閑話:家主の知らない同居人?
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風呂と夕食、そして夕食の後のお酒、ここまでがグランの家で過ごすようになってからのいつもの流れ。
俺がここに来た時はグランと俺と鹿野郎の二人と一匹だった。
それが男三人と見た目は幼女三人になり、外にいた花の妖精がたまに家の中で過ごすようになり、森にいたフクロウの妖精が出入りするようになり、今はドリーの実家の方へ行ってしまったがジュストもいた時期もあった。
更に気付けばチビカメやらカリュオンやら性悪剣まで居着いてしまっている。
そういえばワンダーラプター達もグランが可愛がりすぎて手放せなくなってしまい、旅先から連れて帰ってきてしまった。それからキノコもいる。
尋ねてくる者まで入れれば、キルシェちゃんはいいとして、地下から突然やってくるモグラに、森から来る変態ドリュアスとその保護者ドリュアス、グランも正確には把握していないけれど確実に勝手に出入りしていろいろ盗み食いをしている野良妖精達。
田舎でスローライフをしたいって王都から田舎に引っ越したわりには、いろいろと居着かれているうえに毎日誰かしら訪れて賑やかだしバタバタとせわしない。
ねぇ、グラン? 王都で冒険者していた時よりも忙しくなってない?
王都にいた頃は忙しかったけれど、毎日作業のように効率重視で冒険者ギルドの仕事をして宿に帰って休むという変化の乏しい毎日だった。
忙しいというか追われているというか、パターン化した毎日をただひたすらに消化しているような感じ。
でもグランといるとその起伏の少ない日々も退屈だとは思わなかった。
グランの家に来てからは、空気はのんびりしているのだが王都で過ごしていた時期よりも違う意味で忙しい。
王都にいた頃のように、日々作業をしているような感覚や時間に追われているような感覚はなくなったものの、何かしら起こって何かしら忙しい。
その原因はほぼほぼグランなんだけど。
かれこれ俺がグランの家に押しかけてから一年以上が過ぎた。
そしてこの家に居着く者、訪れる者の数がびっくりするくらい増えた。
みんなグランに誑し込まれた奴らだ。
騒がしいしなんだか悔しいけれど、この賑やかさもせわしなさも何故か居心地よくて嫌いじゃない。
そしてもう一人、家主のグランすら知らない者がこの家にはいる。
「はー、お腹いっぱいー、食べすぎたー。その後お酒まで飲んじゃったから苦し-」
夕食の後の晩酌も解散して自分の部屋に戻り、ベッドの上に仰向けに倒れ込みながら独り言を吐いた。
今日の夕食はスパイスをたっぷりと使う料理のカレー。
グランが張り切っていろいろなカレーを作ったので、それを食べ比べるという贅沢な夕食。
スパイスの原産地シランドルに行った時にスパイスを買い漁って来たようだが、どんなにたくさんストックしていても使っていればいつかはなくなる。
カレーのためにもまたシランドルに行かなければならないな。
スパイスだけじゃない。シランドルの東の方でしか手に入らない食材も買い足しに行きたいし、それをユーラティアに流通させるための経路も作りたい。
カレーなら俺の嫌いな野菜もなんだか美味しく感じるし、どんな肉もだいたい美味しく感じる。そして今日はエビもカレーに合うことを知った。
何にでも合う……いや、何にでも合わせてしまう不思議な料理、カレー。
その味を知ってしまったから、もうあの香りでお腹が減るようになった。
しまった、思い出したらお腹がいっぱいなのにカレーが食べたくなっちゃった。
夕飯の時にこっそり収納空間の中に入れて持って帰ってきたカレー味の揚げ芋を、少しだけ食べちゃおっかな。
小皿に載せて持って帰ってきたカレー味の揚げ芋を空間魔法の収納から取り出すと、即座に勝手に手が動いて細長くカットされた揚げ芋の一つを摘まんで、それが口の中に放り込まれた。
「ちょっと!?」
思わず大きな声が出てしまった。
あまり大きな声を出すと隣のグランの部屋まで聞こえてしまう。
「もー、何勝手なことしてるの? ちょっとしか持って帰ってきてないんだからゆっくり食べないともったいないでしょ?」
グランの部屋まで声が届かないように小声で彼に文句を言う。
彼――家主のグランすら気付いていない、この家に住み着いている者。
正確には俺の中に住み着いている者。
時間は夜。
小さな声でも周囲の部屋に届いてしまいそうだ。
グランは鈍いからともかく、ラトやカリュオンは"彼"に気付いてしまいそうなので声に出さず心の中で話しかけることにした。
最近気付いたけれど、君さ……だんだんふてぶてしくなってない? もしかしてそれが元の性格?
