ゴールドフィッシュ・ボウルパフェ
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「いいねぇ~! この大きさ! この食べごたえ!! 小洒落た店って量が少ないから俺みたいな体質だと入りづらいんだけど、この量のメニューがあるならありがたいな!!」
「すごい量の生クリームとフルーツ、そしてこの甘さでこの量! ものすごく贅沢! それにこの光の魔石を使ったパチパチする棒の綺麗な演出! いいねいいね、見た目も量もインパクトもいいね! 採用!!」
「カッ! カカカカカッカァ!!」
「あー、盛り上がってるとこわりぃんだけど、これたぶん一人で食べるものじゃないと思うんだ。女性数人のグループとかカップルで食べるものだと俺は思うんだけど、リリーさん的にはそこのとこどうなんだ?」
「ええぇ……ええ……もちろんお一人で召し上がりになってもよろしいのですが、グループやカップルでご一緒に召し上がっていただけると盛り上がるかなと……。ええ、男性同士のグループでもシェアしながら――と思ったのですが冒険者の方でしたら、このくらいお一人で食べきってしまいますよね……ええ、わたくしの見通しが甘かったですわ……本当にっ!! 本当に見通しが甘すぎましたわああああああああああ!! でもカメさんとゴールドフィッシュ・ボウル・パフェをシェアするグランさんはありありのありですわね……これは尊……」
ほらー、カリュオンとアベルがすごい勢いで金魚鉢……じゃなくてゴールドフィッシュボウルに入ったパフェを掻き込んでいるからリリーさんがドン引きしているぞ。
カメ君のは小皿に取り分けてあげるね。顔がクリームだらけで可愛い……いたっ!? 何でチェリーの芯を俺に投げつけたの!?
ここはアルジネにあるリリーさんの店、リーパ・フルーミニス。
今日はアベルが興す商会の打ち合わせのため、リリーさんの店へとやって来た。
本当は俺とアベルだけの予定だったのだが、レストランのメニューの試食会に釣られてカリュオンとカメ君がついて来た。
遊びにいくんじゃねーぞ! ついて来るからには試食の感想をちゃんと聞かせろよ!
というかいきなり大飯喰らいや謎の亀を連れて来てもよかったのかと心配になったが、リリーさんはものすごく快く迎えてくれた。
リリーさんは広い心の優しい人だなぁ。
そして現在進行形で試食しているのは、リリーさんが考案したメニュー"ゴールドフィッシュ・ボウル・パフェ"だ。
ゴールドフィッシュはキラキラとした綺麗な金色の小魚で、金持ち達の間では観賞用として人気がある。
つまりゴールドフィッシュ・ボウルはゴールドフィッシュ用の鉢。とくに見栄えを重視した鉢型水槽のことである。
ゴールドフィッシュ以外にも育成に手のかからない観賞用の小魚を入れることもあるが、ゴールドフィッシュが飼育しやすく人気がありすぎるが故のこの名前である。
まぁ、前世でいうとこの金魚鉢だな。
前世の金魚鉢と同じく、ガラス製で丸みを帯びたデザインのものが主流となっている。
ゴールドフィッシュ・ボウルはその名の通りボウル状で性能よりインテリアとしての見た目重視でお洒落なデザインで、ガラス製のこともあり大きめの食器っぽくも見える。
もちろん食器として使うにはかなり大きいのだが。
そのゴールドフィッシュ・ボウルを実際に食器の代わりにして、アイスやフルーツ、生クリームを盛り付けたゴールドフィッシュ・ボウル・パフェ、それが今回リリーさんが考案したメニューだ。
その器の華やかさ、大きさ、そしてその大きさを活かしたボリュームとインパクトのある盛り付けは、見る者の目を釘付けにする。
大きさは人の頭部より少し小さいくらいだろうか、それでもデザートを入れる食器と思うとかなりの大きさである。
底の方にはフレーク状の焼き菓子が詰め込まれその上にフルーツ系の赤いソースとクリームの層、それに食い込むようにフルーツの層、その上にチョコレートクリームの層があり、そこから器の上に山盛り状態で飛び出すようにフルーツ、プリン、アイスがクリームと一緒に盛り付けられ、隙間にワッフルや長細いビスケットなどの焼き菓子が刺してある。
そしてその全体にチョコレート系のソースがかけられて、チョコチップも散らされて、薄い板状のチョコレートも刺してある。
デザート用の器としては確実に大きいゴールドフィッシュ・ボウルからクリームとフルーツと菓子の山が飛び出してそれだけでもやばいインパクトなのに、その山に光の魔石を粉末にしたものを使ったパチパチと光る棒が複数刺してあり、その派手さ情報量の多さに思わず言葉を失って見入ってしまうほどになっている。
そういえば前世でもこういうド派手ででかいパフェを取り扱っている店はあったな。
それ故のカリュオンとアベルのこの反応である。
アベルとカリュオンは一鉢ずつゴールドフィッシュ・ボウル・パフェを食べているが、たぶんそれ一人で一つ食べるものじゃないと思うんだ。
量もそうだし、使われている食材の値段を考えると普通は三人から五人くらいでシェアするものじゃないかな?
