ギフトという相棒
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「狭いところで申し訳ありません」
「ううん、俺達が急に押しかけたせいだから気にしないよ。あ、この二人は立ったままでいいから、とりあえずお父さんとお母さんとキリ君は座って」
突然訪れた俺達に、キリ君のお母さんが申し訳なさそうに頭を下げた。
アベルの言うこの二人とは俺とカリュオンのことである。
そして初めて入る他人の家ですっかり仕切っているのはアベル。通されたキリ君の家の食堂で、アベルはさっさと椅子に腰をかけている。
あまり広くない食堂で俺とカリュオンはそのアベルの後ろに立つ形になり、なんだか身分の高い人を護衛しているような気分だ。
「それでうちの息子について話したいことがあるとは?」
妙に貴族っぽいオーラを出しまくっているアベルの前に、自宅だというのにキリ君のお父さんは緊張した表情になっている。
すみません、こいつ見た目がキラキラの貴族様すぎて緊張しますよね。
弁当の配達を終えて冒険者ギルドから出てきたキリ君を捕まえて、お店が暇になる時間を聞いた。
どうせなら親御さんが一緒の時に話す方がいいと思い剣聖とギフトのことを伏せ、キリ君が冒険者を目指すというのならご両親と少し話がしたいと言って。
キリ君は少し戸惑ったが、冒険者になる時に役に立つ話だと俺が言うと納得してくれ店が暇になる時間を教えてくれた。
その時間までアベル達が受けていた依頼をこなして時間を潰してキリ君の家を訪れた。
アルジネの傍を流れる川での依頼ばかりだったため、依頼をこなしながら突然キリ君宅を訪れるお詫びを兼ねた手土産に小型のワニを獲っておいた。
いやー、たいした面識もないのにでかい男三人でいきなり押しかけてしまってすみませんねぇ。
決して怪しいものではない、通りすがりの冒険者三人組なのでご安心ください!!
リリーさんのお店が借りられればよかったんだけれど、今日は定休日だし俺達が帰った後に予約があったみたいだしね。
カメ君は話し合いにはあまり興味なかったのか、キリ君の家に向かう途中に「新しい縄張りの見回りをするカメ~」とアベル経由で伝言を残して水路にポチャンしてしまった。
この町、すでにカメ君の縄張り認定されたんだ……。
町の中で暮らしていれば発揮されることのない適性と、暴走するようなものでもなく存在すらも体感しにくいギフトだったのだろう。
そして周囲に気付く人もいなく今までは何事もなく生活できていたが、この先もそれが続くとは限らない。
何かある前に本人と家族にはキリ君の才能とギフトのことをできるだけ早く伝えるべきだと思い、今日のうちにキリ君の家を訪れたのだ。
知っていれば本人の意思を尊重しやすくなり、俺達も僅かながら力になることができる。
そんなわけでキリ君に教えてもらった時間にお店を訪れてみた。
キリ君がご両親に俺達のことを話してくれていたようで、俺達が店を訪ねるといかにも貴族なアベルにびっくりしながらも中に通してくれた。
そして何故かアベルが仕切っている。
どんなに階級の低い貴族でも、平民からしてみると貴族を前にすると緊張をするものだ。
キリ君のご両親も、いかにも貴族の雰囲気を醸し出すキラキラアベルスマイルにすっかり恐縮してしまっている。
俺だってアベルやドリーやリリーさん以外の貴族はめちゃくちゃ緊張するし、彼ら以外の貴族にはめちゃくちゃ苦手意識があるしな。
通された食堂で、四人用のテーブルを挟んでアベルの向かいにキリ君のご両親が緊張した顔で座っている。
アベルの横には不思議そうな顔のキリ君。
「キリ君っていったよね、これまでにキリ君を鑑定してもらったことはある?」
「いいえ、一度も。もしかしてキリに何か呪いでも?」
