初めて作ったものは
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「よし、全部できた! これがワンダーラプターズので、こっちは毛玉ちゃんの、こっちはジュストのとこのオストミムス君のだな」
アベルと三姉妹は読書、俺はアクセサリー作り。
無属性の船魔石を満足するまで眺めてニヨニヨスリスリして、納得した後からせっせと作り始めたものがローテーブルの上に並んでいる。
やはりお高い素材はすごい、眺めているだけで生産意欲が湧いてきていろいろと作りたくなってくる。
「さっきから何個も作ってるのは聖属性の輪っか? 何に使うの? 大丈夫? 爆発しない?」
三姉妹達がキルシェに借りたという本を読んでいたアベルが顔を上げ微妙な表情でこちらを見た。
「うん、カリュオンがこえー話をしてたから聖属性のアクセサリーを作ってみたんだ。ソウルイーターだっけ、聖属性に弱いんだったよな。あと爆発はしない」
俺が作っていたのはワンダーラプター達や毛玉ちゃんの足に着ける輪っか型のアクセサリー。ついでにオストミムス君のも作ったので、これはギルド経由でジュストに送る予定だ。
もういない生きものだとは言っていたが、似たような奴がいたら恐いから念のためだ。
それと、何で爆発物だと思った!? 俺がいつ、何を爆発させたっていうのだ。失礼な奴だな!!
「ソウルイーターとは懐かしい名前ですわね、思い出したくもありませんが」
「ラト達や私達が頑張ったからこの周辺にはもういないし、綺麗に浄化もして加護もたっぷり与えてあるから、もうこの森に入り込むことはないはずよ」
「でも世界は広いですし、未来に絶対はありませんからねぇ。用心に越したことはありませんねぇ」
そういえば百物語をやったのは夜だったから、三姉妹達はいなかったな。
そして相変わらず可愛い幼女の姿をして、さらりと超ご長寿しか知らない話をしている。
こんな可愛い幼女だが、実は女神の末裔だったということを思い出す。
もう滅んだとは聞いたがクルの言う通り未来に絶対はない。
「せっかくだからパッセロ商店に置いてもらっているアクセサリーも聖属性を増やそうかな。もうすぐ夏だから、体感温度を調整する系アクセを増やすつもりだったけど、気持ち程度のお守りに聖属性もくっつけとくか」
「いいですねぇ、ソウルイーターでしたら聖属性のものを身に着けているだけで寄ってこなくなりますよぉ。ソウルイーター以外にも弱い不死者避けにもなりますからねぇ」
「あいつら小さいうちは聖水をぶちまけるだけで蒸発しちゃうから、聖水入りのアクセサリーとかどう? キルシェに借りた本で読んだけど、アクセサリーに武器や毒を仕込むのってかっこいいわよね」
「お塩も僅かですが聖属性がありますからソウルイーターにはお塩も効きますわよ。ペンダントにお塩を入れて持ち歩けばもしもの時にソウルイーターや弱いゴーストを撃退できますし、お料理の味が薄い時にも使えますわ」
雨続きで外での作業ができないうちに、夏向けの商品をいろいろと作っておこうと思っている。その主なものがひんやりする系のアクセサリーである。
俺がアクセサリーを作っている横で三姉妹達が次々とアイデアを出してくれるので、創作意欲をかき立てられてとてもありがたい。
ふむふむ、ソウルイーターに限らずその辺をウロウロしているゴースト系も寄ってこなくなるから、聖属性のものを身に着けておくのはやはりありだな。
ゴーストは生きもののいるところにはいるものだから、行動範囲が町の中だけだとしても遭遇する可能性はある。
ヴェルの言う聖水入りのアクセサリーはありありのありだな。聖水を入れる部分を工夫すればお洒落だし、これからの季節液体の入ったアクセサリーは見た目でも涼しく感じる。
毒や武器はかっこいいと思うし俺もそういうのは憧れるが、パッセロ商店の客層にはちょっと合わないから、やるとしたら冒険者向けだな。
そしてウルよ……塩が微弱な聖属性なのはわかる。前世でも盛り塩とかあったもんな。
もしもの時に塩をばら撒けるのもわかる。ついでに塩はナメクジにも効く。まぁわかるのだが、料理の味が薄い時は……うーん、確かに今世は前世と違って料理屋のテーブルの上に調味料が置いていないところの方が多いからなぁ。そう思うと塩入アクセサリーはありなのか!?
