ヒーローは謎の巨大生物
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結局ギルド長三人に囲まれて色々突っ込まれながら、今回の顛末をカメ君とヴァなんとかさんの部分だけ隠して話すことになった。
ハンブルクギルド長は高位の貴族家出身で、なおかつ王都のギルド長という役職柄、この地下に在る者の存在はすでに知っていたみたいだし、黒いでっかい前足さんの話をしても問題はなさそうだと判断したからだ。
ベテルギウスギルド長は水路に発生した沌の魔力の件で王都に呼ばれ、平の冒険者だけで対応できない事態なら対処に協力する予定だったらしい。
そこに俺達が行方不明になったとの報告が入って、捜索に参加したそうだ。
ベテルギウスギルド長も王都の地下のことは知っているっぽいし、威圧もすごいし詰められると話さないといけない気になるのは仕方がない。
バルダーナギルド長はピエモンで仕事中に、王都へ向かう途中に立ち寄ったベテルギウスギルド長に拉致されるように王都に連れて来られたとかなんとか。
ルチャルトラからだと島から船でフォールカルテに行き、そこから転移魔法陣を使えば王都にはすぐ付きそうなのだがピエモンに寄り道?
もしかしてベテルギウスギルド長も転移魔法の使い手だったりする?
バルダーナギルド長は必死で知らないふり聞こえないふりアピールをしていたが、これもすでに王都の地下事情を知っていた感じがする。
そして俺が話している最中ずっと耳を塞いで聞いていないアピールをしていた。でも指に隙間があってこっそり聞いていそうなのはちゃんと見えていたぞ!!
そんなメンツなので、ある程度話していいかなって判断して、リュウノナリソコナイの転移魔法を躱しここまで来た後、リュウノナリソコナイを倒すと黒い巨大な竜の前足らしきものが出てこようとしたが、逃げている途中で謎の津波と謎の巨大生物によりそれは水の中に沈められた……いや、鎮められたこと、その過程でこの町も水没してしまったと報告しなおした。
それが眠りから目覚める原因となった墓荒らしがいた可能性も。
水の中なら自在に活動ができる超優秀なカメ君の調べによると、この下は海の階層になっており今後王都の地下に在る者の眠りは妨げられる可能性は極めて低く、下に在る者が彷徨い出てくることもないだろうと説明しておいた。
そう、だいたい謎のヒーロー――謎の巨大生物のおかげなのだ。
そして一部端折ってはいるが、嘘は言っていない。嘘発見器を使われても反応しない完璧な説明である。
アベルがすっかりスヤスヤモードなので、俺が説明がんばった。
おかげでギルド長達も納得してくれて一件落着。
そして網焼きパーティー続行。
「ふあああああ……!? えぇ……何で? 何で俺寝ちゃったの!? しかもこんなところで!! あり得ない、絶対にあり得ないでしょ!!」
網焼きパーティーも一段落し片付けをしていると、鐘塔の柱に寄りかかって爆睡をしていたアベルが目を醒ました。
キョロキョロと周囲を見回し、納得いかなそうな表情でガシガシと頭を掻いている。
「ナナシに魔力を吸われまくった後だしな、疲れていたのは仕方ないさ。寝たら魔力も少し回復しただろ?」
ギルド長達が来るまでは正直俺もくっそ眠くて、横になったらコロッといきそうな感じだったし。
「うん、でもこんなとこで寝ちゃうなんて普段なら絶対ないのに……。でもちょっとだけ寝たらすごくスッキリしたよ。これならグランの家まで問題なく転移できそう。あれ? ギルド長達は?」
「ああ、ギルド長達はアベルが寝てる間に噴水のあった辺りを見てくるって。水の中はカメ君が優秀だからって連れて行かれちゃったけど、そろそろ帰ってくるんじゃないかな。それとごめん、ギルド長達に詰め寄られてカメ君と赤毛の人は隠して、だいたいのことは話しちゃった。ギルド長達は事情も知ってたみたいだし、安全のことを考えてでかいのが出てきたことは伝えた方がいいかなって」
折角口裏を合わせるつもりだったのが、アベルが寝ているうちにギルド長達に囲まれたらカメ君とヴァなんとさんのことを隠すだけで精一杯だった。
「うん、どうせあのハンブルクギルド長が来た時点で隠しきるのは無理かなって思ってた。俺もつい寝ちゃったしね。それに王都の危機管理に関わることだし、チビカメとあの赤毛の人のことを伏せて兄上には報告するつもりだったから、たぶんグランがギルド長に報告したのとだいたい同じ感じだと思う。帰ってからもう一回ちゃんと摺り合わせしようか」
よかった、アベルとだいたい同じ考えだった。
「ああ、ギルド長達があそこに戻ってきてるのが見えるから、報告書を書く前にこっそりだな」
焼き魚を始めとして肉や野菜、きのこもペロリと平らげ、アベルが爆睡しているならと黒い前足さんが出てきた場所を確認に行ったギルド長とそれに付き合ったカメ君が戻ってきているのが見えた。
