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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第九章

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うっかり忘れ物

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

「ふああああああ……お腹いっぱいで苦しぃ~~~! やっぱ試食会……打ち合わせは楽しいよねぇ」

「グランのおもしろアイテムと料理の店をやるんだっけ? こんな打ち合わせなら俺もまた見学にいきたいなぁ」

「カッ! カカカッ!!」

「打ち合わせもしたけど、だいたい食ってばかりだったのでは? カリュオンは見学じゃなくて試食がしたいだけだろ!?」


 リリーさんの店での打ち合わせという名の試食会も終わり、店を出てアルジネの町を冒険者ギルドへと向かってのんびりと歩いている。

 時間はまだ昼前、しかし本来は数人でシェアして食べるゴールドフィッシュ・ボウル・パフェを一人で食べきったアベルとカリュオンはあまり腹が減っていなさそうだ。

 俺とカメ君は半分こだったが、それでも昼飯の気分にはなれないくらいお腹がいっぱいである。


 アベルとカリュオンが一つずつ占拠したため、一鉢の値段がすごく高そうなパフェを三つも出してもらって何だか申し訳なかったので、お詫びに魔物の肉を色々と置いてきた。

 リリーさんが焼肉とか肉バイキング形式も考えているみたいだったので、参考になるかもしれない。

 それから色々なカレーペーストと米、ナンを一緒に置いてきた。俺の自信作をぜひ食べ比べてもらいたい。

 アベル商会の細かいことは、俺の知らないうちにアベルとリリーさんが着々と話を進めているようで、ソーリスの店舗は間もなく改装工事が入って早ければ冬くらいにはオープンできるらしい。

 元々飲食店ではない店舗の改装だったり、この辺りでは馴染みのないメニューが含まれていたりで、改装にも人材集めとその教育に少し時間がかかりそうだとのこと。

 しかも、アベルの話によるとドリーのお姉様のカーラさんが出資を申し出ているとかで、俺が想像しているよりずっと規模が大きなことになっている。

 やだ……お貴族様だらけで恐い……。平凡な庶民の俺は商会の隅っこで、隙間商売向けの便利アイテムを細々と作ってるね。


 さすがに食べ過ぎた感があるので、アルジネの冒険者ギルドへ立ち寄って何か依頼をこなして体を動かしてから帰ろうとなった。

 いつもならアベルの転移魔法で行くところだが、腹ごなしも兼ねて徒歩で移動。

 川沿いにあるアルジネは、その川から引いた水が町の中の水路を流れており、そのせいか気温の上がる昼間でも少し冷たさのある気持ちの良い風が吹いてくる。

 水路沿いの道には木が植えられており、その木でできた日陰と流れる水路の水の影響で非常に涼しく、ところどころベンチで寛いでいる人の姿が見える。

 リリーさんと知り合ってからたまに来ているけれど、穏やかな空気のいい町だなぁ。


 水路を流れる水の音、街路樹の葉が風に揺れる音。

 穏やかな気持ちにしてくれる自然の音と、ひんやりと心地の良い風のせいで歩きながらでも眠くなってくる。

 きっとこれはパフェを食べ過ぎたせい。

 眠さを紛らわすように手で前髪をかき上げると、自分の手が妙に生温く感じた。


「あっ、しまった! リリーさんのとこに手袋を忘れてきた!」

 自分の手の感覚で気付いた。

 いつも嵌めている手袋をしてねぇ!!

 リリーさんのとこでパフェを食べるのに手袋を外して、テーブルの上に置くのは汚いかなって隣の椅子にポンッて置いたのを覚えている。

 あぁー、回収した記憶がない。


 手袋は冒険者の大事な防具だ。

 敵の攻撃から手を守ることは当然として、冒険者の活動場所には素手で触ると危険なものがたくさんある、武器を握るにも手袋がないと手の平が傷つきやすいし滑りやすい。

 植物が多い場所にはヘビや虫のような小さくて危険な生物もいる。もちろん植物の棘や枝も素手で触ると手が傷ついてしまい、そこから毒におかされることもあるし、病気の原因になることだってある。

 予備の手袋はあるのだが、あまり綺麗とはいえない手袋を飲食店に忘れて帰るのは申し訳ないので大急ぎで回収だ。


「もー、グランはうっかりなんだからー。転移魔法でパパッと取りにいく?」

「んー、そんなに遠くないしパパッと走って行ってくるよ。先に冒険者ギルドに行って依頼を選んでいてくれ」

 そう言って元来た方へと走り出す。

「途中で変なことに巻き込まれたり、首を突っ込んだりしないでよー! チビカメ、グランの面倒をしっかり見ておいてー!!」

「変な妖精や小動物がいても迂闊につついたらダメだぞぉ~!!」

 後ろからアベルとカリュオンが俺に失礼なことを叫んでいるのが聞こえる。

 アベルは俺を何だと思っているんだ。

「カッ!!」

 カメ君もそこは張り切って返事をしなくてもいいからね!



 元来た道を引き返し、リリーさんの店へと走る。

 身体強化でスーパーダッシュは、歩行者とぶつかると危ないのでなし。

 自分の足でタッタカターと走って五分足らずでリリーさんの店の前だ。


 今日は店が休みの日で、その休みの店を借りての打ち合わせだった。

 俺達が店を出て十五分程度しか過ぎていないので、まだ店にリリーさんはいるかなぁ。

 外観からして店の上は住まいのようにも見えるから、上に住んでいるのかな。

 店にいなさそうだったら、上の入口を探して声をかけてみるか。


 店の前まで戻ってくると、探るまでもなく中から人の気配がした。

 ああ、よかった。

 あれ? 気配が複数? 先ほどまではリリーさんしか店にいなかったよな?

