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グラン&グルメ~器用貧乏な転生勇者が始める辺境スローライフ~  作者: えりまし圭多
第八章

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閑話:俺様のプライベートダンジョン

誤字報告、感想、ブックマーク、評価、いいね、ありがとうございます。

 あの時、性悪キンピカの転移魔法で一度町に戻されたものの、優秀で準備の良い俺はすぐに赤毛と銀髪の場所を特定し追いかけることができた。

 追いかけることができたのだが、赤毛達のとこに転移した時は懸念していたダンジョンの形成がすでに始まっており、間が悪いことにその瞬間にその場所に出てしまい渦巻く魔力に弾き飛ばされてしまった。

 俺様としたことが油断していた上に、子亀の姿だったのでポーンとあの空間の下層まで。


 ただのダンジョンの形成ならそんなことにはならなかったのだが、あの空間はあの竜のなり損ないと、面倒くさい爺どもの魔力が反発しあっていたため予想外の魔力の激流にポーンされてしまった。

 はて、あのなり損なった竜の中から出てきた、元人間のような赤い髪の骸……の魔力、何となく知っているような知らないような。

 ……昔のこと過ぎて思い出せないからいいか。



 助けに来てやったというのに、クソみたいな不幸な事故で今まさにダンジョンができようとしている中心部――町の下にある空間の最深部手前まで吹き飛ばされてしまった俺の目の前にあったのは、大規模な竜の墓場。

 その入口が無理矢理こじ開けられたみたいに開いているのを見た。

 それでここが何かを思い出した。


 周囲を見回せばパッと見は破壊の跡ばかりが目立つが、最近似たようなものを見た記憶がある場所。

 その役割を失ってどれだけの時が過ぎたのかわからない遥か昔の王の間。だが過去の栄光の痕跡は埃や瓦礫の中にまだ残っている。

 わずかだか古い時間魔法の気配がする。

 おそらくそれによって当時の光景が、未だ朽ちることなく残っているのだろう。

 

 その時の止まった王の間で、当時の支配者が座っていたと思われる玉座が倒れ、それが元あったであろう場所にポカリと黒い穴が開いている。

 その穴には空間魔法がかかっているのかゆらゆらと黒い穴が揺らいで見えた。

 そしてゆらゆらと揺らぐ穴からは真っ黒な沌の魔力が溢れ出しており、それが上へ流れていき、あの臭い水路に漏れていたのだろう。


 ここは嘗て純血の古代竜達が国を築いていた土地。その支配者の城。


 俺が封じられた場所にできたダンジョンで、海の中から出てきたあの城とそれを囲む城下町。

 ここはあの仮初めの城と町の元となったもの。あの仮初めの城と町の未来。

 純血故に古代竜のくせに弱く、命に限りができてしまった者達の国の跡。

 自分達より弱い小さき者を支配していきり散らしていたしょうもない奴らの終着点。


 そんな奴らの中であのキンピカだけは明らかに異質で、その本来の姿はどう見ても混血の古代竜だった。

 父親は真っ黒な純血の古代竜にも関わらず、あいつはキンキンピカピカで無駄に羽がいっぱい生えていた。

 羽のない俺はそれが気に入らなくて思わず、お前托卵された系じゃね? と言ったら思いっきり蹴飛ばされた。

 それ以外にも何度も蹴飛ばされたな。あいつは性悪の上に足癖まで悪い。



 そしてそのキンピカに聞いた話。

 あの町は嘗ての国の支配者達、命に限りができてしまった純血古代竜達の墓の上にあると。

 つまりあの国の下には古代竜の死体があるということだ。


 交じりなき古代竜ということに拘り他との交わりを嫌い、力を弱め命に限りを作ってしまった奴ら。

 しかし力が弱くなろうとも、それは始祖に近い奴らや俺のような混血の古代竜に比べての話だ。

 どんなに古代竜として劣化しようともやはり古代竜であり、他の生き物とは比べものにならぬほど強く、存在するだけで周囲に大きな影響を与えることには変わりない。


 それは死した後も。

 古代竜の体は小さき生き物どもと比べると非常に巨大である。

 小さき生き物ならば死した後、その肉体が朽ち果てるにはそう時間がかからない。

 しかし古代竜はでかい、そして魔力を糧とするその肉体は当然のことながら魔力の塊である。

 つまり長い時間朽ちることなく、巨大な魔力の塊が残り続けるということだ。

 それは長い時間にわたりその地に魔力を提供し、豊かにする。時にはその魔力の濃さからダンジョンを作り出してしまうこともある。

 その骸は生きた歳月と同じだけの時間、朽ちながらもその地に影響を与え続けるという。

 もしかすると肉体にしがみつく記憶が、自らの骸が発する沌の魔力の影響で生と死の境を忘れ新たな心になることもあるかもしれないな。


 命に限りができたといっても、その寿命は小さき者より遥かに長い。

 終わりがなかったものに千や万の限りが付いただけだ。

 巨大でそれだけの年月だけ残り続けるというものを、地上に放置しておくわけにはいかないと、劣化古代竜達が集まっていたあの国では国で一番力を持つ者――あの国の支配者が住まう場所の下に墓を作った。

