お前・マジで・ゴリラ
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「必殺! 二刀流!! ふははははははは、俺くらい器用貧乏だと、両手に剣を持つくらい余裕だぜ!! 右手にナナシ、左手にミスリルロングソード!! 爆弾を投げたい時はナナシ君がベルトに戻ってくれて便利だなぁ!!」
目の前のゾンビを左手に持ったミスリルロングソードで斬り捨て、右手のナナシで近寄ってきたスケルトンをぶん殴る。
器用貧乏のおかげで無駄にかっこよくて効率的な二刀流だぞーーー!!
両手が塞がっていると防御が困りそうな気がするが、そんなものは知らん。全部避ければ解決、やられる前にやれ!
ナナシを起動するのは魔力消費がキツイのでここぞという時だけ、ザコはロングソードで斬り捨てながら起動していないナナシでぶん殴って魔力節約だ。
起動しないでぶん殴れば、ただの鈍器にもなる。さすがナナシ優秀だな!!
あ? 何か文句あるか? ヴァなんとかさんを斬った時に、一度魔力をほとんど使い切っているから、ポーションで回復したとしても魔力がカツカツなんだよ。
かー、魔力の上限値が高いとポーションで回復でもあまり回復した気にならないからつらいわー。
というかナナシの燃費が普通に悪すぎなんだよ。ここぞという時には使うから、それまで大人しく黒い鈍器になってろ。
スケルトン粉砕するなら剣より鈍器の方が向いているから、ナナシ・ザ・鈍器マジ便利だわ。
痛っ! 何でいきなり金具を飛ばしたんだよ!! 無駄な魔力を使うんじゃねぇ!!
「ちょっとグラン、性悪剣と遊んでる余裕なんてないでしょ! まだまだたくさん敵がいるし、もっと強い奴が出てくるかもしれないから体力は残しておきなよ!」
俺にそう言いながらも、アベルだって魔力回復ポーションをカブ飲みしながら範囲魔法をバンバンと撃っている。
「アベルもポーションを飲みすぎるとトイレに行きたくなるぞ!」
ひっきりなしにアンデッドが寄って来ているのでトイレなんか行く余裕はないから、俺もポーションの飲みすぎには気を付けなければ。
トイレ死なんて絶対に嫌だ。トイレ死は冒険者の死因の中でわりと多いらしいが、そんな死に方は絶対にしたくない。
お互いに護衛し合いながらなら何とかなるかもしれないが、それも嫌だな……うん、トイレは一人静かにいきたい。
はー、帰ったら前に作ったキューブ型の回復薬をポーションの代わりになるくらいまで改良する研究しよ。
「やめて! 言われるとトイレ行きたい気分になるからやめて! 帰るまでトイレの話は禁止!!」
確かに口に出しているとトイレに行きたい気がしてくるもんな。言葉の力、恐ろしい。
帰ったらもしもの時に備えて超オムツ効果の付いた下着を作るか? せっかく空間魔法の付与ができるようになったからトイレ付き下着かな?
……いや、それは人としてやったらいけない気がするから、やっぱやめとこ。
やば、トイレのことを考えていたら何となくトイレに行きたい気がしてきた。
ダメだ、この無事に帰るまではトイレのことは口にするのも考えるのも禁止だ。
って、おっとおおおおおお! スレイプニルのゾンビが突っ込んで来たーーーー!!
こいつはでかいし魔石を持っていそうだから頼むぜナナシ!!
スレイプニルは足が八本ある馬の魔物で、Aランクのめちゃくちゃ強く知能も非常に高いため、子馬の頃から調教して軍馬として使われることも多い。
戦場なのでスレイプニル以外にも騎獣として使われ死んだと思われる魔物のゾンビもけっこう混ざっている。
本来は強敵であるスレイプニルだが、ゾンビ化しているため動きも遅めで攻撃も単調なので苦戦することはない。
ただ馬よりも更に大きなサイズなので体力があってしぶといのでここはナナシでズバーーッ!!
ゾンビ化したスレイプニルの沌の魔石がナナシ効果で無になっていそうだから、これは丸ごと収納に突っ込んで後で魔石を回収するぞ!
うおおおおー!! あっちからはゾンビ兵士部隊がーーー!! ゾンビは素材にはならないので爆弾ポーションでいいな、そぉれ! ドッカーーーーーン!!
むあー、あっちからはゾンビ馬に乗ったゾンビ騎士隊がーー!! 細かいゾンビはいらないっつってんだろおおお!!
くらえ! スーパー土石シュトローム!! ははは、戦争は質量なのだよ!!
やべーくらいの量のアンデッドがひっきりなしに出てくるけれど、それだけ素材も集まると思えばやる気は出てくる。
ものすごくハードだけれど、頑張れ俺!