 俺達の後に別の約束でもあったのかな?

 まぁいいや、ちょっとお邪魔して手袋を回収させてもらおう。


 そっとドアが開くか試してみると鍵はかかっておらず、ドアの動きに合わせてすっかり聞き慣れたカランカランというドアベルの音がした。

「いらっしゃいましぃ~、皆様お早いご到ちゃ……ってしぃいいいっ!?」

 俺が声をかける前にリリーさんが反応した。そして噛んだ。

 この感じ、俺達との打ち合わせの後に他の貸し切り予約があったのかな?


「申し訳ない、手袋を忘れて帰ってしまって取りに戻って来たんだ」

 他にお客さんがいるようで申し訳ないと思い、ドアから顔だけを覗かせてカウンターで作業をしているリリーさんに声をかけた。

 そのついでに店の中を見ると、リリーさんと同じくらいの年齢だろうか、女性のお客さんが三人ほどボックス席で本を広げているのが見えた。

「しっしししし失礼いたしました。てってってってっ手袋ですか? あああああ、ありましたありました、お座席にお忘れになっていらっしゃいましたよ。ええ、こちらでお間違いないですか?」

「あ、それそれ! ありがとう、ちょっと失礼させてもらうよ」

 リリーさんがカウンターからこちらに見せた手袋は間違いなく俺の手袋だったので、緊張しながらお姉様方がいる店内に入り、カウンターでリリーさんから手袋を受け取った時、カウンターに積み上げられていた本に目がいった。


 "暁の獅子と白夜の竜は黄昏れに見ゆ・Ⅴ"


 赤い表紙に銀で装飾が描かれた分厚い本。表紙の感じからして冒険小説かな?

 それが十冊近くカウンターに積み上げられていた。

 あれ? どっかで見たことあるようなタイトルだな? ああ、三姉妹達がキルシェに借りて読んでいた本か。

 前世では時々小説を読んでいたけれど、今世はさっぱり読まなくなったなぁ。

 冒険者の仕事や生産に関係あるような本はよく読むんだけど、本自体が少し高いので小説を読む機会がないんだよな。


「え……あっ! ふおああああああああ!? こ、これは……えーと、えーと、えぇ……と、お客様に頼まれていた御本でして……けっしてやましい本ではなくて、ええーと、だからのその冒険小説ですわ!!」

 俺の視線に気付いたリリーさんが妙に慌て始めた。

 後ろではボックス席のお嬢様方が動揺した気配がした。

 やはりお嬢様は冒険小説を読むことを知られると恥ずかしいものなのかな?

 三姉妹だって楽しそうに読んでいるから恥ずかしがるようなことではないと思うぞぉ。


「ああ、その本ならうちの同居人も読んでたよ。確かこないだは四巻だったかなぁ。これは五巻? もしかして新刊? そうとう気に入っているみたいだし、本屋で売ってるなら買って帰ってやろうかなぁ」

 キルシェに借りて読んでいるみたいだが、いつまでも借りっぱなしというわけにもいかないし、俺も時間がある時に読んでみたいし、買えるなら新刊を買うついでに最初から纏めて買ってもいいな。

「ふ!? ふぇ!? どどどどど同居人ってアアアアアアアアベルさんのことだったります?」

「ああ、そういえばアベルも読んでたなぁ。同居人っていうかアベルの親戚の姉妹がうちに滞在してて、その子達がキルシェに借りたみたいで楽しそうに読んでるんだ」

 おっと危ない、アベルがうちに住み着いていることはリリーさんも知っているが、三姉妹達のことは言っていなかったな。

 そうそう、表向きは三姉妹とラトはアベルの親戚の姉妹とそのお兄ちゃんという設定である。


「え……アベルさんのご親戚? それは――っていうか、こっこっこっこぅしきぃ……」

 カチャンッ!

 リリーさんが何か言いかけた時、後ろでカトラリーが床に落ちるような音がした。

「し、失礼いたしました。ホホホホホ、フォークを落としてしまいましたわ。お姉様、お取り替えをお願いできるかしら?」

「ひゃっ!? あ、ああ、はい。はい、すぐにお取り替えいたしますね、オホホホホホ」

 あ、しまった。お客さんがいるのについ話し込むところだった。

 手袋は受け取ったから、営業の邪魔にならないようにさっさと撤退しよう。


「ごめんごめん、営業の邪魔だったな。本のことは次来た時にでも教えてくれ。それじゃ、また来るよ、お邪魔しました」

「カカッ!」

 俺の髪の毛をチョイチョイと引っ張って急かすカメ君に答えながら、できるだけ爽やかな笑顔をリリーさんと店内にいるお姉様方に向けて撤退。

 本のことは急いでいないし次回来た時に詳しく聞くことにしよう。

 タイトルは覚えたから、どこか大きな町で本屋に寄ってみてもいいな。


 おっと、のんびりしているとせっかちなアベルにお小言をもらうことになるから、急いで冒険者ギルドに向かおう。


お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お帰りになったはずの飼育員様がいきなり現れてwさぞ、驚かれた事でしょうw てか、赤と銀!髪の色ですね!例の本!一部で禁書呼ばわりされてた本が! [一言] アベルさんと一緒、と言っても部屋は…
[良い点] このタイミングでまさかの邂逅。 とはいえリリーさんとの正式な繋がりが出来て会う機会も増えてたし、結局は時間の問題だった気もしないでもない。 [一言] 推しに二次創作を認知される(推し自身は…
[一言] グラン、ついつい忘れ物をしてしまい、取りに戻る 特におかしいことじゃないのに、リリーさんは挙動不審が不審さ大爆発(笑) カメ君、しっかり急かして危機回避してるけど、この危機は…
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