酒は飲んでも飲まれるな
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「うえええええ……超喉カラカラの声ガラガラー。昨夜は飲み過ぎちゃったなぁ……やっば、途中から全く記憶がないや」
毎朝恒例、寝起きの顔で食堂に入ってくるアベルの髪の毛がボボン。
今日は寝坊せずに起きてきたが、髪の毛がいつものように……いや、いつも以上に芸術的に爆発しているな。
げっそりとした表情で席に座り、テーブルの上のピッチャーからよく冷えたトレント茶をグラスに注いでいっきに飲み干した。
「俺も途中から記憶がないんだよなぁ。アベルに一度起こされたのは覚えてるけど、その後どうやって部屋まで戻ったか記憶がないんだ。もしかして転移魔法で飛ばした?」
「全く覚えてないなぁ。うええええええー、喉も渇いてるし、胸焼けもするし、頭も重いし、めちゃくちゃ体がだるいー」
そりゃー、昨夜あんだけ飲めばなぁ。
リュネジンジャーを飲んでいたのが途中からワインやらウー酒やら妖精の酒やら色々出してチャンポンして、二日酔いにならない方がおかしい。
俺は節度を守って酒を飲む派だからリュネジンジャーをチビチビしただけなので、二日酔いとは無縁である。
酒のジンジャエール割りは、爽やかな甘さで非常に口当たりがよく飲みやすくなるため、飲み過ぎたことに気付くのが遅れてしまいやすいという落とし穴がある。
「ふむ……私も起きたら体があちこち痛くてな……ソファーで寝てしまって、どこかにぶつけたようだ」
ラトも納得がいかないような顔をして後ろ頭をカリカリと掻いている。
「カァ~……」
カメ君もリュネの実をたくさんカリカリしていたし、出てくる酒を片っ端から飲んでいたからなぁ。
やはり二日酔いのようで長い首がゆらゆらと揺れている。
酔っ払いアベルがフラリと台所に来てお茶を飲んでリビングに戻った後、リビングが何やら騒がしいので様子を見にいったら、俺が片付けを始める前は床で寝ていたカリュオンは起き上がって座った体勢で寝ているし、ソファーで寝ていたラトは床に転がり落ちて頭をぶつけたのか、頭を抱えて丸くなって寝ていた。
そしてカメ君は何があったのか、棚の隙間に頭から突っ込んで刺さるような体勢で寝ていた。
何をどうはしゃいだらこの状態になるのか……酔っ払いのやることはよくわからない。
アベル曰く、酔っ払いを起こそうとしたらカリュオンは起き上がったけれど座ったまま再び寝るし、ラトは寝返りをうってソファーから落ちるし、カメ君は寝ぼけてピョーンとアベルに飛びかかって、アベルが避けたらそのまま棚に突っ込んでいったらしい。
どんな寝ぼけ方をしたのか知らないが、酔っ払いだから仕方ないか。
酒は飲んでも飲まれるな。俺も気をつけよう。
座ったまま寝ているカリュオンはアベルが指パッチンで部屋に飛ばして、床に落ちても起きる気配のないラトは酒臭すぎて三姉妹達の寝ている部屋に投げ込むのは、三姉妹が可哀想な気がしたのでソファーに戻して毛布を掛けておいた。
棚に刺さっているカメ君は俺が回収して、俺の部屋にあるカメ君の寝床の篭へ。
アベルはわりと意識がはっきりしているようだったので、もう酔いが醒めているのかと思ったらそうでもなかったようだ。
「ほら、朝食の前に酔い覚ましのポーションを飲んどけ」
収納から酔い覚ましのポーションを三本取りだして食卓の上に置く。
ランドタートルの肝で作っためっちゃ強烈な酔い覚ましだから、一発でシャキッとするぞー。
「うん、ありがと……うええええええええええ! 何これえええええええ!!」
「ああ、助かるぅ……ぬおっ!? 何だこれ!? エルフの妙薬より苦いぞ!!」
「ランドタートルの肝は酔い覚ましになるのか。ありがた……んぐっ!?」
一発でシャキッとするほどめちゃくちゃ苦いけどなー。
あー、三人とも予想通りの反応をしてくれて楽しいなぁ。
飲み過ぎには気をつけような。
俺の出した酔い覚ましのポーションをグイッと飲んで、二日酔いトリオの顔が面白いくらいに歪んだ。
しかしやはりランドタートルの肝製酔い覚ましポーションの効果は強烈だったようで、一頻り悶絶した後はシャキッとした表情になった。
あまりに苦かったのか、口をもごもごさせながらトレント茶をがぶ飲みしているけれど。
冷たいトレント茶も二日酔いがスッキリする味だからたくさん飲んどけー。
後でトイレが近くなっても俺の責任ではないけれどな。
「昨夜は大変楽しかったご様子ですわね。でもお酒の飲み過ぎもほどほどにいたしてくださいな」
「飲み過ぎは体によくないですよぉ」
「一晩明けてもお酒臭いしね。自分は大丈夫って顔をしてるけど、グランも十分酒臭いからね。ついでに朝から鍛錬とか畑仕事でかいた汗のにおいも臭いわ」
え? 俺も臭い? 二日酔いトリオより飲んでいないはずなのになぁ?
