ゴリラ達のトライアンドエラー
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薄暗い水路を照らす白く目映い光の剣。
そしてそれと同じくらい眩しいのは、その剣を握る騎士の金色の髪の毛。
肩よりも長い癖のある髪を赤いリボンで一つに纏め、それが動きに合わせてヒラヒラと揺れる。
まるで絵本に出てきそうなキラキラとした騎士。
その顔は――優男風イケメン!!
く……、身体強化スキルで視力が上がっているから、まだ離れているがはっきりと顔が見えるぞ!! 何だこのイケメン!?
先日はクローズドヘルムで素顔は見えなかったが、その中身はめちゃくちゃイケメンという衝撃の事実!!
何それ、ズルい! 悔しい! この世界、顔面偏差値が高すぎないか!?
苦戦しているような気配がしたので、すぐに助けに飛び込むつもりだったが、少しサボっていいかな!?
あれ? このイケメンどっかで見たことあるようなないような……はて? どこだったかなぁ?
………………。
人の顔を覚えるのは苦手だし、思い出せないからまぁいっかー!!
黒い魔力の靄を纏っているため遠くからでは身体強化状態でも正体がわからなかった二足歩行のナニカの姿が、距離を詰めたことによりその細部まではっきりと見えるようになった。
何だ、アレは?
アベルはアレをリュウノナリソコナイと言った。
先日のオークションの時に現れた謎の生物もリュウノナリソコナイだった。
いくらバラバラにしても無秩序な肉塊になりながら再生し続け、ナナシの力を借りてようやくその再生を終わらせ勝つことができたアレ。
そして中から人に近いが人ではない姿のものが出てきた。
アレと同じもの?
そういえばアレは最初は真っ黒な影のようなトカゲだった。
確かアレは近くのものの色に合わせて体色が変化していたな。
こいつは――全体的に暗い黄褐色という印象。
体型は二足歩行で人間に近いが体格は平均的な成人男性より二回りくらい大きく、ドリーと同じくらいの大きさに見える。
ボロボロの布を身に付け、パッと見れば人に近い種族にも見える。
しかし頭部は人間よりも爬虫類に近く前後に長細い。鋭い牙が並ぶ大きな口からダラダラと垂れるよだれが、白銀の騎士さんが持つ光の剣の輝きを反射して白く光り、そこには知性や理性というものは全く感じることができない。
トカゲのような長い尻尾と鋭い爪のある手足、そして布の隙間から見える鱗、その風貌からリザードマンやドラゴニュートを連想する。
オークションで見かけた奴よりは、竜的な要素が多く残っているな。
そういう印象だった。
いや、オークションで見かけた奴も最初はトカゲ型の下級の竜種みたいではあったな。切り刻んでいるうちに竜とはかけ離れたものになっていったが。
こいつはどうなんだ?
ザンッ!!
まだ離れている俺達のところまで音が聞こえてきそうな見事な太刀筋で、白銀の騎士さんがリュウノナリソコナイの右腕を切断し、それが空中で弧を描きながら地面に転がった。
そしてそれは一瞬だった。
切り離された腕が床に落ちビクンビクンと跳ねたと思うと、グニャリと変形して四足歩行の小型トカゲのような姿になり、口を大きく開き鋭い牙を剥きだしにしてすぐ近くにいた別の騎士の方へと襲いかかった。
狙われた騎士がそれに気付き胴の真ん中辺りで真っ二つに斬り捨てるが、二つに斬られたそれはその状態から二匹のトカゲへとすぐに再生し、再び騎士へと襲いかかった。
そこにシルエットが放ったと思われる真っ赤な炎が飛んできてトカゲを焼き尽くし、灰となってサラサラと散らかっていった。
灰までいけば再生はしないようだが、燃え残った尻尾の切れっ端が、グニョグニョと小さなトカゲになるのが見えた。
そうやって増えたトカゲだと思われるトカゲがドリー達の周囲に何匹もおり、それらがリュウノナリソコナイとの戦闘の邪魔をしていることを察した。
更にリュウノナリソコナイから生まれた小さなトカゲ以外にも、最下層で発生したと思われるゾンビも交ざっている。
これが遠くから感じた乱戦の気配の正体か。
そして斬られた腕の先がそうもしつこく再生したのなら、当然本体の腕も再生をする。
白銀の騎士さんに依って切断された腕が、即座に元の形に再生したのが見えた。
オークションの時のアイツとは違いほぼ完璧な再生。
それだけでオークションの時のアイツよりずっと竜に近いナリソコナイなのだと理解した。
ただ知性や理性が感じられない挙動が、竜でも下級の竜もしくはそれ以下の獣のようで"なり損ない"という名の片鱗に見えた。
「おいこら、無闇に切り落とすな!」
「やー、つい勢いでー? というか、最初に斬り落としまくってトカゲ増やしまくって、それに本体もろとも範囲攻撃ぶつけて更に増やして、そこから更に再生を繰り返せばそのうち力尽きるだろうとか言って延々と切り落とし続けて、この数までトカゲを増やしたドリー君に言われたくないねぇ」
身体強化で聴力が上がっている耳にドリーと白銀さんの会話が聞こえてきた。
何だろう、その状況が手に取るようにわかるなぁ~。まったくぅ~、ドリーは脳筋だなぁ~。
そうやって増えたであろう細かいトカゲ達がピュンピュンと跳ね回って近くにいる者に襲いかかり、リュウノナリソコナイ本体との戦いの妨害になりまくっている。
しかもそれに虫や小動物のアンデッドや水路棲みのスライム達も交ざっている。
その増えまくったトカゲやアンデッドやスライムの処理に騎士達とシルエットが手を取られ、この細かい雑魚達によって負傷する頻度も増えリヴィダスが忙しくなっているようだ。
うーん、カオス。沌属性の現場だけあってまさに混沌。
到着したらまず爆弾を投げていいかな?