 国で一番力のある古代竜だからこそ、そして死した古代竜の血を引いているからこそ、その地の下に眠る者を鎮めることができるのだとキンピカが言っていた。


 そう、あの地の下にはあの国の支配者だった古代竜達が眠っているのだ。


 あの国がなくなってからどのくらい経ったのか、箱庭に閉じ込められていた俺にはわからない。

 箱庭の中では幾万の時が過ぎたが、外ではせいぜい千年に満たないくらいだと思っている。

 あの国がいつの間にか人間の国になり、いつの間にかキンピカとの交流が途切れたのは箱庭に閉じ込められる数百年前か?

 最後にあそこの墓に入れられた古代竜がいつの頃かまではわからないが、時間の経過と古代竜の寿命を考えると、城の下にある墓の中には、まだ死した古代竜の本体が残っている可能性が高いということだ。



 ダンジョンの形成に巻き込まれ俺が弾き飛ばされたのは、その墓の入口――古い古いとても古い王城の玉座の間。

 キンピカと真っ黒の親子ゲンカで一度は破壊し尽くされた場所。

 その後キンピカがその城を墓ごと埋めて、新しい城と町を作って限られた者しか近付けぬようにしたと、後にキンピカが言っていたのを覚えている。

 限られた者とは古代竜または古代竜の血に連なる者。しかし血が薄ければ深くまで入ることはできないと聞いたな。

 その城がここに埋まっていたということは、その新しい町が後にロンブスブルクという町の元になったのかもしれないな。


 俺がそこに飛ばされた時、その墓の蓋だと思われる玉座が倒れ、墓の内部から呪いのような沌の魔力が溢れていた。

 臭い。

 まぁそうだろうな。この沌の魔力はここの地下に眠る古代竜の骸から出ているものなのだから、死と腐の香りといってもおかしくないだろう。

 そしてそのにおいは、鼻のいい俺様にとって不快である。


 とりあえず臭いものには蓋をしておくか。


 その前に少しだけ墓穴を覗いてみるかなぁ。

 赤毛ではないが、何かいいものがあるかもしれない。

 ただの偉大なカメさんがちょっとだけ覗きますよー。

 ただの偉大なカメさんだけれど、お前らよりずっとつえーから刃向かうんじゃねーぞ。


 そぉ~と穴を覗くと、いくつもの金の光が見えた。

 それがここに眠る者の目の光だとすぐにわかった。

 やはりまだいるな。


 ふむ、墓が荒らされて機嫌が悪いのか。

 わかるぞ、寝ているところを邪魔されるのは不快だな。

 しかもその墓荒らしが、残っている死体から血を盗んでいった?

 ふむ……、古代竜の墓を荒らそうという時点で普通ではないが、それを成功させ逃げていくとは何者だ。

 不完全な神?

 ああ、その手の奴か。面倒くさい奴に絡まれたな。


 まぁ、墓の蓋が開きっぱなしなのはくせーから閉めておいてやろう、じゃあの。

 ついでに再び眠りを邪魔されないようにもっとでかい蓋をしてやろう。

 なぁに、お前らのお漏らしした魔力に俺の魔力を足してちょちょいとすれば、ここにできようとしているダンジョンを深い海の空間に作り替えることくらいチョロい。

 ああ、俺は偉大な古代竜だからな。

 混ざりものの竜だが、俺は俺という唯一無二の存在だ。姿は異形だが俺は俺という存在に古代竜としての誇りを持っているぞ。

 飛ぶことはできなくとも、海を泳ぎどこまでも潜ることができる。空が高いように海も深いのだ。

 はっはっ、空ばかり見てきたお前らは海の底を知らないだろう。俺も空の上を知らないけれどな。


 海の底を見ることができなかったお前達のために、ここの上に海を作って海の底を見せてやろう。

 深い海の底で光る生物が漂うように泳ぐのは、夜の星空のようだぞ。

 ああ、海であり空である。

 お前達が見ることができなかった海の底、そして見ることのできなくなった空の上に似た景色。それをここに残していってやる。


 は? 墓仲間の一隻が墓荒らしを探して墓から抜け出して出歩いている?

 肉体は墓の中にあって動くことはできないが、実体のない思念で活動するために溢れ出した沌の魔力を利用して周囲をダンジョン化させ、自分も実体化している?

 はー、古代竜の絶大な能力を無駄遣いして徘徊してんじゃねーよ!

 しょうがねーなー、この埋もれた地に俺様の知り合いの小さきものが入り込んじまってるから、その徘徊爺がそいつらに絡んだら困るから適当に連れ戻してやるよ。

 べ、別にその小さき者達が大事な存在ってわけじゃねーぞ! 奴らと食う飯が美味いだけだからな!

 それとこの町で食べたぐるぐるしたソーセージが美味かったから、町に何かあってそれが食べられなくなると困るからな!

