どうせやるなら……の前に
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「ダメッ! 絶対ダメッ!! どう考えてもダメに決まってるでしょ!! 何を思ってこれでいけると思ったの!? いい? 君達の普通は人間の普通じゃないの!! もちろんグランの常識も世間の非常識なの!! そこんとこわかって!? いいね!?」
まぁた、アベルが一人で騒いでいるよ。
ていうか、俺の常識が世間の非常識って失礼だな。どちらかというとアベルの常識が世間の非常識だろ!
「これのどこがダメなんですの?」
「そーよ、そーよ! かっこいいじゃない!」
「グランの指示通りまろやかにするつもりですよぉ」
そーだ、そーだ、ちゃんとまろやかな仕上がりにする予定だおおお!!!
アベルが騒いでいる原因は昼食後にクルの指導をしてもらいながら、ウルとヴェルの意見も取り入れて作ろうとしている指輪。
まだ土台を作って付与のための魔法陣や文言を入れただけの状態で、この後に無の魔石を嵌めて空間魔法と時間魔法を付与するだけなのだが、俺は収納系や時間停止の付与はまだできないので、ウルに色々教えてもらって本番前に別の安い素材であれこれ試していたら、本に夢中だったアベルが突然起き上がってストップを入れてきた。
ええー、少しだけなら収納系の付与と強めの停滞の付与ができるようになって、練習しながらどういう指輪にするか三姉妹と楽しく話し合っていたところだったのにぃ。
良い素材を使えば結構な容量の収納効果を付与できそうだからすごく浪漫がある指輪が作れそうなのにーー!!
三姉妹達が作ったペンダントトップは、やはり初めて作ったものは愛着が湧いてしまったようで、色々と世に出せないような付与をした後自分達で身に付けることとなった。
そしてその後、俺が作っている売り物用のアクセサリーを、付与の指導も兼ねて一緒に弄ったりアドバイスをくれたりしている。
これは人の目触れるものだからほどほどにだぞー、ほどほどー。
「だ・か・ら! まろやかの使い方も間違っているし、全然まろやかって感じじゃないよ!!」
ええ~?
「中に何を詰めておくかで、色んな属性の攻撃ができる指輪って画期的じゃね? 名付けて"天災の指輪"! 海水なら津波で水属性、土砂なら土砂崩れで土属性、雪なら雪崩で氷属性、溶岩を詰め込めたら火属性かな? 溶岩は危ないからできたてほやほやの火山灰とかがいいかな?」
「なんで指輪のその中にそんなもの詰めようと思ったの!? 素直に収納用の指輪でいいじゃないって、やっぱただの収納用の指輪だとしても、神代文字だらけでの魔法陣で素材もミスリルと魔法銀の合金でしょ? そんなのどこで売る気なの!? ていうかそんな指輪を人のいる場所で使ったら本当に天災だよ!!」
だから天災の指輪って名前を付けてるじゃん!!
「ほら、俺みたいに魔法を使えないとか、魔法を使えても大規模な範囲魔法が使えないって人のための護身用だよ。いざという時に範囲攻撃が使えると便利だろ? まぁただの収納リングでもいいけどさ、だったらマジックバッグでいいじゃんみたいな? せっかく指に付けるんだから魔法を使えるみたいにドバーッとやりたいじゃん? さすがにパッセロ商店の客層と合わないのはわかるから、どっか大きな町の冒険者向けの装飾店に持ち込むかなぁ? でもこれは試作品だし身内の誰かにあげようかなぁ? 冒険者商人になるって張り切ってるキルシェかなぁ……応援はするつもりだけどやっぱ心配だよなぁ」
「そうですわね。キルシェさんはずいぶん魔法が上達しましたが、冒険者として活動するとなるとまだまだ不安ですわね。いつも本を貸してくれるお礼に護身用の指輪を贈りましょう」
「そうね、グラン達の様子を水鏡で見ているけど、冒険者って楽しそうだけど危険もたくさんあるみたいだしね」
「ですねぇ。それだとやっぱり天災を詰め込むだけでは物足りませんねぇ。防御も細かい攻撃も付与しましょう」
ほぉら、三姉妹も賛成してくれている。