「面倒くさそうな状況だけど、面倒くさくなってもこんな場所で爆弾はダメだよ」
頭の片隅にちょっとだけ浮かんだ考えを、何故か後ろにいるアベルに察せられ釘を刺された。
「ああん? 何事もトライアンドエラーだ、無数の失敗の上に偉大な成功があるのだとグランがよく言ってるぞ」
「んあ、あの赤毛君か。言ってることは非常に良いことだと思うけど、考えなしだとただのゴリ押しだよねぇ?」
「む? 斬っていればそのうち体力が尽きて再生しなくなると考えて斬っているぞ」
そーだぞ、考えなしはただのゴリ押しだぞ!!
失敗より学び成長しなければ意味がないのだ。
斬っていればそのうち再生しなくなる――それをゴリ押しって言うんだよ!!
ああああっと! ドリーがリュウノナリソコナイ胴体を真っ二つに斬ったーーー!!
さっき白銀さんに、無闇に切り落とすなって言ってなかった!?
ああ、真っ二つにされたリュウノナリソコナイ君の上半身は普通に再生して、下半身が大きめのトカゲになったーーー!!
泥沼度が増しているぞおおおおおおおお!!
二匹にならなかっただけマシ!? いやいやいやいや、片方がトカゲになったから実質二匹だよね!?
はー、ほんとゴリラ。
「そういえば、先日のオークションでこいつと同じように無限に再生する謎の生き物が出現したんだよねぇ」
押されていると思っていたが話ながら戦う余裕はあるようで、白銀の騎士さんが新たに生まれた大きめのトカゲを光の剣で二つに斬った。
ああー、小型化したけれど二匹に増えたー!
この最前線の二人、何も考えずに目に付いたものを斬っているだろ!?
少し斬っただけでは普通に再生しそうだから切断してるっぽい?
そうだね、斬っているうちに小さくなったら、燃やしやすいもんな!?
なるほど、それがトライアンドエラーの先に行き着いた作戦か!?
やっぱりゴリラじゃないか!!
「ああ、その話は上から聞いてるな。オークションに出品されてた魔剣でグランが倒したんだっけか? ぐあっ!!」
再生したリュウノナリソコナイがブオンッと腕を振るい、その鋭い爪がドリーの脇腹の鎖帷子部分をあっさりと切り裂いた。
なんつー攻撃力だ。あんなのペラッペラ装備の俺が当たったら即内臓までいくわ!
「ちょっと、ドリー! 回復が間に合わないから大きい攻撃はちゃんと避けて!!」
ああー、回復で忙しいリヴィダスお母さんのお小言が聞こえてきたー!!
「ていうか、斬るなら小さめって言ってるでしょ!!」
でかいと燃やすのが大変そうだからな。シルエットお姉様が激おこだよ。
「隊長! ドリアングルムさん! もうちょっと小さく斬っていただけるとありがたいっす!」
部下の騎士さんも大変そうだなぁ……。
「む? 細かく切るくらい君達でもできるだろ? そうそう、あの剣なぁ……あの時点で王家所有だったから、予想してた落札価格の倍の値段でふっかけたんだよなぁ。まぁ、値段交渉されて提示価格の半額以下になることは予想してたけどぉ? 結果、落札予想価格より少し安いくらいだったんだよねぇ。しかもレシピの使用もついてきたしぃ、俺の作戦勝ち~。でもあの剣があれば楽にこいつを倒せたかもなぁ? 売ったのは失敗だったかなぁ? まぁ魔剣だから、あの赤毛君以外が扱えるかわからないけどねぇ? つまり、今は再生しなくなるまで斬るしかないなぁ? ちょっと誰か赤毛君の家まで行って、パパッと連れてきてくんない?」
ちょっとぉ!? 聞き捨てならないことが聞こえてきたけどおおお!?
アベルが交渉してくれたおかげでかなり値切ったと思ったのに!!
ああ、そうだよな! 物を高く売る時は最初は買う気が失せるくらいめちゃくちゃ高い値段を提示して、そこから大きく下げると凄くお得感がしてお手頃価格に錯覚するんだよな!!
ダンジョンで手に入れた珍しい物を売る時に自分でも使う手口なだけに悔しすぎるうううう!!
それから、俺んちまで行って連れて来いとか、部下さんに無茶振りをしていませんか!?
馬車移動だと二週間以上かかりますよ!! ていうか、俺んち知ってんの!?
「その話、本人にちゃんと聞こえてそうよ」
リヴィダスがチラリとこちらを振り返り、バッチリと目が合った。
さっすが有能ヒーラー、この状態でもよく周囲を見ている。
ドリー達の会話や表情がはっきりと届く程の距離まですでに近付いて来ていた。
道中の敵を斬りながら来ていたのですでにナナシは起動済みである。
身体強化で大きく跳べば一気に距離を詰められる場所。
ピョーンッ!!
大きく跳んで目の前にいたトカゲをナナシで斬り捨てる。
いつものように耳の奥に小さな声が響いたが、本体から分離されたものだからか言葉としては聞き取れず、ナナシの反動としては非常に軽い部類だ。
ナナシで斬ったトカゲが再生せずそのまま床で動かなくなるのを確認して、リュウノナリソコナイの方を振り返る。
「ヒーロー参上!! 白銀の騎士さん、これの戦いが終わったらナナシの値段交渉をやりなおしませんか!?」
お読みいただき、ありがとうございました。
仕事の都合で今週は明日と明後日の更新をお休みさせていただきます。
金曜日再開予定です!!




