退屈なくらいでちょうどいい
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「ちょっとおおおお!! 何で起こしてくれなかったのおおお!?」
「起こしたけど起きなかったから諦めたんだよ」
「何でそこで諦めちゃうの!! 諦めないでよおおおおお!!」
「いや、俺だって自分の準備があるし。ていうか、お前昨夜すごく遅くまで起きてたろ? 俺が夜中トイレに起きた時ドアの隙間から光が漏れているのを見たぞ」
「う……昨夜はちょっと一人で飲みたい気分だったの! って、カリュオン! 俺のベーコンエッグを取ろうとしないで!」
「寝坊したアベルの朝飯を食べる手伝いをしてやろうと思っただけだぞぉ」
「そんな手伝いいらないよ! 手伝うならベーコンエッグじゃなくて添えてあるレタスを食べて!」
「ははは、今朝のレタスの席は満席かなぁ?」
「席って何!? 席って!! カリュオンのお腹の中は食べ物劇場か何かなの!?」
朝から賑やかだなぁー、アベルが。
カレー三昧の夜の翌日、今日は王都の冒険者ギルドに先日の報告書を提出にいく日だ。
昨夜遅くまで部屋で何かしていたアベルは、起こしてもなかなか起きなかったので諦めて放置したらこれである。
アベルの寝起きの悪さは今に始まったことではないのでいつものことだけれど。
そしてどんなに寝坊をしても朝飯はちゃんと食べるのがアベルらしい。
ギルド長は忙しい人だからなー、面談の時間は決まっているから遅刻はできないぞー。
ハンブルクギルド長が気を使ってくれて中一日空けてくれたので、心も体もゆっくり休めることができ、無事完璧な報告書ができた。
時間に余裕もあったので念入りな打ち合わせもできた。
表向き用の報告書とギルド長に渡す用を作りばっちりだ。
ギルド長用はカメ君と赤毛さんのこと以外のことを、表向き用はドリー達が町に送り帰されたリュウノナリソコナイの転移魔法を俺とアベルは回避して、リュウノナリソコナイを倒したら沌の魔力の発生は止まったという内容で、アベルが説得力ある報告を作ってくれた。
俺はカレーを作っていただけで何もしていないけれど、カレーが美味しかったので問題ない。
あの日、地下のあの場所から冒険者ギルドに戻るとそのままギルドの応接室へと通され、そこには転移魔法で町に送り帰されるまでの報告書を作成しているドリー達がいた。
騎士さん達は今回のことの報告に王都騎士団の本部がある王城に戻ったらしい。
みんな俺達のことを心配していたのだろう、俺達が応接室に入った時は重苦しい空気で報告書もあまり進んでいないように見えた。
カリュオンはカメ君がすごいカメなことを知っているので、カメ君が俺達と合流していると思っていたのだろう、いつもとあまりかわらなかった。でも報告書は進んでいないようだった。
まぁカリュオンは俺達と一緒に水路に入って、ドリー達に合流するなり送り帰されたからな。報告書もくそもなさそうだ。
ドリーは顔色まで悪くなっているように見えたが、俺達の姿を見ると途端に表情が緩み、よく無事で帰ったと俺もアベルもわしゃわしゃと頭を撫でられた。
もう子供じゃないんだから頭を撫でるのはやめてくれよぉ。
ほら、リヴィダスもシルエットも呆れて苦笑いをしているじゃないか。カリュオンは相変わらず楽しそうだな。
そしてご心配をおかけしてすみません!!