話を進めるのはアベル。
キリ君の才能を実際に見たのはアベルだし、話し合いや交渉は俺やカリュオンよりアベルの方が向いている。
アベルの問いにお父さんが首を横に振り、鑑定という言葉に反応して不安そうな表情になった。
呪いもまた、わかりやすい効果でない限りギフト同様に鑑定をしなければその存在に気付きにくく、生まれた時から呪われている者も存在する。
そして知らぬ間に妖精や魔物から呪われる場合もあることを考えると、知らずにギフトを持っていることより呪いにかかっている確率の方が高い。
鑑定したことがあるかと聞かれると、まず呪いの心配をするのは普通である。
家に見知らぬ冒険者が尋ねてきて、自分達の子供を鑑定したことがあるかと尋ねられると、危険性の高い呪いをまず心配するだろう。
「ううん、その逆。キリ君ね、ギフトがあるよ。それから刃物というか剣の扱いにものすごく才能があるよ。今までその片鱗を感じたことはなかったかい?」
「え? 俺に? イモの皮剥きなら得意かも? それとグランにーちゃんに去年ナイフの使い方教えてもらって、スライムを倒したのは楽しかった。グランにーちゃんとの約束だから、地下水路には行ってないけど貰ったナイフで庭や公園で見つけたスライムを倒したことはあるよ」
才能があると言われ、嬉しそうな表情をしながら顎に手をあてて首を傾げるキリ君。
うんうん、少し教えただけでナイフの扱いに慣れるのが早いなとあの時から思っていたよ。
「呪いではなく……キリにギフト……ですか? それは本当ですか? 何故……そんなことがわかったのですか?」
突然のギフトという言葉に、キリ君のお父さんが信じられないといった表情でアベルの横に座るキリ君の方を見た。
お母さんの方は聞いているだけだが、その表情は驚きを隠せずにいる。
「うん、俺が生き物の鑑定できるから、たまたまグランと一緒に来たキリ君の才能が見えたんだ。嘘だと思うなら、冒険者ギルドで王都所属のAランク魔導士アベルで調べてもらうとわかると思うよ。俺の鑑定はプロフィールとして公開してるからね」
たまたま見えたんじゃなくて、いつもの覗き見癖だと思うんだよなぁ。
依頼主が条件の合う冒険者を指名するためやパーティーメンバーの募集のために、冒険者ギルドではDランク以上の冒険者のプロフィールを本人の了承の範囲で公開しており、冒険者ギルドの窓口で尋ねれば条件に合った冒険者を紹介してもらうことも、またその条件に合う冒険者のリストを見せてもらうこともできる。
自分の能力や得意なことを公開しておけば自分に合った依頼を指名してもらいやすくなるし、指名料も貰える。そして指名が多ければ冒険者としての評価も上がるので、だいたいの冒険者は差し障りのない範囲で自分の情報を公開している。
俺も採取系が得意で調合の知識が少しある荷物運びが得意な冒険者で登録しているから、王都にいた頃はパーティーの雑用系で指名されることは時々あった。
アベルは確か生物の鑑定可能な魔眼持ちなのは公開していたな。人物鑑定の依頼はすぐに終わって報酬もいいのですごく稼げるのだとか……羨ましい。
「い、いえ、そちらじゃなくて、うちの子にギフトというのが信じられなくて……ただの弁当屋の子なのに……」
ほらぁ、アベルの胡散くさいキラキラ笑顔でお父さんが恐縮しているぞ。
「ギフトは血筋で出やすさはあるけど、それとは全く関係なしに発現することもあるからね。見つかってないだけで、世界にはきっと才能を持った人達がたくさんいるはずだよ。キリ君もその一人。彼の才能を生かすかどうかは本人と周りの人次第、俺達はその才能を教えに来ただけだから。じゃあ本題、キリ君のギフトと才能の話をするよ。覚悟はいいね?」
覚悟って何だよ!? ほら、アベルの圧力笑顔で親御さんが戸惑っているぞ!!
