天賦の才
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この鑑定で見ることができる職業というのは、その者の天職。その者が持っている才能の方向性を示すものである。
その者が持っているスキルとその適性の度合いによって決まる。
剣の扱いに適性があれば剣士、多数の武器に適性があり強靱な肉体を持つ者なら戦士、魔法の適性が高いなら魔法使いといった感じ。
しかも適性のあるものの組み合わせと適性の度合いで職業が変わってくるらしく、覗き見をしていると変わった職業の者もいておもしろいとアベルが言っていた。
アベルの覗き見癖は、そういう理由からきているのかもしれない。でも、鑑定で珍しい職業を見ることができるのはおもしろそうだな。
この鑑定で見える職業というのは、後天的に取得したスキルによって変化することもある。
変化する先は元の職業の上位系だったり、全く違う方向性のものだったり、本人が身に付け伸ばしたスキルに影響される。
これは努力が才能を超えるということである証明だと俺は思っている。
だがほとんどの平民は、自分の中に眠る才能やギフトに気付くことなく過ごしている。
アベルが生き物を鑑定できる魔眼である究理眼を持っているため感覚が麻痺しがちだが、生き物を鑑定できる者は少なく、そういった者は国や教会、力のある貴族に囲い込まれている。
そのため、生きている者の鑑定費用は非常に高い。
しかもそのほとんどがアベルの究理眼ほどの精度はなく、鑑定を依頼しても正確な結果が返ってくるとは限らないという。
生き物を鑑定できる魔道具もあるが非常に高価で、こちらもやはり精度の高いものほど値段は跳ね上がり所持しているものは限られている。
大きな町の冒険者ギルドにはその魔道具を保有しているところもあるが、鑑定を依頼するとそれなりの金額を取られることになる。
しかし最近では優秀な人材を見つけ出すという目的で国からの補助が始まり、大きな町の冒険者ギルドや教会では以前より安く能力の鑑定をしてもらうことができるようになった。それでも庶民にはやはり高い金額なのだが。
そもそもギフトは持っている者の方が少なく、天職といっても非現実的なものだったり、好みではなかったり、向いているといっても他のことをやるよりはまし程度のことがほとんどで、正確な答えが返ってくるかわからない鑑定をわざわざ高い金を払ってまで依頼する者は少ない。
高い精度での鑑定を希望してもそれができる者の数が少ないため、順番待ちで何週間、時には何ヶ月も待たされることになるし、精度の高い鑑定は鑑定費も高くなってしまう。
そういう理由から鑑定をしてもらうことなく、自分の才能を知らず埋もれている者達が、この世界には無数にいると思われる。
俺だって、記憶が戻って自分の能力を見ることができるようにならなければ、自分が勇者であるとか、いつのまにか知らないスキルが身に付いていたとか、ギフトが四つあるとか気付かなかったし、知らない故にそれを活かすこともできなかっただろう。
ただ極稀に、素晴らしい才能を持ちギフトにも恵まれた者がいる。
剣聖も非常に素晴らしい才能を表す職業の一つである。
剣聖――刃のあるものの扱いに最高峰の才能を持つといわれる者の職業。
あのやべー破壊力の大剣をほいほいと振り回すドリーですら、剣聖ではなくブレイドマスターという剣士の上位職だ。
ドリーは剣以外にもぶん殴るのも得意だが、あくまであれはおまけである。
王都のギルド長も剣を使っていて強いけれど剣聖ではないのだろうなぁ、剣聖だったら絶対に噂になっているはずだ。
剣聖の中には歴史に名を残すほどの者もいる。むしろ剣で名を残している者のほとんどが剣聖だ。
刃物の扱いに慣れるのが早いので、何かしら刃物を扱うスキルに才能があるのだろうなとは思っていたがまさかすぎる剣聖。
地方の町の弁当屋の息子が剣聖の卵だなんて普通は気付かないだろう。
もちろんいくら才能があっても磨かなければ原石のままで光らない。
光らなければその最高峰の才能も埋もれてしまう。
偶然に偶然が重なってその才能を発見してしまった。
アベルの方を見ればものすごく難しい顔で考え込んでいる。
だよなー、ただ適性が多いだけの器用貧乏な勇者と違って剣聖は、ガチでやべーくらいの才能でないと現れない職業だもんなぁ。
しかもギフトも持っているようだし、もしかしなくてもキリ君はものすごい才能の持ち主なのでは。
ギフト――それは生き物に神の祝福とも神が与えた才能ともいわれる特殊な能力。