 仕方ない……俺の作った蓋の様子をたまに見に来てやるから、その時にぐるぐるソーセージも持って来てやってもいいぞ。


 ああ、キンピカが近くに来ているな。相変わらずジメジメした奴だけれど、何だかんだで人間に紛れて楽しそうに見えるな。

 海で蓋をしてもキンピカならその気になれば突破してくるだろ。

 ん、まぁ覚えていたら伝えてやるよ。たまには墓参りに来いってご先祖様が言っていたってな。


 倒れた玉座を元の場所に戻し、この墓と時の止まった王の間を海の底に沈めた。

 子亀の姿では小さすぎるし、本来の姿はでかすぎるので海エルフの姿で。

 海の空間を作った後は本体になりその空間を広げつつ、徘徊爺を探すことにした。

 墓を荒らした侵入者はもういないかもしれないが、赤毛達が近くまで来ているとすると赤毛達がとばっちりを食いそうだな。


 と思ったら実際とばっちりを食っていた。

 世話のかかる奴らだな~。は~、俺がいないと何もできないのかな~?

 は~、仕方ね~な~。


 赤毛達のすぐ近くに迫っていた徘徊爺竜を作った海の空間に引きずり込み、墓まで送り届けてやることにした。

 水でも被って冷静になれ、あれは墓荒らしじゃねーぞ。墓荒らしはとうに逃げた後だろ。

 それによく見てみろよ。

 マジ、あのキンピカは何やってんだろうな。人間社会に紛れ込むどころか、人間の中に入り込んでいるなんて酔狂だな。

 どういう教育をしたらあーなるんだ? あ? なんか文句あっか?

 ふん、なんであいつが王様を辞めたかは知らないが、今ここにある国は平和に見えたぞ。

 ああ、凄く栄えているよ。確か国の紋章はありがちな竜の絵だったな。


 はー、納得したら帰った帰った。

 まぁ墓荒らしはどっかで見かけたら俺がガツンと言ってやるよ。

 金髪で顔の右側に仮面を付けている奴な。

 はて……、随分昔にそんな奴がいたようないなかったような。

 お、おう、忘れずにちゃんと覚えておくから安心しろ。


 はー、気付いたらでかい町の下に俺様のプライベートダンジョンを作ってしまったわ。

 元はこの辺りはあの古代竜の国を支配する者達の縄張りで、それを引き継いだキンピカの縄張りでもあったのだが、今はこの辺りには力を持つ古代竜はいないようだ。

 この地に影響を及ぼしていた墓の中身は俺が海の底に沈めてしまったし、キンピカも銀髪の中に引き籠もっているし、この町はもう俺の縄張りでいいのでは?

 そうだな、荒らされた墓の蓋を戻してやったし、奴らがゆっくり眠れる空間も作ってやった。

 赤毛もよく言っている、仕事には正当な報酬が必要だと。

 よって今回の報酬はこの町! このロンブスブルク周辺を俺の縄張りとする!!

 ちゃんと水の加護を与えて、俺様のダンジョンの様子も見てやるから、ありがたく俺の縄張りになるがいい!!

 なんなら国の紋章にカメを加えてもいいぞ。


 縄張りも増えてご機嫌で赤毛に合流したら、何故か赤いおっさんが仲間と一緒にやってきたサメ。

 さすがおっさんの友達、非常識そうな奴らばかりだな。

 赤いおっさんは俺の活躍に気付いたようで褒めてくれたので、この空間の調査を少し手伝ってやって、赤いおっさんと一緒に水の中に潜った時に俺の手柄を自慢しておいた。

 この奥であったことは、赤いおっさんにしか教えていないから問題ないサメよ。

 おっと、本体で少しだけ本気を出したせいでうっかりサメっぽい振る舞いになってしまうな。

 俺は今はただの凄いカメさんなので気を付けるカメ。






 ――この至福のカレー三昧の時にうっかり加齢臭竜のことを思い出してしまった。

 俺が好きなのはカレーであって加齢臭ではない。


 昨日のことを思い出しているうちにカレーを全部食べてしまったぞ。

 もちろんまだまだ食べることができるぞ! おかわり!!



お読みいただき、ありがとうございました。


明日と明後日の更新はお休みさせていただきます。日曜日から再開予定です

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― 新着の感想 ―
羽のない俺はそれが気に入らなくて思わず、お前托卵された系じゃね? と言ったら思いっきり蹴飛ばされた。 蹴飛ばされただけで済んで良かったな……
[一言] >>なんなら国の紋章にカメを加えてもいいぞ。 いやマジで亀甲模様をシレッと追加するくらいならアリなのでは?と思った。亀そのものは無理でもさ。縁起が良いからねー、亀甲模様。 あ……、でもそれ…
[良い点] 亀君が好きな事が増えて良かったね いつかグランたちと時が別れても料理を覚えれば思い出を偲べるし、新しい人とご飯が思い出に成るね [一言] 亀君料理人に成る未来が有ったり、かの古竜美食なりと…
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