弱肉強食
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「ちょっと、グラン! それ、俺の肉! 焼ける前に肉を取るのやめて!!」
「は? これ以上焼くとカチカチなるだろ!!」
「俺はしっかり焼いた方が好きなの! ていうかグランの焼き加減だと半分くらい生でしょ! 何なの、肉食獣なの!? あっ、カリュオンも俺がじっくり焼いてた肉を取ったああああ!! 君達、肉を取るの早すぎでしょ!! あ、チビカメまでどんどん肉を取ってるから野菜しか残ってないじゃない!」
「アベル、うるせぇぞ。飯を食いながら大きな声を出してお行儀が悪いぞ」
「キッ! 君達が肉を取るの早すぎなの! こっからこっちは俺の縄張り! 肉はしっかり焼いて食べるの!」
などとアベルが大騒ぎしている原因はバーベキューの肉。
リッチ・ボロ雑巾を倒してゴーストシップは消え、そこから生み出されたアンデッド達も全て消えた。
俺達は無事に海岸に戻って来ることができたのだが、ゴーストシップ内の激戦でものすごく腹減り状態だった。
やはりゴーストシップがこの妖精の地図のボスだったようで、海岸に戻ってくると帰還用らしき扉が砂浜に出現していた。
カリュオン曰く、ボスを倒しても妖精の地図の空間は暫く残っているらしく、まだ中でのんびりしていて大丈夫らしい。
いつ消えるかは地図に寄りけりらしいが、ランクの高いボスのいる地図ほど長い時間地図の空間が保たれるとのこと。
カリュオンは何でそんなに詳しいの? え? 子供の頃知り合いの苔玉と一緒に妖精をいびって地図を貰って遊ぶのが日課だった?
ああ、苔玉ってカリュオンをうちまで送って来たモコモコした生きものか。さすがカリュオン、経験豊富だなー。
そんなわけで、ゴーストシップに乗り込んだ俺達は腹が減りまくっていたので海岸に戻るなりバーベキュー再び。
ゴーストシップの中でバタバタしているうちに三時のお肉の時間になっていたし、昼は海産物多めだったので今回は肉中心のバーベキューだ。
肉なら収納の中に部位ごとに分けて保存しているから、好きな肉の好きな部位をすぐに食べられるぞおおおおお!!
カリュオンは最大因果応砲を使ったし、俺はナナシに魔力を吸われまくったし、アベルとカメ君もでっかい攻撃をバンバンしてたのでみんなハラペコである。
外でゾンビ達の相手をしていたラトと三姉妹はそれほど腹は減っていないようで、俺達がバーベキュー第二ラウンドを始めると毛玉ちゃんとフローラちゃんを連れてジャングル探索へと行ってしまった。
そして肉を焼き始めたらこれ。
腹が減っているので焼けた端からモリモリと食っていると、肉をカリカリまで焼く派のアベルがキーキーと騒ぎ始めた。
うるせぇ! 肉は早い者勝ちだ! バーベキューは弱肉強食なのだ!!
お、あそこの肉がそろそろ食べ頃だな。アベルの縄張りってどの辺だったっけ? まぁいいや、バーベキューの肉は早い者勝ちである。
カンッ!
ぬお!? 肉の前に見えない壁が!? これは空間魔法かっ!!
「ほら、また俺の肉を取ろうとしてる! そうはさせないよ! ここは俺の肉!!」
こいつ空間魔法で自分の肉を囲みやがったな。稀少魔法の無駄遣いすぎるだろ。
「アベルー、空間魔法なんか使って余計に腹が減らないのか?」
カリュオンの冷静なツッコミがアベルに刺さるー!!
「君達が俺の肉を取らなければいい話だよ!!」
「カメェ……」
ほら、カメ君も呆れてるー、ってカメ君、それは俺が狙っていた肉っ!!
