遊び疲れた翌日は
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「はー、昨日は妖精の地図で晴れの海を満喫したのに、今日はまた雨かー。昨日はゴーストシップのせいでバタバタだったから、今日はゆっくりしたい気分だけどやっぱ雨はやだなー」
と、ソファーの上に仰向けでだらりと転がっているアベル。
昨日の妖精の地図でよっぽど疲れているのか、今日は頭ボボボンの寝衣姿で朝食に起きてきて、朝食をしっかり食べた後はすごく適当に髪の毛を整え、部屋着をだらしなく着崩してソファーでゴロゴロしている。
前世の記憶にあるカメラという奴があったら、写真に残しておいて王都にたくさんいるだろうと思われるアベルのファンに売りつけたら、いい稼ぎになりそうなのになぁ。
黙って立っていれば完璧イケメンは、実はこんなにだらしないんですよ~!!
カメ君は今日は弁当を持って出かけていき、ラトはいつものように森の見回り、カリュオンと毛玉ちゃんもそれについていった。
今日はしとしとと小降りのため、フローラちゃんはこのくらいの雨なら外の方がいいらしく、雨で俺が外に出られないかわりに畑を見回ってくれている。
家には俺とアベルと三姉妹が残り、リビングでだらだらと過ごしている。
「確かにこの季節は、雨が続いて嫌ですわねぇ」
「ホント、雨の日は気怠くて憂鬱だわ」
「本を読んでいても眠くなりますねぇ」
連日の雨模様で三姉妹もあまり元気がなく、ソファーで大人しく本を読んでいる。
キルシェに借りた本だろうか、女性が好みそうなお洒落な表紙だ。
なになに――暁の獅子と白夜の竜は黄昏れに見ゆ・Ⅳ?
何かかっこいいタイトルの本だな。表紙の感じからして冒険譚系の小説っぽいな。
「君達、その本よく読んでるよね。面白いの? 四ってことはその前もあるってことだよね? 結構厚みのある本だし、いい時間つぶしになりそうだから俺も読んでみようかな。一巻からある?」
「ありますわよ。ラトが読みたいと言ってたからキルシェさんに一巻から借りてますわ」
「でもラトは結局昼間はフラフラと森を徘徊しているし、夜は飲んだくれて寝てしまうしで全く読んでないわね」
「せっかくですのでアベルも読むといいですぅ。でも冒険の話だから冒険者のアベルにはもの足りないかもしれませんねぇ」
「ううん、四巻まで出てるならそれなりに人気もある本だろうし、庶民の娯楽っていうものはね、時として国の経済を動かすこともあるんだ。ふふふ、みんな楽しいことは好きでしょ? そういう楽しいことを感じ取って人々の流行を掴む……いや、作るのがお金儲けの秘訣なんだ」
何だかんだでアベルは金儲けが好きだよなぁ。
自分の商会も立ち上げることになっているし、そちらが忙しくなると冒険者はあまりやらなくなるのかなぁ。冒険者より商会の方が安全だしなぁ。
アベルとはずっとだらだらと一緒に冒険者を続けながら、今みたいな生活が続いていくような気に勝手になっていたな。
……なんだか少ししんみりした気分になってしまった。
こういう時は、昨日の無属性の魔石を眺めて心を落ち着けよう。
やっぱ、高級素材はいいな。しかもこの濁りがない透き通った魔石!!
持っているだけで悟りが開けそうなくらい、純粋で強力な無属性!!
はああああああ、やっぱ高級素材を眺めていると心が癒やされるなぁ。
スリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリ。
「グラン、昨日の地図の後からことあるごとに、その魔石を持ち出しては眺めてニヤニヤしてて気持ち悪いよ。うっわ、頬ずりまでして更に気持ち悪っ! 変な汚れとか付けると売る時に安くなっちゃうよ」
アベルがものすごく微妙な顔をしてこちらを見ているが、こんなお高い魔石を見てニヤニヤしない方がおかしいし頬ずりだってしたくなる。
そんなわけで昨日から何度も無属性の魔石ちゃんを収納から出して眺め、ニヤニヤスリスリしている。
ラトも三姉妹もこの無属性の魔石は俺が引き取っていいと言ったので、船型魔石ちゃんが晴れて俺のものに。
えへへ~、どうしようかなぁ~。売るといくらかな~、でも売りたくないなぁ~、ずっと見ていたい~。
自分でも何か作ってみたいし。残しておけばいつか使うかもしれないし、もしかすると今売るより高く売れるかもしれない。
もう暫く収納の中に寝かせておいて、ニヨニヨスリスリに飽きたら、相場を調べて売ろうかなぁ。えへへ~、見ているだけで心が綺麗になっていく~。
「だってお高そうな魔石だし、自分でも何か作ろうと思うと夢があるし、見てるだけで楽しくなるんだもん~」
「確かにその形でその大きさだといい値段になりそうだし、無属性の魔石だと高度な空間魔法や時間魔法の付与に使えるもんね」
「そうそう。でもその辺の付与はまだまだ勉強不足だし、この魔石は少しだけ残して売っちゃうかなぁ」
いざとなったらナナシを連れてアンデッド狩りだ!!
