下層の先へ
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中層と下層を隔てる扉をくぐり、中層に比べ濃くなった沌の魔力を感じながら先へ。
ここからは水路脇の通路を歩き最下層の入口を目指す予定だ。
最下層に繋がる通路の数は少ないので、ドリー達の痕跡もすぐに見つけることができるだろう。
上層と中層はそこまで雰囲気も棲息している生物の強さも変わらないが、下層までくるとそれらがガラリと変わる。
下層には上層と中層の水が流れ込むほかに、城下町ロンブスブルクの外に点在する農場や集落からの水も流れてきている。
つまり下層は町の外と繋がっており、対策はされているのだが町の外の生物が入り込むこともある。
今回の騒動もそういう経緯で、沌属性の何かが地下水路に入り込んだか持ち込まれたのかもしれないな。
最下層を目指しつつその道中でアンデッドが目に付けば駆除しつつ、大きく成長した生物がいればそれも駆除をしているのだが――。
「うへぇ、小動物や虫のアンデッドばっかりだけど細かすぎて逆に面倒くさいなぁ。カメッ子~、もうこれ一気に聖なる津波で押し流していいんじゃないか?」
「あー、くそっ! 小動物のアンデッドだと魔石が入ってないじゃないか! よって聖なる津波で押し流して問題なし!」
「カッ!!」
「ダメ! 地下水路で津波なんてダメに決まってるでしょ!! カリュオンまでなんでグランレベルの非常識なことを言い出してるの!? チビカメも人間の常識をちゃんと学んで!! いい? 地下水路は汚水を浄化するためのスライムが棲んでるの! 津波を水路に流しちゃうとこの階層の水を浄化するスライムが減るし、ここを流れた水は最下層にいくの、最下層にはドリー達がいるんだから大量の水を流したら危ないでしょ! 今は立ち入り制限がかかっているから他の冒険者は入ってないと思うけど、グランみたいな変人が変なとこから入ってるかもしれないから物量攻撃はダメ!! やるなら火魔法で全部焼き払っちゃお!」
まぁたアベルがプリプリ怒っているし、さりげなく俺に失礼なこと言いまくっている。
確かに津波は少しまずいかもしれないが、火魔法で焼き払うのもスライムちゃん達は火に弱いから蒸発しそうだし、閉所で大規模な火魔法は危険すぎるだろ!
さてはお前、いい歳して非常識君だろ!!
まぁでもアベルがプリプリして火魔法ぶっぱしたくなる理由もわかるし、カメ君に聖なる津波で押し流してもらいたくなる理由もある。
あの陽キャラカリュオンですら面倒くさいと言ってカメ君に聖なる津波をお願いしようとし、短気なアベルが火魔法をぶっぱしようとしている理由――それはそこら中を徘徊している小型生物のアンデッドである。
それらは水路に棲むネズミや昆虫がアンデッド化したもので、大きさも小さくわざわざ武器を使うまでもなく歩きながら踏み潰せる程度のものがほとんどだ。
しかし問題はその数。思っていた以上に多く、処理しても処理してもどこからともなくウゾウゾと現れてきりがない。
しかも小さいアンデッドは魔石を落とさないので全くうま味もなく、ただひたすらに面倒くさいだけなのだ。
「アベルは少し落ち着いた方がいいな。火魔法は待てだ、待て。なぁグラン、何かおもしろアイテムでどうにかならないのか?」
「カカカッ!?」
「ちょっとカリュオン!? そんなこと言ったらグランが張り切って爆弾を投げちゃうからやめて!! 火魔法よりやばいことになりそうだよ! ほら、チビカメもそれはやめるカメ~って言ってるよ!」
「何かおもしろアイテムって言われてもなぁ……さすがに狭い水路では爆弾は投げないな」
何とかしたいのは山々なのだが、水路という狭い場所では物量攻撃や爆発物は使えないので、俺の数少ない範囲攻撃が封じられてしまっているのだ。
街の地下だし水路を破壊するような攻撃は危険だし、もし水路を大きく傷つけたら賠償金を払わされるかもしれないから、まろやかでも爆発物は使えない。
その上そいつらに混ざってスライム類も這い回っており、そいつらがアンデッド化した生き物を捕食して、なんとも気持ち悪い色の上に腐臭と沌属性の魔力を漂わせているキモスライムができあがってしまっている。
スライムのアンデッドって聞いたことないなぁ……これどうなるのかなぁ。
スライムちゃんなら小さいけれど魔石があるから、もしかしてナナシでつついたら無の魔石になる?
よっし、やる気出た! スライムだけなら俺がやってもいいぞ!!
おい、ナナシ! 使ってやるからイヤイヤするんじゃねえ! 沌スライムが臭いとかキモイとかわがままカタカタするんじゃねえ!!