俺の目の前にあった食べ頃の肉が、シュッとカメ君の皿に移動した。
そうだ、カメ君も空間魔法が使えるんだった。
く……あっちの肉が焼けそうだな。
「おっとぉ? それは俺の肉だなー!!」
アーーーーッ! カリュオンに持って行かれたーーーー!!
タンクのくせに中身の時は素速くて困る。
ぐぬぬぬぬぬぬ……手頃な肉がアベルのところだけになったぞ。
「ダーメ、あげないよー。君達どうせちょっと焼いてすぐ食べるんだから、早く次の焼きなよ」
くそ、次の肉を焼くか。
よし、ベヒーモドキの厚切りタンでも焼くか。
めちゃくちゃ分厚く切って、縦横に切れ込みを入れて塩胡椒。これはレモンを絞って食べるんだ。
絶対に誰にも譲らないぞーーー!!
バーベキュー、それはリッチ戦よりもつらいかもしれない肉の取り合い。
「おーい、アベルー、この肉しっかり焼けてるぞー!!」
「お腹いっぱいになって食べるのが追いつかなくて、焼きすぎた肉を俺に押しつけるのはやめて!」
「なんだよー、カリカリが好きなんだろうー。あとここにカリカリのニンジンがっ!」
「それカリカリどころか炭じゃん!! そこグランの縄張りでしょ、自分で責任取って! あとそのニンジンもグランが勝手に置いたやつ!!」
お腹がいっぱいになって食べるペースが落ちてもバーベキューバトルは続く。
炭化した具材を押しつけ合うところまでがバーベキューだ。
「ところでリッチの魔石はどうする? 二つに割れてるけど結構大きな無属性の魔石だからいい値段で売れそう」
そろそろお腹もいっぱいになってきたし、戦利品の山分けだ。
シーレオパードが出てきた宝箱の中身も悪くはなかったが、いまいちパッとしないものだった。
あれは、あのギミック部屋に侵入者を誘い込むための罠箱だったんだろうなぁ。
こっちは適当に分配して本命はリッチから出てきた無属性の魔石かなぁ。
元は沌の魔石だったと思われるが、ナナシで貫いたため属性がリセットされて無属性になったのだと思われる。
全く属性のない魔石というのは珍しく、無属性の魔石は他の属性の魔石よりかなり高い値段で取り引きがされる。
沌や聖の魔石をナナシで斬ると無属性の魔石になるのかな? そういうわけじゃない?
ナナシがイヤイヤするみたいにプルプルと震えた。
あの反動の末に属性を中庸にすることができた時のみってところか? それも体の中に魔石を持っている奴限定。
カタカタとナナシが揺れる。これは肯定っぽい。
あの反動はきついし、やっぱそう簡単に金儲けはできないか。
「リッチのギミックを見破って倒したのはグランだし、グランが引き取っていいよ」
「そうだな、俺達は戦力外だったし。俺達は宝箱の方でいいかって、そっちもグランがやったやつだな。俺達あんま働いてなくね?」
「いやいやいやいや、カリュオン達が先に攻撃したからギミックに気付いただけだし、ワイトを引き受けてくれたからリッチとタイマンできたわけだし、カメ君がナナシの反動を一緒に受けてくれたおかげであの規模のアンデッドを浄化してもピンピンしてるから、ここはみんなで分けよう」
「カァ?」
確かにとどめを刺したのは俺だが、リッチを倒せたのはアベルやカリュオンやカメ君のおかげで、ひいては外でゾンビを引き受けてくれたラトや三姉妹達のおかげでもある。
「じゃあ魔石は食費っつーことで俺のぶんはグランに。俺は宝箱の中身だけ分けてもらうかな」
「俺もそれでいいよ。どうせグランはその性悪剣のせいで金欠みたいだし貰っちゃいなよ。ラト達も家賃だと思って気にしないと思うよ」
「カッ!」
ええ~、みんな無魔石は入らない感じ?