生まれた時から持っていることもあれば後天的に発現することもある。また状況によってはそれを失ったり、反転して呪いになったりもする。
ランクの高い冒険者にはギフト持ちが多いため、誰でも何かしらのギフトを持っているように錯覚するが、実際はギフトを持っている者の方が少ない。
ギフトを持っているが故に冒険者としても活躍しやすく、ランクが上がりやすいため、結果的にランクの高い冒険者にギフト持ちが多くなるのだ。
冒険者だけではない、騎士や兵士、また有能な役人や学者、商人、職人など、自分の能力で地位を築いて活躍している者にはギフト持ちが多い傾向がある。
これも持っているギフトを活かした結果、ギフト持ちがそうでない者より頭一つも二つも抜けて出ることになっているだけだと思われる。
それだけならばギフトとは持ち主に大きな恩恵を与えるありがたいものに見えるが、大きすぎる恩恵は時に危険を伴うことがある。
身の程を超える力は生き物にとって必ずしもよいものとは限らないのだ。
理由なくこの世界に転移することになり、手に入れた大きな力の反動に気付くことなく使い続け、辛い思いをすることになったジュストのことをふと思い出し、キリ君のことが心配になった。
キリ君が冒険者になりたいというのなら、その剣への適性とギフトは彼の助けになるだろう。
だが同時にそのギフトの性質によっては彼が辛い思いをすることになる、そして強大な力は心にすら影響を及ぼす。
冒険者を目指し努力を重ねるキリ君が、力に溺れ振り回されるような子ではないと思いたいが、人の心は弱く揺らぎやすいもので子供なら尚更だ。
そうならぬよう周りの大人達が正しく導かなければならないのだが、強大すぎる力は欲望や嫉妬という形で周囲の者にも影響をする。
そしてその力の存在を知らずに間違った使い方をするようなことがあれば、本人だけではなく周囲にも危険が及ぶことにもなりかねない。大きな力であればあるほど、その危険は増す。
そういう場合は本人にギフトの存在を伝え、正しい扱いとギフトとの付き合い方を教えるのがよいだろう。
アベルがものすごく難しい顔をしているということは、ギフトも強力なものだったのかもしれない。
少し珍しいくらいの職業やギフトなら、アベルもいつものように覗き見だけして無反応だったはずだ。
「彼の家って弁当屋って言ってたよね。ちょうど昼時だから今は忙しい時間か……行くなら忙しい時間が過ぎてからがいいよね。彼の職とギフトのことは本人にも両親にも知ってもらわないといけないからね。それで彼らがどういう選択をするかは彼ら次第だけど……うーん、アルジネはアゲル伯爵の領地だよね。アゲル伯爵家は王家派で確かプルミリエ侯爵夫人の実家だった記憶が……ああ、だからリリーさんの店がここなのか。あまり悪い噂も聞かないというか人が良すぎる系だった記憶があるけど人物には問題ない。しかし剣聖の後ろ盾にしては伯爵はちょっと弱いな……となるとドリーのとこか? いや、あそこは剣より筋肉だし……剣のことなら兄さんに相談かなぁ……うーん、でも兄さんはなぁ……兄さんかぁ……うーんうーん」
アベルがすっかり独り言モードに入って、俺にはさっぱりわからないことをブツブツと漏らしている。
「ま、どんな凄い才能とギフトがあっても本人次第だからな。先のことを考えるのは本人と家族に話してからだな。というか依頼を受けちまったから、話に行くならその前に依頼を何とかしないとペナルティになるぜ。弁当屋なら今は忙しそうだし受けちまった依頼をやってから行ってみるのがいいんじゃないかな? さっきの子に後で行くから時間を空けといてくれって言っとけばいいだろ」
カリュオンの言う通りだな。
偶然キリ君の才能を知っただけの俺達が口を出しすぎることではない。
俺達にできるのは彼とご両親にその事実を伝えて、これからどうするのがいいか、必要なら冒険者ギルドとの仲介をすることだ。
もしかするとアベルなら才能ある子供の庇護を任せることのできる、信用ある貴族とのパイプを持っているかもしれない。
大きな力を持つ本人にその気がなくとも、それを知った者がその力を利用しようとする可能性はいくらでもある。
才能はあるがまだ開花していない子供。平民故に権力もない。自分だけではどうにもできないことはたくさんある。
才能がある故にそれを利用しようとする者に振り回され、それが才能の枷とならないように、その才能が無駄にならないように、その才能を嫌いにならないように。
俺に憧れて冒険者になりたいと思うようになった子が望む未来を手にできるように、彼よりもちょっとだけ大人の俺が力になれたらなって思った。
お読みいただき、ありがとうございました。




