そうだ、近道をしよう
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リリーさんの店を出て、急いで冒険者ギルドへと向かう。
いつもは水路沿いの広い道を通って冒険者ギルドに向かっているのだが、古い商店が並ぶ通りが目に入った。
表の通りに比べ人の姿は少ないが、冒険者ギルドの方向へ伸びているな。
「冒険者ギルドはリリーさんの店から見てあっちの方向、つまりこの道を突っ切ればきっと近道」
「カッ!? カカカァッ!!」
「大丈夫、数々のダンジョンの入り組んだ道でも探査スキルでだいたい正しい道を進める俺を信じろ!」
「カーーーーッ!?」
「それにほら、こういう昔からある店が並ぶ地区って、地元民しか知らない名店がありそうだろ? もしかしたら他所者が知らない美味しいものや面白いものを売っているかもしれないぞ」
「カッ!? カカァ……」
俺の勘はここが近道だと言っている。
近道っぽい道に入ろうとしたら、カメ君が俺の髪の毛をグイグイと引っ張った。
大丈夫大丈夫、アルジネは王都みたいにやべーでかい町じゃないから激しく迷子になることはないよ。
それに知らない町の裏通り商店街ってすごくわくわくするじゃん?
もし迷子になっても探索スキルでなんとでもなるから、大丈夫大丈夫。
うんうん、美味しそうなものがあったら、アベル達には内緒でちょっとだけ買い食いしようね。
そうそう、俺達はアベル達と違ってパフェは半分こだったからお腹に少し余裕があるし、デザートと買い食いは別腹だもんね。
雰囲気からしてこの通りは旧商店街だろうか?
俺達が進むことにした道は古い作りの建物が狭い間隔で並び、少し暗く雑多な印象を受ける通り。
目に入る看板も年季が入ったものが多く、昔からここに構えている店だということが窺える。
いつも通っている幅の広い水路沿いにある綺麗な通りが、後からできた現在のメイン通りなのだろう。
あちらは大きな店や新しい店が多く並んだ綺麗で整った町並みで、華やかで明るく人通りも多い。
よく通る広い道に比べれば地味でパッとしない印象の通りだが、俺はこういう雰囲気の商店街は嫌いではない。
表通りを流れる水路ほど広くはないが裏通りにも水路が通っており、歩いていれば水の流れる心地の良い音が聞こえてくる。
「カァ~」
町中を水路が流れるアルジネは水の都とも呼ばれる町だけあって、水の魔力の存在感が他の魔力より強く、カメ君はとてもご機嫌のようだ。
「町中を綺麗な水が流れてて気持ちのいい町だよなぁ。俺達が冒険者ギルドの仕事をしている間、アルジネの水路を泳いでくるかい?」
「カァ~……カカッ!」
水路の方を見てそわそわしているカメ君に声をかけると、少し悩んだ後にブンブンと首を横に振った。
アベルがカメ君に俺の面倒を見るように言ったからか?
も~、俺は子供じゃないのに~。カメ君もそんな言いつけ気にしなくていいんだよ。
え? ダメ? カメ君は責任感の強い亀だなあ~。
地元の小さな商店の並ぶ通りは俺好みの雰囲気の店が多く、時の流れを感じさせる店の外観や看板を見ているだけでもわくわくしてくる。
店の中まで入って色々見てみたいが、あまり遅くなるとアベルのお小言が待っていそうだし近道をした意味がない。
面白そうな店は覚えておいて後日ゆっくり行くことにして、今日は美味しそうなものがあったら少し買い食いをするくらいにしよう。
アルジネは川沿いの町だから漁業も盛んで、川魚が中心の魚屋が多いんだよなぁ。
南北に流れるその川を使って上流と下流両方から色々な物品が集まり、更には国西部に位置する王都と東の国境を繋ぐ街道も通っているため西と東の物も入ってくる。
そのため、地方の町ではあるが商店の品揃えは豊富である。
うひゃー、あそこの魚屋にめちゃくちゃでかい淡水魚がぶら下がってるー。迫力はあるけど、食べるなら捌きやすいサイズのがいいな。
八百屋に並んでいる野菜もピエモンと少し違うんだよなぁ。
あっちは薬草屋かー、すげー気になるけれど入ったら長時間居座ってしまいそうだからまた今度だな。
ぐぬぬぬぬぬぬ……あそこには古本屋があるぞ。古本屋はなんだかわくわくするんだよなぁ……古代の文献とか魔導書とかありそうで見ているだけでも楽しいじゃん?