俺の前にも一つあるけれど、それはカメ君と分け合って食べている。
甘いものが好きなアベル、とにかく食べる量の多いカリュオン、果物が大好きなカメ君。
みんなゴールドフィッシュ・ボウル・パフェに夢中である。
アベルとカリュオンは食べる量的な意味で参考にはならないと思うが、この反応からしてこのメニューは採用でよさそうだ。
大きさと使っているもののコスト的に値段が高くなりそうなのは、数人で分け合うとか特別な日のメニューとかいう扱いにすればよさそうだな。
このインパクトなら話題性もありそうだし、アベルがよく言っているように高価なものを使ったものならば貴族やお金持ちが興味を示す。
一人で金を払うには高いものでも数人で頼んで割り勘にするなら、一人頭の金額が少し高くてもちょっとした贅沢とかイベントだと思えば納得できる。
「これは金額を考えずに作ってみたものなので、もう少しコストを押さえて派手さは控えめになると思いますわ。果物にも旬がありますから、その時期で内容も変わると思います」
確かにこのサイズでこれだけ容赦なく生クリームや果物、チョコレートにアイスまで使っていたらすごい値段になりそうだ。
「その辺は客層に合わせて使うものと値段を調整するのがよさそうだね。貴族向けの店で思いっきりお金をかけてすんごいの作って、めちゃくちゃ高くても華やかさとインパクトがあるなら話題にもなりそうだよね」
アベルはやっぱりこれを貴族向けにも売り出したいようだ。
「デザートだけじゃなくて肉でもいいな」
落ち着けカリュオン、この量の肉は見ているだけで胸焼けがしそうだぞ!!
「カーカーカーカー」
これはカメ語でもなんとなくわかるぞ。
このサイズのカレーはさすがに多すぎるんじゃないかな? ていうかカレーはシェアしながら食べないんじゃないかな!?
ああ、ピッチャーに入れたカレーはありなのか!? それって鍋でよくね!?
「そうだなぁ、サイズや使う素材、それに合った値段でメニューをいくつか用意するのがいいんじゃないかなぁ。でも日持ちしにくい果物や生クリームを多く使うから、売れなかった日に材料を捨てることにならないように、一日の数量を限定したり、予約を受けたりするといいかもなぁ」
食品系の業種はどうしても売れ行きによって廃棄が出てしまうから、そのコントロールもしなければいけない。
少なければお客さんに出すものが足りなくなる、多ければ捨てることになる。
俺の収納スキルになれてしまうとつい忘れがちだが、時間が止まったままものを保存できる収納系の魔道具は、高度な時間魔法系の付与が必要なため非常に高価でそれを作ることのできる職人も少ないのだ。
俺の収納スキルは何故かそういう機能があってラッキーだった。
アベルの収納もアベルが空間魔法と時間魔法を使いこなすチート様だから、俺と同じように時を止めた状態でも、ものを保存することができるのだ。
「そうですね、値段を分けたり予約を受けたりするのがロスを減らせそうですわね。パフェで上手くいくようならそれ以外のメニューでも同じような試みをしてみるのもよろしいですね。肉……大皿に盛った肉を複数でシェア……それなら各自で焼いて貰うようにすれば料理人の手間が減って……あっ! 選べる魔物焼肉店!! しかし焼肉はにおいと煙が出るからやるならレストランとは別店舗にしないと……。いえ、料理人がパフォーマンスを兼ねて目の前で焼くバイキング形式もわるくないですわね」
あー、リリーさんがブツブツと独り言をこぼしながら考え込み始めたぞ。
チラッと聞こえて来た選べる魔物焼肉店、野外の活動では狩った魔物の肉をその場で焼いて食べることもある冒険者にはあまり新鮮みはないが、前世の記憶にある焼肉の雰囲気を思い出すとすごくありだよなぁ。
しかも魔物の肉なら種類も多い。
でも煙やにおいの問題、それに各自で焼くなら生焼けの危険性も周知しないといけなさそうだなぁ……ふむぅ、それなら料理人が焼いたのをバイキング形式なら安心だな。
「リリーさん、何か面白いことを思いついたみたいだね。よかったらその話を聞かせて? ふふ、リリーさんはいいビジネスパートナーになりそうだね」
ああ~、アベルがものすごく爽やかにリリーさんに尋ねているけれど、その笑顔はやばいやつだ~~!!
これは金のにおいを嗅ぎつけた時の表情だ!! この後、めちゃくちゃ質問攻めにされるぞ、がんばれ!!
経験者の俺が言うのだから間違いない!!
お読みいただき、ありがとうございました。
明日と明後日の更新はお休みさせて頂きます。土曜日から再開予定です。