新たに形成された"破壊された町"の中の道を、先ほど入口があった方へと徐々に後退しながら次々と寄ってくるアンデッドを倒していた。
いや、正確には先ほどの出口が同じ場所にあるかはわからない。しかし、とにかく湧いてくる敵の数を減らしながら出口を探して脱出するしかない。
大きな町を形成するほど魔力が働いた直後のせいか魔力が、とくに沌の魔力が濃すぎて俺の探索スキルも使い物にならないので、とりあえず先ほどの空間に入って来た場所を目標に次々と湧いてくるアンデッドを倒しながら後退しているのだ。
沌の魔力が吹き出して砕け散った石碑。
この町が形成された後、花畑は広場へと変化し、石碑のあった場所には破壊された噴水が形成され、そこから水ではなく沌の魔力が吹き出し続けていた。
それが周囲の死体を蘇らせ、また新たに魔力が形を成して死体になり自らの魔力で蘇るという、アンデッド無限湧き状態を作り出した。
それだけでもやばいのだが、新たに空間を作り出す程の沌の魔力が吹き出している原因がその噴水の源にいると思われる。
本能的にやばいと感じた。
この疲弊した状態で……いや、ベストコンディションの時でも俺達の敵う相手ではないという気配を感じ取って噴水から離れることにした。
しかし寄ってくるアンデッドの数が非常に多く、移動を遮られ思ったよりも噴水から離れることができていない。
俺達のいるのは、元は整えられていたと思われる道。その先に先ほどまで俺達がいた広場と沌の魔力を吹き出す噴水をまだ見ることができる。
走って下がりたい気持ちもあるが、スレイプニルのように確実に俺達より足の速い生き物のアンデッドもいるし、下がった先にもアンデッドがいる。
いや、全ての方向にアンデッドがいる。
そして自分達が失った命を求める本能に従い、それらが俺達に向かって集まってくる。
知能などほぼなく本能のままに生者に群がってくる低級のアンデッドがほとんどだが、数がやばい。
戦場、つまり二つ以上の勢力が戦っていた場所。そして町、そこに住む者達がいる場所。
その死者のほとんどが四方八方から俺達二人の方へ向かって来ており、アベルと二人でお互いの背中を守る形で戦いながら出口の方へと少しずつ移動している。
俺達の体力があるうちに出口まで辿り付けるか、それともドリー達が戻ってくるか、それともアンデッド達に飲み込まれるか。
いいや、飲み込まれないぞ。
全部倒して、素材うめぇして帰るぞ。それで、帰ったらトイレに行くんだ……。
アベルとお互いをかばい合いながら、向かってくるアンデッドをひたすら倒し続ける。
時々爆弾ポーションも投げていたが、それも残りが少なくなってもしもの時のために節約モード。
収納の中の海水を大放出して押し流したり、土砂で道を塞いだりもしたが、あらゆる方向からフラフラとゾンビやスケルトンが現れる。
坂道や段差は岩や丸太を転がして時間を稼ぐ。それでも次々と不死者達がたった二人の生者の俺達に釣られて集まってくる。
収納の中のものを使いながら体力を温存していたが、その在庫も限りがある。そして近付いてきた奴は斬ったり殴ったりする方が早い。
握る手が痛くなるほど振るい続けるのはいつぶりだろうか?
始めてドリーのあの飛んでいく斬撃を見た時、どうやったらあれが使えるようになるのか聞いたら、気合いと根性で剣の練習をしていたら使えるようになったと聞いて、俺も俺もと思ってドリーに教えを請うて、超絶な筋トレの上にアホみたいに剣を振っていた時期があったな。
結局斬撃は撃てなかったけれど。
……何故か昔のことを意味なく思い出してしまった。
やめろ、走馬灯なんかお断りだ!
腕の筋肉は引き攣ってきているし、手袋の内側で手の皮が剥がれた感触がする度に手にポーションをぶっかけて治している。
そのせいで手袋が湿って気持ち悪い。しかも倒した敵の返り血や謎の汁で手元はぬるぬるして、非常に剣が握りにくくなってきている。
今のところ下級のアンデッドばかりなので、大きなダメージを受けるような攻撃をくらうことはほとんどない。
だが数が多いため直接的なダメージより、体力の消耗の方が酷い。
もう何本目だろうか、体力回復のポーションを飲み干してナナシを握り直す。
まだ出口は見えない。
見えるのは次々と現れるアンデッド達。
あの広場と噴水は町並みの向こうになり見えなくなったが、上を見上げれば屋根の向こうの空に黒い魔力の霧が吹き上げているのが見える。
沌の魔力は衰えることなくまだまだ吹き出しているようだ。
だが、噴水広場からは離れている。このまま下がり続ければ出口に――。
ゴォッ!!
