー」
大丈夫だ、メイルシュトロックが欲しいなんてちょっとしか思っていないから安心しろ。
「も? 色の付いた鉱石が欲しいも? だったらちょうどいい奴がいるもよ?」
俺とアベルのやりとりを聞いていたタルバが可愛く首を横に倒した。
お読みいただき、ありがとうございました。
明日と明後日の更新はお休みさせていただきます。土曜日から再開予定です。
暑い日が続いてますが、皆様お体にはお気を付けて~~~!!




