ピーマンの刑に処す
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キリ君のお母さんも俺のことを覚えていてくれたみたいで、並んでいた順番がきてエビのザクザク揚げ団子を頼むと代金はいらないと言われた。
しかしそれは申し訳ないので代金を払った上で、少しだけ数をおまけしてもらった。
もともと五個入りだったものを八個入れてもらったので、カメ君と四個ずつわけることにした。
エビのザクザク揚げ団子を袋に入れてもらってお持ち帰り。それを食べながら冒険者ギルドへと向かった。
エビのザクザク揚げ団子――川エビの身と川魚の身をすり潰して一口大に丸め、それに小さなサイコロ型に切ったパタイモをまぶして揚げたもの。
川魚独特の味の中にほんのりとまざる甘味のあるエビの味、それにおろしたニンニクも混ざっているのかな。そして一番気になるのが癖と深みのある塩味。
これは俺が普段使わない調味料の味だなと思ったら、川魚を長期間塩漬けにしたもののすり身が隠し味として入っているそうだ。
川沿いで漁業が盛んな町らしい料理である。
中身がフワフワしているのは卵白かな?
中身はふわりとしているが、イモでできた衣はザクザク。この食感のコントラストと、芋という食材と塩味の普遍の相性が、そこまで空腹ではない腹を激しく刺激する。
「カーーーーッ!!!」
「うんうん、これは美味しいなー。買い食いして大正解だなー。アベル達には内緒だけどなー」
カメ君が俺の肩でエビのザクザク団子を囓っている音が聞こえてくる。その音だけでカメ君の必死さが伝わってくる。
うんうん、ザクザクした衣とフワフワとした中身、癖のある塩辛さがすごく美味しい料理だよね。
「それ、うちでも人気のメニューなんだよ。トマトソースをかけても美味いよ」
そして俺の横には弁当入りの大きな篭を持ったキリ君。
これから冒険者ギルドまで弁当を届けに行くそうで、ついでに道案内もしてくれている。
お礼に篭を持ってあげようと思ったら、これも体を鍛えるためになると断られた。
キリ君はがんばり屋さんだなぁ。お兄さん、たくさん応援したくなっちゃうよ。
エビのザクザク揚げ団子もわけてあげようかと思ったら、飽きるほど食べたからいらないと言われた。
男の子が大きな篭を持っている横を、揚げ団子を食いながら歩いている大の大人。すごくだめな大人にしか見えない気がするけどぉ!?
しかし冒険者ギルドに到着するまでに、エビのザクザク揚げ団子を食べてきって証拠隠滅しておかなければならない。
それにしてもキリ君、一年も経たないうちにすごく大人っぽくなったなぁ。見た目ではなく雰囲気が。
出会った時はまだまだ無邪気でやんちゃな子供に見えたのに。
あの日、水路沿いで遊んでいてうっかり水路に落っこちて地下水路まで流されてしまったキリ君を救出したのは、たまたまアルジネに来ていた俺。
その俺に憧れて冒険者になりたいと思い、心配する両親に自分のやる気を伝えるため、そして装備を買うお金を貯めるためと体力をつけるために店の手伝いをがんばっているそうだ。
俺が渡したナイフとナイフホルダーも大事に使っている?
いつか俺みたいな冒険者になりたい?
いや~、なんだか照れくさいなぁ。
ちゃんと覚えているよ。
あの日地下水路の中を出口に向かって歩きながら、スライムの対応ができる程度にナイフの扱い方を教えたが、キリ君は刃物の扱いに慣れるのも早かったよな。
冒険者ギルドに登録できる年になって、正しい扱い方をギルドの講習でしっかりと習うと伸びるかもしれないし、冒険者にならなかったとしても将来何かの役に立つかもしれないな。
冒険者はかっこいいだけではなく常に危険のある仕事だから、よぉく考えてから将来を決めるんだぞぉ。
親御さんが心配するのは当たり前なくらいに危ないことがたくさんあるからな、お父さんとお母さんが心配する気持ちもわかってあげてくれ。
冒険者になっても、ちゃんと規則を守って無理はしたらだめだぞぉ。
キリ君は家が弁当屋ということもあり、読み書きと簡単な計算はできるらしく、週末には教会で行われる子供向けの勉強会にも参加しているそうだ。
平民の子供は幼い頃から働く者が多く、金銭的な面もあり学問を学ぶ場所へしっかりと通う者は多くない。
それでも基本的な読み書きや計算は、親が教えるだけではなく教会でも習うことができるので、ユーラティアの平民の識字率は他国に比べると随分高い印象がある。
とくに今の王様になってからは子供の教育に力を入れるようになり、子供が無料もしくは格安で学べる場が増えていると聞いた。
冒険者ギルドでもここ二、三年で、まだ冒険者に登録できない子供向けの読み書き計算や冒険者になるための事前知識の講習が行われることが増えた。
読み書き計算ができなくても冒険者の仕事はあるが、できた方が選べる仕事の範囲も広がるし、ものの売買や契約の時に書類を自分の目で確認して理解できるので騙されることも減る。
というわけで、冒険者になるにしても勉強は疎かにしたらだめだぞぉ。
知識は武器にも防具にもなり、冒険者の活動を、それ以外のことも助けてくれるんだ。
え? 読み書きはロベルト君に習ってる?