汗のにおいは働く男のにおいだと思って許してくれ。
あっ、幼女の浄化シュッシュッありがとうございます!!
今日は水の月の二日、一ノ獣の日。
毎週獣の日はパッセロ商店へ納品にいって、店の片隅で俺のコーナーを営業する日だ。
その後は冒険者ギルドへ行ってちょこちょこと依頼をやる予定。
昨夜の酒臭さを三姉妹のいいにおいのしそうな浄化魔法で消臭してもらってすっかりいつもの爽やかな俺に戻っているので、店の中に入っても迷惑にならないはずだ。
アベルとカリュオンは王都へ、カメ君もどこかへお出かけなので、今日はワンダーラプターに乗って一人でピエモンへとやってきた。
鋭い牙がたくさん生えた大きな口に、爬虫類らしい縦長の瞳孔で迫力のある一号なのだが、何故かパッセロ商店のお客さんや近所の方々に大人気だ。
主に女性に。
体高は二メートル足らず、体長は尻尾まで入れても三メートル程度と亜竜種にしては小型に分類されるワンダーラプターだが人間から見るとやはり大きく、人の頭くらいカパッと入ってしまいそうな口は慣れない者なら恐怖を感じるはずだ。
最初のうちは近所の人にも恐がられていたのが、何度もパッセロ商店に来るうちに賢くて俺やキルシェの言うことはよく聞くワンダーラプターは、いつのまにか近所の人に受け入れられるようになっていた。
強面のワンダーラプターがパッセロ商店の前に繋いであると、近所の防犯効果もあるらしい。
そして俺が来ている目印にもなるという。
ワンダーラプターの顔が恐いのが営業妨害になってない?
え? 爬虫類好きのお姉さんが一号に会うために来ている?
ていうか、一号! 挨拶されたのに応えて愛想振りまいて、果物とか肉とか貰ってんじゃねーぞ!!
看板犬ならぬ看板ラプターってか!?
というかお前、とくに若いおねーさんが近くを通ると、あざとい恰好とか面白い顔をして気を引いているだろ!!
かーーーーーーーっ! アリシアにやたら懐いていると思うのは気のせいか!? ものっすごいデレデレで干し肉を貰っているよな!?
亜竜種のプライドはどーした!! 自分より弱い者を見下すのがワンダーラプターの性格だろ!?
うちのワンダーラプター一号は、いったい誰に似てこんな性格になったんだ!!
あ、買い物もせずウロウロしている怪しくて小汚い男はちゃんと威嚇しまくってるんだ……それは褒めてやるよ。いいぞ、もっとやれ!
うむ、バレない程度の土魔法で足元に小石とか出して、躓かせてやるといいぞ。
パッセロ商店に色々売り物を持っていって、毎週恒例の俺の気まぐれ商品コーナーでお客さんと交流をして午前中を過ごした後は冒険者ギルドへ。
今日は何をしようかなぁ、チョロくて報酬がいい仕事はないかなぁ。
綺麗なおねーさんと薬草採りとか、綺麗なおねーさんに手取り足取り調合や料理を教えてあげるとか、綺麗なおねーさんの護衛とか、できれば綺麗なおねーさんと仕事がしたい。
そんな思いで冒険者ギルドへ行くと、ものすごく嫌な予感がする笑みを張り付けたバルダーナが受付カウンターで待ち構えていた。
「いよぉ、グラン、待ってたぜ。今日はお前さんに指名依頼が来てるんだ。喜べ綺麗な女性からの依頼だぞ!!」
「綺麗な女性!?」
思わず釣られかけたのだが……何だろうなぁ、なんか嫌な予感がするんだよな。
お読みいただき、ありがとうございました。
※明日と明後日はお休みさせて頂きます。土曜日から再開予定です。