キリ君はわくわくした表情でアベルの方を見上げている。
アベルの圧力笑顔に屈しないキリ君、なかなか肝が据わっているな。
「キリ君のギフトは疾風怒刃――刃のあるものに対する才能とその成長速度、そして身体強化系かな。ただまだ本人がそれに気付いていなくて、意識して使ったこともない状態だからギフトの力はほとんど発揮されていない状態。きっと今は同世代の子より体を動かすのが得意だとか、刃物の扱いが上手い程度じゃないかな。でもこれから自分のギフトをちゃんと知って、正しく使うことができればギフト自体も成長するよ。ギフトってそういうものだから。今の状態だとこのギフトがどう成長するかまではわからないけど、ギフトの存在を認知して使い方を理解すればするほど本人と一緒にギフトも成長していくもんなんだ。逆にいうと本人が成長しなければギフトを使いこなすことはできないし、ギフトに振り回されて不幸になることもあるし、ギフトが反転して呪いになることもある。俺が見えている彼の職業からしてきっとこのギフトは大きく育つ可能性のあるギフトだよ」
アベルは剣聖という職にテンションが上がりまくっているのか、他人のことだというのにらしくもなく饒舌である。
饒舌すぎて当の本人であるキリ君がぽかーんとしているぞ。それに平民の十一才の子には難しい言葉が混ざりまくっているぞ。
「そのにーちゃんちょっと頭がいいからついつい難しい言い回しをするけど、要するにキリ君が持っているギフトを知って、そのギフトと上手く付き合う……そうだなぁ、ギフトと友達になるみたいなもんかな。友達と仲良くなるには相手のことを知るのは大切だろ? どんな性格だとかどんなことが得意だとか。そして友達の嫌がることをしたり、友達に悪いことをさせたりすると友達は離れていくだろ? ギフトもそれと同じだ。ギフトは神様がくれた祝福、君の中にいる君だけの友達だ」
小難しいことを言うアベルの代わりに、できるだけわかりやすい説明を心がけて補足する。
「おう、ギフトは友達であり相棒みたいなもんだな。相棒と上手く付き合うには大事にしないといけないだろ? ものを言わぬ相棒だけど、こちらから歩みよればきっと力になってくれる。知れば知るほど、受け入れれば受け入れるほど、ギフトは持ち主と一緒に成長していくんだ」
カリュオンの言う通りギフトは言葉では答えてくれないが、黙って力になってくれる。そしてずっと一緒にいて一緒に成長してくれる。
世の中には喋りまくってうるさいギフトもあるかもしれないけれど。
「俺、友達と仲良くするのは得意だよ! 友達が嫌がることはしたらいけないのは知ってるし、俺も嫌なことをされるのは嫌だから友達にもしないよ」
そう明るく笑うキリ君は本当に友達が多そうだ。
王都に行けば俺にはできなかった友達百人を達成してしまいそうなまぶしい笑顔。
さすが剣聖の卵。
あ、忘れてた。ギフトもすごそうだけれど、天職はもっとすごいんだよね。
ご両親、ギフトのことでもびっくりしているけれど、剣聖のことを聞いたら腰を抜かしそうだなぁ。
「それでさ、そのギフトもすごいんだけど、もう一つすごいことがあるから落ち着いて聞いてね。キリ君の職業が剣聖って見えるんだ」
「はい?」
「けんせい?」
「?」
思わずと言った感じで声を漏らすお父さん。
アベルの言葉をそのままリピートするお母さん。
そしてアベルの横で首を傾げるキリ君。
わかる、俺も剣聖って聞いた時思わず声が出たし。
ご両親がアベルの言葉を理解するまで数秒の間があり、その後お父さんとお母さんが椅子から転がり落ちる勢いで驚いた。
お読みいただき、ありがとうございました。