ねぇ、俺の知らないところで何かやってない? ていうか俺が話している時にしゃしゃり出てくるのやめてくんない?
……昔からいろいろ力を貸してくれているのは感謝しているけれど、緊急時でもないのに勝手に俺の体を動かさないでよ。
俺が空間魔法で保存している料理を勝手に食べないでよ。もちろん飲み物もダメ!
とくに揚げ芋とスライス揚げ芋はダメ! それとシュワシュワする飲み物、これもダメ!
ていうか、食材ダンジョンで助けてもらって以降自己主張が激しくなってない?
あれまではほとんど干渉しないで見ているだけだったのに。
え? 俺が気付いていなかっただけで何度も干渉していた? 勝手に体を借りたこともある? は? 何勝手なことしてんの!?
俺が君の正体をはっきりと認知して受け入れたから前よりは動きやすくなったし、俺も君が動いたことに気付きやすくなった?
まぁ確かに、以前は何か存在の気配は感じていても、その正体まではわからなかったからね。
今は君が俺に伝えたいことは、何となくわかるって感じで伝わるようになったよ。
で、何で拗ねてんの? そんなにカレーが食べたかったの?
あそこにいる時から拗ねているみたいだったから、カレーじゃないか。
隠しているみたいだけれどダダ漏れだよ。
昨日も俺の体で散々高度な魔法を使ったうえに走り回った後で突然棺の中に引っ込んで静かになっちゃうから、急にやばいくらいの疲労感がきてあんな場所で寝ちゃったでしょ!!
あれはめんどいくさい奴が来たから見つかりたくなかった? しかも黒い奴がスリープ系の魔法を使った?
もー、やっぱりじゃん! あんなとこで寝ちゃうなんておかしいと思ったよ!
疲れていなかったら脳筋ギルド長の無詠唱スリープなんかにかからないのに! きぃー! くやしっ!
で、君が言うめんどくさい奴ってベテルギウスギルド長?
わかる、俺もあの人? 苦手。
悪い人ではないのはわかるけれど、確かに少し頭が固そうで口うるさくてめんどくさい系の人だよね。なんだかドリーを思い出しちゃう。
絶対ただのリザードマンではないって思っていたけれど、君が教えてくれて納得したよ。
ていうか、どうして君達はそうやってしれっと人に紛れ込んでいるの!?
チビカメも当然のようにグランの家に住み着いて、当然のように他の人とも交流しているし!
気付いていないだけで他にも人の社会に紛れ込んでいるのがいるんでしょ!? そこは黙りなんだ!?
長い時間を生きていると退屈? 知らないことを知るのが新鮮? この世は知らないことで満ちている?
そうだね、確かに知らないことがたくさんあって、それを知るのは楽しいね。もしかしてこれって君の影響?
でも知識の追求は楽しいから、それでもいいや。
この世には知らないことが多すぎて人間の時間だとそれを全部知ることは不可能だからね。
ふふ、長い時がある君達にはちょうどいい暇潰しなのかな?