くそぉ……覗きたいけど、古本屋は入ると絶対に長い時間居座ってしまうから今日は我慢だ。
どうせならゆっくり見たいしな、今回はパスだパス。
年季の入った店の並ぶ道をぶらぶらと歩いていると、香ばしくていい香りが漂ってきてそちらを見ると、通りに面してカウンターがある店が目に入った。
「お、この店は弁当屋さんか。食べ歩きできそうなものも売っているみたいだから買っていこうか?」
「カッカカカァ!!!」
香ばしい香りの発生源だと思われる弁当屋の前で足を止めると、カメ君が俺の髪を引っ張りながらその店のメニュー看板を指差した。
店の前に置かれている三角看板にはメニューがズラリと書かれており、弁当以外にも食べ歩きができるような単品商品もあるようだ。
カメ君が指差したのはおそらくエビのザクザク揚げ団子だな。
「エビのザクザク揚げ団子でいいのかな? いいにおいがしているし買っていこうか」
通りに面して販売口には昼前だというのに数名の客が順番待ちをしており、この店が地元の人気店なのだろうということが窺えた。
販売口で弁当を売っているのは女性、奥では厨房で調理をしている男性が見えるところから察するに夫婦で営む弁当屋のようだ。
あれ? この女性、どっかで見たことあるような、ないような……?
そんなことを思いながら順番待ちをしていると、パタパタと軽い足音が近付いてくるのが聞こえた。
何となく気になってそちらを振り返ると、見覚えがある少年がこちらに向かって走って来ている。
あるぇ……この子もどこかで見たことあるような……あっ!
「あっ!」
俺が気付くとほぼ同時にその少年と目が合って、彼の口からまだ声変わりをしていない高い声が漏れた。
「もしかしてキリ君?」
よかった、名前をすぐに思い出せた。
「あの時の冒険者のお兄さん! うわ、すごく久しぶり!」
ああ、覚えていてくれたのだ。
去年の秋くらいだっただろうか、俺が初めてリリーさんの店を訪れた帰りに立ち寄った冒険者ギルドで緊急依頼を受けることになり、その時に救助した男の子。
うっかり水路に落ちて地下水路まで流されて要救助者となってしまったヤンチャな男の子は、あの時よりも少し背が伸び、まだ幼い顔立ちの中には以前より少し落ち着いた雰囲気が見られた。
そのキリ君の手には大きな篭。
ちょうど弁当がいくつもいれて持ち運べるくらいの大きさだ。
「お遣いかい?」
弁当屋の前だから、お遣いで弁当を買いにきたのかな?
「うん、ここ俺んち! 冒険者になった時に剣が買えるように、店の手伝いをしてお金を貯めているんだ!」
焦げ茶色の髪の毛の少年が元気な返事をして、はにかんだ笑顔を浮かべる。
お遣いはお遣いでも俺が思っているのとは逆だった。そして、冒険者になった時に剣を買うためにお金を貯めているって偉いな!
去年、水路で助けた時は十歳と言っていたから、今はもう十一になっているのかな?
俺が十一の頃って、山を駆け回りながら素材を集めつつ、収納スキルの容量を増やすことに夢中で、家の手伝いなんか最低限しかしていなかったよ!!
キリ君、偉いな!!
お読みいただき、ありがとうございました。