うむうむ、俺が出かける度に家の様子を見に来てくれて、三姉妹と仲良くしてくれているお礼だな。
「ちょっとぉ!? やるならちゃんと隠蔽もしないとだめだよ!! 鑑定されたらバレちゃうと逆に危なくなっちゃうからね!! もー、グラン達だけで弄ってるととんでもないものを作りそうだから俺も参加するよ! それから、それが上手くいったら、材料費を払うからもう一個同じのを作って!」
読んでいた本に栞を挟んでアベルが俺達の作業に加わるようだ。
なーんだ、結局アベルも同じ指輪が欲しいんじゃないかー。
しかしアベルの言う通り、指輪の効果がバレないようにしっかりした偽装系の付与をしなきゃ。
でもその前にもっと練習練習~。
「さすがグランね、上達が早いわ。そろそろ本番にいっても大丈夫なんじゃない?」
「アベルは素材と適性でゴリ押し系ですわね」
「鞄は素材のサイズが大きいので大きめの収納効果を付与しやすいですがぁ、指輪は鞄の金具程度の大きさしかありませんからねぇ。やはり指輪のほうが難しいですし、鞄と同じだけの効果が欲しいなら素材も拘らないとだめですねぇ」
「俺は付与は専門じゃないからいいの! むしろ付与なんて基礎しか勉強してないのに、空間魔法と時間魔法が付与できるからもっと褒めていいんだよ!!」
「ぐぬぬぬぬぬ……、そろそろ本番にいってもいい気がするけど、もうちょっと練習したいな。てか、なんでアベルまで付与して遊んでんだよ」
くそぉ、元から空間魔法と時間魔法の適性があって自在に扱えるアベルは、ゴリ押しで付与ができるんだよなぁ。
てか、俺が練習用に用意しておいた土台用の素材で遊んでんじゃねえ!!
俺はどちらも適性がないし魔法も使えないので、魔法陣や文言など魔術的要素を利用して手順を踏んでやらなければならない。
簡単な付与や付与し慣れている効果ならパパッとゴリ押しでいけるが、空間魔法も時間魔法も非常に高度な付与になるのでパパッとどころか手順を踏んでも上手くいく気がしない。
ううう……結構練習したけれどまだ本番をやる勇気が出ないんだよぉ!!
売り物にしないのなら、もう少し頑張ってやれることを色々やってみたい欲が出てきてしまった。
そして失敗をしたくない一心で練習がてらに作った安い素材のアクセサリーや小物が、ゴロゴロとテーブルの上に転がっている。
武器を収納することができる隠し武器指輪やイヤリング、できたての料理を半日程度ホカホカのまま入れておける弁当指輪、硬貨の持ち歩きに便利な指輪型財布等々、空間魔法と時間魔法の練習で色々作ってしまった。
練習用なのであまり高くない素材を使い、無属性の魔石は使っていないので容量は多くなく、時間魔法の効果も短いものばかりだ。
まだ恐くて一度も無の魔石は使っていないので、そろそろチャレンジしておくべきなのだろうが、二つに割れているとはいえ精密な船の形をした魔石、とても大きな魔石……。
もったいなくて使えないーーーーーー!!
俺の作ろうとしているものに対して大きすぎる魔石なので、どこかを削り取った部分を使うことになるのだが、この船の形を壊してしまうのはもったいない。
船首やマスト辺りはパキッと折って使いやすそうなのだが、それを折るのがもったいない。
ぐぬぬぬぬぬぬ……三姉妹達の指導の下に作ろうとしている天災指輪は容量が大きいので、今作っている指輪の土台だと無の魔石が必要になってくる。
やだ……船のパーツを傷つけたくない……。
というかできるならこの船の魔石は修復して元の姿にしたい気もする。
………………。
うるせぇぞ、ナナシ。腰でさりげなく誘惑カタカタするんじゃねぇ。
………………。
………………。
アンデッドをパパッと数匹倒して、練習用の無属性の魔石を集めてくるのはありといったらありなのだが。
………………。
………………。
………………。
………………。
「ヘイ、アベル!! 俺と一緒にアンデッド狩り行かない!?」
「は!? 何を言ってるの!? その性悪剣で無の魔石を手に入れるつもり!? 欲に目が眩みすぎだよ!!」
お読みいただき、ありがとうございました。