この世に無限に存在する知らないことを知るために、使える時間がたくさんあるのは羨ましいね。
それでも俺は人間でよかったよ。
大切な人が旅立つのをずっと見送る側だなんて想像もしたくないよ。
ああ、もしかしてこれは君の感情の影響かな。
今回のことで残して逝く側の気持ちも間近で見てしまったから、どちらも辛いのはわかったけれど、それは生き物の宿命だよね。
もちろん、それに逆らう気はないよ。
当然だと頭ではわかっているよ。
そうだね……その時がきたら受け入れられなくて逆らってしまうかもしれないね。
どちらの立場だとしても。
だけどそういう時は、きっとグランが昨日無理矢理俺達についてきたように、無理矢理止めてくれるかも。
そうだね、すごくいい友達だよ。君もずっと見ていたでしょ。
だーめ、グランは俺の友達だからね、勝手にしゃしゃり出てきてもだーめ。
昨日も勝手に俺の口で話して、グランがにぶちんじゃなかったら気付かれていたよ。
君、意外と感情任せに行動する方だよね?
ていうか、勝手に俺の体でグランに会いにいってないよね!?
ちょっと!? 何とぼけようとしてるの!?
昨日の夜とかベッドに入ってからすぐ記憶ないけれど、何もしていないよね!?
ただ疲れていただけだろう?
この家にはベテルギウスギルド長より苦手な奴がいるから、迂闊に俺の体でウロウロできないから安心しろ?
苦手な人がいなくても俺の体で勝手にウロウロしないで!
で、苦手な奴らってラトのこと?
ふ~ん、へぇ~、いいこと聞いちゃった。
ふふふ……大丈夫だよ、俺もめんどくさいからバラしたりはしないから。
でもあまり俺の体で勝手なことをしていると、ラトかベテルギウスギルド長に相談しちゃうかも。
ラト達もベテルギウスギルド長も、君のことには気付いていないよね?
チビカメにはバレたから仕方ないけれど、彼らが近くにいる時はバレないように棺の中で気配を消して大人しくしてる?
そんなに苦手なんだ。
え? 俺ばっかり質問してずるい?
俺は君みたいに長生きじゃないから知らないことの方が多いの。
うん、聞きたいことがあるなら俺にわかる範囲で答えるけど?
ていうかずっとそこから見ているのだから、だいたい知っているでしょ。
え? グランの話?
何で君が力を貸してくれた転移魔法をグランが抜け出したかって?
グランだからじゃない?
あの頃から君は見てたんじゃないの?
グランと出会ったばっかりの頃、よくギルドで依頼用紙を取り合っていたのも。
グランは俺の転移魔法から依頼用紙を奪っていくくらい反応がいいからね、それで抜けられたんじゃない?
まぁ、グランだから仕方ないよね。
時間魔法も抜けられて悔しい? 人間とはレベルが違う時間魔法なのに、あっさり抜けられた?
まぁグランだからね、もうそれで納得して。
君もよく覚えておくといいよ、グランの常識はこの世の非常識だから。
もしかして君が拗ねているのはグランのせい?
君の友達の赤毛もグランみたいに君の魔法をヒョイヒョイ抜けていた?
へぇ、あのヴァッサーフォーゲルって人は人間だよね?
うん、グランみたいに猿のように身軽だった?
ああ、グランは猿だよね。とくに森にいる時とかすぐ木に登って果物を集め始めて、ホント猿。
ヴァッサーフォーゲルさんもそうだったんだ。
グランの家族もそうだけれど、赤毛の人ってやっぱ少しおかしいよね。
ふふふ……いいよ。
昨日いっぱい助けてくれたから、今夜はそのヴァッサーフォーゲルさんの思い出話を聞いてあげる。
しょうがないな、少しだけグランの料理を分けてあげるよ。
お酒は何がいい?
でも俺の体なんだからあまり飲み過ぎないでよね。
明日は王都の冒険者ギルドに報告書を持っていかないといけないし、兄上達にも報告に行かないといけないから。
じゃあ眠くなるまで、君の友達の話を聞かせて?
お読みいただき、ありがとうございました。