「ちょっと、グラン? スライムは魔石を持ってそうだけど、今はアンデッド優先だからね。欲に目が眩んで目的を忘れないでよ」
あ……。
水中を漂うスライムを見据えながら腰のナナシに手をかけていると、俺の考えを察したアベルに止められた。
スライムはアンデッドを取り込んで怪しいスライムになっているが、アンデッドが消えて餌が元に戻ればいつものスライムに戻るから、大きすぎるの以外は無理に駆除しなくていいんだよな。
はー、しょうがねーなー。
細かいアンデッドなら、魔除け効果のある微聖属性の鉱石ウロボタイトの粉末を水路に流しておけばいいだろう。
なんならその辺に鉱石のままポイポイ投げておけばいいかな?
ウロボタイトでアクセサリーを作ろうかなってタルバとの取引の時に譲ってもらっていたけれど、採掘量に比べ消費量が少ない鉱石らしくことあるごとに押しつけられるようになって、今では収納の中ですごい量になってるんだよね。
他のお高い鉱石を掘っていると、ウロボタイトがどんどん溜まっていくとかなんとか。
聖の魔石ほどの効果はないが値段は圧倒的にウロボタイトの方が安いので、弱いアンデッドにはこいつを使う方がお財布に優しいのだ。
「ほら、ウロボタイトとその粉末だ。これを歩きながらその辺に置いて、粉は水に流しておけば、虫やネズミ程度のアンデッドなら綺麗になるだろ」
「なるほど、これならスライムには悪影響はないね。すごい、グランにしては穏便すぎる対処だよ」
「なるほど、ウロボタイトかー。黒いし蛇みたいな模様が入ってて、あまり聖なる石には見えないけど聖属性で魔除けの石なんだよなぁ」
アベルは相変わらず俺に失礼である。
そうそう、カリュオンの言うようにウロボタイトは全体的に黒い色をしている上に蛇みたいな模様が入っていて、パッと見ただけでは聖属性の石に見えないのだ。
「ウロボタイトとその粉末を渡しておくから、歩きながらその辺にばら撒いておいてくれ」
「うん。それなら流された粉末で水中のアンデッドは弱って勝手に消えそうだし、鉱石を置いておけばその周辺は浄化されそうだね。沌の発生源を取り除いた後に上の層からウロボタイトの粉末を流すと綺麗になりそうだね。鉱石そのものを水路に設置してもパッと見ただの石だし、聖の魔石と違って盗難のリスクも減る。後の処理にも良さそうだね……」
「ま、犬くらいの大きさになると効かないから、でかいのがいないか確認をした方がいいぞ」
アベルがブツブツと何か考え始めたが、ウロボタイトはお手軽価格だがお守り程度の聖属性なので、後日アンデッド除去に使うのなら大きな個体の討ち漏らしが起こらないか注意をしなければならない。
「うん、その辺の細かい詰めは兄……、お役人に丸投げするよ。ふふふ、もしかするとウロボタイトの値段がちょっと上がるかもしれないね」
あ、そういう。
冒険者ギルドもウロボタイト買い取り価格が上がるなら、抱えているウロボタイトを売ってもいいかな?
いやでもこれはタルバが安く売ってくれたものだし、売るのはなんか心が痛むな……やっぱ俺の在庫は売らずに残しておこう。今回みたいにたくさん必要になる場面があるかもしれないし。
生温く澱んだ空気の地下水路を、ウロボタイトをばら撒きながら奥へと進む。
見かけるのは小さいアンデッドばかりで今のところウロボタイトをばら撒いておけば、そのうち弱って元の死体に戻り消えていきそうな奴らばかりだ。
粉末はあまり多くストックしていないので、途中からは歩きながらウロボタイトを分解スキルで細かくしてはばら撒いている。
下層を下へと進み最下層へと近付くにつれ沌の魔力も濃くなり、アンデッドの数も増えて少しずつサイズの大きいものが現れるようになっていた。
だがまだまだ小さい部類。踏み潰すだけでなんとでもなる大きさだ。
「うーん、とくに濃いのはあっちの辺りかなぁ」
ザーザーと水の音が響く方を指差した。
ウロボタイトをばら撒きながら降りて来た下層の一番下。
この先すぐには先ほど上から見下ろした大水路が流れている。
最下層への入口の一つが大水路の下流にあり、その辺りで沌の魔力が濃くなっているのを感じた。
「ああ、確かにあっちの方はやべーな」
「うん、大水路の下流で急に沌の魔力が濃くなってるね。これは沌の魔力に影響された生物が発生してるかもしれないね」
おい、変なフラグを立てるのはやめろよ。
ザバアアアアアアアアッ!!
大水路の方から聞こえるザーザーという水の流れる音に混ざって、それとは違う大きな水の音がしたな。
アベルが変なフラグを立てるから、何かでかい気配が大水路の下流方向に現れたぞ!!
お読みいただき、ありがとうございました。
明日と明後日はお休みさせていただきます。土曜日から更新再開予定です。