「グランがいろいろ作っているのを見ると私達もやってみたくなるわね。ねぇグラン、アクセサリーの作り方を教えてほしいな」
「わたくしも教えてほしいですわ。そうですわねぇ、自分で作ったアクセサリーを売ってお金というものを稼ぐのをやってみたいですわ」
「お店屋さんとか楽しそうですねぇ。人間の町まで行くにはもう少し時間がかかりそうですが、いつかやってみたいですねぇ。アクセサリーの作り方を教えてくれたら、代わりにいろいろな効率のよい付与方法を教えますよぉ」
作り方を教えるのはいいけれど、君らが作ったものを人間の市場に出したら大変なことになるんじゃないかな!?
あ、でもクルのそれはずるい誘惑。
「じゃあ、簡単なのから一緒にやろうか。そうだな、上手くできたらパッセロ商店に置いてもらうか、五日市で俺が売ってこようか。だからクル、付与についていろいろ教えてくれ」
悩むことなく誘惑に負けた。
そうだ、クルに空間魔法や時間魔法の付与を教えてもらって無属性の魔石で何か作ってみよう。
「あー、これ嫌な予感がするやつだ……」
アベルが諦め気味でボソリと呟いたのが聞こえた。
大丈夫、やべーのができないようによく見ておくから、俺を信じろ!!
「く……、意外と難しいわね……というか細かい作業は苦手だわ……」
ヴェルは細かい作業が苦手。魔法銀を十字にしたいようだが変形させるための魔力の加減がわからず、なかなか思うように形が整わないようだ。
「もうちょっと単純なものにすればよかったかしら……」
ウルのは単純にすればよかったというか独創的だな!?
何だろうそれは? えぇと……イソギンチャク? あ、バラの花……うん、先進的なデザインだな!!
「これをこう丸くしてぇ、ここに魔石を嵌めればそれっぽくなりますねぇ」
クルは器用だな。複雑な形にはしないで魔法銀を指に巻き付ける感じでくるりと丸く曲げて整えただけ。
その曲がった部分に魔石を嵌め込むつもりのようだ。
売り物用のアクセサリーを作る手を止め、三姉妹の方を見る。
三姉妹達がキャッキャッとはしゃぎながら作っているのはペンダントトップ。
首にかけるためのチェインや紐、それに取り付けるための金具は、日頃からアクセサリーを作るためにいろいろなタイプがストックしてあるのでそれを使えばいい。
「ヴェルのは少し歪んでいてもそれを利用して、そういう形だと思わせるように模様を入れて魔石を嵌めればいいな。ウルのは少し複雑すぎだな……だったらもう、似せるのではなくバラをモチーフにしてデフォルメした形に突き抜けてしまうのがいいかもな。クルのはシンプル路線だな、もの足りなかったら模様を足したり魔石を増やしたりしてもいいな」
三姉妹の性格が、そのまま作っているアクセサリーに出ているのがなんだか面白い。そしてそれが個性として良い味になっている。
「そうね、きっちりした形じゃなくてもいいのよね。なんだかちょっとわかった気がするわ」
「え? わたくしはさっぱりわかりませんわ。物作りって難しいですわね。だけど作っているうちに愛着も湧いてきますわね」
「そうですねぇ。お店屋さんもやってみたいですけどぉ、せっかく作ったものは自分で身に着けておきたいですねぇ」
わかるぞ、自分の手で作ったものは愛着が湧くんだ。それが売るために作ったものでも。
初めて自分の手で作ったアクセサリーや武器は、俺も収納の中にまだ残っているな。
故郷の村にいる頃に仕留めたイノシシの牙で作ったスロウナイフや首飾り。もう使うことはないけれど何となく処分できずに収納の中に眠っている。
自分の手で何かを作るというのはとても楽しい。
グウウウウウウ……。
突然誰かの腹の音がリビングに響いた。
時計を見るとすでに昼をすぎている。
三姉妹と俺はアクセサリー作りに、アベルは読書に夢中で誰も時間を見ていなかったようだ。
「お、お、おっおおお俺の腹じゃないよ!!」
なんだ、アベルの腹か。
ソファーにだらしなく寝っ転がって本を読んでいたアベルがガバリと起き上がり、姿勢を正して目を泳がしている。
黙っていれば誰かの腹の音だろうで済んだのに。
「まぁ、みんなお腹が空く時間だよな。飯を作ってくるからもうちょっと待っていてくれ」
昼だと気付いたら俺も急にお腹が空いてきたな。
外を見ると細かい雨が降り続いている。
まだまだ雨は続きそうだが、時間を忘れて家の中で過ごすのも悪くない。
お読みいただき、ありがとうございました。
明日と明後日の更新はお休みさせていただきます。土曜日から再開予定です。