ああ、彼ね。元は商業ギルドの職員だから、計算にも強そうだし、契約書の見方や落とし穴についてとかも詳しそうだよね。
うん? ああ、ロベルト君とはちょっとした顔見知りでね。キリ君を救助した時に偶然再会したんだ。
へー、ロベルト君は時々ギルドで読み書き計算の講習をやってるんだ。
冒険者の仕事でそういう仕事もあるね。彼は戦闘は苦手そうだから、そっちの方が向いているかもしれないね。
そっか、彼もがんばってるんだねぇ。え? 相変わらず戦闘の方は苦手そう?
ははは、誰だって得手不得手があるもんだからね。
そうそう、苦手なことを克服するのも大事だけれど、得意なことや好きなことをどんどん伸ばして活かすことも大事だぞ。
なんて話をしながら少し説教くさくなりながらも、キリ君の案内で冒険者ギルドへと向かった。
「あ、グランがちゃんと来た!? しかも思ったより早い!! どういうこと!?」
「へっへっ、俺の勝ちだなぁ~。じゃあマルゴスんとこのゴーゴンフィレステーキな!」
「くそぉ……何でこういう時に迷子にならずにちゃんと来るの!?」
ちゃんと冒険者ギルドに来たのにアベルのお小言が飛んできたぞ!?
こいつら、俺がちゃんと合流できるかで賭けをしていたな!? 失礼な奴らめ!!
いや、カリュオンは俺を信じてくれたみたいだから、失礼なのはアベルだな。よってお前はピーマンの刑に処す。
冒険者ギルドの前まで来ると、入り口の前でアベルとカリュオンが待っていた。
買い食いをして少し時間を使ったけれど、やはりあの道は近道だったのでだいたい予定通りの時間に着いたのにこれである。
「グランにーちゃん、仲間に合流できたみたいだな。じゃあ、俺は弁当を届けてくるよ、またなー!!」
「おう、道案内ありがとうー! がんばれよー!」
弁当の入った篭を持ってギルドへ入っていくキリ君に手を振ってその小さな背中を見送った。
何年後かにはその背中は俺より大きくなって、俺よりずっと強くなっているかもしれないな。
「今の子は? 一緒に来たみたいだけどまた餌付けしてたの?」
「いやいや、前にアルジネに来た時に水路に流されてたのを俺が助けたんだ。その時のことを覚えてくれててさ、たまたま彼のご両親がやっている弁当屋の前で会って、冒険者ギルドまで道案内してくれたんだ」
餌付けしたというか俺が餌付けされた方である。エビのザクザク揚げ団子、超美味かった。
それにしてもあまり他人に興味のないアベルが、キリ君の入っていったギルドの方をずっと見ているのは何故だろうか。
「ふぅん……。ところで道案内って? リリーさんの店から大きな道沿いを来たら案内してもらうほどのことじゃなくない? ていうか、脇道から出てきたの見てたからね。弁当屋で会ったってことは、近道をしようとして弁当屋を見つけて買い食いでもしてたんでしょ」
ギクッ!!
名推理すぎないか!?
「え? かかかか買い食いなんてしてないぞぉぉぉぉ!!」
「おっ、嘘発見器が反応したぞ。これはダウト」
カリュオン、いつの間に嘘発見器なんか出してきてるんだよ!!
ていうか一介の冒険者が何でそんなものを持ち歩いてんだ!!
「へー、買い食いをしたんだ。ふーん、美味しかった?」
「で、何を食ってきたんだ?」
「ちくしょう! エビのザクザク揚げ団子は美味かったぞ!」
「カァ……」
素直に白状したらカメ君のため息が耳の横で聞こえた。
「やっぱり買い食いしてるぅ。俺もそのお店が気になるから教えて? お店だけじゃなくてさっきの子のことも詳しく聞かせて?」
ん?
「店はともかくキリ君がどうかしたのか? アベルが他人に興味を示すのは珍しいな」
買い食いをしてきた俺の方を半目で見ながらも、冒険者ギルドに入っていったキリ君を何故か気にしているアベル。
いつもなら他人にさっぱり興味がないアベルがどうしたんだ?
「さっきの子、すごいギフトを持ってる。しかも職業が剣聖って見える」
「は?」
思わず変な声が出た。
お読みいただき、ありがとうございました。