あの転移魔法がアベルの仕業だとはもちろん言えないし、水路最下層の先であったことはドリー達にどこまで話していいのかもわからないため、事情を話すのは保留。
あの水路の下のことはドリーも何となく知っているのか深く追求はされなかったので、詳しい説明はギルド長に任せることになった。
俺とアベルがクタクタなのはみんな一目でわかったようで、今日はすぐに休んでいいと言われた。
ドリー達にはすごく心配をかけたと思うので、しっかり穴埋めをしなければならないな。
危険なことが当たり前の冒険者の仕事で、心配してくれる仲間というのはとてもありがたい存在である。
「アベルは朝から元気ね」
「あと五分早くお目覚めになればよろしいのでは?」
「それより早く食べないと約束に遅れてしまうのではないですかぁ?」
「ふむ、そんなに朝起きられないならモールからコケコッ鉱を貰って来てやろうか?」
ホント、朝から元気だし、あと五分早く起きれば慌てることもないし、カリュオンとベーコンエッグを取り合っている時も時間は流れていっている。
ところでラト、コケコッ鉱はやめろ。
あれは夜明けと共にコケコッコーと爆音が鳴り響く摩訶不思議な鉱石だ。
見た目も白地に赤い模様が入って、なんだかコケコッコーと鳴きそうな見た目である。
夜明けと共に鳴くので確かに目覚ましにはいいかもしれないが、アベルの部屋が音の発生源でも俺の部屋まで間違いなくその爆音は届く。
日の当たらない地中になるモールの住み処なら、朝日に当たることはなく爆音を発することはないが、地上に持って出てしまうと毎朝日の出の光に当たる度に大音量のコケコッコーが周囲に響き渡ることになる。
近くに人は住んでいないから近所迷惑にはならないが、あんなうるさい鉱石がアベルの部屋で鳴いたら俺に迷惑がかかる。
ところでこのネーミングセンス、俺の前世と同郷者の気配を感じる。
「コケコッ鉱なんかいらないよ!! 昔グランが知らずにダンジョンでコケコッ鉱を掘って、何を思ったかそれをポケットに突っ込んで持って帰ってそのまますっかり忘れて、翌朝宿屋で爆音を響かせたことがあるんだから!!」
そうそう、そんなことがあったからコケコッ鉱のうるささは身を以て体験をしている。
アベルはそんな昔の細かいことをよく覚えているな。
「コケコッ鉱か……俺も長老の家にこっそり置いておいたことがあるな」
カリュオンの悪戯が悪意まみれすぎる。そして近所迷惑すぎる。
「カァ?」
カメ君は海が本拠地だからコケコッ鉱を知らないのかな?
うん、あれはとてつもなくうるさいから知らないほうがいいよ。
「ほら、そんな話なんかしてないでさっさと飯を食わないと、マジで間に合わなくなるぞ。俺は一足先に洗面所を使うぜ」
「じゃあ俺は先に鎧を着てから洗面所を使わせてもらうか」
「げええ~、グランもカリュオンも洗面所使う時間が長いんだよぉ」
そんなことを言われても寝坊したアベルが悪い。
「カメ君はカレンダーにカメマークが入ってないから弁当はいらないんだよね? というか今日は俺達と王都にいくつもり? じゃあ美味しいものを食べて、帰りはグルグルソーセージを買って帰ろうね」
一昨日の帰り際にマルゴスのとこに立ち寄ってソーセージを予約しておいたので、今日の帰りに受け取って帰ろう。
「カカカッ!!」
俺の言葉にカメ君が手を上げて応える。
「おっと、のんびりしてると結構いい時間だ、いそいで歯磨きをして髭を剃らないと」
「ごちそうさま! 食器を片付けたら俺も洗面所を使うから早く空けてよね」
「俺も鎧を着たら使うぞぉ」
みんな同じ時間に出かける日は洗面所が大渋滞。
うちで暮らす人が増え、朝から賑やかである。
そしてそれが日常。毎朝繰り返される代わり映えのない光景。
バタバタ続きだったので、この平凡な光景がたまらなく安心する。
少し退屈なくらい、かわらない毎日が繰り返される生活は幸せな証拠。
鬱陶しい雨の季節はもう終わりなのだろうか。
窓から差し込む熱気を帯びた鋭い日の光が、暑い季節がもうすぐそこまで来ていることを知らせていた。
お読みいただき、ありがとうございました。
明日からのんびりほのぼの系新章になりまーす!!