嬉しそうに腰でカタカタしているけれど、反動がつらいからほどほどにだぞ。
「グラン? 欲に目が眩んでその性悪剣を使う気かもしれないけど、ほどほどにだよほどほどにっ! あと、その性悪剣で無の魔石が作れること絶対に知られちゃだめっていうか、性悪剣はあまり人前で使っちゃだめだよ!! 自在に変形する剣ってだけでもおかしいのに、沌の魔石を無の魔石にしてしまうなんて普通じゃないからね!」
「お、おう、痛いのは嫌だからほどほどだな。ナナシの性能がおかしいのは俺にもわかってるから、人の目のあるところではできるだけ使わないようにするよ」
確かにアベルの言う通り、無属性の魔石を狙って作り出せるナナシの能力は便利である。無属性の魔石の値段を考えると俺も欲に釣られてしまいそうだ。
だが、この反動である。そうホイホイと使いたくないし、もしナナシで無属性の魔石が作り出せることを知られると俺に無属性の魔石を量産させようとする奴や、ナナシを奪おうとする奴が現れるかもしれない。
ナナシを相応の値段で買い取ってくれるならありがたいんだけどなぁ。無の魔石を作れるとなると苦痛さえ耐えれば、すぐに元はとれるぞおおおおお!!
ぬおっ! なんだ、ナナシ!? やめろ、ベルトからビヨンと伸びて服の中に入って脇腹をくすぐるのはやめろ!
やめっ! くすぐったい! わかった、売るのはやめるから脇腹をくすぐるのはやめろ!!
世の中には強烈な反動があっても魔剣を始めとした持ち主を選ぶ武器を欲しがる者は多い。
その中でも剣は最も人気のある武器種である。そしてナナシのように変形するタイプは更に人気である。
ナナシの元の姿は剣ということを考えて性能やコレクター品としての価値を合わせると、俺が買い取った値段でも十分お買い得ではあるんだよなぁ。
いや、めちゃくちゃ高かったことには変わりないけど!!
その辺のことを考えると、世の中にはこのきつい反動があったとしてもナナシを欲しがる者もいるだろうし、そういう者に絡まれるのは面倒くさい。
それに俺が手放したくても、ナナシが離れてくれないからどうにもならない。
俺が死ねば離れるかもしれないが、次の主を決めるのはナナシだ。
俺から無理矢理ナナシを奪ったところでナナシの主になれるとは限らないが、そういう奴がいないとは言い切れないし、魔剣のオーナーになりたがる魔剣崇拝者にはやべー奴もいるし。
うむ……関わりたくないな。
黒い剣から色づいた姿に変化する様や他の武器に取り憑いて変化するところを見られなかったとしても、神々しい姿になった時のナナシはそれだけで美術品のように美しく、普通の剣とは一線を画しており鑑定をするまでもなくわかる人には魔剣だとわかってしまうだろう。
ナナシを扱うことができなくて黒い剣のままだとしても、所持しておきたいという者もいないとはいえない。
なんだよ、ドヤカタカタしても俺の安全のために人目に付く場所では使わないぞ。
お前も俺と末永く一緒にいたいなら良い子でお行儀良くしておくんだぞ。そうしたら必要な時にちゃんと使ってやるからな。
そうそう、強引な魔剣は嫌われるぞぉ。
俺とお前は主と魔剣かもしれないが、パートナーみたいなものだ。パートナーに必要なのは信頼関係!
パートナーというものはお互いを尊重して信用を築くんだ。それには強引なだけではだめだ。
気持ち良く使って使われるために、節度を守った良い関係になろうじゃないか。
反動はつれーし、正直少し面倒くさい魔剣ではあるが、ナナシは非常に有能で強力な魔剣である。
それ故にナナシの存在は他人に知られない方がいいことを考えると、俺の意志に反して勝手に動き回られるのはできるだけ避けたい。
ナナシは俺から離れる気がないみたいだし、だったら上手い付き合い方を考える方がいいだろう。
ただナナシを否定するだけではなくパートナーとして、そして切り札として良い関係のために歩みよるべきだろう。
ナナシと付き合っていくなら、俺はナナシを制御できるようにならなければならないし、ナナシも俺と共に在りたいというのなら、いつまでも自分勝手な行動をされては困る。
いいか、魔力を吸われ過ぎると戦闘に支障が出るし、勝手に動き回られると立ち回りにも困る。
そうだな、いつかお互いの考えを先読みして行動できるくらいの信頼関係を築けるように頑張ろうか。
俺とお前はパートナーだ。まだまだ日が浅いからこれからお互いのことを知って、信頼を深めていくんだ。
うんうん、俺も無属性の魔石は欲しいからな。お前もアンデッドを斬るのは悪くないだろ?
よっし、ほどほどに少しずつ信頼関係を築いていこうじゃないか。
お読みいただき、ありがとうございました。