確かに金欠だからありがたいので、ラト達に確認していらないなら貰うことにしよう。
売って金にもしたいけど、自分で何かにも使いたいし、元が船の形だからくっつけて元の形にしてみたい気もする。
「それよりグラン大丈夫? 性悪剣でリッチなんか斬って、結局船ごと浄化したみたいだけど反動がやばかったんじゃないの?」
「確かに辛そうに見えたけど、もう大丈夫なのか? 反動だけじゃなくて魔力消費もやばいんだろ? グランが魔力回復ポーションを飲むのは珍しいからな」
アベルの心配症はいつものことだがカリュオンまで難しい顔をしている。
確かに反動はめちゃくちゃきつかったけれどカメ君が助けてくれたし、その後手に入れた無の魔石、そして肉をたくさん食べたので今は心も体もすっかり元気である。
「おう、カメ君のおかげでなんとか? まぁ今回はナナシも頑張ってくれたし、高そうな魔石も手に入ったし、結果良しかな」
ちょっとしんどかったけど、今回はナナシのおかげであっさりと勝つことができた。
普通の剣だったら一発でリッチの魔石を粉砕できたかどうだか。
腰紐に同化したナナシに触れると、得意げにカタカタと震えた。
めんどくせー奴ではあるが、いざという時の切り札としては頼もしい奴だ。払った金ぶんは働いてもらわないとな。
あ、無属性の魔石が欲しいから反動がきつくなさそうなアンデッドならたまに斬ってやってもいいな!!
ちょっとやる気が出てきたぞ!
「フンッ! 性悪剣のくせにちょっと活躍したからっていい気になるんじゃないよ! グランの相棒は俺……いたっ! この野郎、グランのパンツの紐に同化してるからっていい気になりやがって!!」
あーあ、アベルが煽るからナナシが謎の金具で反撃していつもの流れになったよ。
「つえー剣だが、あんま無茶すんなよ。一人で何とかしようと思わないで、頼れる時は頼れよ」
「カァメェ」
「おう、その時は遠慮せずに頼りまくるよ」
そう言ってくれるカリュオンとそれに同意するように前足を上げるカメ君が頼もしい。
「あっ! 俺も俺も! グランは無茶する前にちゃんと相談してよね! それとチビカメはさっき性悪剣の反動を少し肩代わりしてたんだよね? そのやり方、俺にも教えてよ」
「カメェ?」
いや、それは教えなくていいぞ。
今回はすごく助かったけれど、あんな反動にできるだけ他人を巻き込みたくない。
「偉大な俺様だからできたことで青二才の銀髪には無理無理だカメ~って、またそうやっておちょくりやがって! くそ、教えてくれないなら自分で考えるからいいよ!!」
いや、そこは素直に諦めてくれ。
アベルが俺を心配するように、俺もアベル達のことは心配なんだ。
「それより、バーベキューの締めにアイスでも食うかー」
バーベキューとか焼肉の締めはやっぱ冷たくて甘いアイスクリームだよなぁ!
「おっ、氷菓子か! 食う食う!」
「カッ!」
「俺も俺も! クランベリーのジャムもかけてほしいー」
「アベルはまだカリカリの肉が残ってるぞー」
「もー、それ炭になったやつをグランが勝手にこっちに置いたやつじゃないか」
「戻って来ましたわー」
「あっ! 氷菓子だわ! 私達に内緒で食べるつもりだったの!?」
「私達も欲しいですう」
「む、ちょうど森の中を探索して汗をかいて冷たいものが欲しいと思っていたところだ」
「ホッホッ!!」
収納からアイスを出したタイミングで、ジャングルからラト達が戻って来た。
「おう、アイスはちゃんと全員ぶんあるぞー。帰る前に海を見ながらアイスを食べような」
トラブルはあったけれど楽しかった海でのバカンスもそろそろ終わり。
海の向こうに見える水平線に大きな太陽が近付き始め、空の色がだんだんと赤くなり始めていた。
三姉妹達が次はいつ海を見ることができるか分からないが、今日のことが良い思い出になればいいなと思いながら水平線に近付く夕日を見送った。
お読みいただき、ありがとうございました。