突然、恐ろしく濃い魔力の風が広がるように吹き抜けた。
それは爆風のように。
その風で周囲の壊れかけの家屋がガラガラと崩れながら吹き飛ばされている。
俺達に近寄って来ていたアンデッド達もその風に吹き飛ばされていく。
中には飛ばされた先で地面に叩き付けられたり、建物にぶつかったりしてグシャグシャと嫌な音を立てて潰れいくものもいる。
「なんだ!?」
飛んでくる瓦礫やアンデッドを避けながら、その風の吹いて来た方を振り返る。
「グラン、あれ……」
俺と同じようにその風の源の方を見たアベルが息を飲んだ。
「ああ、あれがこの空間のボスか?」
そうだよな、ここがダンジョンの階層の一つになったのだとしたらボスがいてもおかしくない。
振り返ったその先に見えたのは、太い柱のように吹き上がった黒い魔力の塊。
そしてそれが渦巻き形になっていく様子。
それが壊れた建物が並ぶ町並みの向こうに見えた。
あれはあの噴水のある場所。つい先ほどまで黒い魔力の靄が見えていた場所。
やはりあそこから何か出てきたのか。
その前兆だと思われる魔力の靄ですらやばいと感じた何か。
それが今、現れようとしていた。
渦巻く魔力で嵐のような突風を巻き起こしながらできあがりつつあるそれは、その辺の家屋よりずっと大きなもの。
叩き付けるような強風を踏ん張って耐えながら、その形をはっきりと確認した。
ドンッ!!
ものすごく大きな音がして、ついにそれが形となり地面に足を下ろす音がした。
それと同時に地震のように地面が揺れ、すでにボロボロになっている石畳の道のひび割れが更に広がる。
何だあれは?
はっきりと見えたその光景に目を疑った。
魔力が渦巻き巨大生物の形を作るのが見えた。大きさ的にドラゴン系ではないかと思った。
その予想は外れていなかった。
予想は外れていなかったのだが、大きさが予想外だった。
吹き上がった魔力の柱が作り出したのは、巨大な黒い魔物の前足。
その形状からしておそらく竜種。
建物よりも圧倒的に大きな竜種の前足が、あの噴水を粉砕して地面から生えてきているであろう光景が、ここからその現場が見えなくても想像できた。
でかい……。
あの魔力の柱の大きさがボスの全身程度だろうと勝手に予想したのだが、それは前足だけだった。
更にその場所からは更に真っ黒な魔力が吹き上がっているのが見える。
これは、まずい。
考えている間にも地面がグラグラと揺れ、あのバカでかい前足の持ち主が下から出てこようとしているのがわかる。
こんなのがもしこの空間から外に出るようなことがあれば王都壊滅の危機どころか、周辺地域も蹂躙されてしまいそうだ。
しかし俺達だけで食い止めることができるような存在ではないと一目でわかる。
「巻き込んで、ゴメン。俺が一人で行こうとしたから。だからここは俺に任せて――」
まぁた、一人で何とかしようとか考えているな。ニンジンピーマンスピッチョにメラッサも追加かな。
そうはさせねーぞ。
「いいや、俺が勝手についてきただけし、ここに来ても来なくてもいずれアレが出てくるのは時間の問題だっただろう。でも何だって一人で――いや、聞かない。言いたくないなら言わなくていい。だけどどんな理由であっても俺はアベルと一緒に来てたし、何があったとしてもアベルと一緒に帰るつもりだ。だから、絶対に諦めねーぞ!!」
そうだ諦めない。
アレとはまだ距離がある。寄って来ていたアンデッド達もアレが出てきた時の強風で吹き飛ばされた。
今なら出口まで駆け抜けることができるぞ。
「そうだね……絶対に諦めない。俺の隠し事なんかより大事なものがたくさんあるよね。あんなものがもしここから出てしまったら、どれだけの被害が出るかわからない。うん……決めた! 絶対にアイツはここから出さない!! いいよね? もちろん俺に力を貸してくれるよね?」
ん?
「よし、やるよ! アイツを片付けて一緒に帰るよ!!」
急に張り切りだしたアベルが、俺の返事を待たずに元来た方向へと駆け出した。
おいいいいいいい!! 戦うんじゃなくて一緒に逃げるんだよおおおおおお!!
アホーー!! お前、ホント、ゴリラーーーー!!
でも逃げたとしても、確かにあんなでかいのが今みたいに前足を出しただけでも、水路が崩壊して王都まで連鎖的に崩壊しそうだよなぁ!?
やっぱやるしかないんですかーーー!?
やらないと王都ごと崩壊しそうだし、やるしかないですよねーーーー!
アベルが張り切っているし勝算でもあるのかな?
まぁいいや、アベルを信じてついていこう。
待ってーーーー!! 俺も行くーーーーーーー!!
直後、今までで一番激しい揺れと共に地面のあちこちにひび割れが走った。
お読みいただき、ありがとうございました。