俺達が行方不明になってから随分と時間が経っているのでドリー達がめちゃくちゃ心配していそうだが、場所が場所そしてやべー奴が出てきたこともあって、今後の調査計画のためにも少し現場を確認しておいた方がいいという判断でギルド長達が巨大生物が出現した辺りの調査へと向かった。
今では水の中に沈んでしまっている噴水のあった場所へと行っている間、お疲れモードで爆睡中のアベルはそのまま休ませておこうとなった。
その間俺は、鐘塔でお留守番をしながら網焼きパーティーのお片付け。
それが終わったら大量のアンデッドと戦った時に放出してしまった海水の補充。
土砂もどこかに補充にいかないとなぁ。どっか周囲に被害のない場所に土砂崩れが落ちていないかな。
海水の補充も終わり、釣りでもしようかと思ったところでアベルのお目覚め。
確かに警戒心の強いアベルがこんな場所で爆睡するなんて珍しい。
だがナナシにあれだけ魔力を吸われて、その後大量のアンデッド相手にバンバン範囲魔法を撃っていたので相当疲れていたのだろう。
そしてアベルが目覚めるのを見計らったかのようにギルド長達が戻ってきた。
バルダーナが持ってきた空間魔法がかけられた膨張式ボートに、持ち主のバルダーナとハンブルクギルド長が乗っている。
三人乗りだとバルダーナが言っていたが、ベテルギウスギルド長はでかすぎるから乗船を拒否られたようで、ボートを後ろから押しながら泳いでいるようだ。
そしてその先頭をカメ君が水魔法で流れを作りながら泳いでいる。
そのおかげでボートはスイスイと水面を滑るように俺達のいる鐘塔に戻って来た。
「ふむぅ……潜って確認してみたが、水の底に下から何やら出てきたような跡は残っていたな。おそらくそこが下への入口だろうが、今は封がされて簡単には開かぬようになっているな」
「カッカッカッ」
さすがリザードマン、潜って確認してきたのか。
ベテルギウスギルド長の話を聞いて満足げに頷くカメ君。
「ベーに持たせた映像記録装置にもちゃんと記録されているから、あとはこれを上に提出すればいいだろう。おっと、俺は何も見てない、聞いてない、知らないから上への報告ハンクとベーで頼む」
うわぁ! バルダーナの持っている魔道具ってもしかして映像が記録できる魔道具!?
いいなーいいなー、映像が記録できる魔道具ってめちゃくちゃ稀少で一般にはほとんど出回ってないんだよなぁ。
「詳しく調べてみないとわからないが、今のところ脅威になるような生物の姿も気配も発見できず、沌の魔力も自然な濃さだな。ボスらしきものが出てきたという場所周辺も特に強力な生物の気配はなかった。アベルも起きたようだ、今日はここまでにして明日改めて調査に来よう。グランとアベルには報告書を書いてもらいたいところだが、二人とも疲れているだろうから今日はゆっくりと休んで、明日……いや、明日もゆっくりと休んで明後日改めて王都のギルドに来てもらうことにしよう。アベルの兄達には俺から伝えておくから、今日は体を休めることを優先するといい。最後になったが、二人ともそしてその小さな亀、速やかで適切な対応感謝する。それからよくぞ無事だった」
最後にハンブルクギルド長に労いの言葉をかけられ、漸く今回の騒動が終わったのだと実感した。
あー、ギルド長が三人もいれば、この後うっかり強い敵が出てきても安心だーーー!!
あ、帰りはバルダーナの持ってきたボートに乗せてもらっていいですかね。
俺は普通の人なんで泳いで帰るのも水の上を走るのも無理なんで。
調査も終わり引き上げの時間。
ハンブルクギルド長は来た時と同じく水の上をヒュンヒュンと移動して先行し、猛烈なスピードで泳ぐカメ君と競争している。
勝負ってこれのことかぁ? 平和な勝負だな!
というか泳ぐカメ君と互角のスピードで水の上をヒュンヒュン移動するハンブルクギルド長やべぇ!!
俺とアベルはバルダーナと一緒にボート。そのボートを後ろからベテルギウスギルド長が押してくれている。
なんかすみませんって気分なのだが、ベテルギウスギルド長が俺達を気遣って大人しくボートに乗って押されろと言うので、その言葉に甘えさせてもらった。
キラキラと光る水面を滑るボートからは、水に沈んだ町がハッキリと見える。
それはあまりに透明な水で、まるで町の上をボートで飛んでいるようにも錯覚する。
いつの頃のもの、実在したものかどうかもわからないが、戦場となったこの町に想いを残した者達が静かに眠れるように。
そしてこの町のずっと下に眠る、おそらくはあの黒い前足の本体。王都ロンブスブルクの地下で眠るという遙か昔の支配者達の安らぎが妨げられることがないように。
この地でずっと友を待っていた彼の心が生まれ変わってどこかで幸せに暮らしているように。
祈りのような気持ちで水の中の町を眺めているうちに出口が見えてきた。
めっちゃ水に沈んでいたけど。
ここから潜水して出口をくぐって帰らないといけないみたいだけど。
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